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2021年6月5日号 1面

米国などによる
ワクチンの政治利用反対
途上国支援を拡大せよ

東京五輪の無条件中止を

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。
 世界保健機関(WHO)の集計では、世界の感染者数は六月一日現在で、約十七億四百二十六万人、死者は約三百五十四万八千人にのぼり、増え続けている。公式統計の三倍以上の死者数になるという推計もある。貧困国への打撃が大きく、ペルーは五月末、累計死者数をそれまでの三倍近い約十八万人に修正した。
 わが国も感染が収まる気配はなく、大都市部のほか北海道、沖縄などにも広がった「緊急事態宣言」や「重点措置」の発出、解除、再発出、再々延長などの事態に陥っている。国民の大多数が政府対応に不信感を募らせ、内閣支持率は下がるばかりである。

ワクチン接種でも出遅れ
 わが国では、ワクチンの確保も接種も大幅に遅れ、先進諸国の中でも最低の接種率にとどまっている。
 厚労省がファイザー製ワクチンを承認したのは二月十四日。医療従事者への先行接種は十七日から開始されたが、スケジュール通りには進まず、五月末でようやく六五%を超えた。
 一般向けの高齢者への優先接種が四月十二日に始まった。だが、当初は供給量が少ない上に、集団接種の経験がない自治体への丸投げで対応も混乱をきわめた。接種希望者の殺到で電話やネットが全くつながらないケースが各地で発生した。五月に入って本格的な接種が始まっても同じような状況が続いた。
 さらに国によるテコ入れで自衛隊を投入し、東京、大阪に「大規模接種」センターを設置したが接種数は限られている。また、職域や大学での接種も始まろうとしているが、自治体による接種との関係も含め多くの問題を抱えたままである。河野担当相は、「千人以上の大企業でスタートしたい」との方針を示しているが、ここでも大企業優先で、圧倒的多数の中小、零細業者やそこで働く労働者は置き去りにされている。
 政府に効果的な感染抑制のための戦略的な方針がなく、ひたすら接種数を増やすだけの施策は混乱を撒き散らすだけである。

構造改革路線の破たん
 コロナ禍以前も日銀による金融緩和は挫折していたが、感染拡大による社会的混乱はわが国がいかに立ち遅れ、後退しているのかをまざまざと暴きだした。
 大金をつぎ込んだアベノマスク、待たされ続けた給付金、挙句の果ては四カ月間も機能していなかった接触確認アプリなど枚挙にいとまがない。さらに今回ワクチン接種をめぐっての右往左往である。病床ひっ迫、医療崩壊、治療を受けられないまま亡くなる人など、先進国どころか途上国のような惨憺(さんたん)たる状況である。
 小泉改革以来、歴代保守政権は「構造改革」を中心とした成長戦略をとってきた。公立病+院への赤字攻撃と廃止・民営化、国立大学をはじめ公的機関の独立法人化、地方自治体合併など国民生活を支える公的部門の徹底的な削減、縮小。感染症対策も置き去りにされてきた結果である。
 世界は成長どころか、資本家でさえ「持続不可能」と言わざるを得ないほどに資本主義は行き詰っている。コロナ禍拡大は、持続不可能な社会の危機をいっそう加速している。

ワクチンが戦略物資に
 世界保健機関(WHO)の年次総会が六月一日まで開かれた。テドロス事務局長は、一部の先進国にワクチンがが集中し「ワクチン接種の七五%が十カ国に集中している。恥ずべき不公平だ」とワクチン接種に深刻な格差があると批判した。アフリカでの接種率はわずか一%にとどまる。
 だが、先進国を中心に自国優先で囲い込んだり戦略物資としてワクチンを利用する動きが相次いでいる。ワクチンの共同購入分配の枠組み「COVAX」による分配は、五月末までに百二十七カ国・地域に七千七百万回分しか分配されなかった。世界的にはワクチンは全く不足している。
 米国は「協調の促進」を唱えて、五月に八千万回分を提供する方針を示したが、国内では約三億回とハイペースで接種したのと比べ、他国へ提供する分量はきわめて少ない。米国はインドで製造されているワクチンの新興国への提供を目論んだが、インドでの感染拡大でとん挫した。一方、中国製ワクチンの無償・有償提供は、すでに計三億回分になっている。ロシアも戦略的外交を繰り広げている。ワクチン製造特許権の一時放棄をめぐっても、米欧や中国の意見の対立は解消していない。
 世界でパンデミックを止めなければ、ワクチンが効かない変異株が生まれる恐れが大いに残るし、現にベトナムでは新たな変異株が確認された。また接種が進んだ一部の国が危機を脱しても、進まない国はますます取り残され、世界経済全体の回復はさらに遅れる。
 大国が生殺与奪権を握って争っているのが国際社会の実際であり、WHOが世界的な感染拡大を抑え込むにはあまりに非力である。

国民無視の五輪強行
 菅政権は、七月開会予定の東京五輪へと突き進むため、なりふり構わずワクチン接種の拡大に狂奔している。菅首相のモットーは「自助」が先で「共助」「公助」は後回しだが、「公」を最大限動員してのワクチン接種は皮肉というほかない。だが、そこには感染抑止戦略はなく、とにかく開会式に間に合わせるために「接種数を増やせ」という姿だけである。
 感染拡大を効果的に抑止するためには、感染拡大の可能性を持っている人びと、感染可能性が大きい職場で働く労働者、さらに行動範囲が広い青年層などへの接種を優先するべきだろう。だが医療・介護関係者をのぞけば優先接種の順番はそうなっていない。労働組合も一部を除いて組合員への優先接種を要求する動きは少ない。連合も二月に厚労省へワクチン接種についての要請を行っているが、厚労省と協力して接種が円滑に進むようになどというもので組合員を守るという内容はない。
 労働組合は組合員はもとより同じ職場の仲間の生命、生活を守るためワクチンの優先接種を要求すべきではないか。
 外国からも多数の選手、役員が入国する。ワクチンを接種したからといって感染しない保証はなく、再拡大は必至である。
 菅政権の国民の生命、生活を無視した五輪強行は許されない。(H)
接種体制の十分な検討を
荒川区議会議員 河内ひとみ(あらかわ元気クラブ)

 接種の開始にあたり「希望者が平等に接種できるような体制づくりが行政の役割」ということで、「予約関係」「ワクチン接種の優先順位」「接種会場での配慮」「副反応への対応」など、区長と保健所長に申し入れを行った。
 荒川区では五月末で七十五歳以上の対象者の七八・五%(約三万七千六百人)が接種した。七月末までには六十五歳以上の高齢者への接種は終わる見込みだ。他所の混乱を見て、接種予約の電話回線を増やしたりしたので、最初の日以外は比較的スムーズだった。
 ただ、区内に住所があっても仕事など諸事情で区外に居住している人には接種券が転送されないなどの問題も出ている。
 本来、感染拡大防止が目的なら、接種の優先順位はあまり移動しない高齢者よりも、行動範囲が広い若者や感染を広げる可能性が大きい介護、医療、施設、学校、保育をはじめ接触・対面の仕事や集団で仕事をする職種から始めるべきではないか。


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