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2018年2月5日号 2面・解説

2018年度予算案

 国民生活へのさらなる打撃必至

  政府は一月二十二日、二〇一八年度予算案と一七年度補正予算案を国会に提出、補正予算案は二月一日に参議院本会議で可決・成立させた。本予算の特徴は、引き続き社会保障費を削減する一方、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「ミサイル」を口実に、またも防衛費を増額したことである。その実態は、国民生活をさらに追い込み、米国や多国籍大企業、投資家に奉仕する予算案となっている。


 一八年度予算案の歳出総額は九十七兆七千百二十八億円で、六年続けて過去最大を更新した。財務省は「経済再建と財政健全化を両立する予算」などといい、与党は「社会保障と財政健全化」で成果があるかのように宣伝している。
 だが、これは事実ではない


「人づくり」掲げるが…
 政府によれば、予算案の重点項目は「人づくり革命」と「生産性革命」である。
 「人づくり革命」関連では、保育所拡充のための拠出金、保育士や介護人材への処遇改善、幼児教育の段階的無償化、返済不要の給付型奨学金の実施、児童扶養手当の全額支給要件引き上げなどである。
 与党は給付型奨学金を盛んに宣伝している。だが、奨学金制度は、制度発足当時は無利子が基本であったものを、一九八〇年代の中曽根政権以降、有利子化が進められた。今回の措置は、従来の制度改悪から「わずかに反転」したものではあっても、「人への投資」などと大仰に言えるようなものではない。九〇年代移行の「デフレ不況」の下、受給者が急増し、卒業後も返済負担にあえぐ深刻な現状に迫られたものである。
 児童扶養手当の全額支給要件引き上げも、公明党が「成果」と宣伝している。年収百三十万円未満から百六十万円未満へと引き上げられるのは「前進」だが、二〇〇〇年代初頭には二百四万八千円未満だったのであり、依然として改悪前の水準にはほど遠い。
 しかも、これらわずかな政策でさえ、二〇年に消費税を増税することが前提となっている。
 「生産性革命」では、中小企業の設備投資支援、賃上げを行った企業への税控除、三大都市圏環状道路などのインフラ整備が掲げられている。
 設備投資はこんにちの技術環境下では省力化投資の推進であり、事実上、人減らしにつながる。これへの支援とは、要するに「リストラ補助金」にほかならない。

社会保障費削減いちだんと
 全体で三十二兆九千七百三十二億円の社会保障費については、自然増を毎年五千億円以下に抑えるといる削減措置が続き、一八年度は約一千三百億円が削減される。
 来年度の削減策の中心は医療分野で、薬価を一・四五%の大幅削減する。自前で調剤している自治体病院などでは、経営圧迫要因となる。また、紹介状なしで病院にかかる際に五千円(歯科は三千円)の定額負担が必要となる病院の対象を拡大する(現行は五百床以上)ことで、患者の初診負担はさらに増える。高齢者の高額療養費の自己負担限度額も、二年連続で引き上げられる。
 さらに打撃を受けるのは、生活保護世帯である。生活保護において、食費などの日常生活にあてる生活扶助費を最大五%もされる。生活保護費は、都市部在住の「夫婦と子ども一人世帯」で年三・六万円、「同子ども二人」では年十万円以上も削減される。「人づくり革命」といいつつ、子どもが多いほど削減額が大きいというきわめて矛盾した政策である。
 生活保護給付が引き下げられることで、介護保険料や利用料の減免、国民年金保険料の減免、難病患者への医療費助成などにも影響が及び、低所得者を中心に負担が増えることになる。一三年に同様の減額が行われた際には、全国二十以上の自治体で、就学援助の対象が狭められる事態となった。今回も、全国で深刻な事態が起きるだろう。
 年金制度では、支給額が前年度から据え置かれる。野菜やガソリンなどの物価が上昇しているなかであり、実質的上は支給額の削減になる。
 これらにより、安倍政権の六年間での社会保障制度の改悪は、総額一・六兆円にも達することになる。
 このほか、中小企業対策費は二・二%(約三十九億円)も削減される。他方で「中小企業の生産性革命」への支援を掲げており、生産性向上への投資ができない中小零細企業はますます切り捨てられることになる。
 食料安定供給関係費も、コメの直接支払交付金の廃止などで二・五%(約二百五十億円)も減額される。減反政策がなくなるなか、農民はさらなる価格競争を強いられる。「担い手」である大規模農家を含めた淘汰(とうた)が進むことになる。
 また、たばこ税が十月から一本あたり一円引き上げられるほか、一九年には出国時に一人一千円の「国際観光旅客税」が課せられる。「国際観光旅客税」は、訪日外国人(インバウンド)を成長戦略の一角に据えている政策とさえ矛盾するものである。
 他方、株式譲渡益への税率は、一八予算案でも二〇%に据え置かれたままで、欧米先進諸国の平均課税率である三〇%に比しても異常な低さである。

防衛費はさらに「聖域」に
 一方、防衛費は五兆一千九百十一億円と六年連続の増額で、またも過去最大を更新する。
 来年度については、「敵基地攻撃」も可能な長距離巡航ミサイルの関連費が新たに盛り込まれた。思いやり予算など米軍駐留経費は約百九十五億円も増額され、沖縄県民の意思を踏みにじっての名護市辺野古での新基地建設も続く。
 すでに成立した一七年度補正予算でも、総額の八・六%以上を占める二千三百四十五億円が計上されている。内容は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入などもあるが、大部分は垂直離着陸輸送機オスプレイや護衛艦などの「分割払い」の前倒し費用である。本来、補正予算は災害や景気対策など緊急性のある支出のためのものだが、これは補正にさえ該当しない支出である。兵器の購入先である米国への「貢ぎ払い」を急いだということでもあり、米軍需産業にとっては誠にありがたい措置ではある。
 防衛費はまさに「聖域」扱いで、米戦略に沿って軍事大国化を進め、「対中国」で矢面に立つことになる。 

財政はいちだんと深刻
 すでに、国民生活は厳しさを増し、貧困が拡大している。金融資産を持たない世帯は全体の三一・二%、単身世帯では四二・九%にも達して過去最高となる一方で、安倍政権下で二倍以上に上昇した株式など資産価格高騰で投資家は大いに潤い、大企業の内部留保が四百兆円を超えるなど、格差はますます開いている。安倍政権は、生活保護給付削減の理由として「生活保護を利用していない低所得世帯の生活水準が下がった」としているが、これこそ、国民が貧困化していることの証左である。
 世界では、わずか八人の大資産家が、下位半分の人口に匹敵する資産を有している。日本においても、わずか三百人が、下位四四%の世帯が保有する貯蓄額とほぼ等しい金融資産を持っているのである。
 「経済再生」というのであれば、しこたま儲(もう)けた大企業や投資家に増税し、大多数の国民には減税と各種社会保障政策の拡充を行うべきなのである。
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 一八予算案の新規国債発行額は三十三兆六千九百二十二億円と、六年連続で減らしてはいる。だが、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は十兆三千九百二億円の赤字が続いており、黒字化のメドはない。安倍首相は「税収増」を誇るが、税収と歳出のかい離は依然として大きいままである(図)。
 すでに二〇年度のPB黒字化の目標は投げ捨てられ、二七年度に再延期されている。二五年には団塊世代がすべて後期高齢者となって社会保障費が増加する。これを口実に、いちだんの社会保障制度改悪や大増税、国民への負担押しつけは必至である。
 それでも、すでに国内総生産(GDP)の二・五倍に達し、先進国中最悪である政府累積債務を解決することは不可能である。早晩、何らかのきっかけで、長期金利の上昇と財政破綻は不可避である。それが大規模・急激に進めば、わが国は通貨安と流出、物価急騰、企業倒産と大失業などの破局に陥ることになる。
 一六年度予算案を経て、国家財政危機はさらに深刻の度を増すことになる。労働組合は、犠牲にされる国民諸階層と広く連携し、闘いに備えなければならない。(K) 


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