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2023年6月25日号 1面

「骨太の方針」は「骨なし方針」

財政示せず足元ゆらぐ岸田政権

 岸田政権は6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」と成長戦略「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」を閣議決定した。「骨太の方針」は24年度予算についての概算要求や予算編成など経済政策の指針となるものである。
 今年の骨太方針は「加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」と名づけられた。主要な内容は、転職促進などの「労働市場改革」、成長基盤としての「少子化対策」、防衛力の抜本的強化など「わが国を取り巻く環境変化への対応」の三つである。
 「骨太の方針」は小泉構造改革以来、毎年掲げられてきたが、安倍、菅政権時代から次第に内容は「骨太」から「骨抜き」になり、予算獲得のための単なる官僚の作文の寄せ集めとなってきた。
 今年の「骨太の方針」は、主要政策の財源(増税)さえ示せず「骨なし」とも言えるものとなり、商業新聞でさえ「「骨太の方針 財政も『正常化』すべき時期だ」(読売新聞6月17日、社説)と手厳しい評価を下す始末であった。

肝心の財源確保明示せず
 岸田政権の看板政策である少子化対策の拡充、昨年末の「安保3文書」で決めた防衛力の抜本的強化という二つの大型の歳出増について、どちらも財源をどう確保していくか明示できず、結論を先送りした。
 「少子化対策」では「児童手当の所得制限の撤廃」「児童手当の支給を高校卒業まで延長」や育児休業の拡充など、24年度から毎年約3兆円以上、3年間で約 兆円が必要となる。今回の方針は経済成長や社会保障の歳出改革などで原資の一部を確保し「国民に実質的な追加負担を求めない」と明示し「消費税を含めた新たな税負担は考えない」と増税を否定した。だが、そのための歳出の絞り込みについては単なる決意表明をしただけで、国民の反発を恐れて、医療や社会保障のどこを削るのか先送りし、具体的には示さなかった。
 有権者に聞こえの良い給付拡充策だけは列挙しながら、実行の道筋が示されていない歳出削減で財源を確保するなどというのはまったくの詭弁(きべん)である。財源の裏付けのない政策が実行できる保証はなく、与党の票集めには有利だが、少子化対策の実際の効果については、岸田政権の関心事ではないということを証明している。
 さらに言えば、現在の日本の人口状況は、既存の措置を充実させるだけではほとんど即効性はない。政府が「少子化対策」を言いだして30年になるが、ますます少子化が進んでいるのが実際である。少子化の原因の大半は結婚困難など未婚者の増加によるもので、政策の効果を最大限に発揮するためには、子育て世帯だけを支援するのではなく、未婚者の結婚を促すような所得政策や住宅政策、教育政策など「結婚と子育て」を一体化させた系統的な取り組みがなければ抜本的な少子化対策は進まないことははっきりしている。
 防衛費についていえば、今年度から5年間で防衛費を総額43兆円に増やすため、必要な14・6兆円の追加財源のうち、先日成立した財源確保法で賄えるのは1・5兆円。他にも国有財産の売却などで計4・6兆円を確保したとはいえ、残り10兆円の財源は不透明なままだ。さらに法人・所得・たばこ税などの増税の開始時期を当初方針の「24年以降の適切な時期」から「25年以降のしかるべき時期」にずらすことも可能となるような記述に書き換えた。岸田首相は、施政方針では「いまを生きる我われの責任として」と防衛増税の必要性を訴えたが、ここでは次期総選挙を意識して、支持率低下につながる不人気な増税論議を避けた。いまだに財源は宙に浮いたままで、もともと曖昧だった歳入確保策は今回の骨太の方針でさらに曖昧になった。

「労働市場改革」を加速
 今年「30年ぶり」の賃上げがあったが、骨太の方針では、「労働市場改革」を通じた「構造的賃上げ」を実現し、賃金と物価の好循環へつなげるとして、人への投資・構造的賃上げと「三位一体の労働市場改革の指針」をかかげた。「一人ひとりが自らのキャリアを選択する時代となった。自らの意思で、企業内での昇任や企業外への転職を実現するため主体的に学び、報われる社会を作る」とのうたい文句で、(1)リスキリング(学び直し)による能力向上の支援、(2)企業の実態に応じた職務給(ジョブ型雇用)の導入、(3)成長分野への労働移動の円滑化――を三位一体で進める。
 これは財界がかねてより要求してきた首切りの自由化や、ジョブ型雇用など資本家にとって有利な賃金体系の導入など「労働移動の円滑化」をさらに進めるためのもので、多くの労働者に大きな犠牲を強いるものである。だが、「連合」は政府や財界の狙いと闘わず、曖昧な態度で、政権を支えている役割を果たしている。

放漫財政の大きなツケ
 骨太の方針では、聞こえの良い政策は列挙されたが、政策を具体的に保証する財源については、見てきたようにほとんど明確に示されなかった。
 わが国の国と地方を合わせた政府債務残高は1400兆円を超える。対国民総生産(GDP)比で260%以上という先進国で最悪の債務比率である。しかもアベノミクス以降は中央銀行である日銀の「異次元」金融緩和政策による超低金利と国債の大量購入によって、政府は湯水のように予算を使ってきた。10年間で政府の借金は400兆円以上膨らんだ。コロナ禍も相まってだが、政権維持のための選挙対策もあり大型の補正予算が乱発された。
 国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する政府目標についても、どのように実現するのか実行されないまま先送りされ、今年も2年続けて本文での明記は見送られた。

岸田政権の足元は危うい
 世界経済は一段と悪化し、黒田日銀による大規模金融緩和の限界は明らかになり、アベノミクスは破綻した。わが国もこれまでのような大規模緩和を継続することは難しく、その修正(出口)を迫られている。だが、日銀の保有する大量の国債の売却は、利上げにつながり、国家財政を直撃する。ハイパーインフレか大規模な増税など国民からの収奪以外に支配層、資本家たちが切り抜けられる道は限られている。岸田政権が、「増税」や「国民負担増」を口にできないのは、政権が激しく揺さぶられるのを恐れているからである。相次ぐ食料品の値上げなどで国民生活はますます厳しくなっている。「解散総選挙」などであれこれの術策を弄(ろう)してきた岸田政権だが、広島サミットの効果も薄れ、支持率は低下し、総選挙も先送りせざるを得なくなった。これまでの10年のように自公による資本家・資産家のための政治が続けられる条件は極めて不安定である。支配層は、彼らが生き延びるために米国の対中抑止の先頭に立ち、アジアでの覇権を夢想して軍備増強に走っているが(だがその財源は極めて危うい)、米国の言いなりになって国を亡ぼさせるわけにはいかない。
 労働運動や野党は支配層の弱さを見抜き、自らの力に頼って欧州などの労働者のようにストライキを含む大衆行動で政治の変革をめざさなければならない。「収奪者を収奪せよ」と大きな声をあげ、力を合わせて闘おう。(H)

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