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2022年2月15日号 1面

岸田政権はウクライナ危機あおる米国に追随するな

中ロへの敵視政策をやめよ

 バイデン米大統領が就任して一年が過ぎた。
 バイデン氏は、昨年一月の就任演説で「米国は試練を乗り越え、いっそう強くなった。私たちは同盟関係を修繕し、再び世界に関与する。私たちは力の見本としてだけでなく、模範の力を示すことによって、主導する」と述べた。さらに二月の外交演説では、中国とロシアを名指しして「米国に対抗しようする中国の野心」「民主主義にダメージを与え混乱させようとするロシアの意志」などと、帝国主義者としての憎悪をむき出しにして「立ち向かう」と宣言した。
 そして、トランプ時代に崩れた七カ国首脳会議(G7)の協調体制の復活などを足掛かりに、対中国包囲網づくりを急ピッチで進めてきた。わが国とは四月に台湾問題を明記した日米共同声明を発表し、わが国をいっそう対中国包囲網に引き込んだ。これはアジアでの政治・軍事大国化をめざすわが国支配層の一部の要求でもあった。米国は、一貫してアジアで中国とわが国を争わせ「漁夫の利」を得ようと画策してきた。
 だが、一昨年の米大統領選挙や議会占拠事件に象徴されるように米国内の分裂、対立は修復不可能なほどに深刻で、内政のごたごたは収まっていない。それどころかアフガニスタン撤退で醜態を世界にさらし、急速に進む国内のインフレなどでバイデン政権の支持率は四〇%そこそこという低さが続いており、今年十一月の連邦議会中間選挙で勝利する見通しは極めて危ういと言われている。民主党が一議席でも減らせば政権はレームダック化し、内政も外交もまともに遂行できない事態となる。
 昨年十二月にバイデン政権が鳴り物入りで開催した「民主主義サミット」も、「民主主義陣営」の結束にはほど遠く、参加国からその意義や効果さえ疑問視されるほどに哀れなものだった。米国が世界を取り仕切る時代の終わった。この一年、はっきりしたのは米国の力の衰退がいちだんと進んだことである。

緊張の元凶は米国
 いまウクライナをめぐるロシアとの緊張があおられている。あおっているのは米国である。さらに英国も火に油を注ぐように危機をあおっている。
 米国は、昨年末から明日にでもロシアがウクライナに軍事侵攻するかのように騒ぎ立ててきた。ウクライナからの自国民退避なども呼び掛けも開始した。さらにポーランドなどへの米軍の増派を進めている。昨年来ロシア周辺に米軍機を飛来させるなど軍事的緊張も高めている。
 一方、独・仏など欧州各国は戦争の危機回避、緊張緩和のために連日、ロシアも含めた関係国との協議を重ねているが、危機回避のめどは全く立っていない。
 ウクライナ危機の起こりは、詳細は省くが、ソ連邦崩壊後の二〇〇四年の親ロ政権から親欧米派が政権を握ったいわゆる「オレンジ革命」にまでさかのぼる。当時、ジョージ・ソロスや米中央情報局(CIA)が親欧米派への資金援助や政権転覆工作に関わったことは知られている。その後いったん親ロ政権に戻るが一四年に再び親欧米派が政権を奪取し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を進めようとした。それに反発するウクライナ東部ドンパス地方の親ロ派住民との衝突が起こり、ウクライナ東部の戦闘停止のための「ミンスク議定書」が結ばれた。その後も衝突が繰り返され、一五年には欧州安全保障委会議(OSCE)の監督下でウクライナ・露・仏・独の四カ国が停戦のための「ミンスク2」に署名した。だが東部二州の自治権などを認めた合意などをウクライナ政府が履行せず、国内の分裂状態が続いてきた。現在のゼレンスキー大統領もNATO加盟を米国をはじめ欧州各国に働きかけてきた。NATOが冷戦崩壊、ソ連崩壊後も現在のロシアを仮想的にした軍事同盟である。こうした動きに、NATOの東方拡大に反対してきたロシアが反発するのは当然である。
 アフガニスタンからぶざまな撤退劇を米国とNATO軍が演じた直後の八月末、ゼレンスキー大統領は訪米し、アフガン撤収をめぐる混乱で揺らいだ外交の立て直しをめざしていたバイデン大統領と会談した。
 会談でバイデン大統領は「われわれのパートナーシップは今後はかつてなく強固になる」と力説し、対戦車ミサイルの売却を含む六千万万ドル(約八十六億円)相当の軍事協力を決めた。共同声明で「ウクライナの主権や領土に関する米国の支持は揺るがない」と改めて強調し、ロシアをけん制した。ゼレンスキー氏は八月下旬にクリミア半島の返還を求めて国際会議を開いたが、バイデン氏から返還に向けた取り組みへの支持も取りつけた。米国の狙いはドイツとロシアの間にくさびを打ち込むことにもあった。
 昨年来の経過を見れば、今回の危機の元凶が米国であることは明らかである。

米国の常套手段
 バイデン大統領や米高官らがロシアの軍事侵攻の可能性を言い立てて、欧州各国を巻き込んで地域の緊張をあおる背景には、アフガン撤退の混乱で深まった米欧間の溝の修復を進めたい米国の思惑がある。
 アフガン撤退後の欧州連合(EU)は、NATO軍とは別の即応部隊の創設を決めた。欧州独自軍の構想はフランスを中心に以前からあったが、昨秋以来、明確な動きとなってきた。
 ウクライナ危機をあおり、ロシアを敵視しNATOを対ロシアでまとめ上げ、再び米国の主導権をとり戻そうとすることが米国の狙いの一つである。
 バイデン大統領は、「米ロ間の軍事衝突は望まず、ウクライナに米軍を派遣することもしない」、仮にロシアが侵攻しても「厳しい代償(経済制裁)を課す」と再三言っている。ロシアのプーチン大統領は軍事侵攻しないと言っている。ゼレンスキー大統領も「米欧は危機をあおらないでくれ」と発言しているが、偶発的衝突は否定できない。米国には本気でロシアと闘う気はなく、またその力も衰えている。地域の国同士を争わせて疲れさせ「漁夫の利」を得るというのは、これまでも米国の常套手段であった。アジアで日中を仲たがいさせ争わせるということも米国のやり方である。こうした米国流のやり方がいつまでも続くわけがない。
 独・仏は米国と連絡は取り合ってはいるが、ロシアとの衝突回避のための独自にロシアとの直接協議を重ね、少なくとも「ミンスク合意」の線で事態収拾を図ろうという姿勢である。危機をあおるだけの米国とは一線を画している。
 地域紛争をあおって「漁夫の利」を得ようとする米国の思惑を打ち砕かなければならない。

岸田政権対ロシア対抗を表明
 こうした米国の策動に、岸田政権も同調して、わが国をいちだんと危険な方向に進ませようとしている。岸田首相は一月のバイデン米大統領とのテレビ会談で、対ロ政策をめぐって「いかなる攻撃に対しても強い行動をとる」ことで合意し、ロシアとの関係悪化の道に踏み込んだ。二月十一日にオーストラリアで開かれた日米豪印(クアッド)の外相会合でもクアッドが対中国のための自由で開かれたインド太平洋」の枠組みだけでなく、ウクライナ問題も議題としロシアに対峙(たいじ)することも加えられた。
 さらに国会でも、衆議院が八日、参議院は九日の本会議で「ウクライナを巡る憂慮すべき状況の改善を求める決議」を自民党、公明党など与党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、日本共産党などの賛成多数で採択した。
 決議は「「ウクライナ国境付近の情勢は国外勢力の動向によって不安定化し、緊迫した状況が継続している」と指摘し「こうした状況を深く憂慮する」「力による現状変更は断じて容認できない」と強調した。ロシアを名指しせず「非難」の文言も入っていないが、れいわ新選組だけが「明らかにロシア非難決議だ」などと反対したように、決議がロシアに向けられたことは明らかである。この決議の狙いは、先の衆議院での中国敵視の「人権決議」と同様に、危機の原因を覆い隠し、曖昧にして安保外交政策での挙国一致の状況をつくるためである。こうした姑息なやり方で中国やロシアを敵視するような国内世論作りに各野党が足並みを揃えて賛成するとは言語道断である。野党は安保・外交政策で、明確な対決軸を立てるべきである。対決軸なしに米国に同調して軍備増強、戦争準備政策に狂奔する安倍・高市らの右派とどう闘うのか。

帝国主義支援する共産党
 衆参両院の国会決議に賛成した共産党は十二日、「ウクライナ問題 ロシアは軍事威嚇をやめよ」という志位委員長の談話をわざわざ発表した。「ロシアがウクライナ国境沿いに大軍を展開し、さらにベラルーシで合同軍事演習を開始するなど緊張が高まっている。ロシアは軍事力による威嚇をただちに止めるべきである」などとロシアを名指しし、緊張の原因がロシアの側にあると決めつけて「威嚇を止めよ」と要求している。そして政府に対して国際社会に働きかけるよう求めている。
 この談話は、昨年秋以降もウクライナに武器を売却するなど軍事協力を強め、危機をあおっている張本人の米国についてはまったく口をつぐんでいる。先の中国敵視の「人権決議」賛成に続くこうした共産党の態度は、まさに帝国主義の側に立ち、対ロシア包囲に加担する犯罪的な行為であり、厳しく糾弾されるべきである。

自主・独立の国の進路を
 米国の衰退は誰の目にも明らかである。
 北京冬季五輪に合わせて中ロの首脳会談がやられた。会談では「中ロ双方が互いの核心的利益、国家主権及び領土保全を支持し、両国への内政干渉に反対する」「NATOの継続的な拡大に反対し、他国の歴史と文化を尊重し、他国の平和的発展を重視するようNATOに要請する」「アジア太平洋地域における閉鎖的連盟締結の形成と陣営対立の創出に反対し、米国が推進する『インド太平洋戦略』が地域の平和と安定に対してもたらす負の影響を警戒する」などと、米国を名指しして、中ロの連携を確認している。中ロも欧州の主要な国ぐにも米国の力の衰退を見透かして、独自の道を進んでいる。
 岸田政権が米国に踊らされ、こうした中ロの動きに対抗してアジアでの政治・軍事大国化を進めようとするのはまったく時代錯誤で、わが国を亡ぼす道である。野党も対中ロ政策では支配層の思惑通りという体たらくである。
 平和を希求する国民は広範にいる。保守層内部でも戦争を望む者は少数である。労働運動も真価が問われている。
 自主・独立とアジアの平和の国の進路を求める広範な国民世論をつくり上げよう。(H)


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