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2019年3月15日号 2面・解説

共産党/
ベネズエラ問題で「民主」を主張

  票ほしさに米国を美化

   米帝国主義は、南米ベネズエラのマドゥロ政権への圧迫と内政干渉を強化している。これに対して、共産党の志位委員長は二月二十一日、声明「弾圧やめ人権と民主主義の回復を」を発表、マドゥロ政権を非難し、事実上、米国の干渉を容認する態度を示した。衰退する米国が中国への圧迫を軸に「歴史の巻き返し」策動を強化するなか、共産党の態度は、わが国の独立とアジアの平和にも逆行する犯罪的なものである。


 志位委員長による声明(以下、声明)は、要するに、ベネズエラのマドゥロ政権に「抗議運動に対する抑圧・弾圧をただちに停止する」ことなどを求めるものである。

チャベス政権の民族主義
 そもそも、ベネズエラをはじめとする中南米諸国・人民は、長年、米帝国主義の「裏庭」として侵略され、収奪・抑圧されてきた。とくにベネズエラは世界最大規模の原油埋蔵量を誇り、米国の中南米政策にとって欠かすことのできない戦略的要衝である。二十世紀初頭には、ベネズエラの支配をめぐり米英が戦争直前にまで至ったことがある。
 一九九九年に成立したチャベス政権は、折からの原油価格上昇に支えられ、その成果を貧困対策などに振り向けることで国民の支持を集めた。対外的には、中国、ロシア、キューバなどとの関係を強化し、原油の輸出先も「米国一辺倒」から多極化をめざした。
 チャベス政権は、資源を自らの手に握る、民族主義的、社会民主主義的な性格を持つものであった。マドゥロ政権は、基本的にこれを引き継いでいる。

米国の干渉こそ元凶
 チャベス政権に自国の権益を脅かす気配を悟った米国は、その成立当初から「ポピュリズム」などと批判していた。チャベス大統領の死去で求心力が低下、二〇一五年の国民議会選挙で野党が過半数を占めた。マドゥロ政権は一七年五月、憲法改正のために制憲議会を召集、野党はこれをボイコットし、政治闘争はいちだんと激化した。
 一七年一月に誕生したトランプ政権によるいわゆる「独裁」「強権」批判は、これを機に一気に強まった。今年に入るや、野党のグアイド国会議長による「暫定大統領への就任宣言」を直ちに支持した。
 米国は一七年八月、ベネズエラ政府と国営石油会社(PDVSA)に対する経済制裁を発動した。制裁措置は、今年一月以降、さらに拡大されている。ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、マドゥロ政権と取引する国外の金融機関に対する二次制裁も表明した。まさに、国際的な包囲網の強化である。
 ベネズエラはそれ以前から、原油価格の低下によって経済低迷とインフレに陥っていたが、制裁はハイパーインフレを引き起こした。制裁の影響もあり、ベネズエラの原油採掘量は過去二年で半減、これまた人民生活を悪化させた。すでに、三百五十万人以上が難民として国を離れざるを得ない状況となっている。
 こんにち、トランプ政権はベネズエラへの軍事介入の可能性さえ示している。
 米国の狙いは、マドゥロ政権への直接の圧迫と転覆策動だけではない。
 ここには、中国に対抗する狙いもある。
 一五年秋、ベネズエラ軍が中国・天安門広場での閲兵式に参加、アジアインフラ投資銀行(AIIB)にも加盟するなど、マドゥロ政権は中国との連携強化を進めた。一七年九月には、原油価格表示をドルから人民元に切り替えた。
 世界支配を維持することをもくろむ米国にとって、ベネズエラを通じて、中南米で中国の影響力が高まることをくじく必要性が増したのである。原油価格表示の切り替えは、原油と結び付くことで基軸通貨を保っているドルの地位を脅かす可能性をはらんでいた。かつてフセイン・イラク政権も、原油価格表示をユーロに切り替えたことで米国の怒りを買い、武力攻撃された。
 ベネズエラの歴史は、米帝国主義による支配・干渉とそれとの闘いの歴史である。同国の「混乱」の元凶は、米国にある。
 米帝国主義の世界支配に反対する全世界の中小国・人民にとって、ベネズエラの事態は「他人事」ではあり得ないのである。

米国の侵略美化する共産党
 共産党の声明は、ベネズエラの「混乱」の原因をチャベス前政権とマドゥロ政権の「失政と変質」に求めており、「市民の政治的自由と生存権に関わる人権問題が深刻化」し、これが「重大な国際問題となっている」などと言う。
 声明は、マドゥロ政権を「正統な政権とみなすことはできない」などと決めつけ、「民主主義を回復することが不可欠」などとしている。声明では、「外部からの干渉・介入を許さず、ベネズエラ人民の自決権を擁護・尊重する」「問題を平和的に解決する」ことも求めている。
 だが、声明には、米帝国主義による支配と干渉への言及も批判もない。わずかに、トランプ政権による軍事介入策動を「そのような権利はどの国であれ与えられていない」などと言う。だが、返す刀で「マドゥロ政権への『連帯』を世界の運動に押し付ける動きにも、厳しく反対する」などと言う。
 共産党が「受け入れ」を主張している「人道支援物資」について、マドゥロ政権が警戒を示すのには根拠がある。一四年、米欧のテコ入れによって、ウクライナでヤヌコヴィチ政権が崩壊させられたきっかけになったのは、海外からの「人道支援」であった。米政府関係者が物資と共にウクライナ入りして反政府運動を「激励」、公然と次期政権の人選を進めた例もある。
 共産党は、朝鮮半島の危機についても、その原因を朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「核・ミサイル」に求め、米帝国主義による侵略戦争と朝鮮への敵視・包囲を免罪している。ベネズエラに対する態度は、これと基本的に同じである。
 共産党の声明は、事実上、米国による侵略と圧迫を暴露しないことでこれを美化し、世界の反米行動に反対、敵対するものなのである。

政権入りのための米国美化
 共産党がこのような態度をとるのは、当面の統一地方選挙や参議院選挙への影響を恐れたからである。
 保守系文化人や政治家の一部が、「マドゥロ側を応援しているとも思えるような論調の新聞がある」(上念司・経済評論家)などと、共産党や機関紙「赤旗」を批判していたことに恐れをなしたのである。共産党は「わが党はベネズエラの味方ではありません」とも言いたいのであろう。
 それだけではない。
 共産党は選挙における「野党共闘」を掲げ、参議院選挙などでの前進を図ろうとしている。「日米同盟強化」を掲げる立憲民主党などとの共闘を進めるためには、米国への非難を抑えざるを得ないのである。
 まさに、ベネズエラ批判は「票ほしさ」のためである。
 より本質的には、政権入りをめざす、共産党の方針に規定されたものである。
 共産党は一九九七年の第二十一回党大会で、保守政党との連立による政権入りを打ち出した。そのため、米国の「東アジア戦略」を暴露しないことを「手始め」に、米国に政権入りへのお墨付きを願ったのである。
 さらに二〇〇四年の第二十三回党大会を経て、事実上、「世界に帝国主義はなくなった」という立場を取るに至った。共産党による米国美化は、ここにおいて理論的に「完成」したといってよい。
 こんにち世界では、トランプ政権による巻き返し策動に対する抵抗が強まっている。中国やロシアの抵抗だけではない。朝鮮半島では韓国が「新韓半島体制」を掲げて自主的態度を強めている。同盟国の欧州諸国でさえ華為技術(ファーウェイ)問題などで米国と一線を画すなど、独自性を見せている。これこそが、世界のすう勢である。
 こうしたなか、安倍政権は「世界で唯一」といってよいほどに米国に追随、その世界戦略を支える時代錯誤の動きを強めている。
 共産党の声明は世界のすう勢に反する反動的なもので、帝国主義の世界支配を助け、結果的に安倍政権をも助けるものである。
 先進的労働者は、共産党に幻想をもつことはできない。アジアの平和を求め、米帝国主義とそれに追随する安倍政権との闘いを急がなければならない。(O)


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