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2019年7月5日号 2面・解説

G20/マスコミも認める「液状化」

 国際政治の激変で「風前の灯火」

  二十カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)が六月二十八、二十九日に開かれた。世界資本主義の危機が深まり、米国が中国に対する攻勢を全面化させるなか、具体的で拘束力のある合意はほとんどできなかった。マスコミも「液状化」(日経新聞)というほど、「国際協調」がいちだんと崩れていることが露呈した。一方、ロシアやインドは存在感を示し、世界秩序の大きな変化を伺わせるものとなった。


  リーマン・ショック直後に始まったG20サミットは、今回で十四回目となった。世界は、破局に向かって激動する歴史的転換期にある。
 国際通貨基金(IMF)などの成長見通しは相次いで下方修正され、官民の債務は空前の規模に達している。新たな金融危機が迫っている。
 急速な技術革新は、進行中の危機をいっそう激化させている。
 労働者など人民の生活は極度に悪化、「格差」は絶望的なほどに開いている。各国で階級矛盾が深まり、政権は揺さぶられている。
 米帝国主義は「米国第一」を掲げ、衰退を巻き返そうと、中国に対する全面的攻勢をかけている。両国関係は、広義の「戦争状態」にある。
 「米国第一主義」は、世界経済、国際秩序を大きく揺さぶっている。
 各国で政治闘争が激化するなか、G20に参加したいずれの政権も、いかに国内で支持をつなぎ止めるかが、従来以上に至上命題である。
 トランプ大統領はSNS(ソーシャルネットワーク・サービス)で、本国で行われた民主党討論会について言及したのは、その典型である。

「大阪宣言」は妥協の産物
 首脳宣言である「大阪宣言」では、世界の現状について「貿易と地政学をめぐる緊張は増大してきた」と危機感を示した。世界経済についても「成長率は低く、下方リスクが残っている」と指摘せざるを得なかった。
 こうした危機的状況に対して「あらゆる政策」を各国が動員することを再確認したが、これでは何も言わないのと同じである。何より、世界で膨らむ官民の債務については「債務者と債権者双方の努力が重要」というのみで、具体的対応策はない。
 貿易分野では「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境を実現し、開かれた市場を保つために努力する」との文言を盛り込んだ。
 「公正」「無差別」とは、米中双方に配慮しての文言だが、これまた抽象的である。一方、「保護主義と闘う」との文言は、二年連続で見送られた。
 世界貿易機関(WTO)の改革に取り組むことも明記した。
 安倍首相が肝いりで提案した「データ流通圏」構想については、国際ルールづくりを始めることになった(大阪トラック)。だが、米国が構想に難色を示した。この分野での争奪は米中を中心に激化の一途で、ルールづくりは容易ではない。最大の「データ国」になると予想されるインドのモディ首相は、特別会合に参加しなかった。
 インフラ投資については「公的ファイナンスの持続可能性を担保」などとし、名指しは避けつつ、中国の「一帯一路」構想に難クセを付けた。
 比較的合意が容易であろうと推察されていた、プラスチックごみ問題では、海洋流出を二〇五〇年までにゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が盛り込まれた。だがこれも対応策は「各国任せ」で、具体性も拘束力もない。中国が輸入を禁止し、マレーシアなどが先進国への返送を表明するなど、廃プラはにわかに国際問題化している。生産国と汚染源の国が異なるなど、利害の調整は容易ではない。
 気候変動問題では、「パリ協定」について「完全実施」としたが、離脱を表明した米国にも配慮して、主語は「署名国は」とされた。
 いずれの項目についても、議長の安倍首相は「意見対立ではなく共通点に光をあてた」と弁解している。それは、「宣言」が従来以上に妥協の産物であることを自白している。項目のいずれもが、実行される保証はない。
 各国は、国際協調どころではないからである。

関連首脳会議の模様
 G20サミットに合わせて開かれた米中首脳会談では、五月に中断した貿易協議の再開で合意した。米国は三千億ドル(約三十三兆円)分の対中追加関税(第四弾)を先送りし、華為技術(ファーウェイ)製品への排除措置の一部解除も表明した。
 中国は全体として、制裁解除への道筋をつけることを望んだ。当面の関係緩和には成功したのだろう。
 だが、これは、金融自由化の前倒しや、米国産農産物の大量購入など、大きな譲歩を伴ってのことであった。
 それでも米国は執拗(しつよう)に「中国製造二〇二五」をめぐる補助金の停止要求を続けており、次世代通信規格「5G」をめぐっても争奪が激しい。米国がすでに引き上げた関税はそのままである。ファーウェイ製品についても、制裁全面解除にはほど遠い。
 中国の「環球時報」は会議中、世界は「米国の気まぐれな行動を抑制」しなければならないする論説を掲載した。同論説は併せて、「米国の影響力を恐れるあまり、米国のいじめ戦術に反対を表明することに不安を感じる国や、米国が国際秩序をかき回すことからの利益を期待して形勢を窺(うかが)う国が多い」と、第三国の動きもけん制した。中国もジレンマを深めていることが伺える。
 今回の米中の「合意」は、つかの間の「休戦」にすぎない。
 このほか、米国とロシアは首脳会談で、核軍縮問題などについて論議した。「二十一世紀の軍備管理モデルについて協議を継続する」としたが、具体的には詰められていない。イランやシリアなどへの対応についても、引き続き溝は埋まらなかった。

経済運営の基準も喪失
 一九九〇年代以降、各国の支配層は、ほぼ「インフレ目標」を軸に金融政策を実施してきた。物価が経済の「体温計」として有効であると判断してきたからである。先進諸国の中央銀行が「物価の安定」を課題としているのはそのためで、それは、経済安定の前提であると考えられてきた。
 金融緩和政策は、基本的にはインフレ政策である。だが、各国の債務が増大するなかでも、低インフレが長期に続いている。
 こんにち、物価は、経済の「体温計」として適切ではなくなっている。支配層にとっては、何を基準に政策を運営するか、分からない時代に突入しているのである(※)。
 こうした、支配層にとっての深刻な危機、まさに資本主義の末期症状が、MMTの議論を活発化させている一つの理由である。
 他方、打開を求める人民の「わらにもすがる思い」が、一定、反映しているのも事実である。いわゆる「ポピュリズム」勢力が、MMTを唱えることが多いのは根拠がある。

国際政治の激変を反映
 G20サミットは、リーマン・ショック後、主要国(G7)だけでは危機に対処できないことから定例化された。このG20による「多国間主義」も、今や風前の灯火となった。
 こうしたなか、G7や中国以外の国々の存在感が高まった。
 ロシアは「自由主義の考え方は廃れた」と発言、先進資本主義とは異なる国家像を示そうとした。
 インドも、米中をある意味「天秤」にかける独自性を発揮した。会議に先立ち、インドは米国への報復関税を発動、一歩も引かぬ姿勢を見せた。
 中国、ロシア、ブラジル、南アフリカが事前に開いたBRICS首脳会議でも、米国を「保護主義」と批判した。
 対して、欧州諸国は総じて存在感が薄かった。各国内での階級矛盾の激化を背景にいわゆる「ポピュリズム勢力」の台頭にさらされ、「サミットどころではない」のである。典型は、ブレグジットを控え、退陣が決まっているメイ英首相である。
 辛うじて、マクロン・フランス大統領は、次期G7サミット議長国として、「パリ協定をしっかり書かないのなら、合意には参加しない」となどと、環境問題で強い姿勢をとった。ドイツも、パリ協定が後退していないことの確認を求めた。
 G20を総合的に評して、十九世紀初頭の「ウィーン会議」でいわれた「会議は踊る。されど進まず」との類似性を指摘する向きもあった。ウィーン会議はナポレオン戦争後の欧州秩序をめぐっての争奪戦であった。ナポレオンの「一時復活」で合意に達したが、条約による反動体制は約三十年で崩壊した。
 だが、米国が打ち壊しつつある戦後秩序に代わる「新しい秩序」は見えない。
 そればかりか、最大の課題であるはずの世界経済の危機打開の方策もなかったことは、述べた通りである。安倍首相は「世界経済を導く原則をしっかりと打ち立てる」などと粋がったが、内容はない。
 その安倍首相は、「宣言」の項目を逐一、トランプ大統領に確認するなど、卑屈な態度に終始した。
 それでも米国は、農産物などの市場開放、為替、防衛負担などの対日要求を激化させている。
 安倍政権の続ける対米従属政治が安倍政権自身を縛っているのである。
 日米安保条約を破棄した、独立・自主の政権を樹立してこそ、わが国は、激動し、転換期の世界のなかで生きていくことができるのである。    (K)


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