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2018年12月5日号 2面・解説

入管法改悪案が衆議院で強行可決

全労働者への攻撃に反撃を

  自民党、公明党、日本維新の会の三党は十一月二十七日、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法「改定」案を、衆議院本会議で強行採決した。現在、参議院での審議が行われている。同法案は、財界の要求に基づき、外国人労働者の大量受け入れを通じて日本人を含む全労働者の賃金や待遇を引き下げ、大企業の国際競争力を高める狙いがある。労働組合を中心とする反撃で、廃案に追い込まなければならない。


  入管法改悪案は、新たな在留資格「特定技能」を複数創設することで、外国人の単純労働者を「五年で三十四万人」規模で受け入れるというものである。受け入れ業種は建設業、農業、介護、宿泊、外食など「十四職業」とされ、その約六割は、現行の技能実習生からの移行である。また、派遣などの非正規雇用も排除されていない。

審議もデタラメそのもの
 だが、法案にはあいまいな点が多く、具体的なことは全て「省令以下」に委ねるとされている。政府は法案成立で「委任状」を取り付けた後、後日、官僚の「裁量」で決めるもくろみなのである。来年の統一地方選挙、さらに参議院選挙への悪影響を恐れてのものだろう。また、社会保険制度などの受け入れ態勢もまったくないままで、法案の体をなしていない。
 しかも、衆議院での同法案の審議は約十七時間という、異常に短いものであった。これは、六月に成立した「働き方改革関連法案」の約半分で、二〇一五年の集団的自衛権のための安全保障法制に比べると約百時間も短い。与党は、二十カ国・地域(G20)首脳会議など、安倍首相の外交日程に合わせて採決したことを公言している。
 さらに、失そうした技能実習生に対する聞き取り調査のデータを改ざんしていたことも発覚した。
 安倍政権・与党がいかに強引で、言語道断な国会運営を強行してるかが分かる。
 このような法案は、内容以前に、廃案以外にないものである。

財界の要求に応じた法案
 安倍政権が衆議院通過を焦った最大の理由は、来年四月からの法施行で、財界の要求に応えるためである。
 経団連は〇三年年頭に発表した「活力と魅力溢(あふ)れる日本をめざして」(奥田ビジョン)で、外国人労働者に「日本社会の扉を開いていく」と打ち出した。
 その後のリーマン・ショックを経てわが国の危機、長期デフレはさらに深まった。他方、国際競争は急速な技術革新を伴いながら著しく激化し、企業間、国家間の争奪は激しくなる一方である。
 さらにこんにち、少子化と労働力不足の深刻化が叫ばれている。財界は、外国人労働者の受け入れを焦っている。
 中西・経団連会長(日立製作所会長)も加わった経済財政諮問会議が六月に決定した「骨太の方針二〇一八」では、潜在成長率の向上が「持続的な経済成長の実現に向けた最重要課題」とし、その方策として、生産性向上、「働き方改革」、規制緩和策などと並び、外国人労働者の導入拡大が掲げられた。
 つまり、入管法改悪はそれ自身が孤立したものではなく、技術革新による中小企業淘汰(とうた)と官民労働者への大リストラ、「残業代ゼロ」の範囲拡大や「解雇の金銭解決」などによる低賃金・長時間労働などと結び付いたものなのである。
 法案の国会提出後も、中西・経団連会長は「ぜひ急いで実施してほしい」と、早期の法案成立のために政府・与党の尻をたたいている。
 安倍政権はこれを口実に、外国人労働者の受け入れ拡大で「日本は豊かになる」と宣伝、法案成立をゴリ押ししているのである。

全労働者への攻撃
 入管法改悪は、わが国労働政策の大きな転換であり、外国人労働者だけでなく、わが国で働く全労働者への攻撃である。
 わが国労働者の賃金は、一九九〇年代末から下落し続けている。
 安倍政権が「好循環」を叫び、財界に「賃上げ」を求め始めて以降も、実質ベースでは下がり続けている。とくに、介護や運輸などの業界は慢性的な低賃金となっている。
 これが、「人手不足」の最大の原因である。ゆえに、大幅な賃上げを行ってこそ、就業希望者が増え、「人手不足」の解消につながるのである。賃上げと併せ、非正規労働者の正社員化、長時間労働の規制、福利厚生の充実などを進めることも必要である。
 こうした抜本的施策を行わず外国人労働者の受け入れ拡大を急ぐのは本末転倒であり、労働力確保のための弥縫(びほう)策にさえならない。
 政府は「日本人と同等以上の報酬を支払う」などとしているが、これはどく一部の業種以外、とくに大部分の単純労働者には当てはまらない。
 現在、約百三十万人に達する外国人労働者は、現実にわが国経済を支える存在である。だが、外国人労働者、とくに技能実習生の多くは「最低賃金以下」「給料からの天引き」「半監禁生活」など、きわめて劣悪な労働条件を強いられている。
 リーマン・ショック直後、自動車産業を中心に「派遣切り」が社会問題となったが、同様に、多数の外国人技能実習生が契約を打ち切られ、帰国を余儀なくされているのである。
 一方、こうした状況を規制すべき労働基準監督署による技能実習先事業所への監督指導は、同事業所のわずか一割程度しかない。
 財界が欲しているのは「労働力」一般ではない。このような過酷な状況に基づく「低賃金の労働力」なのである。
 外国人労働者の受け入れ拡大によって、日本人を含む労働者間の競争はさらに激しくなる。当然にも、低賃金、劣悪な労働条件は固定化、あるいはさらに押し下げられる。
 財界はますます国際競争力を強化することができる。かれらが狙っているのはこれである。
 安倍政権は、これに「残業代ゼロ」の範囲拡大などを加えることで、「企業が一番活躍しやすい国」を実現し、多国籍大企業が国際競争に勝ち抜く条件整備を進めようとしているのである。

外国人だけの問題ではない
 野党は国会審議で、「技能実習生が置かれている無権利状態、人権侵害を温存し、拡大する」(志位・共産党委員長)など、外国人労働者の権利を守ることを力説している。
 外国人労働者の権利を守ることは、言うまでもなく重要な問題である。
 すでに述べたような劣悪な状況を放置したままの受け入れ拡大は、深刻な人権侵害をより悪化させ、外国人労働者を雇用の調整弁として扱おうというもので、断じて許せない。
 それにしても野党は、日本人を含む全労働者の待遇悪化につながることをなぜ暴露しないのか。これはきわめて不可思議なことである。    

広い戦線で闘うべき
 入管法改悪問題は、全労働者、さらに国民的課題として闘われなければならない。
 小林・経済同友会代表幹事は、「今後、IT(情報技術)やAI(人工知能)技術、ロボティックスが相当進歩した十〜二十年先になると、逆に日本のように労働人口が少なくなっていく方が、社会的にこの大きな問題が解消されることも想定できる。そのようなことも考えながら、どのような能力を持った人をどのような形で受け入れるか、どのように日本に滞在をしてもらうかなど、時間軸も含めて正確に定義した上で進め、後々禍根(かこん)を残さないようにするべきではないか」と、やや慎重な構えのようにも見える。
 小林代表幹事の発言は、当面の低賃金労働者の必要性に「異論」は述べておらず、過度の期待はできない。それでも、外国人労働者の受け入れ拡大をめぐって、財界の中でさえ、微妙な意見の相違があることを伺わせる。
 小林氏が指摘するまでもなく、外国人労働者の受け入れ拡大は、急速に進む技術革新にともなうリストラの流れと相まって、わが国労働者への「ダブルパンチ」となる可能性がある。
 地方にも、「外国人労働者も『東京一極集中』になり、地方の『人手不足』解消につながらないのではないか」という危ぐの声があるようである。「人手不足」の原因が低賃金にあることは、地方の自治体や企業ほど実感していることであろう。法案の問題点を明らかにして、支持を広げる客観的条件はある。
 参議院での審議はこれから本格化する。労働組合の奮闘が問われている。(K)   


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