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2020年10月15日号 2面・解説

学術会議介入は思想・言論統制

改革と軍大化策動の一環

 日本学術会議の会員任命をめぐる問題は、発足間もない菅政権の反動的な正体をあらわにさせている。安倍前政権以降、歴代政権にも増して強まった言論統制、思想統制の一環である。これは、内外の危機への対処を余儀なくされた、わが国支配層の弱さのあらわれである。
 菅首相は、日本学術会議が推薦した新会員候補百五人のうち六人の任命を拒否した問題について、「総合的、俯瞰(ふかん)的」などと繰り返して理由を明言せず、さらには名簿を「見ていない」、法解釈を「変えていない」などと開き直りの姿勢に終始している。
 この問題は、日本学術会議法に反する違法行為であるというだけでなく、学問の自由を保障する憲法に反し、従来の政府答弁(「形式的任命にすぎない」(一九八三年・中曽根首相)にさえ反するもので、菅政権による言論・思想統制にほかならない。

安倍政権の統制を受け継ぐ
 安倍前政権は、歴代政権に比しても、言論統制を強化した政権であった。
 これは、政府がさまざまな手段でメディアに圧力をかけて意にそう報道をさせたというだけではない。幹部を買収するなどで、政権へのいわゆる「忖度(そんたく)」を広範につくり出し、それが報道現場を萎縮させるというプロセスを通じてのものであろう。
 安倍前首相は年十数回にもわたって、マスコミ幹部との会食やゴルフを続けていた。こうした買収費用の原資は、国民の血税を元手にした政党助成金である。
 マスコミ界における「安倍応援団」の「第一人者」である田崎・時事通信社特別解説委員によれば、二〇〇七年九月の第一次政権退陣直後から、三カ月に一回の割合で会食を続けてきたという。まさに、露骨な買収で、報道スタンスをめぐる「意思一致」がなされたことは想像に難くない。
 それだけではない。
 一四年には、「友人」とされる籾井・三井物産副社長を、NHK会長職にねじ込んだ。籾井会長は「政府が右と言うことを左とは言えない」などと露骨に、NHKの政府の広報機関化を正当化した。
 一六年二月、高市総務相は、政府が「政治的公平に反する」と判断した放送局には停波を命じることができると答弁し、安倍首相もこれを擁護した。
 報道機関への露骨な介入・干渉である。
 こうしたなか、安倍政権に「批判的」とされた、NHKや民放報道番組の主要キャスターが相次いで降板する事態も発生した。
 菅官房長官(当時)は、記者会見で特定の記者に「あなたに答える必要はない」と回答を拒否、コロナ禍を口実に会見に参加する記者を制限することまでした。安倍前政権下でのマスコミ統制を、先頭で担ってきたのである。

暴論や右翼勢力を悪用
 安倍前政権下で進んだメディア支配の特徴に、暴論や右翼勢力を利用した世論操作がある。
 自民党の大西英男・衆議院議員は、一五年、安全保障関連法案に批判的なマスコミを「懲らしめる」「広告料収入がなくなることが一番。経団連に働き掛けてほしい」などと発言した。こうした暴言は、大西議員に限ったものではない。
 安倍前政権はせいぜい、暴言に「厳重注意」程度の「処分」しか課さず、事実上放置し、擁護した。当然、発言は繰り返され、次第にエスカレートした。
 橋下元大阪市長ら日本維新の会も、先兵役を果たした。松井・大阪市長は辺野古新基地建設に反対する県民運動に悪罵を投げつけた。橋下氏は、今回の学術会議問題に関しても、軍事研究の抑制という態度をとっている学術会議に対し、「こちらの方が学問の自由侵害」などと暴言を吐いている。
 政府と結びついた、右翼勢力の動きもある。
 右翼・吉田DHC会長を代表者とするCS放送は、沖縄県民の闘いに「テロリスト」などと悪罵を投げつけた。関西生コン支部の正当な組合活動に対して、悪質経営者の意を受けた右翼勢力が妨害宣伝を行い、報道機関は一方的な情報を垂れ流した。これには、首相官邸の意思が働いたともいわれている。政府・与党は、在日韓国・朝鮮人へのヘイトスピーチにも「寛容」な姿勢をとり続けた。
 百田尚樹氏らの御用「文化人」も跋扈(ばっこ)した。百田氏は、県民運動を報じる沖縄県の地方紙を「つぶす」と暴言を吐いた。
 こうした策動は、世論全体の「自粛」傾向を強めさせ、政権の意思に忠実な方向へと誘導したのである。
 こうした結果、国際組織「国境なき記者団」(RSP)による「世界報道自由度ランキング」において、日本は六十六位で、主要国(G7)中最低である。これは、旧民主党の鳩山政権当時(第十一位)から、大幅に下落している。
 マスコミはいちだんと御用化、「言論の自由」など存在しない状況となっているのである。菅政権はこの方向をさらに強化しようとしている。
 首相補佐官(政策評価、検証担当)に柿崎・共同通信論説副委員長を起用、安倍前政権に「批判的」とされてきたメディアの取り込みも策している。

政治軍事大国化策動の一環
 安倍前政権、さらに菅政権による思想・言論統制は、単なる「政権維持」のためだけでなく、米戦略を支えつつアジアの政治軍事大国として登場するという、わが国支配層の意図に貫かれたものである。
 安倍前政権は、この道を積極的に進めた。中国敵視を鮮明にさせた新たな防衛計画大綱、防衛費を六年連続で史上最高額とする大軍拡、集団的自衛権のための安全保障法制、特定秘密保護法、沖縄県名護市辺野古への新基地建設など、策動は枚挙にいとまがない。
 この一環として、武器輸出三原則を撤廃させ、わが国軍需産業のために武器輸出の解禁にも踏み込んだ。一五年には「安全保障技術研究推進制度」を制定、防衛省が軍事技術に応用できる先端的研究を大学や企業などに委託する公募制度を開始した。この金額は、一五年度の三億円から、一七年度以降は百億円を超える規模にまで拡大している。
 一方、日本学術会議は、一九四九年、GHQ(連合軍総司令部)の指示で発足した。当初は研究者による直接選挙制で、各種研究所の設置など、政府への勧告を行ってきた。
 とはいえ、その役割は歴代対米従属政権の枠内のものであった。たとえば、五四年に学術会議が発表した「原子力三原則」は、研究・開発・利用の「公開・民主・自主」をうたったものだが、対米従属の原子力政策に「お墨付き」を与えたものといえる。
 それでも学術会議は、公的研究資金の配分や研究者の規範づくりに、一定の影響力を保持している。
 日本学術会議は一七年、「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表、「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」と提言した。
 これは、安倍政権下で進む動きに警鐘を鳴らしたものである。
 今回の任命拒否、さらに学術会議改革論議の背景には、軍事研究をさらに促進させるため、妨害物としての学術会議を解体・再編する狙いがある。同時に、大学そして教育全体を、政治軍事大国化の思想形成の場につくり変えようという、支配層の意図があるのである。併せて、学術会議改革を突破口とする行財政改革のもくろみもある。

統制は弱さのあらわれ
 だが、これは菅政権、支配層の弱さのあらわれであり、かれらが自らの支配に強い危機感を抱いていることの反映である。
 こんにち、菅政権を取り巻く内外の危機は深い。コロナ禍はそれをさらに促進している。財界・支配層は焦りを深め、国際競争に勝ち残るために「前例にとらわれない改革」(中西・経団連会長)を要求している。
 菅首相も「働く内閣」などと呼応しているが、この道は、一部の大企業を「一人勝ち」させる一方、大多数の勤労国民の生活をさらに破壊するものである。改革政治を文字通りに進めれば、広範な勤労国民の反発は避けられない。労働法制改悪などでさらに追い詰められる労働者はもちろん、中小商工業者など自民党の支持基盤のさらなる崩壊は必至である。
 支配層はそれを恐れ、思想・世論統制の強化によって批判を封じ込めることを狙っているのである。
 だが、支配層の企みが首尾よく進む保証はない。思想統制だけでは、貧困化する国民の腹を満たし、不満を解消することはできないからである。
 労働組合は、菅政権による思想・世論統制への暴露・批判を強めなければならない。(K)


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