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2023年6月5日号 1面

岸田政権の「成果」
宣伝はデタラメ

G7の「凋落」際立った
広島サミット

 広島で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議が5月21日閉幕した。
 岸田首相が、サミット前の現地視察で「日本の歴史で最も重要なサミットになる」と述べて、周到な準備と鳴り物入りで臨んだ広島サミットだったが、結果として歴史に残ることになったとすれば、米国を中心としたG7が「凋落(ちょうらく)」し、世界秩序をリードする役割が終わったことが際立ったサミットだったということである。
 マレーシアのマハティール元首相は24日の日本外国特派員協会での記者会見で、広島サミットについて「同じような考えを持つ国々が集まって会議をするのは、独り言を言っているようなものだ。何もしておらず、何の貢献もしていない」(日経新聞5月24日)と批判したが、まったくその通りである。

自画自賛する岸田首相
 岸田首相は、サミット後の会見で「今回のサミットは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持していく大切さを世界に向けてメッセージとして発出すること、グローバルサウスとの関与を深めることの2つをねらいとして掲げ、果たすことができた」と述べた。G7として歴史上初の単独の核軍縮に関する「広島ビジョン」を発出したこと、さらにウクライナのゼレンスキー大統領と招待国のリーダーたちを引き合わせ「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、力による一方的な現状変更は認めないことなどで認識の一致が得られたことは大変大きな意義を持つ」とサミットの「成果」を自画自賛した。岸田政権はサミットの「成果」を最大限に誇張し、政権浮揚に結びつけようと躍起である。マスコミも「岸田政権の成果」と、岸田礼賛の世論づくりに加担している。

野党のあやふやな評価
 岸田政権追随の世論づくりがやられているが、野党も世論に流され、正しく評価できないでいる。
 立憲民主党の泉代表は、「日本や世界にとって大きな国際会合になった。ゼレンスキー大統領が国内で戦争を抱える中で対面で参加できたのは、とても大きなメッセージになった。日本にとっては、サミットの成果文書の中身をどう実現していくのかが問われる」と述べ、岸田政権追随の姿勢を示した。これまでも外交政策で対立軸を示せなかったが、どうやって岸田政権と対峙(たいじ)できるのだろうか。
 共産党は「限界と矛盾いよいよ深刻に」という志位委員長の談話を発表した。談話では「米国を中心とする軍事ブロックに参加する諸国で構成されるG7という枠組みが、グローバルな諸課題に対処するうえで、深刻な限界と矛盾に直面している」と言い、「世界の平和秩序をめぐって、広島サミットが、『ロシアによるウクライナに対する侵略戦争』を強く非難したこと、世界のいかなる場所においても『力による一方的な現状変更の試み』に反対したことは当然である」と米欧の主張に追随した上で「G7諸国が、これらの動きに、軍事ブロックの強化で対応していることは、世界の分断をより深刻にし、軍事対軍事の危険な悪循環をつくりだしている」と指摘している。問題を単純な「軍事対軍事」にすり替え、米国など帝国主義諸国の狙いについて全く暴露していない。また、宣言が東南アジア諸国連合(ASEAN)との「協力を促進」とうたっていることを持ち上げているが、対中国という狙いや、ASEAN諸国を取り込まなければやっていけないG7の側の弱さなどについてほとんど触れていない。問題はG7という枠組みそのものの世界政治に占める位置やその「限界」にあり、そこを指摘できないことに共産党の「限界と矛盾」があるようだ。

グローバルサウスを招待
 サミット拡大会合には、韓国とオーストラリアのほか、グローバルサウス(新興国・途上国)のインド、インドネシア、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムの6カ国が招待された。これら6カ国は、経済成長が著しく国際政治でも発言力を強めている。
 20日の広島は、ゼレンスキー一色になった。ゼレンスキーが乗り込んだ理由は、G7に軍事支援の強化を要求するとともに、インド、ブラジル、インドネシアなど新興・開発途上国に、ウクライナの立場を理解させることだった。首脳宣言も「必要とされる限りウクライナを支援」と戦争継続を確認した。
 一方、新興国・途上国の反応は違った。インドのモディ首相は、ゼレンスキーに対し、ウクライナは人道問題と指摘した上で「対話と外交が唯一の解決策」と述べ、政治解決の必要性を繰り返し、ロシアの撤退を求める内容は口にしなかった。ゼレンスキーとの会談をすっぽかされたブラジルのルラ大統領は会見で「ウクライナとロシアの戦争の話をするためにG7に来たわけではない」と持論を展開した。
 米欧主導の対ロ制裁を支持しているのは世界で四十数カ国に過ぎず、グローバルサウス諸国の大半が「政治的解決」を主張するようになってきている。
 サミット閉幕後も、インドネシアは米国の敵対国であるイランの大統領を国賓待遇で招待したり、ロシアの元大統領がベトナムを訪問したり、ブラジルのルラ大統領が中国やロシアの首脳と電話会談し「和平の枠組み作り」を提案したりするなど、活発な独自外交を展開している。G7とゼレンスキーが今回のサミット参加で目指した、グローバルサウス諸国にウクライナの「立場」を理解させるという目的は達成されなかった。岸田首相が「認識が一致した」と言うのはまったく事実に反している。

G7は「少数派」に
 グローバルサウスには現在、世界人口の半数を上回る40億人が住み、100以上の国家がある。
 一方、G7は、1970年代半ばには世界の国内総生産(GDP)のシェアで6割強を占めたが、こんにち4割台にまで低下している。人口のシェアでは周辺の西欧諸国を含めても世界の15%を占めているに過ぎない。米国を中心に経済力・政治的影響力が低下したことと併せて見れば、G7はいまや世界の「少数派」に過ぎないというのが現実である。
 グローバルサウス全体は国際機関でも組織でもないが、共通点もある。バイデン米政権が中国への対抗として強調してきた「民主か専制か」「米国か中国か」といった二元論的な分け方には与(くみ)しない。また、普遍的価値観としての民主、自由、法の支配を主張する日米のように理念を振りかざすのではなく、自らの国益に基づく実利外交を追求する点でも共通している。エネルギー、食料、気候変動問題などで米中双方から経済的支援を引き出すことを利益とみなすスタンスも共通している。
 グローバルサウスを「民主主義陣営に引き込む」という米欧側の狙いとは逆の方向で各国は動いているのである。

新たな生き方求められる
 岸田首相はことあるごとに日本を「アジア唯一のG7メンバー」と誇るが、日本の1人当たりGDPは韓国、台湾、香港、シンガポールを下回り、世界30位にまで落ちた。
 世界秩序はもはや米国の一極支配には戻らない。中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカなどBRICSに代表される他の諸国が台頭している。
 G7の凋落は、金融資本主義が破綻し、世界の資本主義が末期に差し掛かっている中でいっそう鮮明になってきている。G7の凋落と、国際関係の新たな変化という現実が、一層際立ったのが今回の広島サミットといえる。
 世界が大きく変わっていくなかで、わが国が米国追随から脱却して、どういう生き方をするのかが鋭く問われている。(H)

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