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2019年5月25日号 2面・解説

選挙での「野党共闘」だけで
打開できるのか(1)

  財界は二大政党制を捨てていない

  統一地方選挙が終わり、議会内政党はすでに、夏の参議院選挙に向けて動いている。五月初旬からは「衆参ダブル選挙」の可能性が急浮上、「選挙モード」はさらに加速している。野党は参議院選挙を中心に候補者調整を進め、選挙における「野党共闘」を進めようとしている。だが、「野党共闘」を主導する人物は誰か、財界の狙う二大政党制との関係こそ肝心である。


  現在の「野党共闘」は、小沢・元自由党党首(現・国民民主党)が主導し、共産党の志位委員長が追随することによって成立しているといってもよい。

財界の意を受けた小沢氏
 小沢氏はいかなる人物か。
 自民党幹事長を務めるなど、一九八〇年代に政権中枢にいた小沢氏は、「政権交代可能な保守二大政党制」をめざして自民党を離党、新生党を率いて政権交代、さらに細川連立政権を主導した。
 この背景には、八〇年代後半以降、わが国財界が国際競争に勝ち抜くための政治を必要としたことがある。それまでの、農民や中小商工業者を同盟者とする「利益分配型」の自民党単独支配は、「国際化」のなかで限界に達していた。また、佐川問題などの政治腐敗も顕在化し、派閥間の「疑似政権交代」によって国民をゴマかすことができなくなっていた。
 財界は「民間政治臨調」などの団体を組織して運動を展開、労働組合の「上層」を新たな同盟者として獲得しようと画策した。狙いは、日米同盟をはじめとする基本政策が同じ保守二大政党制の成立である。内外情勢の激動に備え、政権が二大政党のどちらに転んでも、財界による政治支配は維持できるからである。
 「政治改革」の名の下に導入された小選挙区制は、保守二大政党制を実現するための選挙制度である。
 山岸会長(当時)率いる連合指導部は、この策動に積極的に手を貸した。
 小沢氏は、ときに新進党を結党するなど「非自民」で野党を糾合し、別の時期には自民党と連立した(九九年)。二〇〇三年、小沢氏率いる自由党は旧民主党と合併(民由合併)、〇六年、小沢氏は旧民主党の代表となった。小沢氏は「二大政党制による政権交代」の実現を自らの「使命」であると、財界に自らの役割を再度誓った。
 小沢氏の政治的位置は、こんにちも変わっていない。「社民化した」というのは幻想で、徹頭徹尾、財界の意を呈して策動しているのである。

旧民主党、小池氏らも同じ
 保守二大政党制をめざして策動したのは、小沢氏だけではない。
 鳩山氏、菅氏らが主導し、社会党を分裂させて一九九〇年代後半に成立した旧民主党も、二大政党制の一方の極をめざしたものであった。連合は、基本的にこの党を支持し続けた。
 二〇〇九年の鳩山政権の成立で、二大政党制は「完成」したかに見えた。だが、政権はわずか三年余で崩壊、党も分裂した。その後、維新の党との合併で民進党が発足した際(一六年)にも、「政権交代可能な政治を実現するラストチャンス」(岡田代表)などと意気込んだが、すぐに失速した。現在の立憲民主党、国民民主党は、基本的にこの党を継承している。
 記憶に新しいところでは、一七年に「都民ファーストの会」を率いて民進党を解党させ、希望の党結成を策動した小池・東京都知事がいる。
 この際も、連合・神津指導部は両党の合併を後押しした。
 だが、希望の党は結党から二カ月弱で失速、小池氏は代表の座を投げ出した。「安倍政権に代わる選択肢」(日経新聞)とまで期待した財界・支配層は、大いに落胆した。
 さらに、こんにちも支配層によって温存されているのが、日本維新の会である。
 安倍官邸は、連立政権内部における公明党の「独自性」をけん制し、さらに憲法改悪において協力を得られる勢力として、維新の存在を重視している。
 橋下・元大阪維新の会代表が「野党を一つにしていくしかない」と二大政党制の一方の極をつくることに意欲を示し、小沢氏についても「権力の本質について一番理解されている」などと賛辞を惜しまないのは、両者に共通の背景があるがゆえである。

支配の危機への対応願う
 こんにち、世界資本主義は「処方せんなし」の危機にある。米国は衰退を早め、中国が台頭するなど、国家間の力関係も激変する世界史的激動期である。技術革新も急速で、経済・社会を変革しつつある。
 わが国はデフレ不況から脱却できず、技術革新では立ち後れている。外交も、財界にとってさえ十分なものとはいえない。財界・支配層は、フランスなどに見られる人民の直接行動の激化や、欧州諸国のようないわゆる「ポピュリズム勢力」の伸長も恐れている。
 この環境下、財界は「第二の敗戦」(小林前経済同友会代表幹事)などと、またも政治を突き上げている。狙いは引き続き、多国籍大企業の国際競争力を支える「強力で効率的な国家」である。その点で、「安倍一強」の政治状況は、財界にとって好ましいことばかりではない。
 安倍政権下で財政危機はさらに深まった。政治家の失言は後を絶たず、政治・政党不信はますます高まっている。森友・加計問題に象徴される官僚の腐敗と忖度(そんたく)の横行は、支配層にとってさえ憂慮すべき事態である。基本政策で同じ二大政党に加え、「常に政権交代が起こり得るという緊張感が官僚の独立性を支え」(英ジャーナリストのビル・エモット氏)、財界のための政治の「安定」を保証するからである。
 財界は、依然として、保守二大政党制の実現を戦略課題としている。自らの政治支配を安定させるためには、それが必要であると認識しているからである。

二大政党制を諦めていない
 むろん、それを担うのは政治家である。
 野田元首相は最近、元自民党政治家の「自民党に取って代わる政党のつくり方を学んでいなかった」との発言を紹介しつつ、保守二大政党制の実現が「宿題として残ってしまっています」と述べている(日経新聞)。
 別の道を選んだ政治家もいる。細野・元民進党代表代行は「希望の党結成は、保守二大政党への最後のチャレンジだった」「保守二大政党をあきらめざるを得なかった」と総括し、二階派入りした。逆に言えば、与野党の政治家のなかで、二大政党制が一定の「共通感情」として存在していることを意味する。
 小沢氏は「このままでは死んでも死にきれない」と「野党共闘」に注力しているが、二大政党制の実現と関係なしとは言い難い。
 連合も、一七年の定期大会で「政権交代可能な二大政党的体制の確立」をめざす方針を決めている。財界が政党再編を仕掛けた際、呼応する可能性は十分にある。これは、闘いを望む現場労働者、活動家に対する甚大な裏切りである。
 わが国財界・支配層は、手を変え品を変え、保守二大政党制の実現をめざしている。

対抗軸なき立憲民主党
 こんにち、立憲民主党の立ち位置はどうなるか。
 立憲民主党は、希望の党と民進党の合併の際に結党した。
 枝野代表は昨年九月、「日米同盟を重視していることを政権を獲ってから伝えるのではなく、あらかじめ知ってもらったほうが政権交代時の関係がスムーズにいく」などとして米国を訪問した。さらに、年頭には伊勢神宮を参拝した。
 枝野代表は自党を「真の保守」と自認、保守層へのアピールに熱心である。当面の「独自路線」とは別に、いずれは保守二大政党制の一方の極をめざしていることは間違いない。
 立憲民主党は、日米基軸において自民党と寸分違わない。これでは以前の民主党などと同じで、自民党への対抗軸にはならない。
   *  *  *
 安倍政権の打倒を望む人びとが、選挙における「野党共闘」で自公与党に打撃を与えたいという気持ちは理解できる。
 だが、小沢氏が主導し、対抗軸になり得ない政策を掲げた立憲民主党が中心で、議会唯一主義の共産党が追随する「野党共闘」には展望がない。歴史を振り返れば、財界主導の保守二大政党制づくりに利用されかねないのではないか。
 独立・自主の進路を掲げた広範で強力な国民運動と結びついた政治勢力の形成にこそ、展望がある。  (K)


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