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2019年10月15日号 2面・解説

安倍首相の所信表明演説 
「誇りある日本」掲げる

 対抗軸なき野党は闘えぬ

 第二〇〇臨時国会が召集され、安倍首相は十月四日、所信表明演説を行った。安倍首相は「これからも経済最優先」などとしつつ、「誇りある日本」などとまたも対米従属下の政治軍事大国化路線を掲げ、憲法改悪手続きなどに突き進む意思を示した。国の進路をめぐる課題、当面の焦点である日米貿易協定問題などで安倍政権を追い詰め、打ち倒さなければならない。


 所信表明演説では、大きく「一億総活躍社会」「地方創生」「外交・安全保障」について触れられた。
 「経済最優先」を再度力説し、米中貿易摩擦など世界経済のリスクが拡大していることについて「日本経済への影響に目配りする」と述べた。
 三年連続で「全世代型社会保障の実現」に言及、少子化を「国難」とした。一方、かつて唱えた「希望出生率一・八」は言及されず、事実上、投げ捨てられた。
 農業問題では「生産基盤の強化」や農産物輸出に触れたが、衰退に追い込まれている日本農業全体を打開するものではない。
 憲法改悪について「新しい国創り」の道しるべなどと意欲を示した。

大国化めざす意思強烈に
 注目すべき点は、「誇りある日本」などとして、またも対米従属下の政治軍事大国化を掲げていることである。これは、政権発足時に掲げた「強い日本を取り戻す」、二〇一六年の「世界の真ん中で輝く日本」などと同類のものである。
 今回は「この国のめざす形、その理想をしっかりと掲げるべき時」とし、「その理想を議論すべき場こそ憲法審査会」と、野党に憲法改悪への協力を促す流れで言及されているところが特徴である。
 改憲に野党を引き込むための術策というだけでなく、野党が「国の進路」で安倍政権への対抗軸を立てられない弱さを突いたものでもある。
 自民党は国民投票法「改正」案を成立させ、憲法第九条改悪を本格化させる段取りを描いている。衆議院憲法審査会の会長を三年ぶりに交代させて「呼び水」とし、野党が求める国民投票時のCM規制の議論にも応じるなどで、手続きを加速化させようとしている。
 また、日米貿易交渉については「自由で公正なルールに基づく経済圏を、世界へと広げていく」などと、中国に対抗した「ルールづくり」の意義を強調した。「データ流通圏構想」でも同様の態度である。

「人種平等」の欺まん
 演説の締めくくりに、牧野伯爵の逸話を引用した。
 首相は、牧野氏が第一次世界大戦を終結させた「パリ講和会議」に出席した際に「人種平等」を訴えたことを持ち上げ、「世紀を超えて国際社会の基本原則となった」などと誇った。
 牧野氏は戦前の保守政治家で、麻生副総理の曾祖父である。
 当時の日本が唱えた「人種平等」は、後発帝国主義国として、アジアをひきつけて欧米列強に対抗するための「見せかけ」で、欺まんにすぎなかった。わが国が朝鮮半島、中国をはじめとするアジア諸国・人民に対してとった態度が「平等」などでないことは、世界の人びとが知っていることである。
 首相が「人種平等」を誇るのなら、まず、現在の、朝鮮学校に対する不当な差別をやめるべきである。
 安倍政権はこのようなペテンを弄(ろう)してまで、「誇りある日本」を国民の頭脳にすり込もうとしているのである。

内外のリスク増大
 現実には、安倍政権は内外の難題に包囲されている。
 世界経済は成長率が鈍化、米連邦準備理事会(FRB)など中央銀行相次いで金融緩和策再開に追い込まれた。再度の金融危機が迫っている。
 トランプ米政権は衰退を巻き返そうと、台頭する中国への全面的な攻勢を開始した。これは、世界経済の危機を促進させている。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権の要求は、同盟国である日本も例外ではない。米国がトルコによるクルド人勢力への越境攻撃を黙認したことは、わが国支配層にも少なからぬ衝撃を与えている。
 安倍政権はこうした国際情勢の激変に対応し、かつ多国籍大企業の権益を防衛するために政治軍事大国化を急いでいる。
 だが、足元の経済は、八月の景気動向指数が四カ月ぶりに「悪化」となるなど、減速が鮮明である。消費税増税は、さらなる「冷水」である。増税の「負担軽減策」と銘打ったポイント還元制度は、対象となる中小事業者は全体の四分の一にすぎず、効果はない。
 一九年度補正予算案などでの景気対策の可能性に関して、首相は「機動的かつ万全な対策を講じる」と述べたが、早晩、財政出動は避けられまい。
 消費税増税について、首相は「今後十年程度は消費税を引き上げる必要はないのではないか」などと述べた。だが、財政事情はきわめて深刻で、財界は財政再建への焦りを強めている。支配層内に、安倍政権への不信感は増大しつつある。
 安倍政権は一方で社会保障制度改革を「大胆に構想」するなどと、さらなる制度改悪、国民負担増加に踏み込もうとしている。
 これは、国民生活をさらに悪化させ、国民の不満を高めずにはおかない。

 安倍外交は「八方塞がり」
 外交もさらに厳しい。
 安倍政権にとって肝心の日米関係は、米国からの武器購入要求、輸出自動車に対する追加関税が発動されるリスクなど、要求は矢継ぎ早かつ強硬である。
 首相は「ウィン・ウィン」「ルールづくり」と粋がるが、日米貿易交渉は米国側に一方的に有利なものである。牛肉・豚肉を中心にわが国農業に大打撃を与えるものである。しかも、協定による影響試算さえなされていない。
 他方、米側が環太平洋経済連携協定(TPP)で約束した輸入自動車の関税撤廃でさえ、「今後の交渉の中で決まっていく」(安倍首相)と展望はない。農業を犠牲に、自らの利益を確保しようとした自動車産業は、どうするのか。
 対米関係に縛られた対アジア外交も限界である。
 日中関係では「日中新時代」をうたったが、実態は、中国へのけん制と対抗を強化しており、友好・互恵関係にはほど遠い。
 対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)では、首相は改めて「条件を付けずに金正恩委員長と向き合う決意」などと述べた。だが朝鮮側には、ある意味で米国以上に敵視をあおる安倍政権との交渉に応じる必要性がないのは当然である。
 韓国に対しては「重要な隣国」などとしたが、一方で元徴用工訴訟問題での「対応」を求めるとしている。だが、侵略戦争と植民地支配に対するわが国の真摯(しんし)な反省抜きに、韓国政府・国民が納得するはずもない。
 ロシアとの北方領土問題の打開も、あてはない。

独立めぐる闘いが急務
 安倍政権は天皇の「即位礼正殿の儀」などをテコに「国威発揚」を図り、政権浮揚に結び付ける腹づもりである。さらに、年末・年始に解散・総選挙が行われるという可能性もある。
 野党は所信表明演説への代表質問で、関西電力による金品受領問題、憲法改悪、日米貿易交渉などを追及している。
 他方、立憲民主党、国民民主党などは衆参両院で共同会派を立ち上げた。
 だが、参議院の一部委員会の筆頭理事のポストで一致できず、参議院総会が別々に開かれるなど、早くも足並みが乱れている。
 そもそも、両党は安倍政権と同じ「日米基軸」で、対抗軸にはなり得ない。
 こんにち、安倍政権は「日本がどのような国をめざすのか」と叫び、かれら流儀の「自主」に踏み込みつつある。安倍首相にとっては、憲法改悪がそのためのステップなのだろう。
 「日米同盟深化」(立憲民主党)などで、安倍政権に対抗できるのか。
 共産党は「消費税率五%への減税」を主張している。「野党共闘」を維持するための苦肉の策だろうが、なぜ「廃止」と言えないのか。
 一方で、首相側近の世耕参議院幹事長でさえ、首相に「謙虚で丁寧な対応」を求めるほどである。
 すでに述べたように、内外の危機は深まっている。与党は、何かのきっかけで政権批判が強まることを恐れている。そうなれば、改憲は吹き飛ぶことになる。
 安倍政権の進める「日米基軸」で多国籍大企業の利益を守る政治を打ち破らなければならない。
 労働運動の出番である。労働者階級の歴史的任務を果たすため、国民諸階層の先頭で闘わなければならない。  (O)


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