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2022年11月5日号 1面

中国への輸出規制
強化した米バイデン政権

米国の対中国巻き返し
政策に追随するな

 バイデン米政権は10月7日、半導体関連製品の中国への輸出規制を強化する新たな措置を発表した。米政府が指定する中国企業に輸出する場合、商務省の許可が必要になる。
 狙いは、中国の先端技術力の向上や軍事転用を妨害し、先端技術分野での覇権争いで優位に立つことである。対象は人工知能(AI)やスーパーコンピューターに使われ、ミサイルなどの兵器にも転用できる製品で、中国企業に輸出した場合に安全保障上の脅威になると判断すれば、商務省が許可しない。
 この措置に関連して、米商務省は同日、半導体製造大手の長江メモリー・テクノロジーズ(YMTC)など31の中国企業・団体を安全保障上の輸出規制リストに追加した。リストに掲載されると、商務省の許可なく米国の技術や部品を対象企業などに輸出することが制限される。米国の技術を使用せずに半導体を製造するのは難しく、YMTCなどへの打撃は大きい。商務省の高官は声明で「軍事用途の機密技術が中国に取得されるのを防ぐために、できる限りのことをする」と強調している。
 今回の新たな規制措置が、中国共産党大会を前に打ち出されたことで、中国外務省の毛副報道局長は8日の記者会見で「輸出管理措置を悪用し、中国企業に対して悪意ある弾圧を行っている」と強く反発した。

中国の台頭阻止に全力
 米国は、中国を世界経済に組み込むことで大国としての台頭を抑え込めるという外交政策を何十年も追求してきた。だが改革開放政策や2000年代に入っての世界貿易機関(WTO)加盟などを経て、中国の経済成長はめざましく、14年には購買力平価国内総生産(GDP)で米国を追い抜き、名目GDPでも追い抜くことが日程に上ってきた。軍事力でも西太平洋の軍事バランスは中国が米国を上回るほどになった。
 米国はオバマ政権後期から中国の台頭を阻止するため、対中外交政策を次第に中国抑止の方向に転換させてきた。共和党のトランプ前政権の20年には中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)を標的にして中国との貿易を制限した。
 だがバイデン政権の今回の規制措置は、米国がこの間の対中外交政策に決定的な終止符を打つことを意味する。
 米国は、実際の戦争はともかく、打てる手は全て打とうとしている。バイデン政権は何としても台頭を阻止しようと中国への全面的な経済戦争に入った。

中国を徹底的に締め出す
 今回の規制強化が米経済界や海外の企業へ与える影響は計り知れない。
 米国企業も含めて世界中の企業が、この数十年間、中国への輸出拡大か現地生産あるいは双方を推進する成長戦略を実行してきた。今回のバイデン政権による半導体の中国への輸出規制強化はこうした企業に打撃を与える。
 先端半導体はすべて軍事用途にも民生用にも使われるため、米国としては中国による軍事利用を封じるために、あらゆる半導体の民生用途での利用からも中国を徹底的に締め出す方針である。
 そして今回の規制強化は米国製の先端半導体の輸出規制にとどまらず、米国製の製造装置や技術を使った高性能半導体すべてが対象で、台湾や韓国、オランダなど中国を除くほぼすべての半導体メーカーの半導体も対象となる。さらに規制の対象は「米国の個人」にも及び、米国籍を持つ市民のみならず米国永住権の保持者が許可なく中国での半導体製造にかかわることも禁じている。
 わが国の半導体企業もこの規制の埒外(らちがい)にはいられない。

中国の政権交代が目標に
 中国への抑止と封じ込めは、いまや民主、共和の党派を超えて共通の政策となっているが、バイデン政権が今回、中国のハイテク業界全体を孤立させようとしている真の狙いは、経済戦争にとどまらない。
 今回の措置が3期目となる習近平指導部が開催した中国共産党大会を強く意識して打ち出されたように、米国が中国の政権交代を暗黙の目標としつつあることは明らかである。
 バイデン政権は、この規制措置に続いて12日に、政権初の「国家安全保障戦略」を発表した。さらに中国共産党大会後の27日には新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR)」を公表した。また同時に「国家防衛戦略」と「ミサイル防衛の見直し(MDR)」も公表した。これらはいずれも中国への対抗を「最優先する」としている。
 そして中国に対して台湾問題を口実に中国の内政に乱暴に干渉している。バイデンは軍事介入さえ口にして挑発を強めている。こうした挑発に対して中国共産党は、大会で党規約を改正して「台湾の独立に断固として反対する」と決議した。当然である。
 世界的な半導体企業のある台湾をめぐる米中の争いはいっそう激化している。
 米国は経済でも安保・軍事でも中国との抜き差しならない対決の道にいっそう踏み込んだ。

対米追随からの脱却を
 米国の台湾問題を口実にした中国への対抗、抑止政策が激しくなる中で、わが国の対中外交が深刻に問われている。岸田政権は中国との外交関係の行き詰まりを打開するどころか、ますます中国への対抗姿勢を強めている。
 さらに岸田政権による「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定作業が進められているが、その中では「経済安全保障」も重要な課題として取り入れられている。
 すでに岸田政権は、5月に経済安全保障推進法を成立させ、一部の基本指針を9月30日に閣議決定した。10月13日には、「特定重要物資」について半導体や蓄電池など11分野を対象とする案を示し、経済安全保障体制づくりが始まった。米国の今回の規制は、こうした国内体制づくりも左右する。
 岸田政権は没落する米国の覇権維持のための巻き返し策に追随するだけでなく、米国の戦略の先兵を買って出ている。今年5月の日米首脳会談でも、対中国の最前線に立つことを宣言し、東奔西走である。
 バイデン政権が提唱した「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」でも旗振り役として、中国への対抗と排除の先頭に立っているが、IPEF参加各国は様子見といったところで本格的な経済連携に発展する保証はない。
 一方、日米の安全保障、軍事面での一体化もますます進み、南西諸島への自衛隊配備強化、軍備拡大など中国と本格的に事を構える道を突き進んでいる。
 中国への対抗を最優先させるという米国の戦略が成功する保証はない。だが覇権にしがみつくためには米国が取れる道はこれ以外にない。したがって米国の中国包囲、対抗、排除政策はますます激化し、米中の偶発的な衝突の可能性さえある。このまま米国に追随していけば、わが国がその衝突に巻き込まれることは必至である。これは亡国の道である。
 対米追随、亡国の岸田政権を打ち倒し、国民大多数のための政権を打ち立てるため、自主・独立の旗を掲げて闘おう。(C)


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