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2019年4月15日号 2面・解説

バノン元米大統領上級顧問が来日

  中国対抗の世論誘導が狙い

   バノン元米大統領上級顧問・首席戦略官が三月、来日した。バノン氏は、自民党外交部会での講演、新聞や雑誌へのインタビューなど精力的に活動した。その狙いは、わが国をさらに米国のアジア戦略、中国包囲網に組み込むためのイデオロギー攻撃である。米国による「貿易戦争」などに不満を高めるわが国支配層の一部への「タガはめ」でもある。月刊誌「Hanada」を中心に、暴露する。


 バノン氏は米海軍軍人、投資銀行ゴールドマン・サックス社員という経歴を持ち、保守ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の元会長である。二〇一六年米大統領選挙ではトランプ陣営の選挙対策本部長を務め、「米国第一主義」の「生みの親」ともされる。トランプ政権の目玉政策でもある「国境への壁建設」も、プロパガンダ映画を制作して世論をあおったバノン氏によるところが大きい。
 政権誕生後は、大統領上級顧問・首席戦略官に就任したが、他閣僚との対立や「暴露本」の影響などで七カ月で退任した。今回の来日は、経営者の右翼的言動で有名な大手ホテル企業の招請によるものとされる。
 バノン氏の来日は、一七年に続くものである。その際は、右派系ジャーナリストの対談や、前原衆議院議員(希望の党・当時)との会食などを行った。

安倍政権・与党との接触
 バノン氏は現在も、トランプ大統領と「数日おきに連絡を取る」関係である。退任後もメキシコ国境での「壁」建設の資金集めを行うなど、政治活動を続けている。
 今回の来日の特徴は、政府・与党中枢と頻繁に会談するなど、安倍政権との「蜜月ぶり」を従来に増して公然化させたことである。
 三月八日には、自民党外交部会などの合同会議で講演を行い、中国を「拡張主義」と避難、「日米が連携すること」を呼びかけている。
 この流れで「Hanada」では、河井衆議院議員との対談を行っている。河井氏は、自民党総裁外交特別補佐であり、安倍首相の「地球儀俯瞰(ふかん)外交」を支える中心人物である。
 バノン氏と河井氏の対談は、この雑誌企画が「七回目」だという。事実上、トランプ政権と安倍政権との折衝、米帝国主義による「思想動員」にほかならない。

中国への敵視あおる
 対談でバノン氏は、中国に対する敵視を全面開花させている。
 バノン氏は「中国は過去二十年間、西側諸国に経済戦争をしかけてきた」「問題は中国共産党」などと決めつけている。世界的に、米国などの市場経済と、中国などの「重商主義的全体主義」という、「互いに相容れない二つのシステムがせめぎ合っている」とし、「中国経済の根本的な構造改革を実行させ」ること、つまり中国社会・経済・政治の変革、すなわち体制転換を主張している。
 彼の経歴を著した「バノン 悪魔の取引」によれば、バノン氏は「経済ナショナリズム運動の狙いは中国に対抗すること」と明言している。
 対談でも、次世代通信規格(5G)をめぐっては、中国に「5Gの支配権を奪われることは、競争の敗北」であり、「ファーウェイ(華為技術)の排除が欠かせません」と力説している。
 しかも、中国が改革開放政策を採用後、胡錦濤前政権までは「西側と協力しつつウィン・ウインの関係を築きました」などと持ち上げ、返す刀で「習主席とそれをとりまく中国共産党幹部の『過激分子』」などとレッテル貼りして区別し、「敵」を絞ることで、中国国内に揺さぶりを掛けているのである。

安倍政権持ち上げ追従迫る
 さらに安倍首相を「トランプ以前にあらわれたトランプ」と持ち上げ、「トランプ大統領にとって、安倍首相以上のパートナーはいません」などと述べている。
 ここまで評価するこの意図は何か。
 二〇一二年の安倍政権の成立以前から、戦後の対米従属政治は限界に達していた。〇九年の旧民主党による政権交代は、それを如実に示すものであった。だが旧民主党は、沖縄県名護市辺野古への新基地建設承認など、自民党と寸分違わぬ従属政治を続け、国民の怒りと失望を買った。
 安倍政権は「強い日本」を掲げ、あたかもわが国の独立をめざすかのような幻想を振りまいて登場した。これが、アベノミクスによる資産バブルと併せ、こんにちまで政権が維持できている大きな理由である。
 だが、衰退する米国は台頭する中国を抑え込んで世界支配を維持するため、日本や欧州などの同盟国に従来以上の負担を求めている。防衛費増額による米国からの武器購入拡大、事実上の自由貿易協定である物品貿易協定(TAG)などは、その手始めにすぎない。
 また、米国による中国へのさまざまな圧迫も、対中輸出の急減などの形で、わが国経済に影響を与えている。財界は危機感を強めている。わが国の進路、対米関係をめぐって、支配層内での意見の相違、矛盾が激しくなっている。小林・経済同友会代表幹事が「日本が二度目の敗北に直面している」と危機感をあらわにしているのは、その一つの証左でもある。
 バノン氏は、安倍政権を持ち上げることでこうした日米矛盾を覆い隠し、支配層内の動揺を「タガはめ」することで、対米従属政治の継続を要求しているのである。その証拠に、バノン氏はTAGなどの対日要求については言及さえしていない。河井氏も、米国の対日要求に意図的に触れないことで、売国政治家としての「任務」を果たしている。

トランプ主導の国際戦線
 バノン氏の役割は、日本に対してのものだけではない。
 バノン氏はかねてから英国独立党のファラージ前党首と懇意で、英国の欧州連合(EU)離脱をそそのかしてきた。一八年三月には、フランスなどを訪問、極右・国民戦線(現・国民連合)の会合に出席し、「人種差別主義者と呼ばれることは名誉」などと公言した。総選挙に合わせてイタリアにも乗り込み、「イタリアはポピュリズムの要衝」などとぶち上げた。ドイツでも、右派「ドイツのための選択肢(AfD)」幹部と会談した。ベルギーには、欧州右派政党の連携を進めるために政治団体を設立、五月の欧州議会選挙に向けて策動を強化している。
 当時、フランス、オーストリアなどで極右勢力が議会選挙で前進していた。一方、政権を間近にしたことで、一部の党は「現実路線」を進め始めていた。たとえば、フランス国民戦線は「反ユダヤ主義」を後退させたことなどで党内紛争が起きていた。
 バノン氏は、こうした欧州右派政党の「動揺」を抑え込もうと画策したのである。
 バノン氏は、一九年一月に就任したボルソナロ・ブラジル大統領ともすぐさま会談している。
 まさに、「米国第一」の下で、トランプ政権主導の国際的統一戦線をつくる役割を担っているのである。

課題は国内問題
 ただ、トランプ=バノンの国際戦略は、成功を保証されていない。その最大の理由は、米国内の経済・政治危機が深まっていることである。
 バノン氏は「今年の米国政治は南北戦争以前を含め、過去最悪の年になる」と懸念を表明、大統領への弾劾や「壁」建設などと絡んだ財政危機を取り上げて危機感をあらわにしている。
 財政出動の「息切れ」などで国内経済は低迷、連邦準備理事会(FRB)による「出口」停止は、新たな資産バブルとその破裂の危機を増幅させている。
 米国が中国への圧力を貫けるか、中国がそれに耐えられるか、それぞれの国内要因が帰すうを決する。この点で、米国は大統領選挙を意識せざるを得ない。「格差」への不満の高まりや銃・麻薬犯罪などの社会的ストレスもいちだんと厳しい局面に来ている。
 それだけに、安倍政権による、「世界で唯一」といってよいほどの対米追随は、時代のすう勢に取り残される亡国の道なのである。
 対米従属政治を清算し、独立・自主の国の進路を実現しなければならない。そのためには、先進的労働者がバノン氏などを使った米国による対日世論操作を見抜き、反撃することが不可欠である。    (O)


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