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2023年9月5日号 1面〜2面・社説

日米韓首脳会談、
米国が日韓を押し立て戦争挑発

沖縄県民を先頭に
「対中国同盟」を打ち破ろう

 バイデン米大統領、岸田首相、尹韓国大統領の3カ国首脳が8月18日、米国ワシントン近郊で会談した。日米韓首脳会談が、独自に開催されたのは初めてである。
 3首脳は中国に対抗し、「日米同盟と米韓同盟の間の戦略的連携を強化し、日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる」ことを打ち出した。3国が連携して政治・経済・軍事など各方面で中国を圧迫し、弱体化と政権転覆を図る新たな枠組みを構築しようとしている。
 東アジアをめぐる戦争の危機や世界の不安定の元凶は、米帝国主義の覇権再構築の願望と策動にある。米日韓の準同盟化はそのための新たなツールである。日本と韓国を中国に敵対させようとしている。
 これは東アジアの緊張を激化させ、戦争を引き寄せ、わが国を亡国に導く道である。
 この合意は、米国の衰退と、その覇権維持に向けた焦りと「弱さ」を示すものである。米日韓とも内外に困難を抱え、3国間相互の矛盾も顕在化・激化するのは避けられない。それだけに、冒険的な巻き返し策と闘わなければならない。
 首脳会談直後、岸田政権は米韓政府の「支持」を得て、漁民をはじめとする国民世論を無視し、中国や近隣諸国と話し合うことなく、福島第一原子力発電所の「処理水」海洋投棄を強行した。中国が日本産水産物の輸入を全面停止したことに対し、政府とマスコミはまたも「中国敵視」の世論をあおっている。
 だが、世界はもはや「米国の時代」ではない。帝国主義に抑圧・支配されてきた諸国は立ち上がり、戦略的自立と諸国間の連携を強め、歴史を大きく動かす勢力となって登場している。先進国内部の階級闘争も激化している。
 対米追随で中国敵視・アジア蔑視の軍事大国化という時代錯誤の生き方を変えなければ、わが国に未来はない。国の進路を切り替えなければならない。それを保障する、独立・自主の政権を樹立する国民的闘いと戦線形成を急がなければならない。

米日韓による「対中同盟」
 3首脳は、キャンプデービッドの「原則」「精神」「コミットメント」からなる3文書を発表した。
 「原則」は、3カ国の関係を「自由で開かれたインド太平洋」のための礎とうたい、「力または威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対」などとした。中国に対抗し、軍事力で身構えるものである。
 3カ国の具体的な協力内容を明記した「精神」は、中国の南シナ海での行動を「危険で攻撃的」などと一方的に決めつけて非難した。「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認」などと、中国の内政問題である台湾問題に露骨に干渉している。
 併せてウクライナ戦争や朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「挑発」などを挙げ、「日米韓の安全保障協力を新たな高みへと引き上げる」と明記した。米韓両軍と自衛隊による共同訓練の定例化でも合意した。さらに、米軍による核兵器の使用を含む「拡大抑止」が強調された。日米の個別会談では、極超音速兵器に対処する新型迎撃ミサイルの共同開発で合意している。
 「精神」では、首脳、外相、防衛相、経済産業相、安保担当高官が少なくとも年1回会談し、財務相会談も創設することが明記された。3カ国による会議の拡大・定例化、制度化による同盟の継続的強化を意図したものである。
 経済分野では、人工知能(AI)を含む新技術分野での協力や、供給網の断絶・停滞に備えた「早期警戒システム」の試験運用で合意した。半導体などの先端技術で、中国のキャッチアップを許さない狙いが込められている。
 キャンプデービッドでの諸合意は、安全保障のみならず、政治、経済を含めて、米日韓の連携を飛躍的に強化し、中国に対抗する意図をあらわにさせたものである。アジアの緊張を高め、わが国をいっそう米戦略に縛り付ける亡国の道である。

中国敵視の米アジア戦略
 冷戦崩壊後、米国の世界戦略は、自らの覇権に挑戦する国の登場を二度と許さないことにあった。
 1995年の「東アジア戦略」では、中国を事実上の「仮想敵国」と定め、アジアに10万人の米軍を維持することを決めた。96年の日米首脳会談は「日米安保再定義」で合意、橋本政権は「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」改定などに踏み切った。
 以降、小泉首相による有事法制制定、歴史問題などの曲折はあったが、それでも米中・日中関係は経済を中心に深まった。日中間では、98年の「日中共同宣言」、2008年の「日中共同声明」など、「重要4文書」に含まれる合意がなされた。
 リーマン・ショック後の11年、オバマ政権は「アジア・リバランス戦略」を打ち出し、政治・経済・軍事の重点をアジア太平洋地域に集中させることを打ち出した。アジアを収奪し、自国の衰退を巻き返そうというのである。
 「米国第一」のトランプ前政権は、中国への高関税適用など対抗をエスカレートさせた。
 民主党政権から交代した第2次安倍政権は、集団的自衛権行使のための安保法制など中国敵視の軍事大国化を進めたが、他方で「日中新時代」を演出するなど単純ではなかった。

日韓を中国に敵対させ、挑発する米国
 衰退する米国には、21年のアフガニスタンからのぶざまな撤退に示されるように、単独で中国を抑え込む力はもはやない。
 バイデン政権は、クアッド(米日豪印)、AUKUS(米英豪)などによる「対中包囲網」で対抗をいちだんと強化した。台湾高官の訪米受け入れなど台湾を事実上の「独立国」として扱う「2つの中国」策動、新疆ウイグルや香港、チベットなどの「人権」問題での揺さぶり、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」など、対抗策は全面化、激化した。米国の策動の焦点は、「台湾有事」扇動である。
 米国のこの策動は、ウクライナ戦争を口実に、いちだんと加速している。ウクライナ戦争の経過を通じて、米国には中国を軍事的に包囲する力がないことはますます鮮明になった。中国を抑え込むため、軍事を含めて日本を中国と対立させ、そこに韓国も加えることが求められた。
 岸田政権はこれに応じ、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への引き上げや「敵基地攻撃能力」保持、「安保3文書」閣議決定などで、米戦略を支えつつ軍事大国化を突き進んでいる。麻生・自民党副総裁は台湾で「(中国と)戦う覚悟を」と言い放ち、中国を最大限に挑発した。バイデン政権追随であると同時に、衰退する米国をカバーしながら、「アジアの大国」を夢想した策動である。
 今回の首脳会談を経て、日米韓は事実上、中国に対抗した同盟関係となった。「アジア太平洋地域に対立や軍事ブロックを持ち込む」と中国が批判したのは、当然である。同時にこれは、わが国が戦争に巻き込まれる危険性を高めるものである。

成功は容易でない3国同盟
 世界は「歴史的大転換」である。米国が強要するロシア制裁に同調する国は少数にとどまっている。中国が加盟するBRICSは拡大で存在感を増している。中国は敵対関係にあったサウジアラビアとイランの和解を仲介、さらに存在感を増している。米国の退潮のみならず、帝国主義による世界支配が末期となっている。
 米国内では物価高騰がやまず、格差、銃犯罪など社会の分断も深刻で、国民の不満は蓄積している。すでに始まっている大統領選挙の帰趨(きすう)は、米外交の波乱要因である。
 わが国でも、対米・中国関係、防衛費増額のための財源などをめぐり、支配層内の対立は深まっている。国民の生活難を基礎に岸田政権の支持率は下落、求心力は大きく低下している。
3国とも中国と深い経済関係を有している。
 バイデン大統領でさえ、「首脳会談の目的は中国に関するものではなかった」と、中国への「配慮」を示さざるをえない。
 しかも米国は自国経済におおわらわで、電気自動車(EV)優遇リストを含むインフレ抑制法など、日韓両国に配慮する余裕はない。日韓企業は半導体問題などで不満を抱えている。
 核問題についての3者の思惑も違う。特に韓国では独自の「核開発論議」が盛り上がっている。韓国の国民的不満は募っている。
 日韓両国はすでに合意されている「日中韓プロセス」再開もソデにはできず、「中国敵視」一辺倒とはいかない。
 今回の首脳会談が成立した背景は、韓国が尹政権に交代し、徴用工問題の「政治決着」など「対日譲歩」を決めたことが大きな要因である。米韓同盟はもともと「対朝鮮」であったが、尹政権は対中国でも踏み込んだ。だが、全国的な「退陣運動」にさらされ、来年の総選挙を乗り切れる保証さえない。
 「対中国同盟」は、こうした矛盾に揺さぶられ、機能するのは容易ではない。
 だからこそ、閣僚会談の定例化など、米国は日韓両国が「対中国」で動揺しないよう、「制度化」を図っているのである。バイデン大統領ら米政府関係者は繰り返し、合意事項は3カ国の「義務」と力説した。
 米国は、同盟国である日本と韓国をひきつけ、自国の国益のために利用しようとしている。日韓を中国と敵対させ、戦争を誘っているのである。さながら、ロシア・ウクライナ関係のようである。この策動を打ち破らなければならない。

アジアの平和求める沖縄「地域外交」
 米日韓同盟の強化・台湾「独立」の画策はアジアの緊張を高め、わが国を中国との戦争に直面させかねないものである。わが国の独立・自主で、中国の内政に干渉せず、平和・互恵の関係を発展させるとの「日中共同声明」以来の両国間の約束を守ってこそ、危険を避けることができる。国の進路を転換させる国民運動こそ求められている。
 台湾に隣接し、在日米軍基地が集中する沖縄は、すでに「対中国」の最前線に立たされている。玉城デニー知事を先頭とする県民が危機感を強めるのは当然である。玉城知事は岸田政権の「安保3文書」を明確に批判している。
 沖縄県議会は今年3月、「沖縄を再び戦場にしないよう日本政府に対し対話と外交による平和構築の積極的な取組を求める意見書」を採択した。玉城県政は、今年度からの「地域外交室」設置(来年度から「地域外交課」に格上げ予定)や、中国訪問と李強首相らとの会談など、東アジアの対話と平和を求める自治体外交を推進している。
 自衛隊の迎撃ミサイル「PAC3」が配備された石垣島では、労働組合が「港で働く人の安全が担保されない」として組合員に「自宅待機」を呼びかけた。青年層を中心とする新しい運動も始まっている。
 全国で沖縄と連帯した闘いを巻き起こさなければならない。

独立・自主のための国民運動を
 経団連など財界も動きを見せている。7月の韓国での「アジア・ビジネス・サミット」の「共同宣言」では、中国を含む11カ国・地域の経済団体が「アジアのサプライチェーン(供給網)の強靭(きょうじん)化・安定化」で合意した。
 米国が進め、岸田政権が追随する対中デリスキング(リスク低減)とは、明らかに異なる方向である。
 広範で強力な国民的戦線を形成する客観的条件は存在している。
 だが、議会内野党は「日米基軸」に縛られ、岸田政権と闘えていない。
 立憲民主党の泉代表は米日韓首脳会談の結果を「歓迎」しており、日米基軸に縛られたこの党の限界は明白である。ただ、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)+3などの枠組みを「深化」すべきとしているのは当然の態度である。
 共産党は「赤旗」の「主張」で「中国に対する軍事包囲網を強めることも、地域と世界の緊張を高めます」などとも言うが、基本は、中国を「覇権主義」と非難し、米日政府と同様に「中国の力による一方的な現状変更の試みが許されないことは当然」と言う。これは、支配層による「中国敵視」キャンペーンを後押しすることになる。
 「対中国同盟」に反対し、沖縄県民を先頭に闘いを全国で巻き起こさなければならない。中国などアジアの共生をめざし、わが国の独立・自主を求める壮大な国民運動の発展が急がれている。労働組合は、中心的存在として役割を果たすことが求められている。
 アジアの共生だけが、わが国の長期的発展への道である。

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