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2018年12月15日号 2面・解説

米中首脳会談
「一時休戦」伝えられたが…

ファーウェイ問題で対立さらに

  米中首脳会談が十二月一日に行われた。トランプ米大統領と習近平国家主席の会談では、中国が米国産自動車への関税を引き下げるほか、知的財産権問題などで協議を行うことが合意された。マスコミは「貿易戦争の『一時休戦』」などと報じたが、直後に「ファーウェイ(華為技術)問題」が浮上、米国は中国を抑え込むための策動をエスカレートさせている。


  米帝国主義は、台頭する中国を抑え込んで世界支配を維持するため、通商要求だけでなく、経済・政治・安全保障のすべてにわたる攻勢をかけている。南シナ海での「航行の自由作戦」を実施、台湾問題や新疆ウイグル自治区などの民族問題でも揺さぶりを強めている。

中国追い落としもくろむ
 とくに米国は、中国の先端技術発展戦略である「中国製造二〇二五」を阻止することをもくろんでいる。
 トランプ政権はすでに知的財産権を口実に中国製品に制裁関税を発動、中国からの投資も規制した。八月には国防権限法を成立させ、安全保障を理由に、政府機関とその取引企業に対し、中国の通信大手・ファーウェイと中興通訊(ZTE)両社との取引を禁じた。
 なかでも、十月のペンス副大統領による演説は、「米国の民主主義に干渉している」などと、中国に対して「宣戦布告」したに等しいものであった。
 米フーバー研究所が十一月末に出した報告書「中国の影響力と米国の利益 建設的な警戒を高める」も、米国の議会、政府、大学、メディア、企業、技術の八つの分野に、中国が影響力を「浸透」させてきたとして警鐘を鳴らしている。
 こうした「中国追い落とし」戦略において、米国内の与野党に意見の相違は基本的にない。「ワシントンにはもはや『親中派』はいない」(サマーズ元米財務長官)のである。
 米国がやり玉にあげているのは、中国の国家体制そのもので、「米中対立は習近平政権が終わるまで続く」(ルトワック・戦略国際問題研究所[CSIS]シニアアドバイザー)ものだからである。
 米国の対中攻勢がやみ、あるいは元に戻ることはあり得ない。

G20でも対立激化
 このような状況下、米中首脳会談に先立って、アルゼンチンのブエノスアイレスで二十カ国・地域(G20)首脳会議が行われた。
 G20首脳会議では世界経済のほか、トルコでのサウジアラビア人記者殺害問題、黒海でのウクライナ艦船拿捕(だほ)問題なども話題となった。とくに米中両国は対立し、「国際協調」を崩壊の縁に追い込んでいる。
 たとえば、首脳宣言では二〇〇八年以来初めて、米国の執拗(しつよう)な要求で「保護主義と闘う」という文言が見送られた。一方、米国などが求めた「公正な貿易慣行」という文言は、事実上、中国を指すものであるため、中国は反対した。
 また、米国などが求めた「世界貿易機関(WTO)改革の推進」が盛り込まれた。だが、具体策は明記されなかったため、中国を制裁する根拠をWTOに付加しようとした米国のもくろみは、必ずしも成功しなかった。
 一部の国の首脳、あるいは投資家の中には、十一月半ばに開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、ペンス米副大統領が激しい中国非難を行ったことなどで首脳宣言の採択が見送られたことと比して、「米国を多国間主義につなぎ止めた」という評価もあるようである。
 だが、G20での米中の対立はまだ「序の口」であった。

米中首脳会談、合意したが
 米中首脳会談で、トランプ大統領と習国家主席は、技術移転や知的財産権保護、非関税障壁、サイバー問題、さらに中国の「構造改革」で合意したとされる。米中はこれらの問題について九十日間で協議を行うとし、新たな関税導入は当面見送られた。合意に達しなければ、米国は二千億ドル(二十二兆五千五百億円)相当の中国製品に対する関税率を現行の一〇%から二五%に引き上げる制裁強化措置を発動すると表明した。
 また、ムニューシン米財務長官は、中国が、農産物やエネルギー、工業製品など、一兆二千億ドルを超える輸入拡大の意向を示したと明らかにした。中国は、米国車に対する現行四〇%の関税を引き下げるとした。だが、具体的な品目や規模、実施時期は未定である。却下していたクアルコムによるNXPの買収計画への承認についても、中国は「再検討」を表明した。ただ、クアルコムはすでに計画を断念しており、実際の影響は限られる。
 中国にとっては、米国の要求を丸呑みすることはできない。中国は、とくに一九八〇年代以降の、米国による対日要求によって日本の国民経済が疲弊した経過を研究している節があり、「二の舞」は避けたい。また、要求に屈することは、国内経済の成長維持、ひいては政権の安定にもマイナスとなる。九十日間の協議で時間を稼げる保証はないが、「時は中国の味方」で、米国の攻勢には「持久戦」で臨もうとしているのであろう。
 先述した合意のあいまいさを見るだけで、投資家などが「歓迎」する「貿易戦争の『一時休戦』」は、事実ではない。

会談後も攻勢強める米国
 「一時休戦」と「安心」した投資家の期待は、早々に裏切られた。
 トランプ政権は、中国との通商交渉責任者に、ライトハイザー通商代表部(USTR)代表をあてた。彼は、「中国と話し合うことさえムダ」と公言してきた、対中強硬派の代表格である。
 さらに、カナダ司法省は米国の要求に基づき、ファーウェイの最高財務責任者(CFO)を、対イラン制裁措置に違反している容疑で逮捕した。
 米国は安全保障を理由に、同盟諸国に対しても、ファーウェイ製品を使わないよう求めた。これに応え、オーストラリアとニュージーランドは、ファーウェイとZTEを締め出している。英通信大手BT(ブリティッシュ・テレコム)も、ファーウェイ製品を基幹ネットワークからを排除すると表明した。
 米帝国主義はかねてから、優位にある技術力を使って国際的スパイ活動を繰り広げ、企業間・国家間の争奪に勝ち抜き、反米的政権や勢力をたたきつぶしてきた。その米国が、根拠も示さず、中国企業の「スパイ活動」をうんぬんするのは噴飯ものである。
 ファーウェイは、「中国製造二〇二五」の中心的戦略の一つである次世代高速通信「5G」を担う中核企業であり、これをめぐっては激しい国際競争がある。
 ファーウェイは、米国企業から年間百億ドルもの製品を輸入している。ファーウェイなど中国への制裁は、米国企業にも相当の「返り血」となる。それでも、米国は国益をかけ、あらん限りの手段を使って、中国を抑え込もうと策動をエスカレートさせている。ファーウェイへの制裁は、その最前線である。
 しかも、米国によるファーウェイへの内偵は、オバマ前政権時代に始まったことも明らかになっている。対中攻勢は、与野党を問わぬ「合意」となっていることの証左でもある。
 米国の攻勢はこれにとどまらず、今後行われる米中間の協議、あるいは協議外においても、米国は攻勢を強めることが必至である。
 米中対立は緊張の度を高め、さらに広がりを見せている。両国の軍事衝突の可能性さえある。仮に軍事衝突に至らなくても、対抗関係は長期に及ぶ。ペンス副大統領も「二十年、三十年続く」と述べている。
 最終的には、米中どちらも自国政権が維持できるか、国内階級闘争の動向で決まる。
   *  *  *
 アジアに位置する日本にとっては、米中の狭間で国の進路が問われる。
 安倍政権は米国の中国対抗策の先兵役を務め、わが国とアジアの平和を危機に追い込んでいる。安倍政権はファーウェイへの制裁に同調、国内携帯各社もこの措置に追随した。
 だが、現在中国に向けられている要求が、いつ日本に向けられないとも限らない。日米物品貿易(TAG)交渉はその最初の難関である。安倍政権は、米国製武器の購入などで「懐柔」しようとし、さらに対中・対ロ外交などで対米関係をわずかに「相対化」させようとしている。安倍首相が唱える「戦後外交の総決算」とはそれで、わが国支配層の一定の「自主性」のあらわれでもある。
 だが、安倍政権はしょせん、対米従属の枠を一歩もこえられず、「自主性」は欺まんにすぎない。
 わが国にとって、安倍政権の欺まんを打ち破り、独立・自主の進路をとることこそが活路である。(K) 


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