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2022年5月15日号 7面

米国に人権や民主主義を語る資格ない

 米国務省は4月12日、世界の約200カ国・地域の人権状況をまとめた「2021年人権報告書」(以下、報告書)を発表した。
 報告書は特にロシアと中国を攻撃している。「専制主義が人権と民主主義を脅かしており、それが最も顕著なのはロシアによるウクライナへの攻撃だ」としてロシアを強く非難している。中国については「新疆ウイグル地区での民族弾圧」や「香港での民主主義を求める運動への弾圧」などを取り上げている。当然にも、この人権報告書に対して、中国をはじめ各国から非難の声が上がっている。中国は「偽善的民主主義と人権悪化を最も反省すべきは米国だ」と強く米国を批判している。中国の糾弾はまったく正当であり、納得できるものだ。
 もちろん米国の狙いは人権回復や民主主義の立て直しにあるのではない。ブリンケン国務長官は「人権侵害を行っている国は多くの場合、ほかの点でも国際秩序に従わない国だ。人権を守ることはただの原則ではなく、わが国の安全保障にとってきわめて重要だ」と述べている。独立・国家主権をめざして米国の政治支配と闘う世界の新興国・発展途上国を「人権」の名の下で抑圧し、米国のコントロールの下に置くことこそがかれらの真の狙いである。バイデン大統領の悪評の高い「民主主義と専制主義の闘い」という宣伝戦の一翼を担うものである。
 ここでは報告書自体の検討は割愛する。私が訴えたいのは、米国に他国の人権や民主主義を語る資格はまったくないことである。

国民大多数を民主主義から排除
 米国は建国以来の二つの「原罪」がある。一つは先住民(ネイティブ・アメリカン)から生活の基盤である土地を略奪し、大虐殺や迫害・圧迫を強いたこと。もう一つはアフリカから黒人を連行し奴隷労働を強制したこと。こうした蛮行を働いた米国に人権だとか民主主義をどうして語ることができるのか。
 しかも、この蛮行は古い時代の出来事ではない。こんにちの米国社会にも綿々と受け継がれている。

黒人差別に見る米国の現状
 コロナ禍は資本主義の諸矛盾をあぶりだした。特に社会的、経済的な「弱者」にその矛盾は集中的に押し付けられた。米国においては、こんにちも黒人差別が歴然と存在し、黒人の「人権」が何ら保障されていないことを白日の下にさらけ出した。これは政治による人権蹂躙(じゅうりん)であると言わざるを得ない。
 今年5月6日時点での米国の新型コロナウイルス感染者数は8192万人弱、死亡者数100万人弱である。これは世界の総感染者数、総死亡者数の中で最多である。特に注意を喚起したいことは、白人に比べて黒人の感染者数、死亡者数がかなり目立つことである。人口10万人ごとの関連死者数がニューヨーク州やニュージャージー州よりも多いルイジアナ州では、黒人人口が30%程度なのに、コロナ関連死者は全体の70%となっている。
 なぜ白人に比べて黒人死亡者が多いのか。劣悪な居住環境の中での生活を強いられていること、健康な食生活が保証されていないこと、医療・保険制度からの排除、などが理由だ。
 2020年5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官によって逮捕され、約9分間に渡り首を膝で押さえつけられ死亡するという深刻な事件が起きた。死因は、家族の依頼で検査した医者は、警察発表とは異なり、「首と背中の圧迫で脳が血流不足になり、それによって引き起こされた窒息による殺人」と結論付けた。
 現職の警察官(関与したのは4人)が黒人男性を現場で押さえつけて殺した。これは厳然たる客観的事実である。黒人差別から来る許されざる殺人である。弟であるフィロニーズ・フロイド氏は「黒人が絶えず何度も殺されるのを見るのに疲れている。人びとは引き裂かれ、傷つけられている」と語っている。こうしたことが日常的に起きていることがこんにちの米社会の現実である。

白人中間層の没落
 米製造業の衰退は今に始まったことではない。グローバル化の中で大企業は海外進出したり技術革新の波に名乗って業種転換したりしているが、その結果、古い製造業や資本力、技術力のない企業は没落した。16年大統領選挙でトランプはここに目を付け、かれらの不満と既存の政治(ウォール街と軍産複合体)への不信をあおって選挙に勝利した。根底にあるのは、働く場がなくなり、自分の居場所が見つけられなくなった人びとが続出していることがある。
 21年1月6日には米連邦議会議事堂占拠事件が起きた。これは米国で民主主義から排除される人が相当存在していること、同時に米国式「民主主義」の自己破綻を示すものだ。
 米国社会は分裂している。根底にあるのは貧富の格差の拡大が著しいことである。富の偏在と貧困の蓄積。ほんの一握りの連中が米国の富の大半を握っているが、他方で大多数の労働者人民は貧困の淵(ふち)に沈み、コロナ禍の中で人びとは置き去りにされている。にもかかわらず、ばく大な富を持つ連中はそれを有効に生かさず、マネーゲームに走っている。コロナ禍がこの危機を加速させている。破局は不可避となっている。

戦争と侵略で肥え太った米国
 米国は第二次世界大戦後英国に代わり世界の覇権国家にのし上がった。基軸通貨ドルの支配と核軍事力で世界のスーパーパワーとなった。米国は資本主義陣営の盟主、世界の警察官として、戦争を含む大国政治で争った。米ソ冷戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争など。しかし、世界は大きく変化した。冷戦で勝利したはずの資本主義が限界をさらしている。
 冷戦後の湾岸戦争は勝利した。しかし、アルカイダによる01年9月11日の米国への攻撃を契機とする「テロとの戦争」で米国は泥沼に陥り、政治的な指導力は地に落ちた。そこに07年サブプライムローン問題、08年リーマン・ショックを契機に世界金融経済危機が起こった。米国は疲弊した。金融独占資本や大手IT(情報技術)大企業は中央銀行の金融の量的緩和や政府の財政政策に助けられてボロ儲(もう)けしているが、大多数の国民の惨状は深刻だ。
 米国の衰退はもはや誰の目にも明らかだが、米国はここから抜け出そうと必死だ。トランプは中国やロシアを米国中心の国際秩序に挑戦する「修正主義勢力」と位置づけ潰しにかかった。中国に対しては「唯一の戦略的な競争相手」として本格的な覇権争奪闘争を構えている。バイデンも中国の台頭を意識しながら、米国が再度覇権を取り戻すために悪あがきしている。
 最近のウクライナ戦争は、米国が国際政治でパワーバランスを取り戻すための、米国主導の戦争である。情報戦争、ウクライナへの膨大な武器と戦争資金の投入、東欧諸国への戦略兵器の配置などでロシアの力を弱め、ドイツとロシアの分断を進める。ウクライナ戦争は、超大国同士の限定核戦争が将来ありうることを示唆している。
 多国籍大企業・金融独占資本が政治を握る米国、ウォール街と軍産複合体の利益に奉仕する米国政府にとって、国民全体の利益や世界平和は眼中にない。
 こうした連中が政治を牛耳っている限り、米国の大多数の国民にとって「人権」「民主主義」は欺まんでしかない。

真の民主主義は闘いで切り拓かれる
 米国は何としても中国の台頭・飛躍的な前進を阻止しようと必死である。そのために米社会の統一と再生を実現しようと躍起になっている。しかしそれが可能であろうか。米国の衰退は大局としては止めることはできないだろう。
 それでも、米支配層は覇権を立て直すために、基軸通貨ドルを中心とする金融支配、そしてそれを担保する核軍事力をテコに世界で悪あがきを続けている。近年、米国の軍産複合体も金融独占資本(ブラックロックなど投資ファンドを含む)の金融支援のもと、巨大IT企業GAFAなどとも結びついて、兵器開発・製造・海外への武器輸出で大きく稼いでいる。21年度の軍事費は1兆ドルを突破する見込みだ。武器輸出も増大することだろう
 米国は単独では戦えないがゆえに、AUKUS(米英豪軍事同盟)や米国主導で日本・インド・豪州で構成される対中政治経済技術包囲網(クアッド)を構築し、中国に圧力をかけている。日本は米国の指揮棒下でこの先頭に立っている。
 米国の内外の諸矛盾は激化するだろう。同時に、米国民の新たな闘いが始まっている。この闘いの中に真の人権や民主主義の要素が萌芽的にしろ存在する。
 14年頃から始まり、20年フロイド氏殺害事件をきっかけに全国的に盛り上がった「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動は一例だ。特筆すべきは、この運動を支えているのはいわゆるミレニアム世代・Z世代の若者であるということだ。
 先住民たちとともに地球環境を守る闘争も行われている。大企業による土地強奪・石油パイプライン建設に対して「資本家的な私的所有」ではない社会的な所有を訴える若者たちによる新しい闘いが取り組まれている。
 「ウォール街占拠運動」を継続・発展させた、貧富の格差拡大の根本的な是正と私的所有に基づく生産関係を変革して新たな共同社会をめざす運動も展開されている。
 また労働組合運動の再建も進んでいる。最近のアマゾンでの労働組合結成はその一例であり、エッセンシャルワーカー、交通運輸労働者、サービス産業(卸小売り、情報)など各分野で労働者が切実な要求実現と労働者の団結をめざして闘い始めている。政治的にはサンダースなどの民主党左派の「社会主義」的政策実現の運動もある。
 こうした政治変革の闘争の発展にこそ展望がある。  米国の労働者人民が幅広く団結して、ひと握りの支配層とそれを支える労働者階級上層(IT技術者、金融に従事する労働者、軍産複合体の上層労働者など)から政治を取り戻す闘いを推進し、勝利してこそ、米国に真の人権と民主主義が回復する可能性が開ける。
 米国支配層が世界各地で悪あがきすればするほど、とりわけ米中対立が(広義の意味での)全面戦争に発展しているこんにち、米国で革命運動が生まれ、大規模に発展する可能性はある。革命政党と労働運動の前進にかかっている。(岩佐 五郎)


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