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2024年4月25日・2面

第6次「アーミテージ・
ナイ報告書」

米戦略に奉仕する
「統合された日米同盟」

 岸田首相が4月8日から訪米し、バイデン米大統領との首脳会談や初の日米比首脳会談などを行い、米国による対中抑止政策に一段と組み込まれる道に踏み込んでいる。
 岸田訪米に先立つ4日、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が、第6次「「アーミテージ・ナイ報告書」を発表した。「アーミテージ・ナイ報告書」は2000年以降、日米同盟を強化するための政策提言として数年ごとに、これまで5回にわたって公表されてきた。今回の「より統合された同盟へ」と題された第6次報告書は、中国抑止を念頭に「日米は第2次世界大戦後のどの時期よりも分断した国際環境に直面している」と述べ、10日からの日米首脳会談でも、両国関係の「より深い統合」を確認するよう提唱している。
 前回、20年12月の第5次報告書では、バイデン政権発足の時期でもあり、「グローバルな課題を持つ対等な同盟」と題して「日本と米国の同盟関係が新たなステップを迎え」「日米が対等な役割を担う」と、米国を補完する日本の役割のさらなる増大を求めた。だが、この4年間にも米国の衰退は進み、中国との力関係は大きく変化した。さらにインドやグローバルサウス諸国の政治的発言力も増大し、米欧など帝国主義諸国の思い通りにはならない世界となった。新しい世界秩序へ大きく動いていく時代、どの国も自らの新しい進路の選択を迫られている。報告書は、そういう時代ゆえに、米国は世界覇権をとり戻すため、わが国を「より統合」して支配下に組み込もうというものである。軍事作戦の計画・実行から、産業政策の調整やサプライチェーン(供給網)の強化を含む経済安保まで、さらなる一体化を求めている。

これまで以上の役割負担
 00年の第1次「報告書」では、1997年9月の安保新ガイドラインの着実な実施に加えて、集団的自衛権の行使を可能にするよう提言。第3次報告では、解釈改憲による集団的自衛権行使を求めた。原発再稼働、秘密保護法の制定、武器輸出三原則の撤廃なども勧告している。
 これらの提言はその後、日本政府によって実行されており、同報告の提言は、日本の安保防衛政策(変更も含め)を左右するものである。
 今回の提言の柱は、安保同盟を発展させる▽パートナーシップと連合を拡大する▽経済及び技術協力を強化する――の3本柱で、具体的には、自衛隊と米軍の指揮・統制系統の再構築や、情報分野における協力の深化などが必要だと指摘した。
 岸田政権が 年末に国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定したことにも触れ、「運用性と信頼性の高い同盟関係へと移る好機だ」と言及した。その中でも、防衛省が今年度中に陸海空自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」を創設することと在日米軍司令部の機能強化と併せて、日米が別々の指揮系統を維持しつつも、有事の際に円滑な連携を取れるよう「常設の合同組織」を設置することを求めている。
 また、日米同盟は「世界的な影響力」を持つべきだとして、韓国や豪州、フィリピンとの協力強化や台湾への支援を挙げた。中東での協力で、日本は米国よりも紅海経由の貿易に頼っていると指摘し、シーレーン(海上交通路)防衛で日本が役割を果たすべきだと促している。
 さらに、 月の米大統領選について、世界における米国の役割や同盟国との関係を巡って「ビジョンが根本的に異なる」候補者によって戦われているとし、「どの候補が勝っても米国の孤立主義と信頼性への懸念は続く」と指摘、米国の政権交代があっても、法の支配の下で、自由で開かれた国際秩序を支える日本の役割はこれまで以上に重要だと強調している。

中国・アジアと緊張激化
 報告書の提言は、すでにいくつかの方面で具体化されている。
 とくに最近では、南シナ海での中国との緊張をあおる動きが活発化している。4月7日には、米国、豪州、日本、フィリピンの4カ国が、南シナ海にあるフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内での4カ国の「海上共同活動」と位置付けた初の本格的な訓練を行った。11日には日米比の初の首脳会談を行い、中国への対抗強化を打ち出す。例年実施される米韓合同軍事演習は、今年は規模をさらに拡大し、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への挑発を強めている。台湾有事を口実にした南西諸島や沖縄・九州での自衛隊基地強化やミサイル配備、日米など多国間軍事訓練も頻繁に行われている。
 また米、英、豪の3カ国軍事同盟(AUKUS)の国防相は8日、「日本との協力を検討している」と発表した。3カ国が公式に日本の参加の可能性を表明するのは初めてである。
 声明では、自律型兵器や海中能力、人工知能(AI)、サイバー、電子戦などAUKUSの「第2の柱」と呼ばれる技術協力分野で、「同志国のパートナーを参加させることが取り組みの強化につながると確信する」とした。今年中にパートナーの候補国と協議することも明らかにした。
 また、英政府は8日の声明で、日英がイタリアとともに共同開発している次期戦闘機を巡る協力に言及し「日本が効果的なパートナーであることがすでに証明されている」と強調した。米国は、日本のロボット技術などを高く評価し、海中での自律型兵器の開発などを巡る参加に期待している。米国防総省のシン副報道官は8日、記者団に「日本の強みと3カ国との緊密な2国間協力を考慮した」と述べ、日豪、日英などの防衛協力の深化も踏まえたと説明した。AUKUSは、豪州の原子力潜水艦配備に向けた協力を「第1の柱」、先端軍事技術の共同開発を「第2の柱」に位置付けている。豪州の原潜配備に関してはこれまで通り米英豪3カ国に限定し、第2の柱で日本との協力を模索するとしている。
 すでに米国は、バイデン政権が22年2月に発表した「インド太平洋戦略」で、「自由で開かれたインド太平洋の推進」のため「地域内外における連携の構築」として、特に同盟を結ぶ5カ国(豪州、日本、韓国、フィリピン、タイ)および地域を主導するパートナー国と関係を深化させ、「統合抑止力」で中国と対抗する戦略を示している。これは米国の強さではなく、力の衰退を日豪など同盟国の力で補おうという弱さの表れでもある。
 報告書の提言は、こうした統合抑止力の中核として日本に役割を担わせようということである。

アジアの戦争を阻止しよう
 岸田政権に対する国民の不信や怒りは頂点に達している。政治資金問題はもちろん物価高騰など日々悪化する国民生活を尻目に、「外交」で得点を稼いで、支持率や求心力の回復を狙う下心もありありで、米国の思うつぼである。岸田政権の対米追随外交で、日本は「より統合された同盟」と持ち上げられ、対中国戦線の最前線に立たされることになる。
 パレスチナの衝突の激化で、米国は世界の中で孤立を深めている。また、ウクライナ戦争の長期化で力の限界もさらしている。さらに中国との戦線拡大は、日本なしにはやっていけない。日本も米国なしには中国と対抗する力はないのが実際で、日米の「より統合された同盟」は、まさに日本を戦争に導く亡国の道である。米国の尻馬に乗せられアジア人同士が戦う悲惨な戦争は、絶対に阻止しなければならない。(Y)


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