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2018年8月5日号 2面・解説

日銀が緩和政策を一部修正

アベノミクスの限界に弥縫策

 日銀は七月三十〜三十一日、金融政策決定会合を開き、金融政策の一部修正を決めた。リーマン・ショック後の世界的な金融緩和が「出口」に向かうなか、緩和政策を止められない日銀のジレンマはますます深い。これは日本の長期金利、ひいては国家財政危機の先行きにもかかわる問題でもある。


 金融政策決定会合では、現在、ゼロ%程度に誘導することとしている長期金利を、〇・二%程度まで容認するなど、金融政策の一部修正を発表した。
 すでに、米連邦準備理事会(FRB)は政策金利を引き上げ、資産圧縮も進めている。イングランド銀行(英中央銀行)は、昨年末に十年ぶりの利上げに踏み切った。欧州中央銀行(ECB)も、年末に量的緩和政策を終了させる方針である(最近、後ズレの気配が強まっている)。
 先進諸国がリーマン・ショック後の緩和政策からの「出口」をめざすなか、日銀だけが例外となっている。

異常な緩和政策
 安倍政権と日銀は一三年、「脱デフレ」の共同声明を出した。安倍政権は、金融緩和、機動的財政政策(こんにちまではほぼ財政出動)、成長戦略という「三本の矢」、アベノミクスを推進してきた。「三本の矢」といっても、その中核は日銀による緩和政策であった。
 日銀は同年四月、「異次元の金融緩和」を開始した。一五年までに「二%程度」の物価目標を達成するとして、国債を年間八十兆円、さらに上場投資信託(ETF)などを購入し、代金を日銀当座預金に積みます政策である。日銀は当初、ベースマネー(日銀預金と流通通貨の合計)を二倍以上に増やすことを目標にしていた。
 さらに日銀は一六年一月、民間銀行の日銀当座預金にある超過準備、約十兆円分に対して△〇・一%のマイナス金利を科すことにした。一種の、金融機関からの徴税である。
 同年九月には、長期金利をゼロ%程度に誘導する「イールドカーブ・コントロール」を導入した。この下でも、国債などの購入は続けられている。
 これによって、日銀による国債保有額は五百兆円を超え、長期国債だけで四百兆円以上になる。これは、緩和政策前の三倍以上で、全発行額の約四四%を保有するに至った。ETF市場でも、日銀保有が六割を占めるに至った。これにより、日銀は上場企業の約四割で上位十位以内の「大株主」になった。
 金融機関は経営上、一定量の国債を保有し続けなければならないため、年内〜一九年には、日銀が買い入れるべき国債が市場からなくなる異常事態である。
 それでも、「物価目標」は達成できないままである。

国民収奪する政策
 メガバンク、証券会社などの巨大金融機関は、マイナス金利による打撃はあったが、日銀が供給した膨大な資金を使って投機を活性化させ、株高などで巨利を得た。他方、従来型の貸出ビジネスに依存した大多数の地方銀行や信金・信組は、地域経済の疲弊もあり、経営が厳しくなった。
 多国籍大企業は、円安で輸出が拡大した上、海外収益が見かけ上増加し、業績は史上最高を更新し続けている。
 また、日銀が政府債務を引き受ける事実上の「財政ファイナンス」であるため、安倍政権は財政拡大の「打ち出の小槌」を手に入れた。
 一方、大多数の国民にとっては、株価上昇は関係のないことである。なけなしの金融資産である現金預金は、(低金利なため)実質的に目減りし続けた。輸入物価の上昇などもあって実質賃金は下がり、国民生活はさらに苦しくなった。
 日銀の緩和政策の下、国民大多数への収奪は極度に強まり、一握りの大企業・投資家との間の格差が開いたのである。
 これらは、緩和政策の「副作用」などではない。大企業・投資家に奉仕するため、安倍政権と日銀が「意図した」インフレ政策なのである。

それでも続く緩和政策
 日銀の緩和政策は、国際的孤立、国債量の限界や物価目標の未達成、国民生活の悪化など、さまざまな面から限界に達し、破綻している。
 黒田総裁も「これまで考えられていたよりも、現在の金融緩和を長く続ける必要がある」と、これまでの政策の失敗を、事実上認めざるを得なくなっている。
 こうした下での日銀の政策修正は、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」などと称されている。
 内容は、まず、「フォワードガイダンス(将来の指針)」を発表、金融緩和を「当分の間」続けると約束したことである。これで、日銀が引き締めに動くのではないかとの観測を打ち消すことを狙った。国民生活の苦難をよそに、あと三年も緩和政策が続くことになる。
 第二に、イールドカーブ・コントロールにおいて、ゼロ%程度(△〇・一%〜〇・一%)に調節されてきた長期金利を二倍(△〇・二%〜〇・二%)まで認める。国債購入は継続されるが、金額は減ると思われる。
 第三に、ETFや不動産投資信託(JーREIT)の年間六兆円規模の購入は続けるが、特定の銘柄ではなく指数連動型などを増やす。
 第四に、マイナス金利政策も一部修正した。当座預金の十兆円分に科していたものを、五兆円に減らす。これによって、金融機関の不満を緩和させることを狙った。全国銀行協会の藤原会長(みずほ銀行頭取)は「副作用への配慮が示された」と、歓迎している。
 最後に、「二%程度」としている物価目標の達成時期を二一年まで先送りすることも決まった。
 全体に、弥縫(びほう)策を積み重ねることで、緩和政策の破綻を取り繕おうという、日銀の苦肉の立場がにじみ出るものとなっている。

すでに長期金利が上昇
 金融政策決定会合前から、市場では「日銀が長期金利の上昇を容認するのではないか」との観測が広がり、長期金利が〇・〇三%から〇・一%前後に上昇していた。
 日銀が「フォワードガイダンス」を示したことで、長期金利は一時〇・〇六%程度まで下落したが、その後再上昇し、一時、〇・一四五%となった。
 長期金利の上下動は今後もあり得る。問題は、わずか〇・一ポイントであっても、日銀が金利変動の容認幅を広げたことによって、投資家が、長期金利を押し下げてきた日銀の限界を認識することとなったのである。
 黒田総裁は「金利が急速に上昇する場合、迅速かつ適切に国債買い入れを実施する」と述べたが、購入すべき国債量自身が減っているのである。
 すでに今年に入ってから、新発十年物国債の取引が成立しなかった日が五日に達している。取引不成立は、一三年ゼロ回、一四年〜一六年は各一回しかなかった。
 日本国債に対する信認は、すでに低下し始めている。

アベノミクスの破綻明らか
 FRBの金利引き上げなど、ただでさえ、世界的には長期金利が上昇する傾向にある。日本の長期金利は、歴史的に米国のそれにつられて動く傾向があっただけに、長期金利の上昇圧力は、今後、日銀を追い詰めることになろう。
 長期金利の上昇は、すでに先進国中最悪の政府累積債務の危機をさらに悪化させることになる。仮に、長期金利が一%上昇すると、国家予算における国債費(償還や利払いの経費)は約三・六兆円増加する。一八年度当初予算を例にとると、国債費は約二十三兆円で、全体の約二三%を占める。長期金利が米国並みの三%まで上昇すると、国債費は十兆円以上も増加し、予算の三分の一を超える。
 わが国の財政危機は、ますます深刻なものとなる。
 また、日銀が物価目標の達成を先送りしたことは、この達成が金融政策だけで実行できないことを表明したものでもある。
 すでに世界経済は、成長率の低下という基調に加え、米国発の「貿易戦争」、新興諸国からの資金流出、技術革新の急速な進展に伴う競争激化など、さまざまなリスクがある。日本経済は、こうしたリスクの影響を受ける。それに加えての、日銀の金融政策の行き詰まりである。
 今回の「一部修正」は、「日銀依存」で「デフレ脱却」を進めてきた安倍政権、アベノミクスが完全に破綻したことも意味している。
 大規模緩和の中止を軸とする金融政策の転換、国民大多数のための経済政策を要求した闘いが求められている。      (O)


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