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2022年8月5日号 1面

22年版防衛白書/中国敵視さらに

対中政策の転換問われる岸田政権

 世界は激動し、わが国の生き方が問われている。
 岸田政権で初となる2022年版の防衛白書が、7月22日公表された。

台湾問題に初めて言及
 白書は514ページに及ぶ長大なものだが、その巻頭言で、岸防衛相は「中国は力による一方的な現状変更やその試みを続けている」「台湾をめぐっては、その統一に武力行使も辞さない構えを見せており、地域の緊張が高まりつつある」と、初めて台湾の「統一」問題に言及した。
 昨年の白書では台湾情勢の安定が日本の安全保障に重要だと記述したが、今回は中国による台湾への圧力がいちだんと増しているなどして、米国などと連携し「いっそうの緊張感を持って注視していく」と強調した。特に台湾をめぐる記述量は昨年から倍増し、台湾情勢の安定が「日本の安全保障にとって重要」と明記した。
 また今年は、新たに「ロシアによるウクライナ侵略」に1章を割き、侵攻に至る要因や世界やアジアに与える影響や今後の見通しなどを詳述した。そしてロシアが核戦力重視の姿勢を強めたりする可能性や、米国に対抗して中ロの軍事連携の深化の可能性について「懸念を持って注視していく」と強調した。
 さらに朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核・ミサイルの能力向上などを念頭に、相手国のミサイル基地などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)にも言及した。「迎撃能力の向上だけで国民の命や暮らしを守ることができるのか」と「反撃能力」の必要性をにじませ、「相手の武力攻撃の着手後にわが国が武力の行使を行うことは、『先制攻撃』とは異なる」とも強弁している。

際限ない防衛費増額へ
 また、G7や韓国など主要国の国防費と対比させて、わが国の防衛費が国民総生産(GDP)比1%と低いことを紹介して、防衛費の増額の必要性を暗示した。自民党は先の参院選で、GDP比2%を念頭に5年以内に防衛費を増額すると公約した。党内では「来年度当初予算で、防衛費を6兆円台半ば以上にすべきだ」などと増強論が幅をきかせている。
 岸田首相は「必要な予算を積み上げる」などとあいまいな発言に終始しているが、5月の日米首脳会談でも「相当な増額を確保」する決意を表明している。29日に閣議了解された23年度予算の概算要求基準でも、防衛費は、脱炭素、少子化、新型コロナ対策、物価高対策と並ぶ「重要政策」と位置づけられ、要求に上限を設けない事実上の「青天井」となり、際限のない軍備増強に踏み込もうとしている。
 また、「日米同盟の絆は揺るぎなく、さらには日米豪3カ国や日米豪印4カ国での協力も深化し、昨年のわが国への艦艇の相次ぐ寄港にも象徴されたように、欧州諸国ともこの地域を自由で開かれたものとすべく協働を進めている」と日米同盟を基軸とした多国間の防衛協力を改めて明記した。さらに、年内に予定している「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画(中期防)」の3文書の改定に向けて、岸防衛相を議長とする「防衛力強化加速会議」で「あらゆる選択肢」を議論していることも紹介している。
 また、先の日米首脳会談の合意に基づいて、29日には、外務・経済担当閣僚協議「経済版2プラス2」の初会合も開かれた。会合では両国で「ルールに基づく国際経済秩序」づくりを主導すると確認した。次世代半導体の量産に向けた共同研究などサプライチェーン(供給網)強化でも合意した。軍事分野だけでなく、経済分野でも日米の同盟で対中抑止を強めようという動きである。
 岸田政権は、中国への対抗を強め、わが国保守勢力の一部が夢想するアジアでの覇権を狙って、衰退する米国を肩代わりし、先兵の役割も担いながら軍事大国化への道をひた走ろうとしている。

敵の狙い暴露できぬ共産党
 今回発表された防衛白書について、共産党は、23日付「赤旗」の「主張」で「『軍事対軍事』という『抑止力』での対応は、軍拡競争の危険なエスカレートを招く、『平和を生む』どころか、逆行するもの」と述べて軍備増強に反対している。そして白書が、中国の軍事力の強化やロシアのウクライナ侵攻が「直面する安全保障上の課題」として、「抑止力の強化」のため「『わが国自身の防衛体制の強化』と『日米同盟の強化』を進めている」と批判している。「敵基地攻撃能力」保有や防衛費の増強などにも反対して「『力対力』では平和はつくれないという教訓こそ、東アジアで生かすことが必要」と主張している。
 関連する「赤旗」の記事でも、軍事大国化、日米同盟強化に反対する論調はあるが、ただ「平和が良い」と主張しているだけで、この白書でわが国の支配層が真に狙っている対中包囲網の形成、ロシア、朝鮮に対する敵対と封じ込めについては何一つ触れていない。
 ロシアのウクライナ侵攻は、米国を頂点とした第2次大戦後の世界秩序は大きく転換している。米国をはじめG7を中心としたいわゆる「西側」の力が弱まり、中国やインドなどが台頭し、新興諸国の力が増大して、世界の力関係が変化している中で、わが国が米国に追随していくことが、わが国の国益を大きく損なうことについてまったく目をつぶっている。
 戦争より平和が良いに決まっているが、これでは、日々刻々と激しく動いている世界の中で、わが国がどういう道を歩むべきか示すことができず、大した力にもならない。

対中政策の転換試される
 岸田政権は、安倍元首相の「国葬」を、9月27日に行うことを決定した。政府・自民党は多くの反対の声を押し切って、強行しようとしている。
 立憲民主党や共産党、社民党などは「国葬」に反対を表明している。わが党も「国葬」に反対である
 政治軍事大国化の世論づくりと国民統合が狙いだからである。しかも、国葬の基準や法的根拠がなくあいまいなこと、安倍元首相の政治的評価は定まっていないし国論は二分していること、政府が国葬によって礼賛や弔意を国民に強制すべきではないこと、さらに反社会的行為を重ねてきた旧統一教会と安倍元首相や自民党など保守政治家たちとの関係解明も急務であるなどの理由で多くの国民の間に国葬に反対する声があるのは当然である。だが国葬反対を叫ぶだけでは敵の狙いは打ち破れない。
 岸田政権は、国葬を最大限利用して、安倍元首相が8年8カ月にわたって進めてきた、日米同盟基軸の軍事大国化、多国籍大企業のためのアジアでの覇権的利益の追求、国内での格差の急拡大させた経済政策などの失敗を正当化し、以降の政権運営に弾みをつけようとたくらんでいる。こうした策動に断固反対である。
 しかも国葬の2日後の9月29日は、日中国交正常化50周年記念日である。岸田政権はこの記念日にぶつけるように国葬の日取りを決めたのである。
 過去50年、日中間ではさまざまな起伏があったにせよ、過去の侵略戦争の反省の上に立って日中間の友好を維持してきた。こんにちでは中国経済とわが国経済は切っても切れないほど結びつきが強まっている。
 安倍元首相は、19年6月、中国の習近平国家主席と会談し「日中新時代」を宣言した。だが、安倍はその後「台湾有事は日本の有事」などを前面に打ち出して、中国への敵意をあからさまにしてきた。菅、岸田政権も対中抑止一辺倒に傾斜してきた。こうした中国敵視政策に、財界や政府内にも異論はあるのは当然である。
 日中関係がもっとも困難な時期を迎えているこの時期に、岸田政権が中国との信頼関係を回復できるのかが問われている。
 わずかでもハイレベルな対話の回復が実現できれば、それはそれで結構なことで、わが党は歓迎する。
 日中国交正常化50年を迎え、両国の友好を固め合う時期である。軍事大国化反対、「日中不再戦」の声を全国で上げよう。(C)


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