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2022年4月15日号 1面

岸田内閣/際限のない軍拡へ

敵中枢攻撃へエスカレート

 岸田政権は、アジアでの盟主の座を狙って政治・軍事大国化の道を突き進んでいる。岸田首相は、昨年の就任前から「敵基地攻撃能力」論を公然と主張し、同年12月の臨時国会でも「国家安保戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画(中期防)」の3文書の2022年内改定の方針を示した。ロシアによるウクライナ侵攻は、政府・支配層にとって軍備増強の恰好の口実になっている。

際限のない軍備増強へ
 政府の安保3文書改定作業に並行して、与党内の議論や安倍元首相らの発言も軍備増強へ向けてエスカレートしている。
 自民党安全保障調査会(小野寺五典会長)では、今月内に3文書改定に向けての提言を行う予定である。提言では(1)中国、ロシアを「わが国の安全に対する脅威」として認識する、(2)「防衛費」を対国内総生産(GDP)比2%に引き上げる、(3)防衛大綱を米国と同じ「国家防衛戦略」に、中期防衛力整備計画を「防衛力整備計画」に変更する、(4)「敵基地攻撃能力」保有の明記などが盛り込まれる。
 また調査会の議論では「敵基地攻撃」の対象範囲は相手の基地だけでなく指揮統制機能なども含むべきだとの見解が大勢を占めた。「専守防衛」の概念について言葉や解釈を改めるべきとの主張が出ている。
 また安倍元首相は、4月3日の講演で、防衛費を23年度当初予算で6兆円程度を確保すべきだと主張した。ドイツが防衛費をGDP比2%超に増額することを引き合いに「日本も加速する必要がある」と述べた。さらに敵基地攻撃能力について「米国に依存せず、日本も独自の打撃力を持つべき」として「(対象を)基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」と主張した。また、台湾問題について「米国も台湾を防衛するという考え方を、はっきり示した方がよい」と指摘し、米政権の台湾防衛に関する「あいまい戦略」は「かえって地域を危険にさらしている」と強調した。  こうした与党内の議論や発言が、3文書の改定に大きな影響を与えることは必至で、岸田政権による際限のない軍備増強が進められようとしている。

新たな争奪戦の始まり
 ロシアのウクライナ侵攻は、冷戦終結後の「世界秩序」が決定的に崩れたことを示している。ウクライナ戦争の帰結は現時点では分からない。だが国連安保理常任理事国5カ国のうち4カ国が直接・間接に参戦している。米帝国主義とロシアが欧州諸国を巻き込んで文字通り死活をかけて争い、核戦争の可能性さえ排除できない状況である。
 世界資本主義は、リーマン・ショック以降、いくつかの起伏はあったがコロナ・パンデミックで一段と危機を深めた。冷戦後の世界経済のグローバル化で一握りの巨大企業に富が集中したが、大多数の労働者・人民にとって耐え難い貧困を生み出した。
 一時的に世界の頂点に君臨した米帝国主義は力が衰え、中国やインドなどの新興諸国が台頭し、ロシアも旧ソ連崩壊の混乱から回復した。欧州は独・仏を中心に結束を強化した。さらにアジア、アフリカ、中南米、中東などの途上国も米帝国主義の思い通りには動かない「多極化」した世界となった。
 米国は世界的な覇権維持と巻き返しのため、ロシアと欧州の分断を図り、ロシアを戦争に引き込んだ。
 欧州では17カ国が戦争を契機に軍備増強を決めた。ウクライナ戦争は帝国主義諸国の新たな秩序づくりへ軍事力も含む総力を挙げた新たな争奪戦の始まりでもあるが、帝国主義諸国とそれ以外の諸国や新興国・途上国との間の矛盾も激化する。
 帝国主義諸国によるロシア制裁は、それ以前から進んでいたエネルギー、食料、原料資源などの価格を急騰させ欧州諸国や新興国・途上国の経済や国民生活を激しく圧迫している。
 一方、「多極化」した世界が帝国主義諸国の思い通りにならないことも示されている。
 ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる国連総会がこれまでに採択した3月2日の「非難決議」や24日の「人道状況の改善決議」、さらに4月7日の人権理事会のロシアの資格停止決議では反対は24カ国と前回決議の5倍。中国やベトナム、イランなど前回決議の棄権国のうち18カ国が反対に回った。棄権も前回の38カ国から58カ国と5割増えた。インドネシア、ブラジル、タイなど39カ国が賛成から棄権に回った。賛成票は3割減り、反対・棄権の急増が際立った。
 このように巻き返しを図る帝国主義諸国とその他の諸国、新興国・途上国との間には深刻な対立・矛盾が深まるだろう。危機の進行と争奪戦の激化で、各国内は「軍事監獄」となって国民各層を監視・抑圧するものとなり、各国の労働者階級にとって自らの生き方を切り開く帝国主義との闘いはますます重要になる。

時代錯誤の岸田政権
 わが国支配層も、帝国主義の一角としてこの争奪戦に加わっている。
 岸田政権は、7カ国首脳会議(G7)や北大西洋条約機構(NATO)と協調して制裁に加わり、ウクライナへの防衛装備品や資金提供を行なっている。
 だが、中国はあくまで「平和的解決」を主張して制裁には加わらず、インドも同じ態度である。アジアでロシア制裁に加わっているのは韓国、シンガポール、台湾などわずかな国・地域である。かつて帝国主義による植民地化、侵略の歴史があるアジア諸国の大半は帝国主義による争奪戦に距離を置いている。東南アジア諸国連連合(ASEAN)など大半のアジア諸国は中国と経済的に深く結びついて、米欧とは一定の距離を置いている。
 岸田首相は先日、インド、カンボジアを歴訪して制裁に加わるよう「説得」したが拒否された。連休中にもアジア諸国を「説得」するため歴訪するようであるが、見当違いである。
 米欧日の帝国主義諸国によるアジア諸国の囲い込みが成功する見込みはない。
 岸田政権による時代錯誤の外交・安保政策を転換させなければ、アジアで生きていく道はない。
 復帰50年を迎える沖縄など南西諸島には米軍と一体化した自衛隊の基地強化、軍備増強が進められている。沖縄県民の闘いと連帯した国民運動を高め、平和の国の進路を切り開かねばならない。
 また今年は日中国交正常化50周年の節目の年であり、ますます強まる中国敵視政策を転換させ、アジアの平和・共生を進める広範な国民運動が今こそ求められている。(H)


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