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2023年9月25日号 1面

「アラブの春」以来の
無政府状態が被害を拡大

米国こそリビア大水害の元凶

 アフリカ東部のリビアで9月10日からの豪雨で、東部のテルナ市を中心に大規模な洪水が発生、二つのダムの決壊などもあり甚大な被害となった。世界保健機関(WHO)によると約4000人が死亡し、9000人以上が行方不明となり、 未曽有の大災害となっている。
 地球環境危機によって世界各地で洪水だけでなく干ばつ、山火事などが頻発し、年々その規模も大きくなっている。昨年8月にはパキスタンで国土の3分の1が水没する洪水が起きて3300万人が被災した。こうした極端な大雨や猛暑が人間活動によるものであることはこんにち疑いもないものである。だが、今回の豪雨による洪水は、経緯をさかのぼれば、単なる気候変動による「天災」ではなく、米帝国主義がこれまでリビアに対して行ってきた犯行の帰結である。

「世界で最も豊かな国」
 リビアは世界屈指の石油資源によって北アフリカ・中東で最も裕福な国のひとつだった。
 長年政権を担ってきたカダフィ大佐は、医療費の無料化、石油代金の全国民への利益還元、全国民への住宅提供、農業従事者への土地・農機具の貸与、砂漠の緑化計画推進、電気代無料化、銀行金利ゼロ、男女平等・差別禁止、仕事に就けない人に就業まで毎月給与分を保証するなど数々の国民福祉政策を充実させるなど、富を徹底的に国民に分配した。彼の手腕により、リビアは世界有数の貧困国からアフリカで最も豊かな国家となった。
 一方、米国をはじめ帝国主義と鋭く対立し、米欧諸国の支配層に堂々と正論を述べてきた。
 だが米欧諸国は「独裁政権」と非難し続けた。レーガン米大統領(当時)から「中東の狂犬」と呼ばれ、米国はリビアを「テロ支援国家」に指定し、国連安保理も制裁を科してきた。米欧の支配層にとってリビアの政策は「目の上のタンコブ」そのものであった。

リビアを荒廃させた米国
 2003年の米国のイラク侵略戦争開戦を機にリビアは「大量破壊兵器開発計画」の破棄を表明、「国際協調路線」に転換したが、米国はあくまでカダフィ政権の打倒を画策、オバマ政権は、11年に始まったいわゆる「アラブの春」による「民主化」ををリビアにも波及させようとした。米欧は、反政府勢力への肩入れを行い、内戦を引き起こした。そして米軍を中心とした北大西洋条約機構(NATO)軍はリビアへの激しい空爆を行った。これによってカダフィ政権は崩壊、カダフィ大佐は反政府勢力によって殺害された。以来、リビア国内は親欧米派やイスラム勢力などによる内戦が激化、何度も各勢力の停戦が協議されたが、周辺国の思惑なども重なり、こんにちまで統一した政府が存在しない無政府状態ともいえる状況が続いている。
 今回の水害は地中海のハリケーンを指す「メディケーン」という低気圧が豪雨をもたらしたことが直接の原因であり、世界気象機関(WMO)は、早期警報・防災システムが適切に運用されていなかったと指摘、警報があれば「事前の避難で犠牲の大半を防げていただろう」との見方を示したが、それは正しくない。被害を拡大させた二つのダムの決壊は内戦によってメンテナンスができなかったことが大きな要因である。なぜ早期警報が出なかったのか、そもそもの要因は米国がリビア・カダフィ政権を崩壊させ、内戦を引き起こし、取り返しのつかないほどに国土を荒廃させてきたからである。
 米国は自らが崩壊させたリビア国内を安定させることもせず、放置したままである。

米国の一極支配の限界
 米国やNATOはその後イラク戦争で事実上敗北し、アフガニスタンではぶざまな敗走劇を演じた。
 同様にシリアでも米英が肩入れした反政府勢力とアサド政権の内戦が続いたが、こちらはアサド政権側がほぼ勝利しつつある。シリアはアラブ連盟に復帰し、中東での新たな動きが始まっている。
 今年に入ってサウジアラビアとイランの関係正常化が中国の仲介で成立した。これに象徴されるように米国の中東での存在感は一段と薄れている。新興5カ国(BRICS)はサウジやアラブ首長国連邦(UAE)など6カ国を新たに加盟国として迎え入れた。
 米国は、中国の「一帯一路」に対抗して「経済回廊」を提唱して中東と欧州との経済インフラ整備を打ち上げたが、東西の要衝にあるトルコが早くも反発の声を上げるなど、米国のたくらみは各所でほころびを見せている。
 米国が世界各地でわが物顔に振る舞い、世界各地を踏み荒らしてきた犯罪性が今回のリビアの洪水で改めて示された。

気候変動で政治危機も加速
 今回のリビアの洪水被害は気候変動が単なる気象現象ではなく、政治的・経済的な背景を抜きには解決の方向が見いだせないことを改めて示している。
 気候変動による災害は世界中で頻発し、政治危機も加速させていくのである。
 温暖化ガスの排出削減などの対策強化や技術革新などによる気候変動対策が急務なのは当然だが、それだけで問題が解決するはずがない。真に気候変動に対処し、人類が生き残るためには、限界に達している資本主義的所有形態と資本主義的生産様式を根本的に変革する以外に道はないところまできている。(Y)

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