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2021年11月5日号 2面・解説

G20、国際協調は形がい化

米の対中対抗、さらに強まる

 二十カ国・地域(G20)首脳会議が十月三十日から二日間、イタリアで開かれた。会議は、二〇一九年の大阪以来二年ぶりの対面形式で行われた。
 コロナ危機が、以前から行き詰まっていた世界経済の危機を加速させ、各国ともコロナ対策に追われ、歴史的な景気後退から抜け出すのは容易ではない。わずかながらの景気回復過程も原油高をはじめ半導体などの供給不足に足を取られている。気候変動など地球環境問題もいちだんと深刻化している。各国で水害や干ばつなどで人的な被害が広がるだけでなく、世界的食糧不足も人類の生存を脅かすほどに深刻化している。
 今回のG20サミットは、世界経済の問題、喫緊のコロナ対策に加えて英国で開催される第二十六回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の開幕直前でもあり、各国が気候変動対策で協調できるのかも注目された。

形がい化したG20
 G20は、アジア通貨危機等を受けて、一九九九年に新興国も含めた二十カ国・地域の「財務相・中央銀行総裁会議」が創設され、リーマン・ショック後の二〇〇八年にG20首脳会議(サミット)が始まった。正式名称は「金融・世界経済に関する首脳会合」で、参加国全体で、世界の国内総生産(GDP)の約八割以上を占めている。
 少数の国が世界経済を牛耳っているという批判もあるが、リーマン・ショック直後、各国は世界的な金融危機、経済危機に対処するとして「国際協調」で大規模な金融緩和や財政支出に踏み切った。とりわけ中国による「四兆元」の景気対策で世界は一息ついた。だが、国際協調は一時的で、各国は国内の危機を外部に転化するため通貨競争、貿易戦争を激化させてきた。
 とりわけ衰退する米国はトランプ前政権が「米国第一」主義を振りかざして巻き返し策に出て、中国だけでなく欧州をはじめG20参加各国に対して関税引き上げや貿易制限などを要求、国際協調どころではなくなった。トランプの横やりで形式的な首脳宣言さえ採択できなくなるほど、G20サミットは形がい化した。

乏しい具体策
 今回のG20サミット閉会にあたって「世界経済」「コロナ対策」「気候変動」問題などについて首脳宣言が採択された。
 経済問題では、最低法人税率一五%など国際課税ルールの早期実行や供給網の混乱など世界的な課題を注視することなどで一致した。コロナ対策では、全ての国で今年末までに人口の四〇%、来年半ばまでに七〇%へワクチンを普及すること、途上国へのワクチンの普及などが確認された。気候変動対策では、海外への石炭火力の金融支援停止は一致したが、国内の石炭火力問題では一致できず、今世紀半ばまでに温暖化ガス実質ゼロを達成するための具体的な目標や計画などは提示できなかった。
 二年ぶりに各国首脳が出席したG20サミットだったが、中国、ロシアは対面には参加せずオンライン参加にとどまった。
 首脳宣言の内容も努力目標のようなもので具体策は乏しく、ワクチン普及については「各国の保健相に接種を加速する方法の検討を要請する」と事実上丸投げした。世界経済のボトルネックになっている原油高騰などの供給制約については、バイデン米大統領が原油・ガス価格の高騰に対処するよう産油国に増産を促したが、プーチン・ロシア大統領は「市場の安定はすべての参加者の責任ある行動にかかっている」と不快感を示した。
 世界経済の危機がいちだんと進化した中で開かれたG20サミットだが、各国の足並みはそろわず、世界は「国際協調」どころではないことが改めて示された。

協調から闘争の場に
 バイデン米大統領は一月の就任早々「パリ協定」への復帰を始め、トランプ前政権が崩してきた対外関係を修復し「国際協調」に復帰するかのようなポーズをとっている。だが、中国への対抗を強めるという点では、オバマ政権の後半から米国の対中政策は一貫している。気候変動対策では中国の協調も必要としているが、世界政治、経済、軍事などあらゆる点で中国の台頭を抑え、蹴(け)落とし、覇権を手放さないことが米国の最大の戦略目標であり、バイデン氏は「国際協調」を重視すると言いながら、「同盟国と協調」して中国との対立を深める道にいちだんと踏み込んでいる。バイデン政権はトランプ前政権と同一の米国第一主義である。
 バイデン米大統領は、今年G7での同盟再構築を足掛かりに、日米豪印の「クアッド」、米英豪の軍事同盟AUKUSなど矢継ぎ早に対中国包囲網を構築し、さらに「台湾」防衛を口実に米軍の台湾駐留にまで踏み込んで、東アジアの緊張をあおっている。
 バイデン米大統領は、今回のG20サミットの最中の三十一日、サプライチェーン(供給網)についての会合を開いた。日・英欧州連合(EU)などが参加し、原材料や半製品などのサプライチェーンの強化を確認し、来夏にも関係者による国際会議を開くとした。米国は中国の先端技術開発や資源の確保を経済安保の脅威として同盟国の連携強化を図っている。
 中国の習近平主席もサプライチェーンの安定に関する国際フォーラムの開催を提案。西側諸国の「中国外し」に対し、「イデオロギーで線を引いたりすることは、技術革新にとっては百害あって一利もない」と強くけん制している。
 G20は協調から闘争の場に変化している。

「中国外し」は成功しない
 だが、G20創設当初から見ても、米中の力関係は大きく変化している。中国は購買力平価GDPで一六年に米国を追い抜いた(図)。名目GDPでも数年のうちに米国を追い抜くと見られている。日、独などの存在感は年々小さくなっている。EUの最大の貿易相手国は中国であり、わが国は購買力平価GDPではインドにも追い抜かれた。そのインドも中国が最大の貿易相手国である。
 独・仏・EUも中国を意識して「インド太平洋」への関与を強めようとしている。そのために一時的に米国との関係改善も行っているが、アフガン撤退後のEUは独自の「戦略的自立」の方向に踏み出している。来年フランスがEU議長国であり、AUKUS創設での豪州への原潜供与をめぐって対米不信は収まらず、同盟再構築は危うい。
 米国自身も中国とのサプライチェーンで深く結びついているのが実際で、バイデン政権は中国をサプライチェーンから締め出すことはできない。米中間の貿易、投資も膨大になっており、締め出せば米国は自身の首を絞めることになる。米国が中国との関係を狭めれば、他の国が中国との関係を広げるだけである。
 G20サミットは形がい化し、諸国が足並みを揃えるのはますます困難となっている。バイデン政権の進める対中国政策の成功はおぼつかないとしても世界の政治的・軍事的緊張は高まる。そうした道ではなく、諸国が長期に平和を維持し経済活動を発展させるためには、世界経済の一つの中心となった中国と平等、互恵の関係を構築することが正しい選択である。(H)


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