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2023年5月15日号 1面

広島サミットで奔走する岸田
政権、中国への対抗強化狙う

アジアの平和を偽る
欺瞞を打ち破ろう

 統一地方選挙で手厳しい批判にさらされた岸田政権は、議席確保などで辛うじて体面を保ったものの、目前の主要7カ国(G7)広島サミットを「成功」させ、政権浮揚を図ろうと奔走している。
 岸田首相は、年明けから、各種の準備会議や外遊でG7議長国としての立場を最大限に利用して、広島サミットを売り込み、G7があたかも世界を動かしているかのように世論をあおり、振る舞ってきた。
 G7サミットに向けた準備会合も、蔵相・中銀総裁会合のほか、農相会合、気候・エネルギー・環境相会合、デジタル相会合などが相次いで開かれ、諸課題にG7として結束して対応することや方針が確認されたように演出されてきた。
 関係相会合だけでなく、首相自らウクライナへの電撃訪問、インドやアフリカ諸国への外遊や首脳会談、林外相の中南米諸国歴訪など、グローバルサウスと言われる新興国・途上国への働きかけを盛んにおこなってきた。また、ごまかしだが、岸田首相の地元である広島開催を口実に「核軍縮」問題もテーマに取り上げられる。
 総仕上げは、5月19日から開かれる「広島サミット」である。

中国対抗を集中討議
 広島サミットでは、経済安保、核軍縮、食料・エネルギー安保、気候変動、国際保健、開発金融などもテーマとなるが、最大の注目点は、対中国、対ロシアでの「集中討議」である。
 ロシアのウクライナ侵攻に加え、中国への対処として「インド太平洋」問題を初めて個別の議題として取り上げ、「台湾有事」「東アジアでの一方的な現状変更を認めない」という姿勢をG7として打ち出すことであり、岸田政権がこのサミットで取りまとめを狙っていることである。
 岸田首相は、各国への歴訪でも「法の支配に基づく国際秩序を守り抜く」として中国への対抗を前面に立ててきた。サミットの主要テーマで中国への対抗を打ち出すことについては、4月に長野県軽井沢で開かれたG7外相会合の際に発表された共同声明ですでに明らかにされている。
 共同声明では、ロシアのウクライナ侵略や中国の覇権主義的な行動を踏まえ、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持・強化」を強調し、G7が結束して、ロシアのウクライナからの即時・無条件の撤退を改めて求めたほか、中国に対しては「懸念を直接表明する重要性を認識する」と初めて中国を名指しした。共同声明は、「世界のいかなる場所でも」力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対すると明記し、中国などがロシアに武器を支援する可能性を念頭に、第三国によるロシア支援停止を求めた。ウクライナ支援を「必要とされる限り」継続することも明確にした。中国に関しては、強引な海洋進出を続ける東・南シナ海情勢に「深刻な懸念」を表明。台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、自由で開かれたインド太平洋の重要性も盛り込んだ。また中国に対して核兵器計画の透明化も求めた。岸田首相が「核軍縮」をテーマに入れたのはこれが狙いである。
 この外相会合の「共同宣言」に対して、中国は議長国の日本に対し「深刻な懸念と強烈な不満」を表明したが当然である。
 だが、広島サミットの「首脳宣言」もほぼこの共同声明を踏襲して、中国への対抗を強く打ち出すことになろう。

影響力衰えたG7
 岸田首相は、広島サミットを国内的には政権浮揚、対外的には日本外交の成果としてアピールすることに最大限利用するだろう。
 だが、こんにちの世界は、サミットが始まる契機となった50年前の世界とは大きく様変わりしているのである。
 G7は現在、日米英仏独伊・カナダの7カ国の首脳に、欧州連合(EU)の欧州理事会常任議長、欧州委員長を加えた9人が参加する国際会議であるが、第1回が開催されたのは1975年である。73年に起きた第1次石油ショック後の世界経済の混乱に、西側先進国が協調して対応するために、日米英仏伊と西独の6カ国で始まった。当初は、経済が中心議題だったが、79年の旧ソ連のアフガン侵攻で政治問題も議題に上るようになり、「首脳宣言」などで次第に先進国の意思を世界に示すという形になった。
 その後、さまざまな国際情勢の変化があり、世界経済の様相も大きく変わった。世界の国内総生産(GDP)の6割以上をG7で占めていたが、こんにちG7のシェアは4割にまで落ち込んでいる。新興国・途上国の中から中国やインドが台頭し、米国を追い抜くほどになってきている。ウクライナ戦争でロシア制裁に加わらず、ロシア非難の旗を振るG7など西側諸国にくみしない国の方が圧倒的に多いのが実際である。
 今回のサミットには拡大会合に、インド、ブラジル、インドネシア、コモロ、クック諸島、オーストラリア、韓国、ベトナムの8カ国の首脳が招待されている。グローバルサウスを取り込みたい狙いもあるが、ブラジルは中国との関係も深く、インドは独自外交の立場である。その他の国もそれぞれの思惑で招待に応じているのであって、岸田政権が、G7の結束やG7の意思表明を振りかざしても、それはまったく欺まんで、世界はそう簡単には動かないのである。

米国追随では展望なし
 G7サミットは、トランプ時代は「米国第一」によって瓦解したが、G7を足がかりに対中国包囲のための同盟再構築を進めたいバイデン米大統領は外交の道具として利用してきた。だがその中心に座る米国は国内対立に足をとられて思うように身動きが取れないでいる。力の衰えは隠せず、日本など同盟国の助けなしには中国に対抗できないのが実際である。安倍政権など歴代政権は、米国に追随し、日米同盟を強化する方向で、アジアでの独自の権益確保も狙いながら独自の動きも強めてきた。今やわが国は対中国の最前線に立たされている。サミットが打ち出す対中国の姿勢は、台湾問題を口実にした軍事衝突の勃発をはらむ極めて危険な方向である。
 一方、岸田政権の動きの中には対中国外交の手直しもみられ、最近の日中の外相会談などでその兆しはある。サミット後には対中国外交で、幾らかの変化も予想されている。野党のなかにもこうした岸田政権に追随する動きもある。だが、この動きは欺瞞(まん)的な手直しに過ぎない。
 岸田政権が年初から最も力を注いできたのは、広島サミットの成功であり、その中身はすでに見たようにG7が結束して中国への対抗を政治・経済的にも軍事的にも強めようというものである。これはわが国の存亡にかかわる危険なもので、アジアの平和と共生に逆行するものである。
 世界の流れは帝国主義(G7)が守勢に立たされ、新興国・途上国が発言力、政治力を強める流れである。歴史に逆行するようなG7サミットではわが国の生きる道はない。
 中国との対立を望まず、戦争を望まず、国の独立と平和を願うすべての人びとと連携を強めて、岸田政権がふりまく欺瞞を打ち破って闘おう。(Y)

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