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2023年7月25日号 1面

EU、中東歴訪の成果乏しく

岸田政権は中国敵視外交を転換せよ

 岸田政権の支持率が下げ止まらない。岸田首相は欧州連合(EU)訪問、中東歴訪など外交で成果を上げ支持率挽回を狙ったが、思惑通りにはいかなかった。

対中国で連携拡大狙う
 訪欧した岸田首相は7月13日、EUのミシェル大統領らEU首脳と会談した。発表された共同声明では「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持、世界のいかなる場所であっても、力や威圧による一方的な現状変更の試みに反対」するとして、定期的に安全保障を議論する外相級の「日EU戦略対話」の創設などで合意した。ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍備増強などに対抗して、日本とEU27カ国が安全保障分野でも緊密に協力する体制をつくるとした。日EU間では2019年、経済連携協定(EPA)が発効し、貿易や投資協力が進んでいる。これを安全保障にも広げていく。フォンデアライエン欧州委員長も会見で「インド太平洋地域と欧州の安全保障は切り離して考えられない」と述べて、インド太平洋地域へ積極的に関与していく考えを示した。
 岸田首相はEU首脳との会談に先立ち、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と会談し、日本とNATO間で防衛協力を深化させる文書も発表した。また、首相は、昨年に続いて11日からのNATO首脳会議に出席した。首脳会議ではウクライナへの支援強化や同国のNATO加盟手続きの簡略化などのほか、昨年6月策定したNATO「新戦略概念」をさらに進め、中国への対抗を強める方向を明確に打ち出した。
 岸田首相のEU、NATO外交は、5月のG7広島サミットの流れを受けたものであり、安全保障面では米国の対中国戦略である「統合抑止」戦略に沿ったものである。

階級矛盾深まるEU各国
 EUの中国への対応に変化が出ているといっても、岸田首相の狙い通りに日本とEU、NATOの対中国での連携がすんなり強化される保証はない。
 EU内部には最大の貿易相手国である中国への対応をめぐってさまざまな温度差がある。米国主導の外交・安保政策と一線を画するフランスはマクロン大統領が、NATO東京事務所開設について「(NATOは)北大西洋の域外に出るべきでない」として反対を表明している。ミシェルEU大統領も共同記者会見で「EUと中国は戦略的な関係があり、バランスが必要だ」と語り、フォンデアライエン氏も「EUはデリスキング(リスク低減)が必要だと考える」と話すなど、中国との対立には慎重な姿勢である。
 ウクライナ戦争の長期化は、エネルギー不足などによるインフレ高進で欧州各国での国民生活を直撃しており、英国をはじめ各国でのストライキの頻発、移民問題などを背景に爆発したフランスの暴動やオランダ内閣総辞職など各国の内政は不安定になっている。ウクライナ支援をやめろという声も高まっているが、ドイツ、スペインや北欧などでは右派や極右が台頭している。階級矛盾の激化を背景にした政治の不安定化はEU加盟各国の外交方針に反映し、EU外交はいっそう不安定になるだろう。
 しかも西側諸国の結束だけでは、岸田首相が言うような「自由で開かれた国際秩序の維持」は難しい。多くの新興国・途上国はどちらの陣営にも与(くみ)しないという態度をとっており、G7を中心とした「西側」は経済的にも政治的にも多数派ではないのが実際である。

中国後追いの中東歴訪
 欧州訪問に続いて、岸田首相は16日から3日間、日本の首相としては3年半ぶりに中東3カ国を歴訪した。サウジアラビア・ムハンマド皇太子、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領、カタール・タミム首長と駆け足で3カ国首脳との会談を行った。
 各国首脳との会談で、岸田首相は、脱炭素に向けた日本の先端技術を提供し、中東地域を次世代エネルギーの供給拠点にする構想を提起した。これらは、脱石油をにらんで国内産業の多角化をめざす湾岸諸国の関心を引き寄せ、中国に対抗する狙いである。湾岸諸国からすれば日本の技術協力を拒む理由はない。また中国が先行し、日本が遅れている湾岸協力会議(GCC)との自由貿易協定(FTA)交渉の再開などでも合意した。
 岸田首相はさらに、「法の支配」の価値観を強調し、国際社会の平和と安定に向けた協調をを訴えた。日本の原油輸入先の8割を占める3カ国を含め中東諸国との関係を強化し、日本のエネルギー安全保障を確保するためだった。また、経済だけでなく外交・安全保障面でも協調体制を訴えたのは、存在感が薄れている米国の隙間を埋め、中国と中東諸国との関係に楔(くさび)を打ち込む狙いだった。
 だが、サウジを含めた中東諸国の最大の貿易相手国として2010年代以降、中国が急速に台頭している。先のサウジとイランの国交正常化を中国が仲介したことに象徴されるように、経済関係だけでなく中東諸国の地政学的な関係にも大きな影響を及ぼすようになっている。「内政不干渉」を原則とする中国外交は、「バランスを取りながら、内政に口を挟まないパートナー」として、実利を優先する中東諸国の外交と一致する。サウジとイランの正常化以降も、シリアのアラブ連盟復帰、イランの上海協力機構(SCO)正式加盟など中東地域の情勢は大きく変化している。また、サウジやUAEは6月のBRICS外相会合にも参加し、BRICS加盟の意向を表明している。中東諸国は明らかに岸田首相の願望とは別の道を歩んでいるのである。わが国は中東でも立ち遅れ、中国の後追いどころではない。
 この時期、インドやトルコなども相次いで中東を歴訪し、サウジなど産油国の豊富な資金を国内投資に呼び込もうと外交を活発化させている。インドはUAEとの石油取引決済をインドルピー建てにすることでも合意した。
 中東を含めたグローバルサウスをめぐる国際関係は様変わりしている。岸田首相の唱える「法の支配」の価値観や「自由で開かれた国際社会」などといった現状にそぐわない主張では、どうにもならないのが今回の中東歴訪でも鮮明になった。

政権支持率下げ止まらず
 「少子化対策」や「防衛費倍増」などの難問を抱えながら、打開の方向も打ち出せない岸田政権の支持率は、報道各社の7月の調査でもほぼ3割台に低下し、不支持率が大きく上回っている。G7広島サミットで若干回復したものの、化けの皮はすぐにはがれた。EU、中東外交も、ほとんど浮揚の効果はなかった。
 マイナンバーカードをめぐる混乱や物価高による生活困難の拡大、原発再稼働や汚染水の放出など国民生活の悪化が大きな背景にある。九州や東北で甚大な豪雨被害が出ているのに外遊している余裕などなかったはずだ。岸田首相が政権発足時に掲げた「聞く力」とは真逆の傲慢(ごうまん)な政権運営に、国民の不満が募るのは当然である。

中国敵視外交は破綻する
 衰退しつつある米国は、覇権維持のために中国への対抗を強め、日本など同盟国に米国の戦略を押し付けている。わが国支配層の一部もそうした米国に追随してアジアでの覇権を握ることを夢想し、中国を敵視し、軍事大国化の道を突き進もうとしている。しかし、欧州でも、中東でも、アフリカでも、南米でも、ましてやアジアでも、国際関係は中国抜きには何も動かないのが実際である。中国やインドといった新興諸国・途上国が経済的、政治的に力を増大させ、米国をはじめ先進国の存在が相対的に小さくなっていくのは歴史の流れであり、この傾向は近年ますます顕著になっている。
 岸田政権が進める時代錯誤の中国敵視外交が遠からず破綻するのは目に見えている。「歴史的転換期」と言うなら、中国敵視外交を転換し、中国を含むアジア諸国と共に生きていく道を選択すべきである。(H)

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