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2019年6月5日号 1面

日米首脳会談
「8月」に向け対米譲歩必至 
国民生活・国民経済を犠牲に
 
米戦略に加担し緊張高める

   訪日したトランプ米大統領と安倍首相は五月二十七日、首脳会談を行った。
 安倍首相は「令和初の国賓」として、新天皇やゴルフも利用して、トランプ大統領を屈辱的なほどに厚遇した。マスコミも、大統領の一挙手一投足を報じて、これを支えた。
 トランプ大統領が「とても素晴らしく忘れられない訪問」と称えたのは、ある意味で当然である。最大の同盟国である英国訪問時(二〇一八年)でさえ、反対デモが吹き荒れ、大統領はロンドン市内にほとんど入れなかったからである。
 「厚遇ぶり」だけに目を奪われてはならない。

中国包囲網強化が狙い
 衰退し、国内の階級矛盾も深刻化する米帝国主義は、台頭する中国を抑え込み、アジア市場を収奪して生き延びようとしている。「米国第一」を掲げたトランプ政権の戦略課題は、金融を中心とする自国経済の再建と、軍事力による世界支配である。
 トランプ政権は昨年来、大規模な追加関税を課すことを中心に、中国に対する攻勢を激化させた。ペンス副大統領は昨年十月に演説し、中国に対して事実上の「宣戦布告」を行った。狙いは、中国の「体制転覆」である。
 十二月には「アジア再保証推進法」を制定した。米国は台湾海峡への艦船派遣を、従来の年数回から月一回に増やした。南シナ海での「航行の自由」作戦も強化している。
 すでに米中関係は通商だけでなく、宇宙・サイバー空間を含めて広義の「戦争状態」に入った。偶発的事態を含め、アジアでの米中軍事衝突の可能性が高まっている。
 今回の首脳会談に際して米国の最大の狙いは、この「対中戦争」に日本を完全に組み込むことにあった。

通商などの要求は変わらず
 日米首脳は、最大の懸案とされた通商問題の「交渉の加速化」で一致した。
 トランプ大統領が「八月に良い内容の発表ができる」と述べたように、わが国に自動車と農業分野での市場開放を強硬に求めていることは明らかである。昨年九月の日米共同声明では、環太平洋連携協定(TPP)を念頭に「過去の経済連携協定が最大限」との文言が盛り込まれたが、トランプ大統領は「TPPに縛られない」と、より以上の市場開放を迫る意思を鮮明にさせた。
 日米首脳会談に先立つ十七日、トランプ政権は日本などからの自動車輸入を「安全保障上の脅威」と決めつけた上で、追加関税判断を先延ばしした。
 トランプ政権は、為替条項の導入も求めている。
 安全保障面では、安倍首相は、墜落事故の原因究明も未だ行われていないF 戦闘機を百五機買い増すことを再確認した。購入費用は一兆円以上にもなる。
 また両首脳は、横須賀基地(神奈川県横須賀市)を訪れ、航空母艦化が決まった護衛艦「かが」に乗艦、「同盟強化」をアピールした。トランプ大統領は米兵を前に「力による平和」をぶち上げた。
 このほか、朝鮮半島問題では、大統領は首相による「条件なしの日朝首脳会談の実現」を支持した。イラン問題では、首相によるイラン訪問を認めた。
 共同声明は見送られたが、米中の狭間で、安倍政権は日本の命運を米国に託すことを鮮明にさせた。

8月に向け恩を売られる
 大統領は「八月」と期限を切り、参議院選挙を控える政治状況に「配慮」することを「エサ」にして安倍政権に貸しをつくり、選挙後に大幅な譲歩を引き出すことを狙っている。
 トランプ政権にとって、来年の大統領選挙で再選を勝ち取るための「成果」が欠かせない。中国が追加関税に屈せず、交渉が長期化しているだけに、「屈服させやすい」日本から「実利」を得る必要がある。
 すでに環太平洋連携協定(TPP )や欧州との経済連携協定(EPA)において、わが国は過去最高水準の市場開放を受け入れた。国内農業は存亡の縁にある。
 為替問題でも、米財務省は二十八日、「為替報告書」を公表した。非難のほとんどは中国に向けられたものだが、日本の対米黒字も「引き続き懸念する」とした。米商務省は「為替操作国」に対して相殺関税を課す案を発表している。
 日米会談後も、米国は中国を追い詰める策動を強化している。
 シンガポールで六月一日に開かれたアジア安全保障会議でも、シャナハン米国防長官代行は、中国の国内問題である台湾問題などに言及し、中国を名指しで非難、アジアへの「恒久的な関与」を打ち出した。中国が「祖国の統一を守り抜く」(邵副参謀長)と反発したのは当然である。
 わが国は、米国による対中包囲網の最前線に立たされている。
 国民生活と国民経済、日本とアジアの平和は、深刻な危機に立たされている。

日米矛盾の激化も必至
 首相は「世界で最も緊密な同盟」、大統領は「日米同盟はこの地域と世界の安定と繁栄の礎」などと誇った。
 その米国は国際的孤立を深めている。ロシアとは核軍縮問題などで対立、イランやベネズエラを制裁し、同盟国の欧州諸国にも軍事負担を強いて摩擦を激化させている。安倍政権による対米追随は、世界で唯一といってよいほどである。
 米国の対中包囲網は、日本が協力しない限り不可能である。安倍政権の選択は、わが国の運命を米国に委ねる亡国の道である。
 だが、日米関係の先行きは平坦ではない。
 これ以上の農産物市場開放は、地方の保守基盤をますます掘り崩す。「脅威」と名指しされた自動車問題では、豊田・トヨタ自動車社長でさえ「大変残念」と述べるほどである。
 わが国の政府債務は先進国中最悪で、米国からの武器購入も限界が見えている。米国主導で製品や価格が決まることに、わが国防衛産業にさえ不満がある。
 与党内矛盾の激化も避けられない。安倍首相が通商問題について「日本の国会を通るウィンウィンの案を考えよう」と述べたのは、その困難さを示している。
 今年の施政方針演説で、日中関係を「完全に正常な軌道」などと誇った安倍首相だが、米国の対中攻勢が激化・長期化するなか、日中関係はますます危ういものとなる。
 「一帯一路」フォーラムに二階幹事長を派遣した程度では、対中関係は進まないのである。米国からの対中攻勢に対するわが国財界の不満は、さらに高まる。「正常な軌道」などという欺まんは早晩暴露され、財界を含む支配層内のジレンマを深めることになろう。
 日米同盟強化でわが国の進路はますます危うく、世界・アジアで孤立を招くことになる。

問われる野党の態度
 アジアの平和と安全、国民生活・国民経済がいちだんの危機にさらされているにもかかわらず、議会内野党は、日米首脳会談について根本的な批判を避けている。枝野・立憲民主党代表は、トランプ大統領による大相撲観戦を「歓迎」した。
 「農業新聞」は、与野党に「トランプ氏が狙うTPP超えの大幅譲歩を許さないためにも、選挙戦の争点に積極的に位置付けることを求める」と主張している。
 当然の主張だが、「日米同盟基軸」で自公与党と同じ野党は応えられるのか。五野党・会派と市民団体が五月二十九日に結んだ「共通政策」にも、日米関係への言及は「辺野古への新基地建設反対」以外にはほとんどない。これで与党と争えるのだろうか。
 安倍政権による、米国の対中包囲網への加担をやめさせなければならない。国民生活・国民経済を再建し、平和を守るためにも、独立・自主で国民大多数のための政権を樹立し、アジアとの共生を実現しなければならない。  (O)


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