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2021年2月25日号 2面・解説

日米/
米日豪印の「同盟化」策す

中国包囲の成功はおぼつかず

 米国、日本、オーストラリア、インドの四カ国による外相協議が二月十八日、バイデン米新政権の発足後初めて開かれた。トランプ前政権の下で強化されたこの会合を主導する米国の狙いは、中国包囲網の形成・強化である。だが、四カ国とも矛盾を抱え、その成功はおぼつかない。先兵となる菅政権を倒し、新たな国の進路を切り開かなければならない。
「クアッド」の成立
 米国は、日本、オーストラリア、インドとの四カ国による中国包囲網形成を強めている。
 四カ国は二月十八日、バイデン米新政権の発足後初の外相協議を開いた。
 この枠組みは通称「クアッド」と呼ばれ、ブッシュ子政権と第一次安倍政権とによって二〇〇七年に準備的に発足した。
 この枠組みは、日米安保条約(日米)、太平洋安全保障条約(ANZUS条約=米、オーストラリア、ニュージーランド)、冷戦崩壊後の米印接近と「米印防衛新フレームワーク」(〇五年)といった、米国中心の同盟体制を「発展」させたものである。
 〇六年には、日米豪三カ国の安全保障対話で、インドの参加が提案されした。
 米国の狙いは、台頭する中国へのけん制である。〇一年に米戦略の一環として命名した「不安定の弧」、それに追随した麻生外相(当時)による「自由と繁栄の弧」のための具体化策でもあった。米国の一部では、クアッドを「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」と呼んだ。
 クアッドが正式に発足したのは、トランプ前政権下の一七年である。この年、フィリピンのマニラで局長級協議が開かれ、二〇年には第二次安倍政権の呼びかけで会合が定例化されることとなった。
 中国が反発し、警戒したのは当然である。

「国際法」掲げた中国敵視
 一月に発足したバイデン新政権は、「国際協調」を掲げている。アジアにおけるそれは、台頭する中国に対抗した、インド太平洋有力国との連携である。
 新政権発足直後の外交演説で、バイデン大統領は「(中国の)経済的な不正利用」「人権、知的財産権、グローバル・ガバナンスをめぐる中国の攻撃」などと決めつけ、「最も深刻な競争相手」と規定して敵視をあおり立てた。
 ブリンケン米国務長官も楊・共産党政治局員(外交担当)との電話会談で、「(中国の)台湾海峡を含むインド太平洋の安定を脅かす試み」などと決めつけて「責任を追及する」と居丈高な態度に終始した。新疆ウイグルやチベット、香港にも言及したという。
 米軍は、トランプ前政権以降、海軍に頻繁に台湾海峡を通過させて中国を挑発・けん制している。
 台湾は中国の一部で、中国政府は台湾を「核心的利益」と位置づけている。発言を受け入れられるはずもない。楊氏が「中国の主権と領土保全にかかわる」と主張したのは当然である。
 二月のクアッドでは、中国の海洋進出に対する「共同対処」を念頭に、「国際法の順守」が強調された。
 これは、中国が二月一日に施行した海警法を口実としている。同法は、日本の海上保安庁にあたる海警局(共産党中央軍事委員会の傘下)を準軍事組織に位置づけ、武器使用や建造物の強制排除を認めた。
 確かに、海警法は尖閣諸島(沖縄県)におけるわが国の主権を侵害する可能性をはらんではいる。
 だが、この程度の武器使用などは、日米をはじめ各国も法的に規定しており、「国際法違反」といえるレベルのものではない。例えば、米国の沿岸警備隊は陸海空三軍と海兵隊に続く「第五の軍隊」と位置づけられており、大統領命令によって海軍の一部として運用される。海警法に関して、米国が中国を非難する資格はないのである。
 しかも、日中は同法施行直後、高級事務レベル海洋協議を開き、「海警局と海上保安庁のさらなる協力」で合意している。日本政府はこの場で、海警法について「抗議」していない。「国際法違反」とまでは断定できなかったからであろう。このような実際がありながら、敵視をあおるわが国政府・与党の態度こそ、国際的信義に反する。

困難だらけのクアッド
 クアッドは順調に強化されてきたわけではない。
 〇八年にはオーストラリアでラッド政権が誕生、同国は一〇年まで枠組みを事実上離脱していた。オーストラリアにとって、中国は最大の輸出・輸入相手国であり、この関係を無視できなかったのである。
 また、中国と国境紛争を抱えるインドにとっても、中国は最大の輸入相手国で、第三の輸出相手国である。インドは一七年、中国主導の上海協力機構(SCO)に正式加盟している。またインドは歴史的に非同盟外交をとり、日米豪との同盟には国内でも異論が強い。インドが外相級会議には応じても、クアッドの首脳会議に後ろ向きなのは、このためである。
 米国も中国に依存した面があり、バイデン政権でさえ地球環境問題での中国との連携を掲げている。
 このように、インドやオーストラリアはもちろん、日本、あるいは米国でさえ、中国への「対抗一辺倒」とはいかないのが実情なのである。
 しかも、クアッドは「民主主義」を旗印とするが、米国での議事堂突入事件やインドの農民運動への弾圧など、実態は「民主」に程遠い。
 米国がクアッドで中国包囲網を強化しようと狙ったところで、首尾よく進む保証はないのである。

包囲網の尖兵務める菅政権
 菅首相は一月の施政方針演説で、改めて日米同盟は「わが国外交・安全保障の基軸」などと述べ、バイデン米次期大統領と「早い時期に会い、日米の結束をさらに強固にする」とした。さらに「米国をはじめ、ASEAN、オーストラリア、インド、欧州などとの協力を深化させ」「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に取り組む」と表明した。
 この下で、イージス・システム搭載艦の採用、沖縄県名護市辺野古への新基地建設、憲法第九条改悪など、政治軍事大国化の道も改めて示した。
 さらに菅政権は、英国など欧州諸国をアジアに引き込んでクアッドを「補強」すべく策動している。
 日本と英国は二月三日、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、英空母と自衛隊の共同訓練で合意した。欧州連合(EU)離脱で国際的影響力低下に陥った英国の関心をアジアに向けさせようというものだ。英国もアジア市場へのコミットを求め、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請した。菅政権は、ドイツやフランスにも秋波を送っている。
 だが、中国との経済関係を強める欧州諸国は、米日と同じ態度をとっていないことは言うまでもない。
 まして、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は中国包囲網から距離をとっている。中国との間に南シナ海問題などを抱えていたとしても、あくまで「域内の問題」として自主的に解決しようとしている。米国などを引き込んで中国に対抗することを狙う、日本との差は明白である。
 菅首相は「多国間主義を重視」などというが、実態は、安倍前政権による日米基軸、その下で中国に対抗した政治軍事大国化路線の継続・強化である。

ジレンマは不可避
 これらの結果、日米基軸のわが国は、米国の対中国戦略の最前線で「不沈空母」の役割を担われることになる。対中国関係を「安定した日中関係は、両国のみならず、地域、国際社会のためにも重要」などと述べたが、これでは「安定」するはずもないのである。
 だが、日米関係でさえ万全ではない。
 一例は、在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を定める特別協定問題である。日米両政府は二月十七日、三月末までの同特別協定を一年間延長することで合意した。二一年度の日本側負担は、過去五年間と同水準の約二千億円となった。トランプ前政権は予算の四倍増を求めていたため、政府・与党内には安堵の声も聞かれる。だが、「思いやり予算」は一九七八年の初導入時から三〇倍以上に拡大しており、これほど負担しているのは世界広しといえども日本だけである。来年度以降の負担は再協議されることになっており、さらなる負担を求められる可能性がある。日本側にとっては頭の痛い問題である。
 何より、もはや日本経済は中国抜きでは成り立たなくなっている。米国が対中包囲網への積極的協力を求め、菅政権がそれに応じようと思っても、経済という下部構造は思うに任せないのである。財界を中心とするわが国支配層は、ますますジレンマを深めざるを得なくなる。
 労働者階級が主導権を握り、菅政権の日米基軸の亡国の道と闘う広範な戦線をつることが、喫緊の課題となっている。   (K)


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