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2023年10月15日号 2面

岸田政権、半導体産業
への優遇策を続々

バランスなき支援は
国民経済再生に逆行

 世界資本主義の危機が深まるなか、先進諸国のみならず新興諸国の一部も交えて、市場と資源をめぐる争奪が激化している。
 衰退する米国は台頭する中国への圧迫を強化している。米国の攻勢は、経済、政治、安全保障など全面的である。安全保障面では「台湾有事」、経済面では半導体など先端技術が焦点となっている。
 岸田政権はこの米戦略に追随し、自国半導体産業の「復活」もかけて、半導体産業への支援策を急速に強化している。新会社「ラピダス」への補助金支出などもあるが、熊本県に進出する台湾積体電路製造(TSMC)、広島県のマイクロンへの支援は、外資大手への大盤振る舞いにほかならない。
 半導体産業、しかも外資への支援は、かつてない危機に瀕する国民経済の再生に逆行するものである。岸田政権の打ち出した土地利用規制の緩和も、さらなる農業つぶしにつながるものである。
 求められているのは、国民生活・国民経済の再生である。そのための支援策は、特定産業に偏らない、バランスあるものでなければならない。
 何より、これまでのわが国半導体産業の衰退が、米国からの圧迫に屈した結果であることを忘れてはならない。対米従属政治の転換こそ、国民の生活と営業を再生させる基礎である。

半導体めぐる国際的大競争
 こんにち、半導体は世界の「最重要資源」とされている。生成AI(人工知能)や電気自動車(EV)、IoT(モノのインターネット)などにより、半導体市場はさらに拡大している。世界市場規模は、現在の約60兆円から、2030年には100兆円にまで拡大すると予想されている。
 この開発・生産をめぐって、企業間・国家間の競争はかつてなく激しい。コロナ禍による世界的な供給不足は、これに拍車をかけている。
 とくに米帝国主義は、「中国製造2025」で半導体自給率の向上を打ち出した中国を抑え込む策動の重要な一部として、投資・輸出規制などで対抗を強めている。米バイデン政権は22年に「チップス・プラス法」を制定し、国内生産の大規模支援に乗り出した。次いで、中国に対するAI用半導体、技術などの輸出を禁止した。  先に行われた米日韓首脳会談のように、同盟国を動員しての対中デリスキング(リスク低減)を推し進めようともしている。
 当然ながら、中国も対抗措置を余儀なくされている。

半導体優遇策が矢継ぎ早
 わが国支配層、財界は米戦略に追随し、さらにかつての「半導体大国」の地位を取り戻そうと夢想している。国内の半導体関連売上高合計を20年比で約3倍の15兆円以上に引き上げる目標を掲げ、これを達成するために2兆円規模の振興策を進めようとしている。
 熊本県にTSMCを誘致し、総事業費の約半分に相当する4760億円の血税を投入して支援することは、その手始めである。蒲島・熊本県知事も、工場建設に伴う新たな排水処理施設の整備費など、今後10年間に1140億円を投入して支援することを表明している。当然ながら、熊本現地では反発が広がっている。同社が茨城県つくば市に設けた研究開発センターにも、国から約190億円が助成されている。
 米半導体メモリ大手のマイクロンの広島工場にも、最大1920億円が補助される。マイクロンは日本市場に約5000億円を投資する計画だというが、うち半分近くを日本国民の血税で賄うことになる。国内で最先端メモリの量産を行わせることが名目である。
 さらに、政府肝いりでトヨタ自動車、東京エレクトロン、NTTなどが出資する新会社ラピダスの工場を北海道千歳市に建設し、最新半導体の開発・生産を進める。ラピダスへの補助金は、23年度だけで2600億円に達する。25年に予定される運転開始に向け、さらなる血税投入が予想される。
 半導体本体の製造だけでなく、関連産業への囲い込みも進んでいる。政府は産業革新投資機構(JIC)に、半導体素材のフォトレジスト(感光剤)を手掛けるJSRを約1兆円で買収させる。みずほ銀行が、約4200億円を融資してこれを支える。
 政府の「新しい資本主義実現会議」は、半導体などの国内投資を「減税」を軸に推進することを掲げた。米国にならい、半導体など戦略製品の生産・販売量に応じて法人税などの税額控除を設けるという。
 さらに岸田首相は10月4日、市街化調整区域や農用地区域などの土地利用規制を緩和する方針を表明した。半導体分野を中心とする国内投資拡大を狙ったもので、用途指定を変更する手続きを簡素化させる計画で、10月末にまとめる予定の経済対策に盛り込まれる。農地の場合、通常なら約1年かかる手続きを4カ月ほどに短縮するという。TSMCの熊本進出を機に、九州経済連合会が同様の要求をしていたが、これを全国に拡大させようというのである。
 5月に広島市で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)の際、TSMC、米インテル、韓国サムスン電子など世界の半導体関連7社の首脳が来日している。
 岸田首相は「インベスト・イン・キシダ」などと叫んで、外資の呼び込みに血道を上げている。岸田政権の半導体産業への優遇策は、投資の「呼び水」の一つである。
 政府の半導体産業への優遇策には、際限がない。

国民経済のバランスある再生に逆行
 リーマン・ショックと以降の世界的な成長率低迷、コロナ禍を経、さらに約40年ぶりの物価高が労働者を中心とする国民諸階層に襲いかかっている。実質賃金はますます低下、消費は低迷し「コロナ前」の水準を回復できていない。勤労国民は「爪に火をともす」生活を強いられている。
 政府が何より急ぐべきは、困窮する国民への生活支援であり、中小商工業者、農漁民を中心とする国民経済の再生である。
 われわれは、半導体産業の再生とそのための政府支援自体に反対するものではない。しかるに岸田政権による支援策は、半導体産業、しかも多くは外資を優遇したもので、著しくバランスを欠いている。個別業界への支援策は、日本の経済社会全体を構想した戦略的なものの一部でなければならない。
 しかも、食料安全保障政策に逆行している。ウクライナ戦争を見るまでもなく、食料自給率の向上は独立国として必須のことである。だが、土地利用を規制緩和すれば、農地や森林はさらに破壊される。半導体製造は大量の水を要するため、地域の貴重な水資源が枯渇することにもなりかねない。
 また、当該自治体は、工場誘致のために工業用水の確保や道路整備などを進めることになろう。そうでなければ大企業、とくに外資は進出しない。地域の乱開発が進み、住民の意思は以前にも増してないがしろにされかねない。農業委員会もますます空洞化させられる。誰のための地域政治かが、鋭く問われている。地域の問題は、地域住民の意思に基づいて決定されなければならない。
 岸田政権による半導体産業に偏った優遇策は、国民生活・国民経済全体の再生につながるものではない。国政レベルはもちろん、とくに地方自治体での反撃が求められている。

対米従属政治の転換こそ必要
 国民経済再生、わが国半導体産業の再生は、対米従属政治の転換抜きにはあり得ない。
 半導体の開発と生産は米国で始まったが、1980年代前半には日本製品が世界を制覇した。88年、日本企業による世界の半導体シェアは世界の50%を超えていた。
 米国は自国産業を防衛するため、わが国に「ダンピング(不当廉売)」という言いがかりをつけてつぶしにかかった。86年に日米半導体協定が締結され、米国製品のシェアを一定以上とすることが義務づけられた。わが国半導体産業の発展は押しとどめられ、93年に日米の半導体シェアは逆転した。パーソナルコンピューターの普及など市場環境の変化も加わった。受託製造企業(ファウンドリ)の台頭など、環境は日々変化している。
 こんにち、わが国の世界シェアは、約1割程度まで落ち込んでいる。
 こうした歴史の総括抜きに、今また、米戦略に乗って中国に対抗した半導体育成策を進めることは「愚の骨頂」である。米系外資への支援策だけではない。「国産」をうたうラピダスも、米IBMに多額のライセンス料を支払うことが決まっている。これでどうして、「半導体大国の再生」になるというのか。
 自主的立場から、中国、韓国、欧州諸国などと連携した半導体の共同開発を進めることこそ、わが国の発展につながる道である。
 米主導の「対中デリスキング」は、残存するわが国半導体産業の利益にもならない。
 対米従属政治の転換は、国民生活・国民経済を再生させるための喫緊の課題である。(O)

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