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2023年3月25日号 1面

イラン・サウジの
関係修復を中国仲介

日本は中東政策反省し、改めよ

 中東の大国で、長年にわたって対立関係にあったサウジアラビアとイランが北京で協議を行い、外交関係を正常化することで合意したと3月10日発表した。両国政府は2カ月以内に外交を正常化し、双方の大使館を再開する。イラン、サウジ、中国の3カ国は共同声明で「主権の尊重と互いの内政への不干渉を強調する」と表明した。19日にはイラン大統領がサウジを公式訪問することも発表された。  中国が主導した和解の実現は、中東への米国の指導力低下を印象づけた。中国の影響力が中東でさらに増大するだけでなく、以降の国際関係に幅広く影響を及ぼす。また、日本の中東政策も大きく影響を受ける。

日本は米と共同歩調とれぬ
 米国はシェール・オイル、シェール・ガスを産出し、必要分を自国でまかなえるだけでなく輸出もしているが、わが国は、原油の90%を中東からの輸入に依存している。これは73年の第1次石油危機の時よりも高い。脱炭素に向う時代とはいえ、以降も長期に化石燃料や化学原料としての原油を安定的に確保する必要があり、この点では、わが国は米国の対中東政策と歩調を合わせるわけにはいかない。中国敵視の結果として中東からの原油が途絶えれば経済は立ちいかなくなる。わが国の中東政策が真剣に問われるべき事態となった。

バイデン政権に大きな痛手
 イランとサウジの外交正常化は、当面は中東の緊張緩和となり、中東各国からは賛同の声が上がった。
 アラブ首長国連邦(UAE)の大統領外交顧問は「合意を歓迎し、中国の役割を称賛する」と述べ、エジプト外務省は「地域の緊張緩和と、安定化に寄与することを期待する」との声明を出した。オマーンやイラクも「地域と世界の安全保障に利する」などと期待感を示している。中東の指導者たちは中国のこうした外交の成果を一様に歓迎している。
 一方、今回の両国の外交正常化の過程で、米国は蚊帳の外に置かれた。米国務省自身、「サウジから情報提供は受けていたが、米国は直接関与していない」と認めざるを得なかった。
 米英が、国連安保理の決議などもなく、独仏や中ロなどの反対を押し切ってイラク戦争を開始したのがちょうど20年前。直後のブッシュの勝利宣言にもかかわらず、地域に混乱をもたらし、長期化・泥沼化したイラク戦争で米国は「敗北」した。オバマは「もはや世界の警察官ではない」と言わざるを得ないほど米国の力は衰えた。21年8月には、アフガニスタンでもぶざまな敗走劇を世界にさらし、威信は地に落ちた。米国は、イラク戦争によって不安定化した情勢を、回復できないまま、地域への関与を減らしてきた。自国での石油生産を増やしたことも米国の中東への関与の必要性を減らした。また、「イラン核合意」から離脱して制裁を強化したり、伝統的な親米国のサウジに対しても「人権」「記者殺害事件」など厳しく批判したりした。バイデン政権は「民主主義対強権主義」の物差しで世界を分断を図ったが、相互の不信感は増大した。昨年夏、バイデンはインフレ対策でサウジへの「石油増産」を要請したが冷たくあしらわれるほどになった。
 米中対立のどちらにも与(くみ)しない途上国・新興国の中に、米国への不信感と中国の外交力への再認識がさらに広がれば、バイデン政権のグローバルサウス取り込み策にとっても大きな打撃となる。

積極外交に出ている中国
 イラク戦争で混乱した中東情勢の下、中国は積極的に中東に関与してきた。
 フセイン政権崩壊後のイラクでも西側メジャー(国際石油資本)に代わって、石油・ガス、電力などのプロジェクトを積極的に受注、最近の5年間でも受注額は日本の9倍以上と言われている。こうしたこともありイラク中央銀行は今年2月、人民元での石油決済を容認する方針を示した。また、習近平国家主席は昨年12月、サウジを訪問し、サルマン国王やムハンマド皇太子と会談した。さらに湾岸諸国の首脳らとの会合でも、人民元での石油決済を提唱した。
 さらに今年2月にはライシ・イラン大統領を招待し関係強化を進めていた。
 中国は、今年2月「グローバル安全保障イニシアチブ」を発表、ウクライナ問題についても、和平に向けての中国の立場を示し、ロシア訪問やウクライナとの対話を開始した。中国は積極的に、米国への外交的対抗に転じている。
 中国はブラジル、ロシア、インド、南アのBRICSも拡大する方向を打ち出しており、中央アジアなども含めた上海協力機構も協力関係を強めている。
 先進7カ国(G7)を足がかりに西側同盟を再構築し、帝国主義の世界支配の維持を画策する米国と中国の競争は、軍事的緊張もはらみながら激化している。米中の競争は複雑に進むだろうが、中国の積極外交が、今のところ米国にとっては不利な状況をつくりだしている。

厳しい選択迫られる日本
 今回のサウジとイランの和解で、中東産油国のエネルギー市場における影響力はさらに強まるだろう。ロシアへのエネルギー制裁の効果を打ち消してきたのも中国やインドのロシア産原油輸入拡大である。さらにロシアを含む「石油輸出国機構(OPEC)プラス」の影響力がいちだんと強まれば、日欧米など消費国の政策の難易度はいちだんと高くなる。さらに中国の「石油人民元」構想が進めば、米国のエネルギー覇権やドル基軸通貨体制にとって打撃となろう。
 ウクライナ戦争でのロシア制裁の影響によるエネルギー価格の高騰は欧州諸国を直撃し、物価高騰に怒る労働者の大規模なストライキを呼び起こし、政治を揺さぶっている。中東から大量の原油輸入を必要としているわが国も、中東政策で米国と歩調を合わせるわけにはいかないのである。
 20年前のイラク戦争の開戦に際し、わが国は米英の武力攻撃を支持し、自衛隊の派兵にまで踏み切った。イラク戦争は、米英による無法な「力による現状変更」だったが完全に失敗した。英国は後にイラク参戦の過ちを認めざるを得なかったが、わが国の歴代政権はこんにちまでイラク侵略戦争加担の過ちを認めず、「反省」もしていない。岸田首相も、「わが国としてイラク戦争を評価する立場にはない」などと国会答弁でとぼけている。こうした態度で中東諸国の理解を得ることはできない。
 中東情勢が劇的に転換するこんにち、米国とは違う中東政策を明確に打ち出して、中東諸国との長期の信頼関係を構築する道に踏み出すことを求める国民的な声を大きくし、岸田政権にぶつけよう。  (Y)


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