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2018年2月5日号 3面・解説

ダボス会議
「米国第一」への批判相次ぐ

 通商や技術革新など対立激化

  ダボス会議は、毎年年頭、世界の支配層、政治家や企業幹部が一堂に会して議論を行うものである。今年は「分断された世界で共有される未来の創造」というテーマが掲げられた。

米中が主役の会議
 今年の会議は、世界経済の低成長が続くなど、リーマン・ショック以降の世界資本主義の危機がさらに深まるなかで開かれた。現在の世界的な株高などは、新たなバブルで、再度の危機を準備するものである。
 急速な技術革新と相まって国際競争はますます激しく、国家間の矛盾も激化している。
 世界の八人の大資産家が、下位半数の人類に匹敵するほどの資産を保有するなど格差が開き、労働者階級・人民の貧困は耐え難くなっている。
 こうした下、世界の支配層もまた現状に耐えられなくなった。「米国第一」を掲げたトランプ政権の誕生はそれを端的に示し、国際政治をさらに激動させている。
 米帝国主義はいちだんと衰退し、中国などが台頭する「特殊な多極化」はますます進んだ。
 こうした現状に世界の支配層はおびえ、対応を迫られている。
 昨年のダボス会議では、中国の習近平国家主席が、米国に代わって中国が世界のリーダーシップを担うという趣旨の提案を行うなど、中国の存在感が際立った。
 今回は就任後一年を経たトランプ米大統領が初めて参加するなど、注目を集める会議となった。
 トランプ政権にとっては、中国に負けじと、米国の存在感を世界に認知させる狙いがあったものと思われる。
 出席しなかった習主席を含め、米中がダボス会議、ひいては国際政治の両極であることを示した


TPPに言及した米国
 トランプ米大統領は演説で、改めて「米国第一」を打ち出した。
 直前に成立した税制改革法や規制緩和措置を材料に、米国の「ビジネス環境の良さ」をアピールした。
 一方で、「不公正な経済貿易慣行を見過ごさない」などと、とくに中国を念頭に「知的財産権の侵害に言及した。ダボス会議前に発動した太陽光パネル(緊急輸入制限)などへのセーフカードに続く、中国への制裁措置も辞さない構えを見せたものである。
 演説後には、国内向けに民主党やメディアへの批判も忘れなかった。
 また、環太平洋経済連携協定(TPP)への「復帰」を示唆(しさ)した。
 TPPへの態度「変更」は、なぜ生まれたのか。
 大統領は就任直後にTPPからの離脱を表明、二国間協議に軸足を移すとしてきた。だが、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉はメキシコとカナダの反発で合意できるメドはなく、米韓自由貿易協定(FTA)の再交渉も似たり寄ったりで、トランプ政権は通商政策で成果がない状況にある。秋には中間選挙が迫っているが、「ロシアゲート問題」などで政権は揺らぎ、共和党の勝利も保障されていない。トランプ政権としては多国籍企業や農業団体などの要求を容れる、何らかの成果が欲しい状況にある。
 また、中国は昨秋の共産党大会で、「二〇四九年に米国と並ぶ」という目標を掲げ、「一帯一路」構想などで国際的影響力を増している。これに対抗し、成長するアジアでの通商・投資ルールを、中国に先んじて確立させるという狙いからも、TPPへの一定の評価「見直し」を迫られたものといえる。
 トランプ大統領がTPP参加は「あくまで米国に有利な条件の下で」と述べたように、あくまでも「米国第一主義」の枠内でのものである。ムニューシン財務長官はドル安で輸出を後押しすることを正当化する発言を行ったが、これも同様である。米国が衰退する自国経済を立て直すために、他国に犠牲を押し付けることを強めこそすれ、止めることはない。

米国への不満次々と
 トランプ政権に対しては、各国から批判の声が次々と上がった。
 「『米国第一』が世界経済の脅威」(イタリアのジェンティローニ首相)との声をはじめ、ドイツのメルケル首相は「保護主義は解決策にはならない」としたほか、「温暖化などさまざまな問題の解決にあたるためにも強い欧州連合(EU)をつくる」と、「パリ協定」離脱を表明した米国をけん制、EUの結束強化を表明した。
 インドのモディ首相も米国を名指しはしなかったが、「保護主義の動きがグローバル化を脅かしている」と述べ、「多極化した世界を共に構築しよう」と、新興国の台頭にふさわしい国際政治秩序を訴えた。
 ドラギ欧州中銀総裁も「(国際舞台で為替に言及しない)ルールから外れている」と、ムニューシン発言に不快感を示した。
 諸国は、トランプ政権を批判するだけでなく、自国の運命を切り開くため、新たな国際秩序の模索と努力を強めている。

技術革新でも激論
 自動運転や人工知能(AI)などの技術革新も話題として取り上げられ、激論が交わされた。
 なかでも激論となったのは、データの保存と利用をめぐる問題である。IoT(モノのインターネット)やAI導入などで、インターネットを経由して流れ、集積するデータ量はうなぎのぼりとなっている。スマートフォン(スマホ)などを通して集められる情報は、個人の通信や購買など記録だけでなく、ヘルスケア(健康)といった個人情報として非常にナイーブな問題、ひいては国家の安全保障にかかわるようなものさえ多い。
 だが、膨大なデータの管理は、アマゾンやグーグルなど、ほとんど米国の巨大多国籍大企業の手中にある。これは、米国以外の企業からすれば由々しきことである。
 すでにEUは、個人情報の厳格な扱いを求める一般データ保護規則(GDPR)を施行済みである。中国はデータの国内保存を企業に求めている。
 ダボス会議では、メルケル首相らが「データは皆で共有されるべき」と、独占するアマゾンなどを批判した。だが、米独占企業は「技術革新が阻害される」などと、応じていない。
 他方、「技術革新は雇用への脅威にもなり得る」(トルドー・カナダ首相)などの声もあった。
 急速な技術革新と生産力の拡大が、資本主義的生産様式の枠内に収まり切らなくなっていることの証左である。

リスク拡大も指摘される
 ダボス会議では、世界の主要国の間で、軍事衝突も含めた政治・経済対立が起きるリスクが急速に高まっていると指摘された。WEFによる「グローバルリスク報告書」は、二〇一八年に想定されるリスクとして、経済格差やサイバー攻撃のほか、朝鮮半島や中東での新たな軍事衝突の恐れを指摘している。
 すでにあげたような経済危機の深まり、階級闘争と国家間対立の激化、技術革新が危機をさらに促進させていることなどを背景に、背化の支配層もリスク拡大を認めざるを得ないのである。

日本の存在感薄く
 こうしたなか、対米従属の日本の存在感はますます薄い。かといって、世界の荒波が日本を避けて通るわけではない。
 トランプ政権が打ち出したTPPの再交渉一つさえ、安倍政権には容易ではない。米国の「復帰」をこいねがい、さまざまな「対米配慮」を進めていた安倍政権は、「復帰」発言を「歓迎」してはいる。安倍政権は、米国を除く十一カ国で合意した「TPP 」を三月に署名することをめざしている。とはいえ、再交渉となればいちだんの譲歩は避けられず、農産物のさらなる市場開放や、自動車の輸出規制などがのみがたいものである。他の諸国は、なおさら再交渉には否定的である。
 だがそうなれば、中国に次いで膨大な対米貿易黒字を稼ぐわが国に、日米二国間での通商要求が襲い掛かる可能性が高い。安倍政権のジレンマはますます深く、これは「ポスト安倍」を見据えた自民党内の対立として反映することになろう。
 ダボス会議では、世界の激動だけでなく、日本の進路が問われていることが改めて示されたといえる。(O) 


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