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2024年1月1日号 1面〜8面

新春インタビュー

激動する世界、社会革命の
前途切り開く強大な党を

日本労働党中央委員会
議長 秋山秀男

 2024年の新春にあたり、秋山秀男・党中央委員会議長に歴史的転換期についての時代認識や社会変革についての展望、党の課題などについてインタビューした。(聞き手・労働新聞編集長 平石義則)
平石 新年おめでとうございます。
 早速ですが、昨一年も世界は激動続きでした。年末には岸田政権を揺さぶる自民党・各派閥の不正事件も暴露され、内政も大揺れです。昨年を振り返ってみて、まさに「歴史的転換期」の様相が一段と深まったのではないかと思いますが、どうでしょうか。

秋山 おめでとうございます。
 今年は、労働党創立50周年を迎えます。すべての同志、支持者、労働新聞読者、労働者、各界の先進的な皆さんに感謝の気持ちを表明するとともに、今後ともご支持・ご支援、ご批判とご鞭撻(べんたつ)をお願いします。また、とりわけ青年の皆さんに、歴史的転換期を切り開くために共に闘うことを呼び掛けます。頑張りましょう。
 さて、昨一年の主な出来事を振り返ってみますと、いくつか特徴というか今の時代を象徴するような出来事があったと思います。
 世界経済はリーマン・ショック以来回復できず、コロナ禍やウクライナ戦争による分断がさらなる打撃になっています。米欧ともに進んだインフレ対策の利上げで、停滞が鮮明です。米国の対中抑止が一段と強まっていますが、米国内は大統領選挙を前に党派対立がさらに激しくなっています。欧州では「反移民」などを掲げた極右政党が台頭するなど、国民生活が悪化する中で、政治は不安定になっていますね。米欧で労働者のストライキが激しく闘われました。
 もう一つは、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国の政治的な発言力が大きくなったことです。インドが熱心ですが、アフリカや中東、中南米諸国が先進7カ国(G7)など先進国に対して独自の立場を主張する動きも昨年目立つようになりました。世界の多極化の流れは速まっていますね。ウクライナ戦争は戦局が膠着(こうちゃく)して長期化、さらにパレスチナ問題が激化して、ガザ地区での虐殺が続いていますが、米国は事態を抑え込む力もないことが明らかになりました。米国の力の衰えは顕著ですね。
 そういう中で、岸田首相は、昨年1月の通常国会の施政方針演説で、日本は「歴史の分岐点」にあると大見えを切りましたが、あとは尻すぼみでしたね。G7の議長国として5月の広島サミットなどで支持率挽回を狙いましたが、失敗しました。安保3文書で決めた軍拡は急ピッチで進めていますが、支持率は下がる一方です。日銀の黒田総裁が植田総裁に交代しましたね。2012年から続いたアベノミクスというかクロダノミクスというか、「安倍一強」政治のもとで経済成長も国民生活もボロボロになった結果がこんにちの日本の姿だろうと思います。それに国内総生産(GDP)ではドイツに抜かれて世界第4位に転落してしまいました。最後はパーティー券の裏金問題ですからお粗末なものですね。
 それにしても岸田政権は続いていますから、議会野党に期待できない状況では、広範な人々と連携する国民運動を強める以外にありませんね。保守政治家のなかにも「米国追随でいいのか」という動きも始まっているようですから、展望はあると思います。

100年に一度の歴史的転換期

秋山 われわれは「資本主義の末期」だと、この歴史局面をとらえています。であるならば、資本主義がいつごろ、いかにして生まれてきたかについて、明確な認識を持たねばならないですね。
 マルクスは「資本論」の中で「本源的蓄積」に触れ、「教会領の収奪、国有地の詐欺的譲渡、共同地の窃盗、そして、横領まがいの無慈悲なテロリズムによって遂行された封建的(家父長的)土地所有の近代的な所有への転化」と言っています。
 われわれが認識すべきは16世紀に本格化した封建的生産様式から資本主義的生産様式への移行は「自然成長的な過程」ではなく、資本家階級とその国家権力による極めて暴力的で目的意識的な過程であったということです。近代労働者階級もそのような過程を経て産み落とされました。
 近代資本主義は18世紀に英国の産業革命を経て製造業を中心にダイナミックに発展し、フランス、ドイツ、日本、米国などが続きました。
 英米独日仏など資本主義先進国で、1880年代から1900年にかけて、資本主義的自由競争に資本主義的独占が取って代わって、帝国主義が誕生しました。レーニンは「独占は資本主義からより高度の制度への過渡である」と言っていますね。帝国主義の誕生から120年余、資本主義・帝国主義は、幾多の恐慌、戦争と革命を経て、いま最後の段階を迎えていると思います。

帝国主義の歴史を振り返る

秋山 帝国主義が成立からこんにちまでどのように発展し、最後を迎えているのかを、大ざっぱですが、振り返ってみます。
・第1次世界大戦(1914〜18年)が勃発したその奥深い基礎は資本主義が独占段階に移行したことです。第1次世界大戦は、覇権国・英国とドイツとの衝突を中心とする資本主義列強間の領土・市場・資源などの再分割戦として争われました。
 ロシアの労働者人民は、第1次世界大戦のさなかに、レーニンの指導下で「パン・平和・土地」を求めて、また「帝国主義戦争を内乱へ」を指針に帝国主義戦争に反対して闘いました。その過程でパリ・コミューンに続く歴史上初めての社会主義革命に勝利(17年)します。
・ニューヨーク・ウォール街での株価の大暴落(29年)をきっかけとする30年代の大恐慌、ドイツでのヒトラー登場と第2次世界大戦の勃発、30年間で二つの世界大戦を戦った欧州は破壊され荒廃しました。
 世界大恐慌はニューディールでは解決できませんでした。資本主義の危機が一時的にせよ安定化するには第2次世界大戦を待たなければなりませんでした。世界戦争が一時的には世界の資本主義の危機を延命させました。戦争が軍需をつくり出し、戦争による破壊、人的資源の破壊によって「供給力」をそぎ、さらに戦後復興による需要で米国は潤ったのです。
・「危機の30年」(第1次世界大戦から第2次大戦まで)の間、多くの植民地国、半植民地国は国の独立と平和を目指して、帝国主義の支配を打ち破るために闘い、中国を先頭に多くの国が政治的な独立を果たしました。しかし、帝国主義が地球上から消滅したわけではなく、経済的・金融的に旧植民地国を支配し、搾取し、収奪してきました。新興国・開発途上国などは独立後も帝国主義・植民地主義の搾取・収奪と闘い、また、資本主義先進国の技術支援・資本提供・市場を活用して経済的には成長しました。
・2次大戦後、勝利した米帝国主義は英国に代わって覇権国家として登場しました。米帝国主義主導で西側世界では戦後国際経済・政治秩序が形成され、資本主義の「高度経済成長」が実現しました。それを保証したのは米・ドルの基軸通貨化と為替の固定相場制であり、産油国からの安価なエネルギーの安定供給でした。「世界の警察官」である米軍が、対ソ戦略からも北大西洋条約機構(NATO)、日米安保体制を構築し、安全保障面からも米国中心の戦後経済政治秩序を守るために世界各国に米軍基地を張り巡らしました。
・米帝国主義は、西側世界の盟主としてソ連社会主義と対峙(たいじ)し、米ソ冷戦という「冷たい戦争」を主導しました。朝鮮戦争(1951年6月勃発、53年休戦協定)、キューバ危機、さらにベトナム戦争での米軍の敗北・撤収など。
 二つのニクソン・ショック。71年「金・ドル交換停止」と72年ニクソンの訪中による米中和解、国交回復(79年)。アメリカ帝国主義の世界戦略の転換。ソ連に対抗するために、中国を米国側に引きずり込み、中ソ間の分断を図ることが狙いでした。しかし、これは基本的には米帝国主義の「弱さ」の表れであり、その背後に米国経済の弱さと衰退が露呈していました。
・70年代初頭には資本主義諸国の「高度経済成長」が破綻し、米日独など資本主義列強間の諸矛盾の激化と調整(85年プラザ合意、米国の対日要求の激化、日本の住宅・土地バブル経済とその破綻)。政治的には戦後ケインズ政策の破綻とレーガン、サッチャーなど帝国主義側の露骨な労働者階級への攻撃がありました。
・90年代以降の米国主導の金融グローバル化、多国籍企業の資本の集中と蓄積、ITなど技術革新と海外進出。ルービン米財務長官は「強いドルは米国の国益である」と公言しました。その意味は、米国は「ドル還流システム」を構築し、それをテコに経常収支の赤字を超える資金を他国から集め、再投資して稼ぐということでした。金融大国の道です。米国は実体経済を無視してまで「金が金を産む」マネーゲームの世界をつくり、博打場の元締めの役割を果たして膨大な利益を稼ぐということでした。

冷戦の終結とソ連の崩壊

平石 第2次世界大戦後の世界の大きな枠組みをなした戦後の米ソ冷戦構造が90年前後に崩壊しますが、どのように受け止めていますか。

秋山 大変ショッキングな事件でしたね。ソ連がまだ「健在」だった頃に育った世代にとっては深刻な影響を受けたのではないでしょうか。
 しかし、われわれ労働党にとっては、党の基軸が揺れるような大事件ではありませんでした。それはソ連に対する評価が社会党や当時の総評系労働組合などと違っていたからかもしれません。
 いずれにしても、東欧・ソ連の歴史的な後退が世界政治に持つ意義や日本の革命運動に与える影響について当時いろいろ議論しておりますが、割愛します。
 ここではソ連社会主義の歴史的な崩壊についてひとこと触れておきます。
 ロシア革命成功後、ソ連は、帝国主義に包囲・干渉された下で、また欧州の革命が失敗した後の社会主義建設という重い課題を背負うものでした。ソ連は、自国の農民を犠牲にして、国内経済の重化学工業化を成し遂げましたが、これがヒトラーの侵略を打ち破る大きな力になったことは明白です。
 しかし、結果的に、ソ連は社会主義建設には失敗したと言わざるを得ません。
 ソ連は「1発もミサイルを打つことなく」、米ソ核軍拡競争に敗北し、国民の不満と怒りが高まる中で内部から崩壊しました。
・米帝国主義は、ソ連崩壊後の「一極支配」の幻想に酔いしれました。それが「落日の輝き」であることはすぐに明らかになりました。ソ連との冷戦で深い傷を負っていました。湾岸戦争、イラク戦争、アフガン戦争などで米国はさらに疲弊しました。2008年のリーマン・ショックをきっかけとする世界金融経済危機で米国の衰退は決定的になりました。一方に、落ち目の米帝国主義、他方に中国の台頭など国際関係は、諸矛盾が絡み合って複雑に変化しています。
 米帝国主義は衰退しており、製造業を中心とした国際競争力をなくし、金融、サービス化が進んだことが、社会の分裂、格差を急速に進めました。この傾向は21世紀に入ってさらに顕著になっています。米国社会の分裂は「内戦」状態にあるといっても過言ではありません。米国の弱体化と政治的指導力の低下は世界の諸矛盾を先鋭化させながら、「特殊な多極化」の局面へ大きく転換してきています。
 大局的には米帝国主義の敗北は不可避です。しかし、短期的に見れば、まだ生きており、覇権国としての復活を狙って悪あがきを繰り返しています。米帝国主義は日本など同盟国と組んで、中国を軍事的に政治的経済的に抑え込もうと必死です。いま戦争をやるのが不利と判断すれば、中国をうまく抱き込むこともあり得ます。もっとも、今の米国にそれだけの主導性があるとは思えません。
 われわれはしっかりと目を見開いて世界の動向を短期的にも、また長期的にもよく見ておかねばなりません。米中対立の激化が世界戦争に発展しないように努力しなければなりません。

平石 中国についてはどう見ていますか。

秋山 日中両国は「隣同士」の間柄であり、平和で友好的な関係を長く維持していきたい。私は中国が「地域的な包括的経済連携」(RCEP)協定の発展にリーダーシップを発揮して貢献することを望んでいます。また、中国が、近代科学の限界を乗り越えて、新しいものの考え方、世界観で創造的な発展を果たすことを熱く期待します。中国は今、住宅バブルの破裂、金融危機など深刻なリスクを抱えていると思います。しかし、長い目で見れば、中国の労働者人民が創意工夫して乗り越えることを信じます。中国共産党が労働者人民の力を信じて、そこに依拠して闘えばそれは可能だと思います。中国共産党の戦略的な目標である中国の実情に合った「現代化された社会主義強国」の建設が成功することを見守りたいと思います。
 また、米中対決で一時的な「民族主義」や「覇権主義」の誘惑に駆られることなく戦略を貫き、国際関係を発展させることを期待します。そして、日中間の人民交流を発展させることを期待しています。

〈まとめ〉何をもって「歴史的な転換期」と言うのか。

・資本主義経済は貧困と格差など深刻な危機に陥っており、末期であること
・資本主義的生産様式が厳しく問われる「社会革命」の時代に入っていること
・地球温暖化、生成AI(人工知能)、コロナ・パンデミック、人口減(少子高齢化)、難民・移民など資本主義では解決できない、あるいは解決が難しい難問がこんにちの人類社会に投げかけられていること
・米帝国主義の衰退と最後の悪あがき、新興国・開発途上国などグローバルサウスの連携と結束、戦略的自律で帝国主義・資本主義の圧迫、支配、搾取・収奪と闘っていること
・日本の戦後長期に続いてきた対米従属政治はもはや行き詰まり、限界である
――など、資本主義の重層的危機が人類に選択を迫っている。前途は、先進国の労働者階級人民が立ち上がり、資本主義に代わる生産様式を建設できるか否かにかかっている。
 その客観的・主体的条件は成熟してきていると確信します。

激変する世界をどう捉えるのか

平石 目前の動きということでなくて、趨勢(すうせい)というか、歴史的な、長い射程で世界の動きを見るということですね。

秋山 私たちは、すでに2021年の第17回中央委員会総会で、「中長期の国際情勢」について、資本主義的生産様式が厳しく問われる「社会革命の時代」に入っていると判断しました。
 その17中総決議の要旨は――
 (1)資本主義の矛盾の表れとしての「需要不足」は限界にきている。
・2008年のリーマン・ショックを契機とする世界経済金融危機は国際協調と各国の公的支出(財政出動、金融緩和政策)で食い止めた。
・危機はコロナ禍に加速され限界まで深刻化している。 ・資本主義の矛盾の表れとしての「需要不足」はますます深刻で、資本主義の枠内では戦争なしに「出口」はない。
・資本主義的生産関係は末期で、「破局」は不可避である。
 (2)人類の生産力、すなわち生存の基礎である地球自身が資本主義的生産を制約し、人類の生存を脅かしている。
 (3)「第4次産業革命」とされる技術革新は、資本主義的生産様式の壁を乗り越えようとして、既存の資本主義的秩序、その国家権力と衝突する。
 (4)米帝国主義の軍事力での戦後支配は限界にきた。覇権は揺らぎ、対抗できる大国として、「共産党が政権を握る中国」が登場している。米国は覇権を取り戻そうと中国に圧力を加え、同盟国と組んで圧迫を加え、中国の弱体化を策動している。米中争奪の激化は、政治・経済・軍事を含む全面的なものとなり、偶発的戦争の危険性もある。だが、米国を筆頭とする帝国主義は没落の運命で、社会の分裂は修復できない。核戦争で「共倒れ」という可能性さえある。
 (5)世界の趨勢は、全世界の労働者階級の闘いにかかっている。資本主義が「墓掘り人」を生み出していることは、全世界人民、青年の決起に見てとれる。国連は「持続可能な開発目標」(SDGs)などというが、私的所有の廃絶なしに限界は明白である。マルクス主義の革命党の登場にすべてがかかっている。
 ――少々長い引用になりましたが、以上のようなものでした。

平石 その判断はどうでしたか。

秋山 その後2年たちましたが、17中総での判断は基本的に正しかったです。
 この2年の間に、資本主義先進国の経済成長の傾向的な低下、新しい金融危機勃発のリスクの高まり、ドル基軸体制の危機、国際的な債務拡大、気候変動危機、技術革新の進行など世界資本主義の経済・金融危機がさらに深刻化しているのは明らかです。
 今や、資本主義は末期症状をさらし、資本主義的生産様式が厳しく問われる「社会革命の時代」に入ったということです。
 こうした世界資本主義の危機を基礎に、米国の対中包囲網の強化や先端半導体をめぐる輸出規制の強化など米中の「覇権」争奪闘争の激化、中国の威信の増大と発言力の強化、欧州の不安定化、グローバルサウスといわれる新興国・途上国の台頭と政治的前進など国際政治も再編・変動で混沌(こんとん)、不安定になっています。
 また、資本主義先進諸国での階級矛盾も激化し、米欧で大幅な賃上げなどを要求する労働者のストライキなど労働者階級は果敢に闘っていますね。
 国際情勢は急激に変動し、「何が起きても不思議ではない」。まさに「戦争を孕(はら)んだ乱世」といえるでしょう。
 それにしても内外情勢は非常に急速なテンポで動いています。2年前にはウクライナ戦争の勃発は私たちには予測できませんでした。米中「覇権争奪」闘争の激化と岸田政権が米国の対中戦略の先兵として登場してきていること、帝国主義・資本主義先進国に対抗して発言力を強めるグローバルサウスの登場、イスラエルのパレスチナへの軍事侵略、岸田政権への支持率急落と対米従属政治の転換を求める動き、など。
 こうした時代だからこそ、激動する世界を的確に捉える確かな指針が必要であると思います。17中総決議の正しさを改めて確認したうえで、今後の情勢の発展と党の認識の発展の中で、豊富化し、実践に堪えるものにしていかなければならないですね。

資本主義は命脈尽きた。人類は、資本主義の下では、生きることができない

平石 今の資本主義が行き詰まったということで、岸田首相は「新しい資本主義」などといって看板の掛け替えを言いましたが、今ではあまり言わなくなりましたね。でも多くの論者が資本主義の行き詰まりを指摘していますが。わが党が言う「資本主義が『末期』である」という判断についてもう少し掘り下げて説明してください。

秋山 こんにちの世界資本主義が生み出した社会的、政治的、人道的な危機について、以下特徴的な7点について触れます。

(1)金融独占資本が支配する世界で、労働者の搾取・収奪は一段と強化された

労働者は、従来に比べて、富める者と貧しき者に二極分解、全体として、世界の労働者の暮らしはますます苦しくなっています。
 世界資本主義は、IT(情報技術)技術の発展と金融の力が結びついて、歴史的に未曽有の利益を上げており、しかも、一握りの金融独占資本に集中しております。労働者への強度な搾取と収奪がその原因だと思います。
 昔、石川啄木が歌った「働けど働けど、わが暮らし楽にならざる」という状況、あるいは小林多喜二著「蟹工船」で描かれた労働への専制支配と、それへの抵抗がこんにちの労働者たちに「共感」を持って受け止められている、そんな歴史的な局面ですね。
 IT技術者、AI技術者、企画・管理部門労働者などは高い賃金で処遇されています。しかし、労働密度や長時間労働にIT産業に従事する上層といわれる労働者たちも苦しんでいますし、AIの急速な発展とともに、彼らの仕事もAIに奪われていくことになるでしょう。
 米国の労働者の賃金の推移を見てみますと、製造業労働者の平均賃金は1970年代からこんにちまでさほど上がっていません。
 日本の労働者の低賃金は国際的にみても「異常」です。95年をピークに実質賃金はこんにちに至るまでずっと下降線をたどっています。これは、バブル崩壊以降の「失われた30年」といわれる日本経済の長期停滞、米国が主導するグローバル金融化の下でのわが国も資本の海外進出と国内企業の再編が進んだこと、財界(日本経団連)の戦後労務政策の変更、連合をはじめ労働組合の弱体化、などが理由です。
 雇用制度もいつでも解雇できるような仕組みに変更しようと財界は狙っています。非正規労働者やギグワーカーといわれるような単発・短時間の労働者が「個人事業主」として扱われ、労働法で守られない状態が拡大しています。労働者の貧困が極まれば、物が買えないから「需要不足」ですね。資本家たちは利益の増大を狙って、実体経済からマネーゲームの世界に熱中していくでしょう。世界中でマネーがあふれていますね。そこはマネーがマネーを呼ぶ「労働者の生き血を吸う」修羅場といっていいですね。
 こんにちの資本主義はそういう極めて危うい、不安定な世界で、いつ「崩壊」しても不思議ではありません。
 労働者階級の側からも、現状打破の動きが出てきています。欧米のストライキなど、労働者たちは生活の苦しみの中で次第に目覚めつつあると思います。日本でも、昨年流通産業のそごう・西武の労働組合が61年ぶりにストライキに立ち上がり、周辺の労働者と地域社会を驚かせました。日本の労働組合運動を長年支配してきた「労資協調路線」が変わる兆しが出てきたともいわれています。

平石 歴史的に振り返れば、こんにちの危機の背景がもっと理解できますね。

秋山 そうですね。70年代からの資本による危機延命策の経過を素描してみますと、95年以降、米国主導の金融グローバル化が本格的に始まりました。
 その結果、以下のような事態が進みました。
・資本主義主要国の多国籍企業の海外進出と海外での市場争奪の激化、国内経済の空洞化。
・労働者の賃金の傾向的な低下。日本の場合、こんにちまで20年間以上も実質賃金は下がりっぱなし。
・国内経済の空洞化、内需の貧困化で国内の中小企業、零細企業、商工自営業などの経営の悪化。
・貧富の格差の拡大。
・日本や英国の金融ビッグバン。
 しかし、2008年のリーマン・ショックを契機とする世界的な経済・金融危機で金融グローバル化は一時的にしろ頓挫しました。金融バブルはいずれ破綻する。金融危機は「山が高ければ谷も深い」という言葉の通り、100年に一度の危機になりました。この程度の危機にとどまっているのは、1930年代の大恐慌に学んだ支配層がとりあえず「国際協調」を成立させたこと、何よりも主要国の公的資金の支出です。
 米国は世界の「カネ余り」の状況を見て、マネーゲームの装置を発明したのです。資本家は、通常の事業で獲得した利益を、新しく工場を造り、労働者を雇うなど新たな投資をして、利益を上げる。これが資本主義で企業が儲(もう)けるやり方です。
 ところが、こんにちは投資するところがないので、サブプライムローンのような金融資産や株にじかに投資して儲けるという安易な道を選んだのです。2008年金融バブルの破綻以降も政府と中央銀行は同じ過ちを犯しました。リーマン・ショック後の15年間でも、コロナ・パンデミックの下でも、幾何級数的な利益を手に入れましたが、労働者の貧困化は一段と進みました。

平石 アベノミクスをどう評価しますか。

秋山 最悪ですね。しかし、投資家や金融資産家たち、輸出大企業は、安倍に感謝しているのではないでしょうか。金融緩和でごく低金利で資金を手に入れて、海外の資本市場に投資する、米国の株や国債に投資して儲けることが可能だからです。また、輸出大企業は円安の為替差益でぼろ儲けできるからです。
 しかし、その大企業に働く労働者や中小企業にとってみれば、輸入物価が上がり、原材料が上がり、賃金は切り下げられることになります。
 われわれはアベノミクスを事実上の所得移転政策と呼んで暴露しました。労働者、中小零細企業、農漁民など貧しい国民各層の富を多国籍企業が収奪するからです。アベノミクスの下で一握りの大企業や資産家たちのために日本の経済全体が疲弊したのです。安倍はまさに「多国籍企業の覇権的利潤追求」に奉仕する政治家であり、売国奴でした。

(2)気候変動危機は資本主義の下では「解決」できない

平石 アラブ首長国連邦(UAE)で国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開かれましたが、先進国と途上国の溝が埋まらないなど「パリ協定」の目標実現に向けた対策はいっこうに進みそうにないですね。

秋山 COP28で最大の焦点になったのが「化石燃料の段階的な廃止」が成果文書に明記されるかどうかでしたが、各国の利害対立を反映して会議は紛糾しました。段階的廃止を主張するのは欧州と島嶼(とうしょ)国、それに米国、世界の若者たちでした。サウジアラビアや議長国のUAEなど中東産油国、ロシア、日本などは「段階的廃止」に反対しました。中国やインドは「静観」という態度でした。最終的な成果文書には「段階的な廃止」は入りませんでした。
 議長国を務めたUAEのジャベル議長は「歴史的な合意」と高く評価していますが、「会議は失敗した」と受け止めている国も多いのです。気候変動に最も脆弱(ぜいじゃく)な島国で構成する「小島嶼国連合」(AOSIS)は声明で、「私たちの『死亡診断書』には署名できない」と強い表現で反対する姿勢を明確にしました。彼らからすれば、地球温暖化は文字通り生存の危機となるわけです。
 私は、「段階的な削減」というが、いつまで、どの程度削減するのか目標が書かれていないこと、さらに合意の実効性に疑問があること、この2点から厳しい評価をせざるを得ません。パリ協定の「1・5度以内」の目標実現は遠のいたと思います。

平石 何が根本問題なのでしょうか。

秋山 なぜ地球温暖化という危機が生まれたのか。産業革命以降の資本主義の発展による人口の急増、蒸気機関をはじめ石炭・石油・天然ガスなど化石燃料が大規模に使われ、これによって自然と人類との「物質代謝」が攪乱(かくらん)を余儀なくされたことです。
 資本主義先進国こそ地球温暖化の策源地ですが、そのツケで苦しんでいるのは開発途上国・低所得国です。開発途上国が気候危機を緩和するために別の仕方で経済発展を模索している時に、技術面・資金面・人材面で彼らを支援することは当然です。
 しかし、先進国にそれができるのか。強欲な資本主義は、アマゾン川流域で森林を破壊して「開発」を進めたり、自分勝手な振る舞いを続けたりすることでしょう。それもすべて膨大な利益を手に入れるためです。「我が亡き後に洪水よ来たれ」です。地球の破壊、人類の滅亡も大げさとは言えません。
 環境危機をもたらしたのは私的所有を基礎とする資本主義的な利潤追求です。「化石燃料の段階的廃止」をめぐる諸国間の意見対立は最終的にはこの問題に帰着します。資本主義的な利潤追求と資本蓄積を是認するのか、それとも資本主義的生産様式を変革し、地球環境危機を抜け出す道を選択するのか、二つの道の勝負にかかっています。

(3)技術革新の急速な進行は資本主義の発展を促さず、むしろその死滅を早める

平石 AIなど技術革新も急速に進んでいますが、どう見たらいいですか。

秋山 こんにちの技術革新が社会にどのような影響を与えるか。生活が便利になるなど肯定面と失業など否定面の二面があると思いますが、主要な側面は後者であると思います。
 特に生成AIは人類の未来に何を及ぼすのかを考える必要があると思います。

平石 資本主義の基礎である「私的所有」と技術革新は矛盾しますか。

秋山 資本主義の原始的蓄積の時代に、国家権力や資本家は、労働者を共有地(コモンズ)から追い出して、共有地は毛織物産業と羊毛産業のための羊たちの飼育場に転化し、労働者を「二重な意味での」自由な労働者につくり替えたのですね。「羊が人を殺す」(トマス・モア)と言われました。
 現代のIT産業の経営者も本質的に同じです。人類の共有財産であるAIやインターネットなど技術や言語を「囲い込み」、私有化し、独占的な利益を上げています。大多数の労働者はそこから排除されているのです。
 技術革新が進めば、労資間の矛盾など資本主義の諸矛盾はさらに激化します。かつての第1次産業革命の時のような「機械打ち壊し運動」が起きるかもしれません。あるいは、本来的に人類史が蓄積してきた「共有財産」である技術が一握りの独占資本に所有されていることへの異議申し立てが起こるかもしれません。
 こうした状況が長く続くことは考えられません。人類の共通財産であるAIやインターネットを一握りの資本家の独占的所有から解放し、みんなが「自由に使用できる」ようにすることが必要です。そのためには私的所有に基礎を置く社会・経済システムを変えなければなりません。
 AI研究の第一人者といわれるカナダ・トロント大のヒントン名誉教授は「AIが人間社会を支配する可能性がある」と警告しています。彼は、2020年代か30年代までに生成AIが多くの点で人間の能力を上回る可能性があるとし、「自分たちより知能の高いデジタル的存在が人間社会を乗っ取るという実際の脅威に、今まで経験のない人類はどう対処すべきか分からない」と懸念を示しています(読売新聞23年12月4日付)。
 利潤追求、資本の蓄積を至上命令とする資本主義がこうした難問を解決できるか。自分の利益追求のために激しく競争している独占企業とその政府が解決できるとは思えません。資本家的な私的所有を打ち破り、自由な生産者たちの共同社会を建設し、世界の平和と信頼を基礎とする国際関係があってこそ、人類は技術革新をコントロールできるようになるのではないでしょうか。今回の生成AIに代表される技術革新は、人類に「私的所有」を変革させるきっかけになる可能性があります。それとも生成AIが人類を支配することになるか。前途は労働者階級の肩にかかっていると思います。

(4)先進国での「人口問題」の深刻化、「少子高齢化」の進行

平石 日本もそうですが、多くの先進国の人口は頭打ち、あるいは減少に向かっています。深刻な問題ですね。

秋山 人口減少、少子高齢化は、この社会がもつかどうかという、極めて深刻な問題ですね。
 例えば、日本の場合、国立社会保障・人口問題研究所の試算では、2080年には日本の人口は7400万人に縮小することが予測されています。
 人口が減少するということは、子どもの数が減り、同時に高齢者の数が増えるということです。最大の問題は「生産年齢人口」、つまり労働力が減少するということ、しかも一時的な現象ではなく、傾向的に縮小することです。これだけを見ても資本主義に深刻な打撃を与えることは明白です。それだけでなく、「21世紀末になっても人口減少は止まらない」と予測されており、日本という国家の「持続可能性」が厳しく問われることになります。
 なぜ人口は減少するのか。第1次産業革命から最近まで資本主義先進国では人口は増えています。日本のケースでは、明治維新(1868年)時点で3330万人で、それが2008年に1億2808万人のピークに達し、以降減少傾向をたどり、16年の人口は1億1913万人です。資本主義がまだ活力のある局面では人口は増えていました。
 こんにちなぜ人口は減るのでしょうか。子どもは欲しいが育てるのにいろいろ費用がかかる、安定して働いているのに子どもを産むと仕事が中断される、住宅が狭いが広いところは家賃が高いなど、子どもを産み、育てる上での諸困難が重くかぶさってくるからです。人口減の最大の要因は「貧困」にあるということです。
 政府が掲げている「少子化対策」などでこの貧困問題を解決できるのでしょうか。一時的な給付や減税、子ども出産手当などで解決できるようなものではありません。その真の原因は資本主義の「衰退」にあるのです。資本主義が続くためには、労働力が再生産されるとともに新しい生命が生産され育てられるように環境が整備されることが必要不可欠です。
 だから、人口縮小とはこんにちの資本主義がもはや労働者の生活の再生産と「生命の生産」を保証できなくなったことを意味するということです。

(5)ますます深刻化する難民・移民危機

平石 コロナ規制が終了した今、再び欧米諸国に難民・移民が押し寄せていると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。

秋山 フィナンシャルタイムズ(FT)のコメンテーターのラックマンは次のようなことを言っています。
 ――バイデン米大統領の側近が「次の選挙で我々が負けるとすれば、それはウクライナ問題ではなく南部の国境を巡る問題だ」と語るように、各国のリーダーが今、最も懸念している国際問題は移民だ。――
 国連難民高等弁務官事務所によれば、世界の難民・国内避難民は2022年に初めて1億人を超えたとのことです。10年前の4270万人から2倍以上に増加しました。
 この10年間で目立った難民増加を具体的に挙げてみると、まず第一に、「気候難民」の急増を挙げねばなりません。
 国内避難民監視センターは2021年にアフリカを中心に避難民が2230万人に上ったと報告。その原因は気候変動に関連した災害によるとのこと。
 深刻なのはこれから30年後にアフリカを中心に2億人の気候難民が生まれると予測されていることです。サハラ以南のアフリカ8600万人、南アジア4000万人、南アジアと太平洋4900万人、北アフリカ1900万人、ラテンアメリカ1700万人、東欧と中央アジア500万人、以上合計2億1600万人となります。
 独立戦争以降の米国の歴史を振り返れば、アフリカから奴隷たちをたくさん連れてきて強制労働をさせたり、先住民から土地や資源を奪い取ったりしました。その結果、米国は速いスピードで経済を発展させることができました。こんにちでも、米国経済は移民労働で支えられておりますし、移民なしには、独り立ちできない国なのです。
 二番目にウクライナ戦争などに伴う食料危機や「生命・存在危機」です。ウクライナからの難民数は500万人といわれています。子どもと女性が大半を占めています。
 中東諸国やアフリカ諸国からも欧州への難民が急増しています。ウクライナ戦争による食料難や物価高で輸入依存度が高いエジプトやチュニジアの人々は食えなくなり、欧州に移動しました。アフガンやシリアからの難民も「食い物を求めて」欧州に行きました。
 三番目に、パレスチナ難民です。言うまでもなく、1948年のイスラエル建国以来、パレスチナ問題は紆余(うよ)曲折がありましたが、放置されてきたのが実際です。昨年10月イスラエル・パレスチナ戦争の激化で、パレスチナ難民にとっては地獄のような状況が続いています。許せません。

平石 日本は難民・移民の受け入れについて厳しく制限していますが、欧州や米国には大量の難民・移民が押し寄せ、極めて大きな問題になっています。欧州では「反移民」を掲げる右派、極右政党が伸びていますね。

秋山 世界は難民・移民問題を正しく処理できるでしょうか。これからの世界、とりわけ開発途上国や低所得国では、気候危機も含めて戦争や紛争がますます多く発生することが予想されます。
 また、自国の経済発展のために移民・難民を必要としてきた資本主義先進国ですが、世界経済が困難にぶつかり、自国での貧富の格差の拡大で社会分裂が深刻化してきております。民主主義は機能不全となり、ポピュリズムの嵐が吹いて、政治的な危機が起こっています。難民危機だけでなく、先進国での政治危機を含めて、その根源は、世界を収奪し、途上国の経済発展を阻害、開発、気候変動で土地から追い出してきた、こんにち戦争を助長している、そうした資
本主義にあるのです。

(6)家事労働、ケア労働(医療、福祉、介護など)に依存してきた資本主義が限界にきた

平石 これまでの労働の概念も再認識というか豊富化するというか、そういう面も見る必要があるようですね。

秋山 資本主義が持続するためには労働力の再生産が必要なことは言うまでもありません。そのためには、栄養のあるものをしっかり食べて、雨露をしのげる住居で眠り、映画を見たりテレビを見たりして、休憩して、「今日も元気で働こう」と心身が元気になることが必要です。労働力の再生産だけではダメです。マルクスも言うとおり、新しい生命の生産、種の生産が必要なのです。
 「ケア労働」とは労働力の再生産と生命の生産のために必要な労働を意味します。食事、出産、育児、保育、医療、教育、福祉などに従事する労働です。
 資本主義は労働力の再生産のために必要な最低限の経費を労働者に支払います。しかし、資本主義社会の持続のために不可欠な「ケア労働」に対しては、従来は「無償労働」が多かったようです。また、ケア労働の重要性の割には、それは社会的に低く評価されてきました。
 利潤追求と資本蓄積が至上命令である資本主義にとって「ケア労働」は目に見える価値を生み出さないものと捉えられてきたのかもしれません。多くは家庭労働であり、女性の仕事として受け取られ、労働市場とも無縁だったこともあるかもしれません。

平石 今、ケア労働に光が当てられているのはどうしてでしょうか。

秋山 これまでが異常過ぎたのです。資本主義は「ケア労働」によって支えられて発展してきました。「ケア労働」がなくなれば、資本主義は長くはもたないということが可視化されるようになってきたということではないでしょうか。
 もう少しリアルに考えてみましょう。コロナ・パンデミックの時に日本の医療体制が非常に脆弱であることが話題になりました。国、県や地方自治体が、財政重視で福祉や医療の合理化・削減を進めてきた結果、看護師や医師の不足、病院がいつも超満員であること、保健婦や社会福祉士、介護士など重労働でしかも低賃金で仕事に従事してきたこと、など深刻な現状が暴露されたのです。このコロナ・パンデミックが「ケア労働」の重要性を改めて教えてくれました。

平石 「ケア労働」はいつごろから普通の資本主義的な労働から切り離されていったのでしょうか。

秋山 長谷川眞理子・日本芸術文化振興会理事長が「分断された『仕事』と『家事育児』20世紀文明の大失敗」(毎日新聞23年11月23日付)というコラムで面白いことを言っています。要旨を紹介しましょう。
 ――実は、20世紀産業社会の構造そのものが原因だ。とくに第2次大戦後は、工業化と都市化が進み、人々が都市に流れ、地方の人口は減少した。都市での生活の中心は、さまざまな職業のどれかに就き、給料を稼ぐこと。(中略)こうしていつのまにか、職場での「仕事」と、家庭にまかされる「家事育児」とに分断された。掃除や洗濯、料理、子育てなどは、「家庭」でやるべきこととなった。高度成長期には、夫が十分な収入を持って帰れたので、専業主婦は成り立ったが、そうではなくなると、女性も稼がねばならない。女性も働くようになると、当然「ワンオペ育児」になるしかないだろう。これが人間の生き方として持続不可能なことは、誰の目にも明らかだ。文明の発展はさまざまな利点をもたらしたが、誰も意図したわけではないとはいえ、人間の生活を、お金を稼ぐ「仕事」と、生きることを支える「家事育児」に分断してしまったのは、大失敗だった。

平石 なかなかいいところを突いていますね。

秋山 私も同感です。もう資本主義ではやっていけないことを身近な実例で言っていると思います。医療・看護・介護、子育て・教育、家事など「ケア労働」が見直され、社会的に高く評価されることはとてもいいことだと思います。
 どんなに高度に資本主義が「発展」しても、「ケア労働」は資本主義を支えてきましたし、資本主義が持続的に発展するうえで「ケア労働」は必要不可欠だからです。
 ケア労働に従事する労働者は、無給の家族、家庭の主婦などを含めて、文字通り不可欠の労働者です。しかし、彼らの賃金や労働条件、労働者としての権利、社会的な地位は、今もって低いのが現実です。「ケア労働者」たち自身が団結して立ち上がり、闘う以外にないと思います。彼らを組織化することも重要な闘いだと思います。
 われわれは狭い労働観から脱皮して、新しい労働観をつくり上げるために力を入れます。最終的には「労働が楽しい」社会、つまり共産主義を目指して闘います。

(7)資本主義の下での「戦争経済」化

平石 こんにちの世界で資本家たちとその政府は資本主義経済の危機にどのように対処するのか、その一つに「戦争」の活用があるのではないでしょうか。

秋山 そうですね。戦争経済化は資本主義の指導層の中に今も生きています。資本主義経済の危機の直接の原因である「需要不足」を克服するには戦争以外にないという考えです。既存の生産力を徹底的に破壊すれば、新たな需要が生まれてきます。歴史的な事実として、1930年代の「大恐慌」は米国ルーズベルト大統領の「ケインズ的」政策であるニューディールでは解決できず、第2次世界大戦まで待たなければならなかったのです。
 日本経済が第2次大戦後の復興を果たすうえで大きな役割を演じたのは51年から53年までの朝鮮特需でした。ベトナム特需でも日本経済は大いに助けられたのです。こんにち世界一の自動車メーカーであるトヨタが朝鮮特需で生き返ったのは有名な話です。

平石 ウクライナ戦争や最近のパレスチナ情勢の激化など世界中で戦争・紛争が激化しています。

秋山 ウクライナ戦争でいちばん大儲けしたのは米国の軍産複合体と言われています。軍産複合体とは、政治、兵器産業、大学・研究機関、金融資本、IT産業などの結合体です。彼らは戦争することで膨大な利益を上げています。戦争までいかなくても、世界が不安定で、危機にあることが彼らには必要なのです。

平石 なぜ、米国で軍産複合体が生まれ、発展したのですか。

秋山 資本主義が始まって以降の人類の歴史を見るに、戦争の中で肥え太った最大の国家は米帝国主義です。独立戦争、南北戦争から第1次、第2次世界大戦を経て、こんにちのイラク戦争、アフガン戦争、そしてウクライナ戦争までアメリカは戦争を続けている。この瞬間にも、中国との軍拡競争をやって戦争経済を続けています。その大きな要因の一つに米国の政治・経済・社会など各方面で軍産複合体の力が大きいことが挙げられます。
 この米国の軍産複合体は第2次世界大戦とともに生まれ、発展しました。「マンハッタン計画」(原子力開発)などで政府・米軍・大学・大企業の結びつきを強める大きなきっかけになりました。これが軍産複合体の萌芽です。
 ソ連との軍事開発・兵器近代化の大競争となると、米国政府は膨大な補助金を大学に投資して、軍拡・新兵器開発、技術開発に力を入れました。そこで得られた研究成果はロッキード、ダウ・ケミカル、デュポン、ダグラスなどの企業に下ろされ、政府・軍と大学、兵器産業が結びついて巨大な「怪物」が生まれたのです。
 冷戦崩壊後は「終わりなき戦争」の時代となりました。米軍はアジアでは「10万人体制」を維持し、潜在的な敵である中国や朝鮮民主主義人民共和国に備えました。ブッシュ政権は、米国の世界支配に反対する中東やアジアの「無法者国家」をつぶすために理不尽な戦争を長い間続けました。しかし、米国は高い授業料を払わされましたね。
 ウクライナ戦争では、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマン、レイセオンなど米兵器製造の多国籍企業はこのウクライナ戦争で大儲けをして、笑いが止まりません。とりわけオースティンがバイデン大統領に請われて国防長官になるまで取締役を長年務めたレイセオンには23億ドル(約3100億円)もの契約を発注した、と報道されています。
 ウクライナ戦争は、バイデン政権からすれば、米国に敵対するロシアを痛めつける戦争であり、安全保障上の必要な措置であるのかもしれませんが、軍産複合体からすれば、膨大な利益を得ることができる「うまみ」のある事業なのです。膨大な戦死者、犠牲者が生まれ、避難民500万人という悲惨な戦争ですが、米帝国主義と軍産複合体にとっては些細(ささい)な出来事でしかないのです。
 「ウクライナの次は台湾だ」と言われます。米国は、まだ力が残っているうちに「唯一の戦略的な競争相手」である中国を戦争に引きずり込んで弱体化させるのが狙いです。単独では中国に勝てないから、同盟国と一緒になって戦うということで狙われているのが日本です。岸田政権も、米国と一緒になって、敵基地攻撃能力、軍備増強を具体的に追求しています。しかし、統合合抑止力で平和を維持すると力んで平和を維持できるでしょうか。統合抑止力で中国に対峙するのは非常に危険で、亡国の道です。偶発的に戦争が起こる可能性が高いと思います。
 沖縄の人たちは、平和を保つのは「外交と対話だ」と主張し、行動しています。私たちは米日の対中戦争をやめさせるために闘わなければなりません。万が一「台湾有事」となっても、日本は戦争をしないことを宣言して、米国が仕掛ける戦争から離脱すべきです。政府が戦争をやると言うのならば、われわれは政府打倒で闘い、戦争をやめさせる。

危機からの出口は社会主義以外にない

平石 資本主義は歴史的に行き詰まっています。

秋山 米ソ冷戦が終焉(しゅうえん)した1990年前後、米欧の支配層の中に「資本主義は勝利した」という陶酔感が広がりました。歴史家・哲学者である米国のフランシス・フクヤマは「歴史の終焉」と認識を表明しました。
 しかし、キッシンジャー(元米国務長官)は91年の湾岸戦争時の米帝国主義を「落日の輝き」と呼びました。その後、リーマン・ショックを契機とする世界金融危機で世界資本主義の危機が露呈し、米国の衰退は決定的になりました。
 リーマン・ショックから15年たちましたが、先進国の中央銀行の「金融の量的緩和」や主要国の財政出動にもかかわらず、資本主義の「相対的な安定期」は訪れず、資本主義の危機はさらに深化しています。
 金融とIT産業の結合に打開を探っている金融独占資本ですが、世界資本主義は極めて不安定でリスクに満ちています。こうした現状で、米国の経済学者スティグリッツは「健全な資本主義」を唱え、また世界経済フォーラム(ダボス会議)では株主・顧客・取引先・従業員などの利害関係者に配慮した「ステークホルダー資本主義」を唱えています。
 しかし、人々の貧困と窮乏化が極端に進んでいるのが実際で、難民や移民が大量に生まれています。
 豊かな資本主義諸国でも、労働者はごく一部を除いて、貧困化しています。メシが食えなくなれば紛争、対立は尽きません。米国のような大国でも貧富の格差は著しく、社会は分裂し、もはや「内戦」状態と言える状態です。その米国では、目覚めつつある学生・青年たち、労働者たちが「ウォール街を占拠せよ」とか、BLM(黒人たちの命は重要だ)や最近の社会主義的運動への共感が広がるなどの変化が生まれてきています。
 社会主義・コミュニズムを求める機運は世界の識者の中で、また先進的労働者の中で高まっています。
 世界の労働者人民にとって、危機打開の活路は社会主義以外にないと私は確信します。

わが党の社会主義についての見解

平石 社会主義についてさまざまな見解があります。労働党はどう考えているのでしょうか。

秋山 わが党は、東欧・ソ連社会主義の歴史的な敗北に際して、党の見解を出しています。社会主義の「改革路線」の内容にも触れ、敗北の主な要因はソ連共産党の特権化・官僚化にあることを明らかにしたうえで、引き続き帝国主義の社会主義攻撃に抗して闘うことを呼び掛けてきました。
 これは社会主義を目指す革命政党として極めて重要な理論的・政治的な闘争でした。
 ここでは米ソ冷戦崩壊時点の「社会主義とは何か」について党の見解を再確認しておきたいと思います。
 それは以下のようです。
・社会主義が目指すのは豊かになり、無階級社会に向けて、権利として対等に暮らせるということ。
・(社会主義革命は)まさに私的所有そのものの廃絶である。根本的な革命、長期にわたる革命である。数千年続いた歴史の大転換である。
・これまでの革命に共通するものは、新しい社会、政治制度ができる前に、すでに先行して土台が出来上がっている。資本主義の前提になるような貨幣や商品経済などいろいろなものがある程度まで発展している。小規模な工場なども封建社会でできている。そして政治権力を取ることで革命は完成した。
 しかし、社会主義は政権を取った後、下部構造に改革を加える。条件は相当に進んでいるが、政権を握ってから新たに経済システムなど生産関係をつくり出す、そういう革命である。
・根本的な革命であり、長期にわたる革命であることを政権を取った共産主義者は忘れるわけにいかない。そこにおける理論の役割、党の役割、国家の役割を重視しなければならない。
・社会主義建設が長期にわたるとすれば、その党は文字通りその国の大多数、労働者階級と農民、この大多数の人民に支えられていなければならないのは当然で、そうした政治でなければ社会主義は最後的に勝利することはできないということがはっきりする。

社会主義を目指して闘う

平石 最近も社会主義についていろんな論者が主張を展開しています。本も売れているようです。さまざまな議論の中で特徴的な議論を紹介してください。

社会主義に自信をもてない論者たち

秋山 米国の経済学者であるクルーグマンは、リーマン・ショック以降の「恐慌型経済」の復活にもかかわらず、資本主義が続いているのは「資本主義が優れている」からでもないし、「社会主義が崩壊したばかりで、他に新しい、この状況を切る抜ける考え方、思想、方法が生まれないからで、いつかは生まれるであろう。そして危機が深まれば、その生まれるスピードは速まるであろう」と言っています。しかし、クルーグマンは「活路は社会主義以外にない」とは言わないし、言えません。ここに彼の階級的な立場や限界があります。
 資本主義の危機を唱える論者、例えば日本の水野和夫氏やドイツの高名な社会学者であるヴォルフガング・シュトレーク氏も同様なスタンスです。シュトレーク氏は、資本主義は内因で崩壊するが、その後の世界は「混沌と不安定の長い空白期」が来ると言う。マルクス主義はすでに資本主義、新自由主義に敗北しているのでレーニンが描いたような「社会主義」はもはや実現不可能であると言っています。水野和夫氏は1971年以降、世界資本主義は「利潤率の歴史的な低下」が顕在化し、利潤獲得と「資本蓄積」を至上命令とする資本主義はもはや成立しないことを指摘しています。しかし、前途はまだ明確でないこと、今しばらくは資本主義と付き合う以外にないこと、などと言っております。

エコロジーを軸に「脱成長・共産主義」を唱える斎藤幸平氏

秋山 斎藤幸平氏の功績は世界が新自由主義的イデオロギーに押されているなかで堂々と共産主義を唱え、しかも多くの人たちに「資本主義を乗り越えた」世界が可能であることを広めていることでしょう。
 しかし、われわれからすれば、いくつかの疑問点あるいは意見の相違があります。
 一つは資本主義から社会主義・共産主義への原動力をどう見るかということです。われわれは広い意味での労働者と資本家の階級闘争と見ています。しかし、斎藤氏は階級闘争史観には否定的です。
 もう一つは資本主義から共産主義へどのような経路で接近するのかという問題です。われわれは社会主義を通って共産主義へ行くのであり、長期的で意識的な闘いが求められると考えています。その過程では労働者人民が国家権力を握り、資本主義的私的所有を廃絶し、社会的所有に基づく生産関係を構築し、それを基礎とする共同社会を建設することが基本となると考えています。
 斎藤氏は資本主義の下での「コモンズ」(共有財産、労働者生産組合や生活協同組合など)を拡大していくことを重視していますが、これ自身はわれわれも賛同します。
 マルクスも「協同組合運動」の意義を高く評価しています。少し長くなりますが、重要なので引用してみます。「(a)われわれは共同組合運動を階級的敵対に基づく現代の社会を変革する力の一つとして認める。この運動の大きな利点は、現在の窮乏、および資本にたいする労働の隷属という専制的体制を、自由で平等な生産者の結合という、共和的で福祉ゆたかな制度と置きかえることができるということを実践的に示す点にある。
(b)しかしながら、協同組合制度は、それが個々の賃金奴隷の私的な努力で作り出せる程度の零細な形態に限られるなら、それは資本主義社会を変革することは決してないだろう。社会的生産を自由な協同組合労働という大規模で調和ある一制度に転化するためには、全般的な社会的な変化、社会の全般的な諸条件の変化が必要である。この変化は社会の組織された力すなわち国家権力を資本家と地主の手から生産者自身の手に移すこと以外には、決して実現されえない」(1866年8月末執筆)
 私はこのマルクスの論断は正しいと考えます。

資本主義の危機を幅広く見直し、われわれの視野を拡大してくれるナンシー・フレイザー氏の問題意識について

秋山 ナンシー・フレイザー氏は次のように述べています。
 「共喰い資本主義こそ現在の危機の根源である。(中略)社会全体の秩序が全般的な危機に陥っている。その秩序の中で、あらゆる惨事が一つに集まり、互いを悪化させ、私たちみなを呑み込んでしまいそうだ。
 本書では、機能不全と支配の巨大なもつれを綿密に描き出していく。資本主義に対する私たちの視野を大きく拡げ、資本の〈食〉に対する経済分野以外の材料を加えることで、現在の危機的状況のあらゆる抑圧、矛盾、衝突を一つの枠内に組み込む。その枠内において構造的不正義とはもちろん階級の搾取を意味するが、それだけではない。ジェンダー支配、人種的抑圧および帝国主義的抑圧も意味する。(中略)資本主義システムの矛盾は単なる経済危機ではなく、ケア、エコロジー、政治の危機でもある」
 「人類を絶滅の顎(あぎと)へと追いやる社会システムの解体方法が見つけ出せるだろうか。共喰い資本主義が生み出した複雑な危機に、一体となって取り組めるだろうか。(中略)私たちが協力して立ち向かうべきは、さまざまな問題が撚(より)り合わさった全般的な危機なのだ。多様な社会運動、政党、労働組合、集団的行為者の闘争を調整する十分な幅とヴィジョンを持ち、生態系と社会の変容を目指し、解放を勝ち取る対抗ヘゲモニーのプロジェクトを思い描けるだろうか――共喰い資本主義をきっぱり葬り去るプロジェクトを」(『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』序章)
 フレイザー氏は資本主義の危機を「労働者と資本家の階級対立」とだけでなく、エコロジー、難民、人種差別、ケア労働・家事労働など幅広く捉えています。彼女は資本主義の定義を拡張し刷新しました。これは刺激的であり、学ぶところが多いです。

フレイザー氏への疑問

(1)資本による労働の搾取と隷属、資本による労働の専制的支配についてどう考えるのか? われわれはこの点こそ資本主義批判の核心問題と捉えるが、どうであろうか。
(2)社会主義をどのように切り開くのかという最重要課題については明確でない。「解放を勝ち取る対抗ヘゲモニーのプロジェクト」に期待したい。

白井聡氏の社会主義への姿勢(スタンス)は共感できる

秋山 フレイザー氏の著作『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』の解説で白井聡氏は以下のように主張しています。
 「資本の運動が私たちの生活をあらゆる面で脅かし、人類の持続可能性を消し去りつつあるのだとすれば、採るべき道は資本主義の乗り越えしかありえ得ない。それは社会による資本の統制であり、資本に対する社会の優越という意味で社会主義である。
 無論、その道が困難なものであることはフレイザーも熟知しており、本書でも十全に社会主義社会の具体的なヴィジョンが与えられているわけではない。
 とはいえ、いま求められているのは、確信の広まりではないだろうか。資本主義社会に未来はないこと、それは持続不可能であること、それは乗り越えられなければならないこと。この確信を燎原(りょうげん)の火のごとく広げることが、まず必要なのだ」
 これには大賛成です。
 既に紹介した学者、識者以外にも、社会主義の理論構築を独自の立場から行い、優れた見解を出している学者や評論家の皆さんに敬意を表します。例えば、大澤真幸氏や大西広氏です。若い学者も堂々と意見を出しています。
 意見が多少違っても、「前途は社会主義」と考えるすべての先進的な労働者の皆さん、識者の皆さんと共に、今後、社会主義の理論構築や宣伝・学習活動を共同で進めていきたいと表明しておきます。

平石 とても大事な議論で、労働党だけでなく共同の理論活動が広がればいいですね。

労働党は50年間どう闘ってきたか

秋山 労働党の50年間の闘いについて簡単にまとめてみたいと思います。

闘い取った成果について

 (1)米帝国主義との闘争、および対米従属政治打破の闘争。
 労働党が果たしている積極的な役割は明白であり、確信の持てるものである。日本共産党29回全国大会議案を読むと、共産党は米帝国主義を「免罪」しており、闘おうとしていない。また、歴代自民党とその亜流政権の対米従属政治を暴露していない。
 (2)いまだ途上であるが、日本における現代修正主義に反対し、労働者階級に基礎を置く革命政党の建設を50年間も追求していること、これは誇ってもいい。
 同時に、資本主義が末期症状を呈し、改めて社会主義の実現が求められているこんにち、これまで以上に質的に水準の高い革命政党を建設するために闘いを継続させなければならない。とりわけ、若い労働者や学生たちの中に入り、党と革命を語ろう。
 (3)「左翼連合」や「自主・平和・民主のための広範な国民連合」など日本における政治変革のための統一戦線の建設を呼び掛け、国民的・民族的な課題を取り上げて闘ってきている。その考え方と実践は貴重である。
 (4)現場の同志たちが、職場や地域で、大衆の中で大衆と共に、切実な要求を掲げて闘っている。また、国民的な課題で県や中央の呼び掛けに応えて闘っている。また、党の専従者の献身的な奮闘に敬意を表したい。今も現場の同志たちこそ党の力の源泉である。

50年の闘いでなぜ党建設に成功していないのか

 (1)日本のような「高度に発達した資本主義国」における革命の問題に関連して取り残した課題があるのではないか。例えば、議会制民主主義の問題に十分対処して闘ったのか。
 (2)戦略の具体化、党の戦術問題で「創造的な」闘いが組織できなかった。
 (3)マルクス主義、資本主義批判、社会主義など理論問題。
 (4)党の幹部養成の問題。以上です。

平石 以降の闘いを進めていくうえでも重要な教訓も得たと思いますが。

いくつかの教訓

秋山 この間の経験から得た教訓は以下のようなことです。
 (1)党の政治路線は、実践と結びつけて、また集団的な学習・討議の中で、繰り返し検証し点検されなければ、「豊富化」できない。
 (2)唯物弁証法を適応して、生きた情勢の「具体的事情の具体的分析」に習熟しなければ党は前進できない。革命運動の先輩たちがしたように材料を集めて、分析し、概括すること。
 (3)革命の観点、史的唯物論の観点から自国の歴史をリアルに把握し、学ばなければ、深みのある情勢分析も不可能であるし、当面の政治闘争を組織することもできない。
 (4)不断に変化する、大衆の生きた生活、仕事ぶり、行動、政治意識をつかまなければ革命など問題にならない。大衆、生きた情勢の中にこそ革命の条件は存在する。「労働者階級の解放は労働者階級自身の事業である」で、党はその「産婆役」に過ぎない。

当面の党の闘いについて

平石 今年は党創立50年を経て、新たな党の前進を目指して重要な年になると思います。当面の闘いについてお聞かせください。

秋山 われわれは第18回中央委員会総会で「革命の戦略配置」について提起しました。
 当面の党の闘う課題について触れます。

 (1)米国を中心とする帝国主義の支配、搾取・収奪、侵略と闘う。
・「死滅しつつある資本主義」である帝国主義にとって、危機からの出口は戦争以外にない。それは人類の破滅への道である。世界戦争を全力を挙げて阻止しなければならない。
・誰と共に闘うのか。帝国主義の支配に苦しむ新興国・開発途上国・低所得国。世界の労働者階級、被抑圧民族。
・日本共産党29回大会議案に見られる米帝免罪論を批判する。
 (2)党の政治路線・規約に沿って、国の完全な独立と経済・政治・社会の民主主義の実現を目指して闘う。こんにち、対米従属政治は歴史的な破産の淵にある。広範な国民的な統一戦線を構築して「独立」の旗を掲げて闘い、国民的な政権樹立のために闘う。
 (3)米中対立の激化、戦争への「発展」を阻止する。
・われわれは中国が米帝国主義と闘う限りこれを支持する。それは同時に日本の独立を含む民主主義革命にとって有利である。
・世界の中でも数少ない米国追随であり、野望を秘めた岸田政権の軍事力増強、対中敵視政権と闘うことは日本の労働者人民の義務である。
・沖縄県民の「軍事要塞(ようさい)化」反対闘争と「地域外交」を支持する。
 (4)日本における革命闘争の前進のために奮闘する
 党の政治路線・規約に沿って、その具体化を進める。
 独立の実現を含む徹底した民主主義革命を経て連続的に社会主義を目指す。
・帝国主義への説得力のある理論的政治的暴露・批判。
・当面は米中対立の激化の下で米日の「台湾有事」策動・中国への抑止力強化に反対して、「日中の平和と戦略的な互恵」、「アジアの平和と共生」の実現。
・生活が困窮するなかで国民の岸田政権への不満と怒りは高まっている。国民諸階層の一つ一つの要求と闘争を重視し、その発展のために闘う。 ・日本経済の長期不況、「失われた30年」との闘い。日本共産党は百年一日のごとく、「財界のための政治」が諸悪の根源と捉えている(日本共産党23回大会議案)。わが党は、米国の対日支配の下での、小泉政権以降の歴代自民党政権の「多国籍企業の覇権的な利潤追求のための政治」の打倒を主張する。
 (5)資本主義の諸矛盾を暴露して、大衆の覚醒を促し、社会主義を実現する「墓掘り人」としての労働者を支援し、育成する。
・資本主義のリアルで生きた暴露を。
・労働者の要求、闘争、組織化など闘争を支援・援助する。
・地球温暖化、旱魃(かんばつ)、森林破壊、水害・山火事、水不足、食料危機など。
・移民・難民問題。
・少子高齢化の問題、人口減の問題。
・技術革新。AIは大量の失業を生み出す。
・農林水産業を重視する。「食料危機」に反対する国民運動の発展に貢献する。
・脱原発、再生可能なエネルギー政策への転換。福島の復興を支援する。
・「ケア労働」の意義を捉え直し、ケア労働者を激励する。
 (6)労働者生産協同組合、生活協同組合、地域循環型経済、医療・介護・看護・保育などエッセンシャルワーカーの運動、家事労働など、資本主義の下での貴重な生活の生産・再生産、生命の生産と育てることを評価し、その発展のために努力する。
 (7)労働者階級に基礎を置く革命政党の建設のために闘う。労働党の「質的・量的な拡大強化」、飛躍的な前進を目指して闘う。
 (8)労働新聞を労働者や先進的な人々が読む新聞に。政治暴露、階級暴露の手段としての労働新聞の充実を図る。

 以上です。今年も現場の同志の皆さんとよりいっそう団結して闘います。また、政治の変革を願う各界の皆さんと連携を強め、統一戦線を強化・拡大するために奮闘します。よろしくお願いします。

平石 どうもありがとうございました。

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