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2020年9月25日号 1面〜2面・社説

菅政権、危機深まるなか発足
早晩の立ち往生は不可避

国民運動で追い詰め、
打ち倒そう

 菅・自民党総裁が九月十六日、臨時国会で首班指名され、新政権が発足した。
 安倍前政権は内外の危機の深まりのなかで完全に行き詰まり、退陣に追い込まれた。
 これを引き継いだ菅政権だが、前政権を崩壊させた厳しい内外環境は何一つ変わっていない。
 世界資本主義は末期症状を呈し、破局は不可避である。米国の「自国第一主義」、中国敵視政策、さらにコロナ禍が、この危機を促進させている。軍事的緊張が、とくにアジアで高まっている。
 国民生活の困難は窮まり、政治への要求は厳しい。菅新政権は、アベノミクスの破綻、技術革新での大きな立ち遅れ、外交の行き詰まりなどの打開、財界・支配層の要求に応えなければならない。
 菅新政権が、早晩、立ち往生することは必至である。  国民運動で菅政権を追い込み、打ち倒さなければならない。それなしに、国民生活・国民経済の再生、アジアの平和は実現できない。
 労働組合、先進的労働者は、その闘いの先頭で奮闘しなければならない。

「安倍継承」掲げる菅政権
 菅新政権の組閣と自民党の役員人事では、新任で平井デジタル改革相、岸防衛相などが閣僚入りした。加藤官房長官や河野行政改革・規制改革相らは閣内で横滑りし、麻生副総理兼財務相、茂木外相、小泉環境相、二階幹事長らは続投となった。
 閣僚の半数以上が続投・横滑りで、この点からは、安倍前政権の「継承」を意識したものといえる。内政では新型コロナウイルスへの対応を最優先課題とし、外交政策では「日米同盟を基軸」と明言した。
 安倍前政権との「違い」もある。菅首相は、デジタル庁創設などでの「縦割り体質打破」や規制改革を掲げた。世界的に高額な携帯電話料金を槍玉に挙げ、デジタル化の側面支援と、若年層の支持取り込みを狙っている。「電波利用料の引き上げ」をチラつかせて、マスコミ統制を強化しようともしている。
 だが、菅政権は早晩、立ち往生することは避けられない。新政権を取り巻く内外環境があまりにも厳しいからである。

危機深める国際環境
 世界資本主義は、「一九三〇年代以来」といわれる危機に直面している。
 経済成長率は鈍化し、官民の債務拡大によって破局を先延ばししているにすぎない。ごく一握りの大金持ちと大多数の人民との「格差」は、耐えがたいまでに拡大している。
 人工知能(AI)などの急速な技術革新は、この危機を加速させている。
 世界資本主義は末期症状を呈し、資本主義という生産様式の変革期、社会革命の時代に入ったのである。貧困化による需要不足という、資本主義に不可避的な矛盾が、危機の根本原因だからである。
 コロナ禍は、こうした危機、歴史的激動期のありさまをあらわにさせ、加速している。
 安倍政権発足当時の経済は、世界的な緩和政策で資産バブル状況であった。円安もで輸出は拡大、多国籍大企業の海外収益も上積みされた。だが、世界経済は一昨年ぐらいから成長鈍化が鮮明になり、コロナ禍で「急停止」し、需要は「蒸発」した。
 膨大な労働者が職を奪われ、賃下げなど労働条件の悪化にさらされている。
 この回復は、順調に行っても数年はかかるだろう。その間、国際金融がもつ保証もない。
 各国で階級矛盾が深まり、米国の「人種差別反対」デモ、中南米諸国の争乱など、闘いは激烈化している。一部の国では内戦、暴動が頻発、無政府状態に陥っている。
 国家間関係も厳しさを増し、リーマン・ショック後の破局を押しとどめた国際協調は崩れ、二十カ国・地域(G20)会議は有名無実化している。
 技術、資源、市場をめぐる諸国間の争いは、激しさを増すばかりである。
 帝国主義の世界支配は弱まり、中国、インド、ロシアなどが台頭している。
 「自国第一」を掲げる米国は衰退を巻き返そうと、台頭する中国を包囲し、打倒する策動を強化している。アジアでの、米中の偶発的軍事衝突さえ、想定できる事態である。
 まさに世界は「戦争を含む乱世」で、歴史的転換期、激動期にある。
 対米従属で、しかも多国籍大企業のための政治を続けるわが国では対処できない。

自主なき日本外交
 こうした世界に、対米従属の日米同盟強化とわが国自身の軍事大国化で対処しようとした安倍前政権の外交・安全保障政策は行き詰まり、わが国の国際的存在感はますます失われた。  安倍前政権は「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げ、米国の世界戦略と結び付いて中国を敵視する、政治軍事大国化を急速に進めた。
 武器輸出三原則の廃止、特定秘密保護法や共謀罪、安全保障法制、辺野古新基地建設強行などである。防衛予算は六年連続で最高額を更新した。「敵基地攻撃能力」、憲法九条改悪策動も続いている。
 米国は「自国第一」で、対日要求を強めた。在日米軍の駐留経費(思いやり予算)や防衛費の大幅増額など、米国の要求には際限がない。
 「新時代の日中関係」を掲げた対中国関係も、岐路にある。日中は自国の利益のため、矛盾の露呈を先送りしているにすぎない。
 「戦後外交の総決算」を掲げたが、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)とは国交正常化や拉致問題はまったく進まず、ロシアとの北方領土問題も解決の道は開けていない。
 日韓関係は、国交回復以降、最悪の状態である。
 菅政権は、こうした安倍前政権の内外政治に直接に責任のある政治家で構成されている。
 目を世界に転ずれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、米中の狭間で自主性を堅持している。ドイツも「インド太平洋ガイドライン」を閣議決定し、独自の戦略的動きを強めている。
 自主性なき菅政権が、行き詰まりを打開することは容易ではない。

日米同盟で日本は生きられず
 菅政権は、同じく破産した安倍前政権の外交・安全保障政策、特に中国敵視の「日米同盟強化」を継承するという。
 さらに、防衛相に「日華議員懇談会」幹事長を務める岸氏(安倍首相の実弟)を据えることで、対台湾関係で踏み込んだ。高官を相次いで台湾に派遣している米国と、示し合わせての人事であろう。
 これは、日本が対米従属下にあるからというだけではない。世界に権益を持ち、ドル体制に浸り切った、わが国多国籍大企業の要求でもある。米国の衰退を横目に見つつ、単独では中国に対抗できないとその力を借りつつ、アジアの大国化をめざしているのである。
 すでにわが国経済は、中国を中心とするアジアの「バリューチェーン」の中で維持されている。米国市場の需要に頼ってきたトヨタなどの大企業も、今や中国市場に大きく依存し、辛うじて利益をあげている状況である。
 こうした下部構造の変化は、国際環境の変化のなか、わが国が「日米同盟強化」路線では成り立たないことを示している。
 しかも、米国には余裕がない。対日要求は、ますます厳しくなろう。「防衛費の国内総生産(GDP)比二%」(エスパー米国防長官)は、まだ「序の口」である。米国の戦略は、日本を「対中国」の「不沈空母」として中国と争わせ、日中双方を疲弊させて「漁夫の利」を得ようというものである。
 米国と共に歩むことは、危険きわまりないアジアでの戦争の道である。まさに亡国の道で、国民生活・国民生活には惨禍以外の何ものでもない。
 自主的で平和的、アジア諸国との連帯・共生の新たな国の進路を切り開くことこそ、わが国の活路なのである。
 国の進路をめぐる、支配層の分裂は不可避で、部分的には始まっている。
 米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は七月二十三日、政府・自民党の一部を名指しし、「(中国の)『一帯一路』に協力すると提唱した」などと非難した。
 こうした米国の意向を受けたかのように、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)は「『安全保障は米国、経済は中国』という便法はもはや通用しません」と、米国と共に進む以外に道がないかのように喧伝している。
 米国とその追随者が躍起になっているのは、大多数の国民、さらに支配層の一部も、アジアの平和と共生、日本の自主を願っているからにほかならない。財界主流でさえ、「経済は中国」と「安全保障は米国」の間で揺れ動いている。
 だからこそ、米国は、わが国支配層の動揺を許せず、締め付けを強めようとしているのである。
 それでも、支配層内の分裂は、曲折はあれ、時と共に拡大することになろう。これは、先の自民党総裁選でも垣間見ることができた。

行き詰まるわが国政治・経済
 国際情勢の激動と安倍前政権による内外政治の結果、日本は経済力、技術力とも、諸国に比していちだんと衰退している。安倍政権の「地球儀俯瞰(ふかん)外交」で日本の存在感が増したかのように宣伝しているが、それを支える国力はますます低下しているのである。
 菅政権が「継承する」というアベノミクスだが、日銀の緩和政策に依存した結果、資産価値の上昇と海外収益の増大などで、ごく一握りの大企業や金融資産家はボロ儲(もう)けし、資産を有する労働者階級上層も利益を得た。
 しかし、労働者・国民諸階層の生活と営業は著しく悪化した。大多数の労働者は、リストラ、実質賃金の切り下げ、雇用の非正規化などを押しつけられた。農民、商工の自営業者、中小企業経営者は、倒産・廃業などの「痛み」にあえぎ続けている。消費税などの増税、社会保障制度の改悪も、生活難に拍車をかけた。貧困の蓄積と格差の拡大は、確実に進んだ。地方もますます疲弊した。
 金融緩和政策に支えられたわが国の国家財政も、累積赤字がますます蓄積された。いつ国債バブルの破綻が起きても不思議ではない、深刻な危機に突入している。  コロナ禍と安倍前政権の政策は、国民諸階層・地方の苦しみをいちだんと深めている。

新政権に課せられた課題
 菅政権は安倍前政権の「ツケ」を引き継ぎ、打開することを迫られている。
 菅新政権が進めようとしているのは、安倍政権と同様、多国籍大企業の国際競争力強化など、覇権的利益追求のための内外政治である。具体的には、アベノミクスの「三本目の矢」の最後の項目、いうところの「成長戦略」で、デジタル化や技術革新に対応するための規制改革である。
 財界は「前例にとらわれない改革の強力な遂行が期待できる布陣」(中西・経団連会長)と評価し、改革政治に「期待」を込めている。経済同友会はさらに具体的に、「社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)」「財政構造」「わが国の存続と世界への貢献」の三点をあげている。
 菅首相も「働く内閣」、規制改革、デジタル化、「縦割り打破」などを掲げてこれに呼応している。「自助」を掲げ、社会保障制度のさらなる改悪をもくろんでいる。
 これらの政策は、二〇〇〇年代初頭に財界の主導権を握った多国籍大企業が、小泉政権に要求し、「聖域なき構造改革」として進めさせた路線の継続・深化である。旧民主党政権もこの課題を引き継いだが、応え切れなかった。「一強」と言われた安倍前政権も、「日銀頼み」でそれどころではなかった。
 財界はこの立ち遅れに焦りを深め、生産性向上のために政治を突き動かしている。コロナ禍で国際競争がいちだんと激化し、財政危機が深刻さを増すなか、改革政治の進展は「待ったなし」なのである。
 だが、DXと結びついた規制改革、地銀再編、さらに、ホワイトカラーエグゼンプションなどを含む労働法制改悪は、一部の大企業を「一人勝ち」させるものである。
 大多数の勤労国民の生活はさらに破壊され、リストラ攻撃や中小企業、商工自営業への切り捨て攻撃が強まる。地方はますます、メガバンクを頂点とする大企業に収奪され、疲弊を深めることになる。「格差」は拡大し、国民経済の長期停滞は解決されない。
 菅政権、自民党にとって、改革政治の実行は、自らの支持基盤である農民や中小商工業者などの保守基盤をますます掘り崩すことになる。
 小泉政権下では、三位一体改革など、とくに地方に犠牲が押し付けられた。菅政権下での改革は、地方にさらに犠牲が加わるだけでなく、都市部の中小企業や労働者にも犠牲が転嫁される。自公与党は、深刻なジレンマに直面せざるを得ないのである。

議会唯一主義を捨てよう
 内外の危機が深まるなか、議会内野党には戦略がなく、政策面でも弱さがある。
 公明党は性懲(こ)りもなく、自民党を支えている。
 「大阪都構想」で、以前から安倍官邸・菅氏と連携していた日本維新の会は、「重厚長大内閣」(馬場幹事長)と、事実上の「与党」としての立場を強めている。
 新・立憲民主党の党綱領では、「共生社会」「国際協調」などとうたった。だが、外交政策の基本は「健全な日米同盟」である。これでは、肝心なわが国の進路をめぐって、菅新政権との政治的対抗軸にはなり得ない。
 共産党は、首班指名でこの立民、枝野代表に投票した。二十二年ぶりの、他党候補への投票である。これを根拠にして「政権交代が現実的な目標として見えてきた」(志位委員長)などという。まさに戯言である。
 共産党のいう選挙での「野党共闘」は、小沢一郎氏を中心に一九八〇年代末から策動されてきた、財界政治を継続するための「保守二大政党制」の枠内のものである。
 われわれが見る限り、議会内野党は総じて時代認識に欠けている。世界の激動を知ってか知らずか、検討さえしていない。天下国家を論じ、有権者に訴えても「票にならない」と思っているようである。さらに、貧困化する労働者大衆の生活実態から遊離している。
 結局のところ、目前の選挙対策で右往左往するだけの、議会唯一主義である。世界の労働者・人民が既成政党を見放し、実力での闘いを強めているなか、それに逆行し、日本で「議会制の秩序」が混乱することを恐れているのである。
 このような野党に頼ることはできない。

国民運動で新政権を打ち倒そう
 世界情勢は、帝国主義が危機を立て直して支配の再編に成功するか、それとも先進国の労働者階級が政権を握って国際政治に登場するか、その競争にかかっている。まさに世界は「戦争を含む乱世」で、歴史的転換期、激動期にある。
 労働運動の役割が問われている。
 戦後、労働者・労働組合が選挙運動に明け暮れて、政治は変わったのか。先進的労働者、労働組合は、そろそろ目を覚ますべきではないか。
 労働運動が戦略的に闘ってこそ、支配層内の矛盾を利用し、拡大させ、政治権力に近くことができる。
 わが国労働運動は、戦後直後の闘争に始まり、全面講和を求める闘い、安保闘争、三池闘争、沖縄返還闘争、スト権スト、売上税反対闘争、米軍基地撤去を求める沖縄県民との連帯など、何度も国民運動の先頭で闘い、政治を揺さぶってきた。
 いつの時代も、歴史を動かし、政権を追い詰めてきたのは大衆行動である。議会内の闘いも、それと結びついて初めて効果的となり得るのである。
 総選挙が近づくなか、もう一度、このことを思い起こすよう訴えたい。  連合中央幹部は、事実上、安倍前政権の社会的支柱となっていた。こんにち、新・立民の結党を後押ししたが、これで組合員の願いを実現できるのか。
 わが国労働運動を再生させるため、連合内外での「左派」結集は、喫緊の課題となっている。
 労働者階級は、賃上げや労働法制改悪反対など、自らの生活と権利のために闘わなければならない。さらに、国民・民族の利益を掲げて闘うことで、国の進路をめぐる支配層との闘争で指導権を打ち立てなければならない。なかでも、沖縄県民の闘いとの連帯は重要な課題である。
 意識的に、政権奪取のための準備を進めなければならないのである。
 戦略的闘いを可能とする基本的な条件は、労働者階級に根を張った、戦略観のある政治司令部(革命政党)が存在することである。
 わが党はそのような党をめざしている。先進的労働者の皆さんに、共に闘うことを呼びかける。


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