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2023年8月5日号 1面

大軍拡叫ぶ「2023年防衛白書」

撤回し中国・アジアと平和・共生を

 防衛省は7月28日、「2023年版防衛白書」を公表し、閣議報告した。
 23年版白書は、昨年12月の「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定を受けた初の防衛白書となる。
 浜田防衛相は、白書の冒頭、ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事力の急速な強化、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核・ミサイル開発の進展などを挙げ「世界は歴史の分岐点を迎えている。国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しつつある」と明記した。そうした安全保障環境の中、日米同盟を基軸としながら、防衛力の抜本的強化を行っていくと断言、国民の反対を押し切って保有を決めた「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の必要性などを強調している。
 岸田政権は、安保3文書改定で、「専守防衛」という「建前」ではあれ戦後わが国の防衛政策を大転換させた。中国を「最大の戦略的挑戦」と位置付け、米国が煽(あお)る「台湾有事」策動の先頭に立って、「脅威」と騒ぎ立て、沖縄・南西諸島への自衛隊基地強化、ミサイル配備などを急ピッチで進め、戦争準備を進に走っている。こうした岸田政権の米国と一体となった中国敵視一辺倒の戦争準備に反対し、対話と外交でアジアの平和を築こうとする新たな運動も始まっており、広範な国民運動を発展させるチャンスである。

初の「国家防衛戦略」策定
 今回の白書では、昨年改定された国家安全保障戦略の下で初めて策定された「国家防衛戦略」について特集し、防衛力の抜本的強化の方向と内容が報告されている。
 これはそれまでの「防衛計画大綱」に代わるもので、米国の「国家防衛戦略」と内容を擦り合わせるために名称も変更された。
 新たな防衛戦略の最大の特徴は、これまでになかった「スタンド・オフ防衛能力」という「敵基地攻撃能力」の保持である。
 防衛力を強化する具体的な分野として、スタンド・オフ防衛能力の他、統合防空ミサイル防衛能力(米軍と一体化してミサイルなど空からの脅威に対応する能力)、無人アセット防衛能力(無人装備による情報収集や戦闘支援など)、領域横断作戦能力(宇宙・サイバー・電磁波、陸・海・空の全ての能力を融合させて戦う)など7つを挙げ、「反撃能力」の強化で武力攻撃を抑止することを強調している。また、防衛力の一環として防衛生産・技術基盤の強化を位置付け軍需産業の育成・強化や武器輸出を進める。
 そのための経費として、19〜23年度の計画額17・2兆円を、今後5年間で必要な経費として約2・5倍の43・5兆円(契約額)と大幅に増額している。特にスタンド・オフ防衛能力は0・2兆円から5兆円という飛躍的な増額である。米国製ミサイルの購入費に充てられる。防衛費全体では、対国民総生産(GDP)比2%へと大幅に増額され、その財源については国民への負担増・増税が必至である。生活苦にあえぐ国民からさらに搾り取って、戦争準備に突き進もうとしているのである。断じて許しがたい策動である。

中国への対抗・抑止強化
 白書では、「わが国を取り巻く安全保障環境」の記述のうち約半分が中国、朝鮮に関する記述となっている。  全体として中国の「脅威」をことさらに強調し、「わが国の防衛力を含む総合的な国力と同盟国・同志国などとの協力・連携により対応すべきものである」と中国への対抗を強く打ち出している。
 日中国交正常化以来の日中関係の基礎となってきた、「日中共同声明」や「日中平和友好条約」をはじめ四つの基本文書で確認されてきた、(1)中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認する(2)台湾が中国の領土の一部であるという立場を尊重する、(3)日本は平和五原則を確認する、(4)両国はアジア・太平洋地域で覇権を求めない、などという基本的な精神は完全に投げ捨てられている。

世界の流れに逆行する
 白書はきわめて一面的な事実だけを防衛力強化の根拠としている。
 根拠としているのはウクライナ戦争の長期化のほか中国、ロシア、朝鮮など周辺国の軍事力強化についてだけである。
 だが世界全体を見渡してみれば、米国を頂点とした「西側」の力は相対的に落ちている。米国が世界に号令をかけても容易に動く世界ではなくなっている。
 中国だけでなくアジアではインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も急速に経済成長を果たし、世界経済の重心はアジアに移っている。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICSは加盟国拡大に動いており、上海協力機構(SCO)もイランの新規加盟などで影響力を広げている。「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の多くは実利を優先しながら自国の発展の道を探っており、政治的にも存在感を増し、米欧とも距離を置き、自主的な外交姿勢をとっている。
 米国中心の世界が終わり、新たな世界秩序が模索される激動の時代である。こうした時代だからこそ、自国の生き方を自らの手に握る、そういう国の生き方こそ求められる。衰退する米国に追随してわが国の将来が切り開けるだろうか。安全保障面でも、敵国をつくらず、他国の内政に干渉しない国の生き方が重要ではないか。そうしてこそ、発展する諸国と平和・平等・互恵の関係を築くことができる。

相次ぐ批判や抗議
 今回の白書に対して沖縄の「琉球新報」は30日付の社説で「有事には沖縄を戦場にし、多くの住民の命を奪う恐れを増す軍事強化」として「断固拒否する」「紛争の火種を除去する外交を最重視すべきだ」と明言した。こうした批判が沖縄から起こるのは当然である。
 中国外務省は、「中国の内政に粗暴に干渉し、地域情勢の緊張を煽り立てている」「『一つの中国』原則は中日関係の政治的な基礎に関わり、越えてはならない守るべき一線だ。日本は、中日間の4つの基本文書の精神に背き、中日関係の政治的な基礎を損ない、台湾海峡情勢の緊張を激化させている。これは極めて間違った、危険な事である」と強く批判した。この主張には道理がある。
 韓国の「東亜日報」は、白書に島根県の竹島(韓国名・独島)を明記したことを批判しただけでなく、「日本が北朝鮮の軍事的脅威を強調したのは、『敵の基地攻撃能力』保有に向けた大義名分づくり」と断じた。韓国内の対日警戒感をうかがわせるものである。

見当違いの共産党
 立憲など野党の多くは中国非難の側に立ち、岸田政権の中国包囲攻撃、防衛力増強政策とまともに闘えない状況にある。
 今回の白書についても見解を出している野党は共産党くらいである。かれらの「反対」は悪いことではないが、その見解は見当違いと言わざるを得ない。
 共産党は、「赤旗」」の「主張」などで、「日米一体化」を進めていく狙いがあると批判しているが、日米一体化の標的が中国や朝鮮にあることはひとことも触れていない。防衛力の増強に反対するのは当然だが、それだけでは岸田政権の本当の狙いを暴露し、広く中国やアジア諸国との平和・共生を望む人々との連携を広げることは難しい。

アジアの平和・共生を求める国民運動を
 白書に対する中国の反発はかつてなく大きく、韓国にもわが国を警戒する論調がある。岸田首相は、今年の主要7カ国(G7)の議長国として、広島サミットを主宰したり、各国を歴訪したりしているが、G7の影響力は弱まり、世界の力関係は大きく変わっている。多くの新興国・途上国は過去の帝国主義による植民地支配に対して依然として強い反発を抱いている。こうした国々の声に真摯(しんし)に耳を傾け、共に生きていく道を探るのが平和への道ではないか。
 アジア諸国をはじめ世界各国と平和をつくり上げていく力は軍事力ではない。
 アジアでは「日中不再戦」「朝鮮との即時・無条件の国交正常化」など日本の生き方が鋭く問われる時代である。岸田政権は「安保3文書」と「2023年防衛白書」を撤回し、時代錯誤の軍事大国化ではなく、アジア諸国との平和、共生、繁栄の道を進むべきである。(C)

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