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2021年12月15日号 1面

「敵基地攻撃能力」を所信表明

軍備増強加速する
岸田政権を許すな

 総選挙後初の臨時国会が召集され、岸田首相は十二月六日、衆参両本会議で所信表明演説を行なった。
 演説では、コロナ克服・新時代開拓のための経済対策、新型コロナ対応、経済回復に向けた支援、未来社会を切り拓く「新しい資本主義」、新しい資本主義の下での成長((1)イノベーション、(2)デジタル田園都市国家構想、(3)気候変動対策、(4)経済安全保障)、外交・安全保障、災害対応、憲法改正などについて岸田首相の政策が表明された。
 当面する新型コロナ対応ではワクチンの三回目接種の前倒しや、新しい変異種「オミクロン株」に対して水際対策を強化すること、国産ワクチンや治療薬の開発・製造への投資などが表明された。また総額五五・七兆円の経済対策をめぐって「必要な財政支出を躊躇(ちゅうちょ)なく行う。経済あっての財政で、順番を間違えてはならない」と財政再建より、経済立て直しを優先する考えを示した。
 首相が掲げる「新しい資本主義」について具体的な内容は乏しく、当面、安倍・菅政権の政策を焼き直して継続するような内容にとどまっている。
 しかも、政策遂行のための財源の多くは赤字国債発行に頼らざるを得ない「抜け出せない構図」が続き、先進国のなかでも最悪の財政赤字がさらに膨らんでいくことになる。
 先の総選挙で過半数は維持したが、自公政権にとっていわば「薄氷の勝利」で来年七月の参院選挙で勝利するためには、なりふり構わず「バラマキ」政策を続ける以外にないのが実際である。十万円の給付をめぐっても政府の方針に多くの自治体から異論が吹き出し、給付方法が二転三転するなど、第二次岸田政権は発足早々から混乱を呈しており、野党対策もあって譲歩を余儀なくされ、失地回復に必死の状態である。

「敵基地攻撃能力」を公言
 岸田首相は、外交・安全保障政策で「我が国を取り巻く安全保障環境は、これまで以上に急速に厳しさを増しています。経済安全保障や、宇宙、サイバーといった新しい領域、ミサイル技術の著しい向上、さらには、島嶼(とうしょ)防衛。こうした課題に対し、国民の命と暮らしを守るため、いわゆる『敵基地攻撃能力』も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます。このために、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を、おおむね一年をかけて、策定します」と演説した。
 十月の岸田政権成立時の特別国会での所信表明も含めて、歴代首相の所信表明演説や施政方針演説で「敵基地攻撃能力」が公然と表明されたことはこれまでない。今回初めて首相が「敵基地攻撃能力」に言及したことの意味は大きい。
 菅前首相が四月の日米首脳会談で、「台湾」を明記した共同声明を発表し、公然と中国への敵対と内政干渉に踏み出した。
 今年の「防衛白書」でも「中国が東シナ海や南シナ海で一方的な現状変更を試みているだけでなく尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返し、海警法を施行するなど緊張を高めている」と中国への警戒を呼び掛け、初めて「米国と中国との関係」を白書の第三節に入れ、台湾問題も記述した。
 防衛省は、岸田首相が表明している来年中の「国家安全保障戦略」の初改定に向けて、十一月に「防衛力強化加速会議」(議長=岸防根本的転換衛相)を設置して「敵基地攻撃能力」の保有も含めた検討を始めた。こうした中で、岸田首相は、明らかに中国を念頭においた「敵基地攻撃能力」に国会の演説で初めて言及した。岸田首相はわが国の防衛政策を「専守防衛」から転換することを内外に宣言したと言える。

日米訓練一体運用進む
 米国の対中対抗策が経済、政治、軍事面でいちだんと強化される中、わが国の軍備増強と合わせて日米の共同軍事訓練も単なる共同訓練だけでなく、離島防衛を口実に日米が実践を想定・意識した一体的に作戦行動を行う訓練になってきている。
 十二月の陸上自衛隊と米海兵隊による「離島防衛作戦」の共同訓練では、沖縄・嘉手納基地から自衛隊輸送機で米軍のロケット砲システムを海上自衛隊八戸基地(青森県)に輸送する訓練が行なわれた。これは米海兵隊の「機動展開前進基地作戦(EABO)」に基づく初の共同訓練となった。また王城寺原演習場では自衛隊と米軍が共同作戦を立ててロケット砲や対艦誘導弾の発射指示の訓練を行った。これはEABOと自衛隊の離島防衛の「領海横断作戦」を組み合わせて円滑な運用を行なうための訓練だった。
 オースティン米国防長官は講演で「(台湾侵攻の)リハーサルのようだ」と話した。
 さらに海自は米海軍と空母を使った訓練も重ねている。十一月の演習では米原子力空母「カール・ビンソン」と、海自の空母「いずも」が並走し、米空母に海自の隊員を乗せ、戦闘機「F C」の発着艦訓練も行った。米第七艦隊のトーマス司令官は「実際の戦いを考えたとき、空母は多い方がいい」と述べている。

離島防衛を口実に
 台湾「有事」や尖閣諸島防衛を口実に沖縄・奄美などの南西諸島へのミサイル配備などが住民の反対の声を押し切って着々と進められている。しかもこれはこれは「離島防衛」という名目で進められている。
 だが、南西諸島などへのミサイル配備は実際には直接中国本土や朝鮮民主主義人民共和国を射程内に収めて直接狙えるということでもある。来年改定される「中期防衛力整備計画」でも、敵の射程外から目標を攻撃できる射程距離の長い「スタンドオフ・ミサイル」などの開発・整備などが進められようとしている。長距離巡航ミサイルの開発・配備も計画されている。二〇一三年の「国家安全保障戦略」策定以降、事実上「敵基地攻撃能力」は整いつつあり、これまで公言してこなかっただけである。離島防衛は口実に過ぎない。
 岸田首相の所信表明に対して、各党が代表質問を行ったが、自民党の茂木幹事長は「『敵基地攻撃能力』の保有は有力な選択肢だ。保有について検討を加速すべきだ」と述べ、岸田首相に加速を促した。
 立憲や共産党は「専守防衛を逸脱する」と批判したが、自民党がマスコミなどとあおる中国非難に同調していては敵基地攻撃能力保持の策動とは闘えまい。
 日本維新の会や国民民主は、中国への非難、北京五輪ボイコットなどを主張し、岸田政権の後押しに終始した。敵基地攻撃を公言する右派の高市らはます増長して、岸田首相に迫っている。安倍前首相も「台湾有事」を口にして中国への敵視をあおっている。「日中新時代」などと言ったのはまったくの口先だけだったのである。
 バイデン政権は国内での支持率挽回をのためにことさら中国への対抗を強めている。米中対立はますます激化し、米中の狭間にあるわが国の進路はいちだんと問われる。中国に敵対してはわが国経済は立ちいかない。米国に同調して中国との対決の道を進むのか、アジア諸国と共に平和と安定の道を進むのか。国会の論戦だけでは片付かぬ。国民世論を喚起して岸田政権を追い詰めよう。    (H)


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