ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2022年7月5日号 1面

NATO首脳会議、
「新戦略概念」採択

米国の衰退は決定的、
対米従属から脱却を

 北大西洋条約機構(NATO)は6月29日、スペインで首脳会議を開いた。首脳会議では、今後10年の指針となる新たな「戦略概念」を採択するとともに、首脳宣言を発表した。  新しい戦略概念は2010年以来12年ぶりの改定である。これまでの戦略概念では、ロシアとの関係を「戦略的パートナーシップ」としていたが、新しい概念ではロシアを「最も重要で直接の脅威」と定義し、事実上の敵国とした。
 また、戦略概念として初めて中国に言及。中国が「体制上の挑戦」を突きつけていると明記した。中国について「多岐にわたる政治的、経済的、軍事的な手段を使って、力を誇示しようとしている」、経済面でも「重要インフラや戦略物資を握ろうとしている」と強調した。
 NATO新戦略概念は、中国とロシアについての位置付けを大きく変えた。
 会議には日本、韓国、豪州、ニュージーランドの4カ国が招かれ、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分として、インド太平洋で4カ国との協力強化を推進する方針を示した。
 また、ロシアの反発が確実な北欧のスウェーデン、フィンランドとの加盟交渉を開始することも全会一致で承認した。
 米欧の軍事同盟であるNATOは中国・ロシアへの対抗を明確にし、北欧2カ国の新規加盟やインド太平洋での協力も新たに加えるなど、歴史的転換点を迎えたといえる。

衰え隠せぬ米国
 NATOのストルテンベルグ事務総長は27日の記者会見で、危機時に派遣する多国籍の即応部隊を現行の4万人規模を7倍の30万人以上に増強すると表明した。そして欧州8加盟国の部隊を旅団級に格上げすると表明。「冷戦以降で最大の集団防衛と抑止力の見直しになる」と力説した。また、米国はウクライナに最新鋭の中長距離の地対空ミサイル防衛システムを含む追加の軍事支援を行う。ウクライナには、長期の軍事支援を強調し、旧ソ連製が主流のウクライナ軍の兵器をNATO基準に近づけることを含めた「包括的支援」を行う。
 こうしたNATOの動きにロシアは「拡大はNATO自らの安全保障の強化をもたらさず事態を不安定化する」と強く反発、バルト海に面した飛び地のカリーニングラードやベラルーシへの核配備の可能性も指摘され、欧州での緊張はいちだんと高まる。
 こうしたNATO自身の軍備増強、拡大の動きは、火に油を注ぎ、地域の平和・安定にまったく逆行するものであるが、他国に頼らなければならいほどの米国の単独での力の衰えの反映でもある。

力の限界明らかなG7
 NATO首脳会議に先立って主要7カ国(G7)の首脳会議が26日からドイツで開かれた。今回のサミットには、ロシア制裁に加わっていないインド、インドネシア(主要20カ国=G20議長国)、南アフリカ、アルゼンチン、アフリカ連合(AU)議長国のセネガルの5カ国が招かれた。
 昨年12月にバイデン米大統領が主宰した「民主主義サミット」では、人権と民主主義を前面に立てて110カ国が招待されたが、「民主主義対権威主義の図式にはめ込むのは、終わりのない善悪の議論に足を突っ込む」(リー・シェンロン・シンガポール首相)などと強い反発の声が上がった。各国の関心は民主主義などの「価値観」より食料やエネルギーなどに集まっている。今回のサミットでもロシア産石油の禁輸などを迫るG7諸国に対して、インドのモディ首相は「エネルギーは富裕層だけの特権であってはいけない」と応じなかった。「民主主義」を振りかざすG7などの影響力が弱まっていることの表れである。
 サミット直前の24日、BRICSが開いたオンライン拡大会合にはG7が招いたアルゼンチン、インドネシア両首脳も参加した。アルゼンチンはその場でBRICSへの正式加入を表明した。G20の議長国のインドネシアのジョコ大統領はサミット後、その足でモスクワへと向かいプーチン大統領と会談するなど、G7とは違って門戸を閉ざさない態度である。G7では新興国取り込みを狙って、米国主導の新たなインフラ投資の枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」(PGII)の創設でも合意したが、中国が進めている巨大経済圏構想「一帯一路」と比べても立ち遅れは明らかである。
 G7が中国をけん制するサミット首脳宣言を採択したことに対して、中国政府は 日、「G7の人口は世界総人口の10分の1でしかなく、世界を代表してはいない。人為的にやめるべき」と強く批判した。G7がいくら結束を誇示しても、世界の中での影響力の限界は明らかである。

世界の流れに逆行する岸田
 岸田首相は今回、日本の首相として初めてNATO首脳会議に参加した。また、インド太平洋地域の韓国、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国との首脳会議も開いた。
 首相はNATOのストルテンベルグ事務総長と会談し、サイバーや海洋安保の取り組みを強化する協力文書を改定すると確認した。自衛隊とNATO軍がそれぞれの演習にオブザーバー参加できる枠組みも整える。首相は首脳会議で「欧州とインド太平洋の安保は不可分」と訴えた。中国を念頭にNATOの欧州各国も重要な連携先と位置づけ、自衛隊を交えた多国間訓練や防衛装備品の共同開発などを進める考えである。英国やフランスなど欧州諸国に海上自衛隊が加わるインド太平洋での多国間訓練が2017年度から21年度までの4年で2倍に増えている。東アジアの安全保障体制を強化するため多国間の枠組みを広げ日米同盟を補強することを狙い、これまで協力が少なかった地域との関係づくりにいちだんと力を入れようとしている。
 岸田首相はNATO首脳会議に合わせ日韓豪NZの首脳会議を開いた。4カ国はNATOのアジア太平洋のパートナー国で「AP4」と呼ばれ、4カ国が主導しインド太平洋諸国とNATOとの協力を強化することも確認した。日米同盟だけでは対処できない問題に、多国間の枠組みで対応しようというものである。
 G7やNATOの一連の首脳会議で、岸田首相は、米国の力の衰えを補完する動きを活発に行ったが、G7もNATOも台頭する新興国や発展途上国の動きに逆行するものであり、わが国の国益とはならない。
 アジア諸国をはじめ大多数の新興諸国の側に立ち、共存、共栄の道を歩む外交政策を求める国民世論を高めよう。(H)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2022