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2018年4月5日号 1面

米、鉄鋼などに不当な追加関税

 き然とはねのけ、国民経済守れ

   トランプ米大統領は三月二十二日、「通商法三〇一条(スーパー三〇一条)」に基づき、中国製品に高関税を課す大統領令に署名した。翌日には、鉄鋼やアルミニウムの輸入制限を発表、即日実施した。鉄鋼に二五%、アルミニウムに一〇%の追加関税を課すものである。
 二つの保護主義的措置の主たる対象は、中国である。米国は台頭する中国への経済・政治・軍事的圧力を強化し、世界支配を維持しようとしている。

日本経済に重大な影響
 鉄鋼・アルミの追加関税は、日本も対象となった。トランプ大統領は「『米国をうまく利用してきた』とほくそ笑んでいる。そうした日々は終わりだ」と、日本を名指しで非難した。
 安倍首相の腹心である世耕経済産業相は「(日本が課税対象から)除外される可能性はかなり高い」などと楽観論を振りまいていたが、完全に当てが外れた。トランプ大統領から「友人」と言われて有頂天になっていた安倍首相は、煮え湯を飲まされ、政治的失態を演じた。
 世耕経産相は、日本の鉄鋼製品が「高級品」であることを理由に、関税が課されても需要には問題ないと述べている。だが、世界最大の鉄鋼生産国である中国製品が米国市場から閉め出されてアジア市場に出回れば、鉄鋼製品全体の価格が値崩れし、鉄鋼メーカーの収益に悪影響を与えずにはおかない。
 わが国の米国向け鉄鋼輸出は約十九億ドル(約二千億円)で、対米輸出全体の一%程度しか占めていない。アルミニウムを合わせても大きなものではないが、日本経済全体への影響もあり得る。
 なぜなら、米国による「貿易戦争」は、中国が中心とはいえ世界中に対してのものであり、これらの市場を経由した影響は不可避である。日本経済は海外需要に大きく依存しているからである。たとえば、中国製品に関税が課されて中国の需要が減退すれば、日本も打撃を受ける。
 また、世界経済の不安定性が増せば、アベノミクスを支えた円安が持続する保証がなくなる。急激な円高となれば日本は輸出競争力を失い、円換算での海外利益は減る。
 日本は同盟国・米国の要求を受け、苦境に立たされつつある。米国は二国間での自由貿易協定(FTA)を望んでいる。そうなれば、自動車や農業分野を中心に、日本はいちだんの市場開放を迫られることになる。
 現在、米韓FTA交渉では「為替条項」が協議されており、米国は「通貨の競争的な切り下げ」を禁じる付属文書を要求している。米国は日本にも、同様の要求を行うことは間違いない。そうなれば、日銀の緩和政策や為替介入が「円安政策」と見なされることになる。
 これらは当然、労働者をはじめとする国民生活・国民経済に甚大な悪影響を与える。鉄鋼・非鉄などでのリストラ、地域経済のさらなる衰退につながりかねない


米国の必至の巻き返し策
 トランプ大統領は「貿易戦争は良いことだ。簡単に勝てる」とまで述べた。この背景には、米国の抱える危機の深さがある。
 リーマン・ショック後、米国経済の衰退はいちだんと深まり、代わりに中国が台頭した。経常収支と財政赤字の「双子の赤字」はさらに膨らんだ。国内では貧富の格差がいちだんと拡大、「ラストベルト地帯」に代表される製造業の衰退、麻薬や銃犯罪などの社会矛盾が深刻化した。トランプ政権は、これらを背景とする国民の不満を、「米国第一」の名の下に利用して登場した。
 秋の中間選挙への対応だけでなく、基軸通貨ドルの地位を守るため、トランプ政権は他国に通商要求を突きつけ、譲歩させる道に踏み込まざるを得なくなった。ゆえに、他国に犠牲を押し付ける手法は、仮にトランプ政権が退陣したとしても、本質的変更はあり得ない。

深まる支配層内の矛盾
 安倍政権は、アベノミクスの破綻による国民生活の悪化、森友学園問題などの政治腐敗への国民の怒りに加え、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視政策などで、外交でも孤立を深めている。ここに、米国からの通商要求が重なった。トランプ政権は通商要求と安保問題を絡めてくる可能性が高く、米国の傘の下で中国・朝鮮と対峙(たいじ)する安倍政権には難題である。
 米国からの圧力で、わが国財界にも対米矛盾が深まらざるを得ない。
 榊原・経団連会長は、米国の措置に「意図はよく分からない」と泣き言を言い、「きちんと状況を把握してもらいたい」と、安倍政権に懇願している。
 「ひざ詰談判をやっていただく」と安倍政権に求めている点では、小林・経済同友会代表幹事も同様である。一方、「何とか頼めばうまくいくのではないかという考えが一部にあったことは否めない」と、安倍政権の当初の楽観論を暗に批判している。さらに、「第一次世界大戦前のような時代にどんどん戻っていくようだ」と現状を憂い、「きちんと主張すべきことを主張していけばよい」と、環太平洋経済連携協定(TPP )を含めて、世界経済における日本の「主導権」、ある種の対米「自主」を主張している。
 わが国の労働者をはじめとする勤労国民は国民経済・国民生活を守るため、わが国財界・支配層内の亀裂も利用して広い戦線をつくり、米国による理不尽な対日要求と闘わなくてはならない。
 一九八〇年代の「プラザ合意」後の円高不況、日米構造協議による大規模公共投資と財政赤字の拡大、「年次改革要望書」による規制改革など、米国の対日要求によって、国民経済・国民生活は破壊され続けてきた。この歴史を繰り返してはならない。
 財界には限界があることも忘れてはならない。小林・経済同友会代表幹事のように、おずおずと「自由貿易」を主張するだけでは、トランプ政権の保護主義と闘うことはできない。労働者階級こそ、国民運動の主導権を握らなければならないのである。
 米国の対日要求が強まるなか、要求に屈して国民経済・国民生活にさらなる犠牲を強いるのか、要求をはねのけて国民経済・国民生活を守るのか、わが国の選択が迫られている。(O)


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