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2017年5月15日号 3面・解説

相次ぐ地銀の統合

 地域経済の疲弊が深刻化

 全国で県域を越えた地銀再編が続いている。背景は、安倍政権の下でいちだんと進んだ地域経済の疲弊と、日銀の大規模緩和による地銀の収益悪化である。だが、合併は支店の統廃合などに伴うサービス低下をもたらし、債権回収の厳格化などで地域の中小零細企業をいちだんと苦境に追い込む可能性が高い。労働者には合理化と人員削減が押し付けられる。一方的な地銀再編に伴う地域経済破壊から、住民生活を守ることが求められている


 金融庁は四月二十六日、長崎市で説明会を開いた。県内の十八銀行と、同じく親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FG)との経営統合計画について、地元経営者にその「利点」を説こうとしたものである。
 このように、安倍政権の発足以降、地方銀行の統合が相次いでいる。

地方経済に占める地銀
 日本経済において、金融機関の全預金額中、地銀の占める割合は約四五%で、第二地銀や信金・信組を加えれば、地方の金融機関が過半となる。貸出額においても、地銀は全体の約四割を占める。こんにちでも、地方における地銀の存在感は大きいのである。
 一九九〇年代末、北海道拓殖銀行の破綻などバブル崩壊後の不良債権問題の深刻化への対応と、政府による金融規制緩和策(金融ビッグバン)によって、都市銀行や信託銀行は急速に統合・再編を進めた。大手二十行は七グループに集約され、三メガバンク(三菱UFJ、みずほ、三井住友)が成立した。
 大手行は、保険業への進出など事業分野の拡大や海外展開を強化しているが、それを行うだけの資金力を持たない地方銀行は、その融資を受ける中小零細企業に比べれば「まし」とはいえ、経営が容易ではない。 

アベノミクスが苦況に拍車
 アベノミクスの下、地銀の経営はさらに厳しくなっている。
 都市部を中心に投資家や大企業が潤う一方、地方経済の疲弊が進んだ。地銀は、融資先企業の倒産、廃業などにより収益源が縮小している。
 地銀の収益構造は「資産運用益」、つまり、伝統的な銀行業務である「貸出による金利収入」に大きく依存し、この部分が全収益の約七割を占めている(対して、都銀は四割前後にとどまる)。地方経済の疲弊で、この部分が打撃を受けているのである。
 さらに、日銀によるマイナス金利政策で、地銀は日銀当座預金から「罰金」をとられる形になった。融資先が減っている地銀は、これに追い打ちを掛けられている。
 こうして、 地方銀行の過半数は、本業(貸出金利収入や商品の販売手数料など)の収益が赤字となっている。日銀も「金融機関の経営が不安定化するリスクがある」と述べている。
 これを打開しようとして、県域を越えた合併によって、体力強化を図らざるを得ない状況に追い込まれているのである。

メガバンクによる金融再編
 地銀の再編は、地銀内部だけで行われているかのようだが、メガバンクの要請でもある。常陽銀行と足利ホールディングス(足利銀行)が統合した「めぶきFG」は、足利の再生支援を行った野村證券、さらに、常陽と親密な三菱UFJの意向が働いたと考えられている。
 地銀の、その多くは、二〇〇〇年代を通して、メガバンクの系列下、あるいは影響下に再編されている。株式の保有を通じた資本関係だけでなく、ATMなど資金・勘定システムや人事面での交流、さらに、短期資金の融通を通した関係など、多岐にわたる。
 今回の「第二の再編」によって、その傾向がいちだんと進行し、金融機関のさらなる独占化、「集中と集積」が進行しつつある。
 メガバンクが地銀再編を推進するのは、地域経済の再生のためではなく、地域への収奪強化で収益基盤を安定・確保し、海外市場へ打って出る基礎を固めるためである。
 まさに、金融寡頭制の強化である。 

再編促す金融庁
 銀行を管轄する金融庁は、メガバンクの意向を受ける形で、地銀再編を促している。
 森信親・金融庁長官(当時)は、一三年、「金融機関の将来にわたる収益構造の分析について」という文書(森ペーパー)を、地銀各頭取宛に配布した。これは、地銀の名称は記載されていなかったものの、地方経済の縮小を前提に、各銀行の収益性を試算したものとされる。
 翌年、畑中・金融庁長官(当時)がこれを引き継ぐ形で、「大変多くの銀行ですでに黄色信号がともっている」「経営統合などを経営課題として考えてほしい」と明言、地銀トップに再編を迫った。
 他方、地方銀行は地域経済に大きな影響を与えるため、統合する場合、公正取引委員会の審査対象となっている。新潟県の第四銀行と北越銀行の統合は半年先送りされ、先のふくおかFGと十八銀行の統合も、合併によって長崎県内でのシェアが七割に達するために、公取による審査が続いている。

地銀再編のさまざまな影響
 地銀は信金・信組ほどではないが、地域に密着した業態である。しかし、統合によって預金者・融資先へのメリットは増えない。
 地銀が経営効率化を進めようとすれば、手っ取り早いのは合理化である。県内地銀同士の統合となると、当然ながら、店舗減少によるサービス低下を伴う。さらに、人工知能(AI)導入などと相まって、人員削減が進み、地域の雇用問題に直結する。
 金融機関にはすべて「自己資本規制」が課せられているが、地銀の場合、融資は自己資本の二十五倍以内と定められている。これを理由に、地銀が貸し渋り・貸しはがしを強化すれば、中小零細企業の倒産、地域経済のさらなる疲弊を招きかねない。
 これらは、市町村合併による行政サービスの低下や人員削減と似た面がある。
 地銀再編は、地方における権力構造にも影響を与える。ほとんどの場合、地銀経営陣は都道府県の商工団体の幹部であり、地方政治に大きな影響力を持っている。経済力を活用した影響力については、言うまでもない。地銀再編が進行すれば、都道府県政の「中央直結」はさらに強まり、ますます住民から遠いものとなる。
 先に述べた、金融庁による長崎市での説明会では、「統合のメリット」を力説した金融庁の担当者に対し、離島部の経営者を中心に「不安がある」「了解なくやるのは反対」との声が続出した。
 ふくおかFGと十八銀行の統合計画の場合、公取による「寡占」批判をかわす意図から、債権を他金融機関に譲渡する案も浮上している。だがこれも、債権回収の厳格化につながりかねないと、地元経営者には慎重な意見が根強い。
 地域経済の疲弊が深刻化するなか、統合が地域中小企業の切り捨てにつながりかねず、批判の声は当然である。
 地銀再編の道ではなく、地域経済、住民生活の再建のため、知恵と力を寄せ合うべきときである。(O) 


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