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2022年12月5日号 1面

米国に追随し軍備拡大に
突き進む岸田政権


「国民全体の負担」口実の
増税許すな

 「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(座長・佐々江賢一郎元駐米大使)は11月22日、防衛費の安定財源確保に向けて「国民全体の負担」が必要だとして増税を提起する報告書を岸田首相に提出した。
 報告書は、5年以内の防衛力強化が欠かせないと強調し、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有と戦闘継続能力(継戦能力)向上を提言。先端科学技術の成果や公共インフラの機能を安全保障分野に利用できる官民一体の体制を構築するよう求めるなど、日米同盟の強化と併せて「自らの防衛力の強化」を強く打ち出す内容となった。

防衛3文書改定が迫る
 報告書では、財源について「国民全体で負担することを視野に入れなければならない」と提起した。「政治が真正面から説き、負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要なことを明確にし理解を得る」よう求めた。原案では「財源の一つ」とされた法人税の記述は削除された。また国債発行を前提にすべきでないとも記した。
 政府は、報告書を踏まえ国家安全保障戦略など防衛3文書を年内に改定する。首相は「報告書が重要なアドバイスになる」として防衛3文書改定の指針にするとした。
 報告書では防衛力を巡り5年以内の「抜本的な強化」を訴えた。
 日本独自の防衛力と日米同盟について、今回の報告書では、まずわが国自身の防衛強化策を示した。政府はこの防衛強化策に基づいて年末に改定する防衛3文書を米国の安全保障戦略と整合させ、一体的連携による抑止力向上を進める。
 報告書では相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有について「今後5年を念頭にできる限り早期に十分な数のミサイルを装備すべき」と期限を区切って示した。
 中国や朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)のミサイル技術の向上に対抗して、反撃の姿勢を示して抑止する手段として、国産ミサイルの射程を延ばす改良や外国製ミサイル(米国製ミサイルトマホークを検討)の購入を提唱した。政府内では日本から中国大陸へ届く長射程ミサイルの1000発規模の保有が必要と想定している。
 また報告書には「被害を受けてから対処するのではなく未然に防ぐ」目的で「能動的なサイバー防御」も書き込んだ。米欧が持つ攻撃元の特定・監視能力を指す「積極的サイバー防衛」にならった仕組みだ。
 継戦能力に必要な弾薬の確保や人工知能(AI)など科学技術研究の拡充、自衛隊が有事に使用する空港・港湾など公共インフラを政府全体で整備することも示した。
 いずれも従来は有事対応を米国に頼ることを前提にしてきた分野で、米国との役割分担を「盾と矛」に例えてきたこれまでの対応からの大きな転換と言える。
 こうした転換は、ロシアのウクライナ侵攻で激変した国際情勢を意識し、「台湾有事」で米中の武力衝突が起きた場合に地理的に近い南西諸島が巻き込まれることを想定、「自らの防衛力強化を決意」し最前線に立つという2021年の日米首脳共同声明で約束した内容を具体化するものだ。

防衛費2%への増額を指示
 岸田首相は28日、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額するよう関係閣僚に指示した。科学技術費などの国防に関連する費用を合算し、省庁横断の防衛費と位置づける。装備品を含む向こう5年間の予算規模と財源確保も年内に同時決着させる狙いもある。
 首相が防衛費の具体的水準を明言するのは初めてで、GDP比2%との基準を示したうえで、年末に(1)23〜27年度の中期防衛力整備計画(中期防)の規模(2)27年度に向けての歳出・歳入両面での財源確保を一体的に決定するとした。
 防衛省の予算は22年度当初予算で約5兆4000億円。GDP比2%とするのは、防衛省の予算を増額した上で、防衛に有益な他の経費を含める。公共インフラや科学技術研究、サイバー、海上保安庁といった他省庁予算も加える。防衛省だけの縦割りから脱却し、安全保障を政府全体で担う体制に移行する。現在のGDPからすると新たな防衛費は約11兆円にも膨らむ。
 岸田首相は、財源に関する年内決着も指示した。「まずは歳出改革」と指摘したうえで、歳入面で「安定的に支えるためのしっかりした財源措置は不可欠」とした。政府内では法人税に加えて所得税、たばこ税などの増税で賄うべきだとの意見がある。だが法人税には財界からの抵抗が予想される。自民党内や公明党にも増税には慎重論があり、一時的な赤字国債発行を認める声もある。28日の衆院予算委員会では余った新型コロナウイルス対策予算の活用を検討することも明らかにされた。国公立病院を運営する二つの独立行政法人にある1500億円ほどの積立金を財源に活用する案も浮上するなど、国家財政の借金が膨らむ中で、安定財源確保にはなりふり構わぬというのが実際である。
 いずれにしても支配層にとって、「5年以内」と時期が定められた防衛力増強のためには国民からの直接収奪を強化する以外に道はあるまい。
 報告書は、防衛力強化をめぐる自民、公明両党の協議などをにらみ、増税への世論作りなど環境整備を進めるのが狙いだが、物価高騰などで国民生活が厳しくなる中、防衛力を突出させて強化しようとする岸田政権に対する不満が大いに高まるだろう。

独立・自主の国の進路を
 米国が「世界の警察官」ではないと表明してから10年。米国の力の衰えはいちだんと進んだ。
 バイデン政権も一国ではなく同盟国の力を借りて対処する「統合抑止」を掲げ、今まで以上に日本の自衛隊との一体運用を求めるようになっている。
 衰退する米国は、台頭する中国を抑え込み、引き続き世界的な覇権を維持するために死に物狂いで巻き返しに出ている。「台湾有事」を口実に中国への内政干渉と軍事挑発を強め、緊張を激化させている。
 また、米国は中国に対する経済的な分断(デカップリング)を強化し、アジア経済にも分断を持ち込んでいる。米国の巻き返し策でわが国経済も大きな打撃を被る。経済界は警戒心を高めている。米中の軍事衝突が発生すれば南西諸島をはじめわが国が戦争に巻き込まれるのは必至である。
 米国と道連れになって亡国の道を進むのか、独立・自主でアジアでの平和と共生の道を進むのか、大きな岐路に立っている。国民犠牲の上に進められる防衛力強化に反対し、岸田政権のを打ち破る広範な国民運動を強めよう。(C)


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