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2022年2月25日号 1面

衰退する米国支える岸田政権

戦争・亡国の軍備増強許すな

 冷戦崩壊後の米国を頂点とした「世界秩序」がまた大きく揺らいでいる。  ウクライナをめぐる緊張の激化は、現時点で予断を許さない。
 ロシアが「独立」を「承認」したウクライナ東部地域の安全保障を口実にウクライナの主権に干渉する軍事行動は許されない。
 だが、北大西洋条約機構(NATO)は言うまでもなく東西冷戦時代に旧ソ連と対抗し封じ込めるための米欧諸国の集団的安全保障体制、軍事同盟である。ソ連の崩壊でワルシャワ条約機構は解体したが、NATOは東欧諸国を加えて東方に拡大しロシア包囲網を広げた。旧東欧諸国に米国が介入して「カラー革命」を進めた。ロシアの緩衝地帯だったウクライナのNATO加盟をロシアが拒むのは当然である。
 ウクライナ危機への対応をめぐって米欧の間でも足並みは揃っていなかったが、ウクライナのNATO加盟に反対するロシアの要求には応えず、米欧は事態をさらに悪化させ、米国は「ロシアの軍事侵攻」をあおり立ててきた。
 ロシアのウクライナ東部の「独立承認」に対して、米欧日は揃って「経済制裁」に踏み切った。制裁によってロシアと欧州の対立は深まった。だが、アフガン撤退劇で亀裂が入った米欧間の再結束を図ったバイデン政権の思惑通りになるかは、事態の進展をみなければ分らない。もともと独仏を中心に欧州諸国は米国とは別の利害で動き始めていた。それぞれ独自の「インド太平洋戦略」も定めた。そういう中で、冷戦崩壊後守勢に立たされてきたロシアは、米国の力の衰えを見究めて巻き返しに出たといえる。

米の「インド太平洋戦略」
 米政府は十一日、バイデン政権となって初の「インド太平洋戦略」を発表した。同戦略では、中国の抑止を最重要課題として、軍事・経済両面で対抗する方針を打ち出した。中国を「世界で最も影響力のある大国をめざしている」と警戒し、単独では難しいので同盟国の力を統合して「最適な力のバランス」を追求するとしている。
 そのために、安全保障面では日米豪印の「クアッド」や日米韓などの「同盟国」さらにフィリピン、タイとの関係をいちだんと強化することを掲げた。さらに台湾の自衛能力を支援することで台湾海峡の平和と安定を維持するとし、「台湾海峡を含む同盟国、友好国に対する軍事的侵略を抑止する」とも表明した。
 そして自衛隊などと相互運用性を高め「先進的な戦闘能力を開発・配備する」とした。有事を想定して日米による共同作戦や装備の配備、最新技術の共同研究なども念頭におかれている。
 中国の中距離ミサイルに対抗するとして、米軍が第一列島線に中距離ミサイルを運用する計画があり、日本も射程千キロ超の巡航ミサイルの配備などで作戦の多様化を検討、南西諸島への軍備増強が進められている。
 この間、米軍と自衛隊は、米空母を交えた大規模演習や南シナ海での対潜水艦戦訓練など、より難度の高い共同訓練を重ねている。アジアでの軍事的緊張は年々高まっている。
 また経済分野では、「インド太平洋経済枠組み」を今年の早い時期に創設する方針を掲げた。トランプ前政権が環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱したことで生じた「空白」を埋め、地域包括経済連携協定(RCEP)などアジアの経済連携で存在感を高める中国に対抗する狙いだ。だが、バイデン政権は支持基盤の労組に配慮してTPPなどの自由貿易体制には復帰できず、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国には米国に対する期待は失せて、失望感がただよっている。
 米国自身が「単独では難しい」ことを認めざる得ないほど米国の力の衰えは明らかである。だが、こうした米戦略にそって岸田政権は日米同盟を強化・拡大しようとしている。わが国支配層も、米国と歩調を合わせながらアジアでの盟主の座を狙って、軍備拡大の危険な道にいっそう踏み込んでいる。

「先制攻撃」検討する政府
 岸信夫防衛相は二月十六日の衆院予算委員会で、岸田政権が保有を検討している「敵基地攻撃能力」の手段についての答弁で「他国からのミサイル攻撃を防ぐためやむを得ない場合、相手国の領空に自衛隊機が入り軍事施設をたたく選択肢を『排除しない』」と述べた。政府は相手の軍事拠点を打撃する手段として、長射程のミサイルの保有を検討しているが、岸氏の答弁はミサイル以外にも戦闘機が相手国内に入って攻撃する手段が法的に可能だとの見解を示し「自衛の範囲内に含まれる」と答えた。日本はこれまで自国に飛んできたミサイルの迎撃など自国を防御する能力に特化してきた。岸防衛相の答弁は、これまでの専守防衛の方針から大転換することを改めて明らかにしたものである。
 政府は外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」など安保関連の三文書を今年末をめどに改定する。岸田首相もこれまでの国会演説で「いわゆる敵基地攻撃能力の保有を含めあらゆる選択肢を検討する」と表明しているが、「敵基地攻撃」の手段を具体的に示したのは初めて。しかも、相手国の領空に侵入して軍事基地を攻撃するということは宣戦布告なしの「先制攻撃」で侵略戦争そのものであり、まさに亡国の道である。
 こうした答弁が平気でやられるということ自体が許されるものではない。

中国敵視の岸田内閣
 防衛省は国家安全保障戦略(NSS)、防衛計画の大綱(大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)の改定作業に着手している。NSSは国の外交・防錆政策の基本指針として第二次安倍政権下の二〇一三年に策定され、今回初めて改定される。岸田内閣は、NSSと大綱、中期防の三文書をセットで見直す方針だが、自民党内では日米の連携強化を目的として米政府の同種文書と記載項目などの体系を統一する案も浮上している。自民党は五月に文書改訂について政府への提言を行う予定で、自衛隊と米軍をさらに一体化しようという動きである。
 米国は「インド太平洋戦略」で中国への対抗と抑止を最重要課題として掲げ、同盟関係のいっそうの強化をわが国に求めている。岸田内閣はこの流れに沿った防衛政策三文書改定を行ない、中国や朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を敵視する動きをさらに強めようとしている。
 だが、先の衆議院での中国敵視の「人権状況」決議にみられるように外交・安保政策では与野党ともに対立軸はなく、国の生き方をめぐってまとも国会論戦もほとんどない。米国の衰えがいっそう進み、冷戦崩壊後の「世界秩序」が大きく変動し、国の生き方が厳しく問われる中で、自公与党と変わらぬ外交・安保政策しかもたぬ野党の体たらくは深刻である。

共産党の犯罪的役割
 自公与党と並んで中国を敵視し、さらにロシア非難などを強めている共産党は、野党の中でずば抜けて犯罪的役割を果たしている。
 共産党は先の衆議院での中国「人権決議」で賛成しただけでなく、「中国を名指しせよ」と政府に迫った。またロシアのウクライナ東部地域の「独立承認」に対して「世界の平和秩序を覆すロシアの覇権主義に厳しく反対する」とか、経済制裁に踏み切った岸田政権に対して「平和の国際秩序の侵害を許さない確固とした外交をすすめるよう求める」などと、中国やロシアだけを標的にして非難を強めている。共産党のこうした主張は、選挙の票目当てでもあろうが、支配層の敵視政策に迎合し、帝国主義の側に立ったもので、きわめて犯罪的である。

対中敵視政策を転換せよ
 米国を頂点とした「世界秩序」が崩れ、大きく転換していく時代に、米国と歩調を合わせて中国を敵視していく道にわが国の展望が開けるだろうか。
 世界政治の中での中国の存在はますます大きくなっている。経済的にもわが国との結びつきは深まり、中国抜きにわが国経済は立ちいかないことははっきりしている。
 岸田政権が進めようとしている外交・安保政策はまったく時代錯誤である。「先制攻撃」を検討するなど言語道断である。財界の中にも中国との関係を重視する声は根強い。隣国との紛争・戦争を望む国民はいない。
 米国と歩調を合わせて、中国を敵視し、ロシアをけん制するなどアジアの平和を打ち壊す道は亡国の道である。労働運動をはじめ広範な国民運動の連携をひろげ、自主・独立・平和を求める国民世論をつくり上げよう。                  (H)


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