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2023年12月5日号 2面・解説

岸田政権、日中首脳会談で
台湾問題に干渉

「一つの中国」守ってこそ
関係打開できる

 日中首脳会談が11月16日、米国で開かれた。首脳会談は1年ぶりである。
 会談では、「戦略的互恵関係」の再構築で合意した。日中ハイレベル経済対話の再開や、半導体素材などの輸出管理について対話する枠組みを設けることでも合意した。
 岸田首相は、台湾問題について「台湾海峡の平和と安定が国際社会にとって極めて重要」などと述べた。中国の内政に干渉し、日中共同声明以来の両国の確認をまたも踏みにじった。
 東京電力福島第一原子力発電所からの「汚染水」放出に関しては、両国専門家の間で議論し、「建設的な態度」で解決法を「見いだしていく」こととした。
 中国が放出に強く反発しているのは当然である。岸田政権は「科学的根拠」などと繰り返すのみで、周辺諸国に対する説明をほとんど行っていないからである。福島県民はもちろん、漁民を中心とする日本国内の不安と反対も一切無視している。
 岸田首相は、尖閣周辺の排他的経済水域(EEZ)内に中国が設置したブイに関して、「国際法」を振りかざし「撤去」を求めた。
 日中首脳会談が行われたことは、直前に米中首脳会談が開催されたことを前提にしている。言ってよければ、会談自身が「対米従属の枠内」といえる。
 米中首脳会談は、その前日、15日に行われた。バイデン大統領と習近平国家主席は、偶発的な軍事衝突を避けるため、国防当局や軍同士の対話再開で合意した。バイデン大統領は会談後、「(米国と中国の)競争を責任を持って管理し、衝突に陥らないようにする」と述べた。
 だが、バイデン大統領は台湾問題での「現状変更」に反対し、台湾問題に干渉する姿勢をまたも鮮明にさせた。中国は米国に、台湾への軍事支援を停止するよう要求したが、米側は武器供与を「早期に進める」(オースティン国防長官)と開き直った。このほか、半導体など先端産業品の対中輸出と投資の規制も、両国の主張は平行線であった。人工知能(AI)、気候変動対策、合成麻薬の規制での協力を決めた。
 米日は、中国が「核心」とし、内政問題にほかならない台湾問題での乱暴な干渉を継続・強化している。岸田首相が「日中共同声明での立場に一切変化はない」などと言っても、説得力はない。

問題の根源は米国の介入
 そもそも「台湾問題」とは何か。
 第2次世界大戦後、日本の植民地支配下だった台湾は中国に正式に返還され、以降、台湾問題は、完全に中国の内政問題となった。
 1949年、中華人民共和国が成立した。国民党の蒋介石らは台湾に逃げ込み、戒厳令を敷き、反抗する住民を虐殺して「中華民国」を名乗った。
 ほぼ同時期、朝鮮戦争が勃発した。中国革命の波及を恐れたトルーマン米大統領は、台湾海峡に第7艦隊を出動させた。中国の祖国統一事業は、米国によって妨げられた。
 だが、ベトナム戦争などで米国は衰退、72年には米中共同声明(上海コミュニケ)で政策修正を迫られた。79年には国交を回復、これらの経過を経て、「一つの中国」の原則が国際社会に広く確立された。
 他方、米国は「台湾関係法」を成立させた。公式には「一つの中国」を認めながら、武器供与などで台湾当局を支え続けた。
 こんにち衰退する米国は、急速に台頭する中国を抑え込もうと必死である。
 この策動は、オバマ政権後半の「アジア・リバランス戦略」(2011年)以降、本格化した。成長するアジアに力を集中し、世界支配を維持しようとした。
 トランプ政権は通商分野を中心に、中国への圧力を強化した。バイデン政権は中国を「唯一の競争相手」とみなし、中国への攻勢を全面的に強化している。「人権」、半導体などの先端技術、AUKUSなど同盟国を動員しての中国包囲網などである。その焦点が、台湾問題である。台湾当局の存続は、米軍の後ろ盾なしにはあり得ない。
 米国の世界戦略にとって、極東に位置する日本の協力はますます不可欠となった。

対中戦略の一翼担う日本
 わが国はサンフランシスコ講和条約、日米安保条約の締結と同時に、「日華条約」を締結して中国敵視・台湾分断の一翼を担った。
 日中両国は、72年の「日中共同声明」で国交を回復した。中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」と認め、「台湾は中国の不可分の領土」であるという中国政府の立場を「十分理解し、尊重」するとした。「内政に対する相互不干渉」もうたった。両国は、この原則を繰り返し確認してきた。「4つの基本文書」がそれである。
 日中関係は経済関係を中心に深まった。中国は、日本の第一の貿易相手国となっている。文化、自治体などの交流も大きく進んだ。だが、自民党内右派を中心に歴史問題などが蒸し返され、日中関係の順調な発展は妨げられてもきた。
 2012年に登場した第2次安倍政権は、台湾問題での対中干渉を強めた。
 「地球儀俯瞰(ふかん)外交」、日本版NSC(国家安全保障会議)新設、「武器輸出3原則」の撤廃、特定機密保護法、集団的自衛権容認と安保法制、沖縄県名護市への新基地建設など、米戦略の軍事大国化策動を強化した。この下で、安倍政権は「台湾は友人」発言、日台政治家の交流増加などで、台湾の国際的地位向上を支援した。
 岸田政権はこれを引き継ぎ、「安保3文書」改定、防衛費の43兆円への拡大、南西諸島・九州での自衛隊増強などを進めている。特にウクライナ戦争を機に、「台湾有事は日本有事」などとあおり立て、日本を「対中国」の最前線基地化させつつある。
 アジアでの戦争の危険性が飛躍的に高まっている。
 米国の狙いは、アジアで日本と中国を争わせ、「漁夫の利」を得ることである。これに乗せられてはならない。

対中関係打開の国民運動を
 わが国政府は「一つの中国」の立場を今一度確約し、中国への内政干渉をやめなければならない。対米追随政権を打倒し、独立・自主の政権を樹立することが確かな道である。
 対中関係を打開する国民運動が求められている。
 台湾に近接する沖縄県民は辺野古への新基地建設に反対するだけでなく、玉城デニー知事を先頭に「アジアの平和」のための発信と闘いを強化している。11月23日には、青年層を中心とする「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」が主催する「県民平和大集会」が画期的成功を収めた。集会アピールには、「台湾問題は中国の国内問題」と明記されている。この闘いとの連帯を、全国で巻き起こさなければならない。
 自民党を含む与野党の一部にさえ、対米関係を中心に国の進路を見直す機運が顕在化している。中国への対抗強化には、財界からも不安の声が上がっている。
 財界や自民党など保守勢力も含め、「対米自立」「日中共同声明の順守」など、岸田政権に迫る広範な国民的戦線を形成する客観的条件は存在している。
 だが議会内野党は中国敵視の思想攻勢に対抗できず、むしろ唱和している。
 立憲民主党の泉代表は国会質疑で、岸田首相に、尖閣諸島周辺のブイの「実力撤去も視野に入れた対応」を求めた。自民党右派議員や日本維新の会と足並みをそろえ、中国敵視を競い合う反動的なものである。労働組合は、このような党を支持すべきではない。
 心ある政治家、官僚、知識人、青年学生、何より労働運動活動家は、今こそ行動すべきときである。(O)

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