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2017年10月25日号 1面〜2面

総選挙/「自公信任」は敵の宣伝

国民の怒りはますます高い 
独立・自主の政権めざして闘おう

  第四十八回総選挙が十月二十二日、投開票された。
 こんにち、世界経済危機は長期化・深刻化し、技術革新はかつてない速度で進み、国際的な市場競争と争奪を激化させている。
 帝国主義者、支配層は「現状にとどまれなくなり」、全世界の労働者階級・人民、中小諸国に襲いかかっている。
 なかでも、トランプ米政権は世界支配を維持するための巻き返しを強め、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視をあおり、北東アジアの緊張を極度に高めている。また、米中関係は安全保障面だけでなく、経済やサイバー空間を含んだ、一種の「全面的な戦争」へと突入している。
 この下で、「森友・加計疑惑」だけでなく、安倍政権の内外政治は行き詰まり、国民の安倍政権への不満は急速に高まっている。東京都議選での自民党の歴史的な惨敗、安倍政権への支持率急落で、政権は追い詰められていた。
 安倍首相は、この窮地を脱し、政権を延命させるため、「国難突破解散」に打って出た。
 本来なら、総選挙では、激動する世界でわが国がどう生きていくのか、外交・安全保障でも、経済・国民生活の問題でも、完全に行き詰まった多国籍企業中心の対米従属政治を転換し、新たな国の進路を切り開くための闘いを戦略的に構築する一環としての闘いが求められた。野党は、自公与党に対し、政策的対抗軸を対置し、有権者に争点を鮮明にして、争うべきであった。だが、これらは争点にはならなかった。
 わが党は、戦略的観点から候補者の擁立を見送ったが、一部では、必要な支援を野党候補に行った。
 選挙の結果、自公政権が継続することになった。しかし、この結果は、有権者が安倍政治を信任したことを意味しない。野党の醜悪なドタバタ劇という、いわば「敵失」と小選挙区制を含む術策で、安倍政権はかろうじて政治的なピンチを切り抜けたのである。
 財界は、「安定的な政権基盤が維持・強化された」(榊原・経団連会長)などと、選挙結果を「大いに歓迎」している。
 だが、安倍政権を取り巻く危機はいちだんと深い。特別国会が十一月一日に召集され、第四次安倍政権が発足する。だが、政権が抱える課題は難問だらけで、立ち往生することは必至である。闘いが前進する条件はいちだんと広がる。
 多国籍企業を中心とする対米従属政治を根本的に転換する政治的対抗軸を持ち、労働運動を基礎に保守層を含む広範な国民の怒りを結集しうる、強力な政治勢力の形成こそが必要である。

各党の消長と選挙戦術
 マスコミは「自民党圧勝」と宣伝して、闘おうとする者の意思をくじこうとしている。
 選挙結果をどう見るかは、政治闘争の一部で、敵の企みに乗せられてはならない。
 選挙、いわば支配層に有利なルールの「勝敗」は彼我の闘争の一部で、しかも一時的なことにすぎない。労働者・国民の政治意識の発展、ストライキや国民運動、闘う力の前進こそが肝心なことである。

 選挙の結果、自公両党は衆議院の四百六十五議席(定数は前回比十減)中、八議席減の三百十議席で、衆議院の三分の二を超える議席を維持した(追加公認を含まず、以下同)。

・自民党
 議席数は公示前から三議席減の二百八十一議席(小選挙区二百十五、比例六十六)。
 自民党は「この国を、守り抜く」を宣伝文句に掲げた。公示後の安陪首相の演説は、おおむね、朝鮮問題と少子化を「国難」と力説した。朝鮮への「制裁強化」と、内政では求人倍率などを根拠に「アベノミクスの成果」を強調するというものであった。
 安倍首相は、日米同盟での圧力強化で「国民の財産と安全を守る」などと、朝鮮問題を最大限利用した。また、「幼児教育、高等教育の無料化」など野党が求めてきた政策を掲げた。昨年の参議院選挙でも行った「抱き着き」戦略で、欺まん的に票を奪った。

・公明党
 五議席減の二十九議席(小選挙区八議席、比例二十一議席)。比例票は六百九十八万票で、前回比約三十四万票減った。自公連立以降のピーク時(二〇〇五年)比で、二百万票も減った。
 「幼児教育の無償化」「年金・介護分野での高齢者支援」など、「売り物」の社会保障政策を中心に訴えたが、神奈川六区で敗北したのをはじめ議席を減らした。
 安倍政権の悪政を支え続けたことの審判が下ったものだが、手堅い選挙を行うこの党としては、収まりがつくまい。自公関係の継続を含む、深刻な総括が迫られる結果である。

 野党・無所属は百五十五議席を得た(その後、無所属の三人が自民に追加公認された)。

・立憲民主党
 選挙戦後半で支持が急伸し、五十四議席(小選挙区十七議席、比例三十七議席)を獲得し、公示前から三倍以上に議席を伸ばした。比例票は、前回の民進党よりも多い。
 解散後に誕生したばかりのこの党が野党第一党となれた理由は、希望の党の失速と、、安倍政権への不満を一時的にしろ吸収したことである。出口調査によると、いわゆる「無党派層」の約三割が、比例代表選で立憲民主党に投票したという。
 だが、政策は基本に民進党を引き継いでいる。「辺野古ゼロベース」にしても、「日米同盟深化」が基本であれば、限界は明らかではないか。
 内部にはさまざまな意見があり、この政党が歴史の試練に耐えられるか、今後、実践的に試されることになる。

・希望の党
 五十議席(小選挙区十八議席、比例三十二議席)と、公示前から七議席後退した。
 安倍首相の解散表明直後、小池都知事が代表に就任して結党、さらに前原代表と図って民進党を合流させ、「政権交代選挙」とぶちあげて耳目を集めた。だが、あっという間に失速し、「拠点」のはずの東京でも、小選挙区で一議席しか取れない惨敗である。小池代表の政治的影響は、わずか数カ月で大きく失墜した。
 マスコミなどは民進党議員への「排除の論理」が失速の原因と報じるが、本質的には、自民党と寸分違わぬ小池代表の主張が有権者に見抜かれたためではないか。
 この党に「緊急避難」した議員も多く、今後も混乱を深めるだろう。

・日本維新の会
 十一議席(小選挙区三議席、比例八議席)と、三議席の後退。
 大阪・兵庫の小選挙区で三議席(前回は六議席)しか取れないなど、「地盤」でも後退した。支配層にとっても、「賞味期限切れ」が迫ったといえるであろう。

・共産党
 十二議席(小選挙区一議席、比例十一議席)で、九議席減。立候補した政党の中では、もっとも議席数を減らす惨敗である。比例票は、目標のほぼ半分であった。
 常任幹部会声明では、自公が三分の二を確保した理由を、希望の党の登場に押し付けているが、見苦しい言い訳にすぎない。
 安倍政権への不満票の多くが立憲民主党に向かった結果だが、それだけではない。
 この党は、従来にも増して、危機が深まる内外情勢の下、包括的な政策を有権者に示せなくなっている。
 結果的に、共産党主導の「野党と市民の共闘」は影が薄くなった。「共闘」すれば自党は伸びず、さりとて「共闘」の旗を降ろすこともできない。志位執行部は深刻なジレンマに直面している。

・社民党
 公示前と同じ二議席を維持したが、目標とした五議席には及ばなかった。労働運動、国民運動と結びつくこと、さらに日本の進路を語り、米帝国主義と闘える政党に脱皮できるかどうかが問われている。

・日本のこころ
 党首が希望の党に合流、選挙では議席を得られず「政党要件」を失った。

 このほか、野田元首相や岡田元民進党代表、小沢・自由党代表などが無所属で当選した。
 沖縄では、「オール沖縄」勢力の完勝はならなかったが、小選挙区の四議席中三議席を確保した。
 今後、希望の党はもちろん、立憲民主党もどうなるか分からない。「ポスト安倍」絡みの自民党内も「動き」が出るだろう。政局のさらなる流動化、政党再々編は不可避である。

選挙結果から何が読み取れるのか
 選挙後、マスコミは「自民大勝」「信任」(読売新聞)などと宣伝している。
 これらは、闘う勢力を意思をくじこうとする政治キャンペーンにほかならない。
 自公与党はいずれも議席数を減らしているというだけではない。選挙戦終盤の「日経新聞」の調査でさえ、安倍政権への支持率は三七%と、前回調査から一三ポイントも下落していた。通常であれば、大敗するレベルである。
 では、自公与党、安倍政権が逃げ切った要因は何か。
 最大の要因は、野党が安倍政権への対抗軸を提起できなかったことである。
 安倍政権は、対米従属で多国籍大企業のためのものだが、内政から外交・安全保障政策まで、ある程度一貫した政策を提示していた。
 財界、支配層は「政治の安定」を求め、自公連立政権の継続を支援した。
 さらに、アベノミクスでボロ儲(もう)けした投資家、あるいは労働者の上層の支持もあった。選挙戦の最中に日経平均株価が十四日間連続で上がったことは、日銀や年金基金(GPIF)を動員した政府、さらに外資を含む投資家の意図を感じさせる。
 また、安倍政権が「全世代型社会保障」など、「バラマキ政策」で有権者をたぶらかしたことがある。
 これに対する、野党はどうか。
 希望の党は、憲法改悪、安保法制堅持、改革政治の徹底の「ユリノミクス」などで、安倍政権の政策とほとんど同じか、財界の要求通りに「徹底」させたものであった。「脱原発」や「内部留保への課税」が財界の警戒を招くや、「こだわらない」(小池代表)と動揺し、有権者に見透かされた。
 今回は「受け皿」となった立憲民主党も、綱領には「日米同盟を深化」を明記している。公約(「国民との約束」)でも「国際社会と連携し、北朝鮮への圧力を強める」などと、日米基軸の枠内のものである。これは、安倍政権への対抗軸となり得るだろうか。
 共産党こそ、「左」を装いつつ、朝鮮問題で「国連制裁決議順守」を訴えるなど、安倍政権による朝鮮敵視に唱和した。
 これらと結び付いて、公示前の野党再編のドタバタ劇(前原・民進党代表による希望の党への合流決定など)が有権者を混乱させ、政治・政党不信を増幅させたことも、安倍政権・与党に有利に働いた。
 「非自民の票が割れた」ことが敗因とする見解は、事態の一面でしかない。基本的政策の一致抜きの「共闘」は野合にほかならず、逆に、有権者の不信を招くことにならないか。
 安倍政権への対抗軸がなく、有権者の選択肢が奪われていたことは、低い投票率にもあらわれている。
 投票率は小選挙区、比例代表ともに五三・六八%で、戦後二番目に低かった。戦後最低の前回から、一ポイント程度しか伸びず、前回を下回った都府県は十もあった。
 今回、選挙権は十八歳以上に拡大され、有権者は四百十四万人増えた。棄権者は三百七十五万人増え、およそ五千三百万人にも達している。この中にはいわゆる無党派層、あるいは政治から見捨てられた人びとが充満している。
 小選挙区制は、選挙制度の中でもとくに、民意を反映しない。低投票率には、小選挙区制による「死票」の多さも影響しているだろう。小選挙区で投じられた票の実に四八%、二千六百五十六万票が「死票」となった。比例による復活を勘案しても、三三・七%、一千八百五十万の有権者の意思が、議席に反映されていないのである。
 選挙がバカバカしいと思う有権者が増えるのは、自然なことである。

いくつかの注目できる選挙区について
 この時点ではまだ詳細な分析はできないため、別の機会に譲らなければならない。
 それを前提に、注目できる選挙区について若干だが触れておきたい。
 沖縄で「オール沖縄」勢力が優位を守ったことは、政府のさまざまな攻撃にもかかわらず、翁長県政を支え、大衆行動で粘り強く政府と対峙(たいじ)する県民運動の強固さを示している。
 佐賀県では、小選挙区の二議席とも野党系候補が勝利した。「保守王国」とされる佐賀県で自民党候補が全敗するのは、小選挙区制導入以来、初めてのことである。新潟県や北海道でも、全体として野党勢力が前進している。
 農業を中心とする地方の衰退、基地や原子力発電所の再稼働問題などが影響したことは間違いないだろう。自民党佐賀県連の留守会長は、「国策(諫早湾干拓事業や垂直離着陸輸送機オスプレイの配備計画など)に絡む重要案件が多く、先を見通せない状態に有権者の反応があらわれた」と「敗戦の弁」を述べている。
 国政、あるいは地域の重大問題で対抗軸を立てて闘えば、安倍政権を追い詰め、打ち破ることが可能なのである。選挙における「政党の組み合わせ」は部分的なことで、有権者の不満と結び付き、広範な大衆行動で闘うことことこそが、肝心なことである。

安倍政権の行き詰まりは不可避
 安倍政権の内外政治は、対米従属で、激化する国際的争奪戦に打ち勝つことをめざす、多国籍企業の「覇権的な利潤追求」に奉仕するものである。対米従属政治の下でわが国の軍事大国化・政治大国化をめざし、中国に対峙し、アジアで存在感を強めることを狙っている。憲法改悪、政治反動や排外主義イデオロギーなどは、そのためのものである。
 安倍政権は総選挙結果を受けて、内政では、アベノミクスの継続による「脱デフレ」、成長戦略の柱である「未来投資戦略」の具体化、米国抜きでの環太平洋経済連携協定(TPP)発足、労働生産性の向上を狙った「働き方改革」、社会保障制度改革、財政危機への対処などを進めようとしている。外交・安全保障政策では、朝鮮制裁の強化と中国への対抗強化、沖縄県辺野古への新基地建設、憲法九条の改悪をめざした策動、防衛費増額と軍需産業の育成強化などである。
 これらはいずれも難題で、安倍政権の政権運営は困難にあふれている。わが国を取り巻く国際環境の現状から見ても、その実現は容易ではない。
 世界経済の成長率の鈍化は、「外需依存」のわが国経済を大きく制約している。しかも、米連邦準備理事会(FRB)が金利引き上げと資産圧縮に踏み込むなか、再度の世界的金融危機の可能性が拡大している。
 わが国の危機は山のようにある。
 トランプ米大統領の来日と日米首脳会談による、安全保障と経済両面での対日要求にどう対応するかは、当面の重大課題である。
 米戦略に追随した対朝鮮での突出は、わが国を戦争の縁に追い込みかねない危険なものである。台頭する中国と衰退する米国を意識した「地球儀俯瞰(ふかん)外交」は、実力が伴わないものである。世界での日本の孤立化は進んでいる。財界の一部にも、中国の「一帯一路」構想に関心を持ち、安倍政権への懸念が広がっている。
 安倍首相としては、九条改憲で「名を残したい」ところであろう。希望の党と日本維新の会を加えれば、「改憲勢力」は国会の約八割に達しているとはいえ、このハードルも高い。与党である公明党も改憲論議には慎重な態度を示さざるを得ないし、財界でさえ、安倍政権が九条改憲に前のめりになることを懸念している。
 「先進国中最悪」の政府累積債務の解消を誰の負担で行うのかは、深刻な問題である。財界はこの解決を焦っており、消費税の一六%への引き上げなど、労働者・国民諸階層の犠牲で乗り切ることを求めている。国民の反撃は当然だが、支配層内部でさえ、闘争は激化せざるを得ない。
 仮に、安倍政権の掲げる政策が実行できたとしても、それは、国民にはいちだんの苦難となる。
 「未来投資戦略」一つを見ても、これが実行されれば、政府の推計でさえ、七百五十万人の失業者が発生する。安倍首相は「失業を恐れるな」とハッパをかけたが、階級矛盾・階級闘争の激化は不可避である。
 内外の危機の下、安倍政権は遠からず立ち往生せざるを得ない。悪政を打ち破れるかどうかは、国民運動の発展にかかっている。
 今回、連合中央・神津指導部は民進党の希望の党への合流を尻押しする醜態を演じた。労働組合は、選挙闘争だけに明け暮れるのではなく、自らの要求を基礎に、国民運動の指導部として、大衆行動で闘うべきである。
 労働者階級が指導権を握り、安倍政権の内外政治で苦しんでいる農民、商工自営業者、中小企業、内需型産業の大企業経営者などの国民諸階層と幅広く連携し、独立・自主、アジアの平和と共生、国民経済の擁護への政策大転換を実現するために、壮大な政治的な統一戦線を構築しなければならない。その力で、独立・自主の国民的な政権を樹立することが必要である。
 わが党はそれをめざし、自らの力を強化することを軸に、戦略的闘いを進める。(K)


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