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2019年8月25日号 1面

日韓関係/
「強い日本」演じる
排外主義扇動許すな

 悪化の責任は安倍政権に

  安倍政権は八月七日、韓国を、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る国(ホワイト国)から除外する政令を公布した。二十八日に施行される予定で、日本からの工作機械などの輸出が制約される可能性がある。日本政府は韓国に対し、七月に半導体材料の輸出管理厳格化を発動しており、これに続く措置である。八月末には、さらなる制裁措置を発表するとも言われる。
 対韓輸出のために、中国での生産を始める計画を発表したわが国化学企業もあるが、安倍政権は「う回輸出」にも厳しく対応するとしている。
 安倍政権は、韓国に対する排外主義をエスカレートさせている。「日韓経済戦争」とさえ言われる異常事態の責任は、あげて安倍政権にある。
 安倍政権は、今回の措置を「輸出管理の運用見直し」などと説明しているが、元徴用工問題での韓国大法院(最高裁)判決、さらにさかのぼれば、従軍慰安婦問題やレーダー照射事件に対する「報復措置」であることは疑いない。安倍首相自身が「請求権協定」をあげて韓国を非難したことにも明らかである。
 韓国政府がこれに対抗して十二日、輸出手続きを簡素化する優遇対象国から日本を除外すると発表したのは当然である。世耕経済産業相は「根拠が全く不明」などと述べ、韓国が日韓軍事情報包括協定(GSOMIA)を破棄したことに驚く向きもあるようだが、これこそ「天にツバする」ものである。
 このほか、観光・文化交流が中止されるなど、両国関係は国交正常化以降、最悪の状態である。日韓関係は、首脳会談のメドさえ立たない深刻な事態に立ち至ったい。

安倍政権こそ「約束違反」
 わが国は戦前、朝鮮半島を無法に侵略し、苛烈な植民地支配を行った。労働者の強制連行(徴用)、従軍慰安婦の強制などは、絶対に否定することはできない歴史的事実である。
 一九六五年の日韓基本条約では、日本による併合を「もはや無効」とはしたものの、武力どう喝による併合で「当初から無効」とする韓国側と、「現時点から無効」とする日本側との妥協による玉虫色のものであった。この条約と日韓請求権協定によって、韓国は国家としての賠償請求権を放棄した。
 東西冷戦、米国の傀儡(かいらい)である朴・軍事独裁政権下の韓国民は、この条約に異論を唱えることさえできなかった。
 だが、個人としての賠償請求権は依然、有効である。国際法に照らしてはもちろん、「請求権問題は解決済み」と宣伝する日本政府でさえ、この権利を認めている。
 だから、韓国大法院の判決は「あり得ない判断」(安倍首相)などではないのである。安倍政権の態度は、侵略の歴史への無反省と、戦後補償への無責任性を自己暴露する、恥知らずなものである。
 韓国に「約束を守れ」と叫ぶ安倍政権だが、従軍慰安婦問題に「旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与」し、「総じて本人たちの意思に反して行われた」(河野談話)という政府見解にさえ反する人物を閣僚に登用し、妄言を許容している。安倍政権こそ、約束を守るべきである。

「強い国」演じる安倍政権
 安倍政権がこれほどまでに韓国への敵愾(てきがい)心をあおっているのはなぜか。
 こんにち、米帝国主義は台頭する中国を抑え込んで衰退を巻き返そうとしている。
 安倍政権はこれを横目に見、米国の対中国戦略を支えながら、「アジアの大国」として登場することをめざしている。「強い日本」こそ、そのスローガンである。「地球儀俯瞰(ふかん)外交」、米国製武器の大領購入による軍拡、集団的自衛権のための安全保障法制、特定秘密保護法の制定、武器輸出三原則の撤廃など、枚挙に暇がない。
 現在の対韓国強硬外交は、こうした流れの一環である。安倍政権は米国を意を受け、対中国、対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)政策で自主性を維持する韓国・文政権を揺さぶる役割を買って出ているのである。
 さらに、半導体産業などで競争関係にある韓国の気勢を挫くことを狙っている。
 こんにち、5G(第五世代通信規格)や人工知能(AI)に代表される、技術革新をめぐる多国籍大企業、各国間の争奪戦が著しく激化している。半導体は技術革新の中核部材である。それは当然、国家安全保障上の問題である。
 この実際からすれば、安倍政権が半導体材料と安全保障を結びつけたことは、トランプ米政権が中国・華為技術(ファーウェイ)などへの制裁を打ち出していることの「ミニ版」ともいえる。
 日韓経済摩擦は、技術をめぐる米中争闘戦の「局地戦と解釈することもできる」(ペ・ヨンデ・韓国近現代史研究所長)のである。
 また、アベノミクスや対米従属外交に対する国民の不満を、韓国に向けさせて「晴らす」という狙いも込められてる。

問われる対アジア外交
 対日報復を打ち出した韓国だが、輸出規制の予定品目にメモリ(DRAM)やフラッシュメモリは含まないなど、抑制的である。
 文在寅大統領は光復節(解放記念日)の祝辞で、「災いを福に転じ、我が国経済を発展させる戦略を推進する」と、七年間で七兆八千億ウォン(約六千八百億円)を投じて、半導体産業の「国産化」戦略を推進しようとしている。日本に対しては、「隣国に不幸を与えた過去を省察する中で、東アジアの平和と繁栄を共に導いていくことを我々は望む」と述べている。これは、わが国に対して、過去を反省してアジアと共に歩むべきことを促す、重要な提起と理解すべきであろう。
 アジアとともに平和と繁栄の未来を歩むのか、米国と共にアジアに緊張と紛争の種をまくのか、わが国の進路が問われている。
 安倍政権の対韓強硬外交は、中長期的には、アジアでの「日本抜き」のサプライチェーン形成を促してしまう可能性さえある。歴史認識問題だけでなく、わが国が、経済的にもアジアで孤立してしまう危険性をはらんでいる。これはまさに、亡国の道である。
 この重大な事態に際し、マスコミはあげて安倍政権に呼応、「韓国は約束を守れ」などと、排外主義扇動に加担している。
 野党も同様である。枝野・立憲民主党代表は、「日本政府の見解が基本的には、おおむね正しい」と、安倍政権を尻押ししている。
 政治をただす力は、労働者をはじめとする国民諸階層の行動にこそある。労働組合は、国の進路の問題で明確な立場をとらなければならない。独立・自主、アジアと共生する国の進路を実現するために、力を尽くそう。  (O)


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