2020年7月15日号 1面
トランプ政権は七月初旬、中国・同企業への制裁措置を矢継ぎ早に発表した。これは、中国政府が六月三十日、香港国家安全法を施行したことを口実にしている。 米下院は、中国への制裁を可能にする「香港自治法案」を可決、香港市民を難民認定する法案も提出された。 これに先立って「ウイグル人権法」が成立、新疆ウイグル自治区関連当局者への制裁が可能になった。中国チベット自治区への米国人入境を拒否した中国当局者へのビザ(査証)を制限することまでした。 こうした「人権」を掲げた干渉だけではない。 「中国寄り」として資金拠出を停止していた世界保健機関(WHO)に、正式に脱退を通告した。 南シナ海における「航行の自由作戦」に続き、原子力空母二隻を派遣した大規模軍事演習を行うことを決めた。 駐独米軍を九千五百人削減する案を承認する一方、その一部をインド太平洋地域に回す方向で検討が始まった。中国を見据えた配備変更である。 失効した中距離核戦力(INF)全廃条約の代替措置に中国を引き込む策動が強まった。 レイ米連邦捜査局(FBI)長官は、中国の「スパイ活動」を警告した。 中国を含む、外国人への留学ビザ発給停止された。 米連邦通信委員会(FCC)は、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)を「安全保障上の脅威」と認定、調達を禁じる新規制を施行した。 「ティックトック」など、中国製スマートフォン(スマホ)アプリの使用禁止の検討が始まった。 ことあるごとに、台湾当局を激励している。 米国による中国への攻勢は、六月〜七月初旬という短期間だけでも、このように強化されているのである。 むろん、こうした米国による攻勢は経過があり、突然に始まったものではない。 米国による中国への警戒論は一九九五年の「東アジア戦略」に象徴されるように、冷戦崩壊直後からあった。オバマ前政権は、二〇一一年の「アジア・リバランス戦略」以降、中国へのけん制を飛躍的に強めた。 一七年に成立したトランプ政権は「米国第一」を掲げ、米国の衰退を挽回し、崩壊しつつある米国による世界支配を再確立するため、強引な巻き返し策に打って出た。 台頭する中国への敵視と包囲を強化し、「共産党政権の転覆」「体制転換」を公然と主張するようになった。米国が中国への攻勢を強化したことで、米中間は「広義の戦争」状態となった。 ここに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が襲った。 すでに述べたように、米国による攻勢は、コロナ禍のなかでますます強まっている。米国の感染者数・死者は世界一で、収束の気配さえない。大統領選挙を控えたトランプ政権は、国民の不満をそらす衝動に突き動かされている。 トランプ政権は、コロナ禍の責任を中国に転嫁し、「中国に十分な責任を取らせる」と、対抗をあおり立てている。一月に合意された第一段階の「米中通商合意」は、すでに「風前の灯火」である。 米国は、香港問題を「好機」とばかり、対中国包囲網を強化しようとしている。オーストラリア、カナダなどが中国への一部制裁措置を発表、これに加わる動きを見せている。 だが、全体としては首尾良く進んでいるとはいえない。ドイツを中心に、欧州諸国は米国と一線を画する態度である。最大の同盟国である英国でさえ、次世代通信規格「5G」から華為技術製品を排除することに不満が強い。南シナ海問題を抱えるアジア諸国も、域外国の干渉は許さぬ構えである。 コロナ禍のなかでのWHO脱退などは、米国の威信をさらに失墜させ、国際的孤立を深めることになろう。 帝国主義がすすんで支配的地位を降りることはない。米帝国主義が、巻き返しのための悪あがきをますます強めることは必定である。 仮に、今秋の米大統領選挙でバイデン候補が勝利したとしても、この動きは基本的には変わらない。米国の危機はそれほど深いからであり、対中強硬論は共和、民主に共通のものとなっているからである。 米中覇権争奪が激化するなか、わが国の進路が問われている。 「強い日本」を掲げた安倍政権は、米戦略と結び付いた軍事大国化策動を、いちだんと強化している。防衛費は史上最高水準に拡大、南西諸島への自衛隊配備など、中国への対抗は露骨である。自民党の外交部会などは、国家間の合意である習近平国家主席の国賓来日を中止するよう政府に求める決議案をまとめた。「敵基地攻撃論」も急浮上している。 野党は国の進路をめぐって安倍政権と闘えず、追随している。 共産党にいたっては、香港国家安全法に「厳しく抗議し、撤回を求める」という志位委員長名の談話を発表、中国敵視の大合唱に加わった。これは、米戦略と安倍政権を「左」から支えるもので、断じて許し難いものである。 労働者・労働組合は、米戦略に反対して闘わなければならない。アジアの共生を掲げ、安倍政権による政治軍事大国化に反対しなければならない。 (K)
|
||