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2023年10月15日号 1面

イスラエル・ネタニヤフ
政権こそ衝突の元凶

パレスチナの反撃は
まったく正当だ

 10月7日、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配する「ハマス」によるミサイル攻撃とイスラエルによる大規模な報復攻撃で激しい武力衝突が始まった。パレスチナ、イスラエル双方ですでに2000人以上の死者が出ている(11日現在)。
 イスラエルはガザ地区への激しい報復爆撃を行っている。地上部隊の侵攻も準備され、ネタニヤフ首相も「ハマスへの攻撃は始まったばかりだ」と宣言した。ガラント・イスラエル国防相は9日、ガザ地区を「完全に包囲」し、「電気、食料、水、ガスのすべてを止める」、「私たちは動物と戦っており、それに見合った行動を取っている」と述べた。今後、民間人も含めた犠牲者はさらに増えるとみられる。イスラエルの非人道的な攻撃を許してはならない。
 新たな犠牲を生まないためにも直ちに停戦すべきである。米欧など西側諸国や日本のマスコミもハマスをテロ組織と決めつけて一方的に「悪者」と宣伝しているが、事実とはまったく違う。今回の衝突の背景にイスラエルによるパレスチナへの長年の「加害」の歴史があることを見るべきである。第2次大戦後、イスラエル建国によって発生したパレスチナ難民は当時約70万人、以後70年にわたって世代を重ね、今や約560万人(2021年)となっている。パレスチナ人の約3分の2が今なお難民生活を強いられている。
 ハマスは今回の攻撃について声明で、「イスラエルによるパレスチナ人への犯罪に対抗するため、戦略的決断を迫られた」などと主張しているが、これはまったく正当なものであり、道理がある。

イスラエルの強硬策が背景
 今回の衝突の直接的なきっかけは、昨年12月のイスラエルのネタニヤフ新政権の発足である。
 1年半ぶりに返り咲いたネタニヤフ政権は、パレスチナに史上最も強硬な政権となった。新たな連立政権では、パレスチナ国家の消滅を公言する極右政党の議員が財務相や国家治安相として重要閣僚入りした。そして、国際法に明白に違反して建設されているヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の拡大などを強引に進め、パレスチナ側の強い反発を招いている。他のアラブ諸国もイスラエルに対する非難を強めている。
 今年に入ってからヨルダン川西岸地区で、イスラエル軍やユダヤ人入植者がパレスチナ人を襲撃し、殺害する事件などが頻発している。6月のユダヤ人入植者によるパレスチナ人襲撃を巡っては、イスラエル軍や治安当局でさえ「ユダヤの価値観に反する」「国粋的なテロ」として自制を求める異例の声明を出す始末となった。
 今年、ヨルダン川西岸地区で殺害されたパレスチナ人の数は過去最多を記録している。こうした強硬策は、連立を組む極右政党の主張に沿ったもので、ネタニヤフ首相は、政権を維持するため極右の要求を無視できないのである。

「オスロ合意」から30年
 1993年8月、ノルウェーが仲介した「オスロ合意(暫定自治政府原則の宣言)」に基づいて、同年9月、米国(クリントン大統領)も仲介してパレスチナ暫定自治協定が結ばれた。その内容は主に以下の2点である。(1)イスラエルを国家として、パレスチナ解放機構(PLO)をパレスチナの自治政府として相互に承認する。(2)イスラエル軍がヨルダン川西岸など占領地から撤退し、パレスチナ側が暫定的な自治を始める。その後5年の間に今後の詳細を協議する。
 しかし、合意では国境やエルサレムの地位、パレスチナ難民の帰還、入植地の取り扱いなど根幹になる問題を先送りした。それでも2国家の共存など パレスチナ和平にとって画期となる合意だったが、95年のラビン・イスラエル首相の暗殺や衝突の激化などで、合意の履行は暗礁に乗り上げ、その後の和平の仲介も不調に終わり、2014年を最後に和平交渉は行われていない。06年7月の、イスラエルによるガザ地区・レバノンへの侵攻により、「オスロ合意」は事実上崩壊した。
 イスラエルは1967年の第3次中東戦争で占領したヨルダン川西岸地区から撤退することなく、パレスチナ人を追い出してユダヤ人入植地を拡大し続けている。こんにち、約60万人が入植地に暮らしているといわれている。しかも、イスラエルはパレスチナ人を占領下に置く状況を続け、検問所、分離壁や監視塔など西岸のパレスチナ人の往来や日常生活を厳しく制限するなど、こんにちの状況は「オスロ合意」からますますかけ離れていっている状況である。
 今こそ、イスラエルへの軍事支援ではなく、ヨルダン川西岸など占領地から撤退し、パレスチナ独立国家の樹立を認め、互いの存在を認めて2国家の共存を図るよう、各国はイスラエルに強く迫るべきである。

米国の中東政策に大打撃
 米国は1947年のパレスチナ分割や48年のイスラエル建国を支援し、第1次、第2次、第3次中東戦争でもイスラエルの後ろ盾となってきた。中東政策ではイスラエルの存続を優先する政策を遂行し、中東のもめごとの背後には常に米国の存在があった。
 中東は石油資源も含めて米国の世界戦略にとって死活的に重要な地域だったが、近年、自国内のシェールオイル・ガス生産の拡大などもあって政策的な比重は変化した。また、イラクやアフガンでの敗北に象徴されるように中東での米国の存在感と影響力は失われた。それに伴って中国の存在感が増してきた。サウジアラビアとイランの国交回復を中国が仲介し、その後の中東の活発な地政学的な動きなど、中国の影響が大きくなっている。
 バイデン政権は、こうした状況を巻き返すためにサウジとイスラエルの関係を仲介したり、中東と欧州を結ぶ「経済回廊」を提唱したりするなど巻き返しに出ようとしていた。だが、今回の衝突激化はアラブ諸国では国民感情も含めて反イスラエルの世論を一気に高めることになった。米国の中東での巻き返し政策はその出足から大きな打撃をうけている。
 バイデン政権は、今回の衝突で即座にイスラエルへの軍事支援強化と原子力空母打撃群の派遣など圧力を強めようとしている。
 だが、ウクライナ支援で手一杯の状態に加えて、さらにイスラエル支援に手を取られるとなると、当面の最大の戦略的目標である対中抑止に力を割く余裕は少なくなる。米国内は暫定予算(11月半ばまでのつなぎ予算)で綱渡りしているという状態で、足元はふらつき、来年の大統領選挙を控え、国内の党派闘争も一段と激しくなって、米国政治の帰趨(きすう)は予断を許さない状況である。
 今回の衝突で英仏独など欧州主要国は米国に同調してハマス非難の大合唱だが、非難されるべきは衝突の原因をつくってきたイスラエルであり、その後ろ盾となってきた米国である。岸田政権もハマス非難に加わっているが、中東の石油に大きく依存しているわが国は、アラブ諸国との関係を考慮せざるを得ない立場にある。欧州連合(EU)内部でもパレスチナ支援の継続をめぐって意見の対立があり、米国の思惑通りに進む保証はない。
 イスラエルの攻撃を中止させ、パレスチナ国家の独立と2国家共存のための和平交渉再開せよという世論を高めることが日本の国益であることを、労働運動や国民運動の中で広めることが重要である。(H)

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