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2023年4月5日号 1面

グローバルサウス
獲得めぐる競争激化

新興国・途上国と
歩む外交に転換せよ

 米欧日と中国による活発な外交戦が繰り広げられている。焦点は、ウクライナ戦争が長期化し、国際関係が一段と複雑化する中、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国をどちらが引き付け、国際政治での主導権を確保するかである。
 こんにちの世界は、米国を中心とする帝国主義諸国とその他の弱小国(途上国)の間の矛盾が基本的な矛盾だが、米国の衰退は著しく、先進7カ国(G7)などの帝国主義諸国の力は相対的に低下した。弱小国の中から中国が急速に台頭し、インドなどその他の諸国も力をつけて、国際関係は、ますます帝国主義諸国の意のままにはならない状況となっている。ウクライナ戦争でのロシア非難や制裁に加わらない国のほうが圧倒的に多いという状況が、それを物語っている。
 こうした状況で米国をはじめ帝国主義諸国は、新興国・途上国を引き付け、抱き込もうとの巻き返しに出ている。わが国・岸田政権は今年G7の議長国として、その争奪戦の先頭に立ち、小グループの結束を図ろうと必死である。

成果乏しかった岸田訪印
 岸田首相は3月20日インドを訪問し、モディ首相と会談した。インドは主要20カ国・地域(G20)の今年の議長国であり、1月には約120カ国が参加した「グローバルサウスの声・サミット」を主宰して、新興国・途上国の声をG20サミットに反映させようと意欲を示している。岸田の狙いはG7広島サミットにインドを招待して、G7との結束をアピールすることだった。そして、日米が推進している「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新たな推進計画をインドで演説し、インドと協調して、途上国支援を強めている中国と対抗する動きをつくることことだった。
 岸田首相はFOIPの新方針演説で、ウクライナ侵略に触れ、「歴史的な転換期にある今、国際社会が共有するべき考え方を提供したい」と新計画の意義を強調、新たなFOIPの理念に・平和の原則と繁栄のルール・インド太平洋流の課題対処・多層的な連結性・「海」から「空」へ広がる安全保障・安全利用の取り組み――の4本柱を掲げた。だが計画自体に新味はなく、新興国を取り込むための開発援助(ODA)の増額をちらつかせる程度だった。また、安全保障分野で、「日本が長く提唱してきた『海における法の支配の三原則』、(1)国家は法に基づいて主張をなすべき(2)力や威圧を用いない(3)紛争解決には平和的収拾を徹底すべき――をもう一度呼びかけたいと思う」と演説した。名指しこそしないが中国へのけん制を念頭においたものだった。
 岸田首相は21日、インドから電撃的にウクライナへ入り、ゼレンスキー大統領と会談した。共同声明では、ロシアのウクライナ侵略を可能な限り最も強い言葉で非難。G7議長国として、ロシアに対する厳しい制裁とウクライナへの支援に向けたG7の結束を維持していくと述べた。岸田がインドで演説した「紛争解決には平和的収拾を徹底すべき」などとはまったく正反対の立場を表明したものだった。岸田のインド・ウクライナ訪問は、5月のG7広島サミット前の体面づくりのようなもので、帰国後の報告で成果を強調したが、具体的な外交的成果は乏しいものだった。

米の民主主義、限界あらわ
 グローバルサウスの取り込みを一番必要としているは米国だが、バイデン米大統領が一昨年に続いて呼び掛けた第2回「民主主義サミット」(オンライン)は、参加国の足並みの乱れがあらわになり、皮肉な結果となった。
 30日に閉幕した今回のサミットは米国だけでなく、韓国など5カ国が共同して主催したが、前回同様、トルコやサウジアラビアなどは「権威主義」国として招待されず、約120カ国の参加にとどまった。米欧各国は、ロシアのウクライナ侵略を非難し、「民主主義国」の結束を呼びかけたが、新興国と発展途上国などの「グローバルサウス」はウクライナ侵略にあえて触れないなど米欧とは距離を置き、温度差が改めて浮き彫りになった。
 「民主主義か権威主義か」などと自分勝手な理屈で差別と分断を持ち込むことに反発の声も上がった。インドネシアのジョコ大統領は演説で「民主主義を封じ込めの道具に使ってはいけない。競争や不安定、対立を見たくない」と述べた。また共催国の一員であるザンビアのハカインデ大統領も米紙への寄稿で、「民主主義は食べられない。人権で精神を維持できても、肉体は維持できない」と述べ、共同宣言の内容の一部について支持を留保した。
 閉会にあたっての「民主主義サミット宣言」に署名したのは120カ国中、 カ国・地域だった。そのうちインドなど13カ国が宣言の一部について支持を表明しなかった。ブラジルやインドネシア、南アフリカ、ナイジェリアなどは宣言に署名しなかった。「人権や法の支配など基本的価値」を押し付ける米国主導の枠組みの限界が改めて露呈した。

和平の表舞台に出た中国
 米欧日などがグローバルサウス取り込みで巻き返しを図ろうとしている一方、中国も積極外交で米国への対抗を強めている。
 中国は、米国の勢力圏であった中東でサウジアラビアとイランの7年ぶりの外交正常化を仲介し、中東での存在感を大いに高めた。米国は中東外交で蚊帳の外に置かれ、大きな打撃を受けた。
 またウクライナ戦争でも和平の仲裁役として中国が表舞台に登場してきた。
 中国は2月24日に、12項目の「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表し、ウクライナ和平へ向けての中国の立場を示した。
 ロシアを訪問した習近平国家主席は3月20日、プーチン大統領と会談した。習氏は会談で「多くの国は和平交渉の推進を主張している」と述べ、米欧主導の対ロ制裁に反対してロシアに寄り添う姿勢を見せつつ、「対話の努力を放棄してはならない」と訴えた。また習氏は「中国がロシアと戦略協力を強化する大きな方向は揺るがない」とも強調した。プーチン氏は、「12項目の提案」を「尊重する」と述べた。
 ウクライナのゼレンスキー大統領も28日、インタビューで、 習近平国家主席をウクライナに招待したことを明らかにした。
 一方、この期間も、米国をはじめ北大西洋条約機構(NATO)諸国はウクライナへの武器・弾薬の援助を強化し、主力戦車や旧ソ連製戦闘機などの供与が始まった。英国も戦車に加え劣化ウラン弾の供与も表明した。米欧諸国の武器・弾薬供与が戦争を長期化させているのは明らかである。
 和平が進むのか世界各国が注目している中で、中国は、対立する米国を念頭に、和平に積極的な「仲介者」としての役割をアピールしている。対ロ制裁に距離を置く新興国・途上国への中国の影響力が拡大するのは当然である。

日本外交を転換せよ
 わずかな期間にも、米中の存在感の差が鮮明に出た。米国は、民主主義や人権などを口実に対中包囲網をつくり、世界を分断しようとしているが、逆に自らの立場を狭めている。それと対照的に中国は積極的に外交の表舞台に立ち、影響を及ぼしている。岸田政権は、G7やそれと同調するわずかな国の取りまとめに必死で、結果的に米国の戦略に追随し、補完する役割を担わされているだけで、中国外交と比べあまりにもお粗末である。
 帝国主義の力が衰退し、新興国・途上国の力と発言力が増大する世界の流れの中で、わが国がどのように生きていくのかが問われる、まさに岸田首相も認める「歴史的な転換期」である。米国追随でなく新興国・途上国の側に立った日本外交に転換するよう、国民的な声を岸田政権に突きつけよう。(C)


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