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2017年10月5日号 1面〜2面・社説

衆議院選挙に際して

多国籍企業中心、対米従属
政治の根本的転換こそ

  第四十八回総選挙が十月十日公示され、二十二日が投開票となる。
 行き詰まった安倍首相が窮余の一策で踏み切った突然の解散・総選挙だが、その安倍の弱体化を見て、政権獲得への野望をあらわにした小池東京都知事が「希望の党」を結成し、展望を失った民進党が節操のない「合流」を決め解体、反発した民進党議員を中心にした立憲民主党の結成、共産党の野党共闘路線はより規模の小さな勢力の動きとなった。
 これら国民不在の政党再編劇に惑わされず、有権者はこれまでの経験に学んで、何が本当の課題かを見抜かなければならない。
 今回の総選挙は、世界資本主義が末期症状となり、「米国第一」主義を唱えるトランプ米政権が国際政治、経済を揺るがし、アジアでの戦争の危機を含んで日本の将来が問われるなかで行われる。安倍政権の五年の内外政治が完全に破綻し、長期デフレ不況、経済成長の長期停滞、財政危機の深刻化など日本が直面する深刻な課題はいっそう危機的となって、国民生活を破壊したもとで行われる選挙である。これは、森友・加計学園の「疑惑隠し」などよりも、より本質的なことである。安倍は完全に行き詰まったのである。
 したがって、この直面する課題をどう打開し、日本はどう生きるのか、これこそ争われるべき真の争点である。だが、各党、候補者は、政策を鮮明にして争おうとしていない。
 直面している朝鮮半島の危機から脱出したいのならば、誰が核戦争の危機をつくり出しているのか、誰が平和の敵なのかを明確に語るべきであろう。日本の安全保障政策について、真正面から語らなくては責任ある態度とは言えない。
 さらに、国民大多数の生活水準は急速に低下、とくに若者と高齢者が深刻である。ところが、大企業は膨大な内部留保を抱え、一部富裕層も急速に富を増やしている。他方、政府の債務は耐え切れないほどになっている。この財政危機を誰の負担で解決すべきか、各政党は、明確に語るべきである。
 このままいけば、今総選挙では「真の争点」が争われず、茶番劇で終わる恐れが大である。
 激動の国際情勢に条件づけられて、抱えている矛盾が拡大し、いずれ様相は一変するであろう。
 総選挙に対するわが党の態度については前回示したとおりである。労働者階級がこの選挙戦に必要な対処をしながら、戦略的観点を貫いて闘いを堅持することを呼びかける。

1、世界は激変し、歴史的転換点を迎えた
 国際政治は激変のさなかにある。その背景には、リーマン・ショック以来の世界経済危機があり、世界的な貧富の格差が急拡大、とりわけ先進国内部での階級闘争が激化し、支配層が対処を迫られているからである。
 世界経済は、二〇一五年夏の中国人民元の切り下げをきっかけにリーマン・ショック以降の一連の起伏とは異なった、より深刻な新たな危機の局面に移行した。
 第一に、世界経済の成長は右肩下がりが鮮明となり、長期化し、それが国際情勢全体を最も根底で制約し、条件づけることとなった。
 その背景には世界的な需要不足がある。一方の極に富の集中・蓄積が、他方の極に貧困の蓄積があり、その格差は絶望的なまでに開いた。
 第二に、世界経済内部の歴史的な構造変化が起こり、二〇〇八年ごろから戦後初めて世界経済に対する影響力で米国が中国に抜かれたことである。米国の衰退と中国の台頭のなかで力関係が変化し、激しいせめぎあいが続いている。
 第三に、こうした状況に重なって、国際的な技術革新の大波が押し寄せていることである。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ゲノム、自動運転技術などをめぐる国際競争が著しく激化している。それに伴う産業・企業の淘汰(とうた)のしわ寄せは大規模に労働者人民に押し付けられようとしている。
 ーーこうした歴史的条件のもとで、諸国間の市場獲得競争、資源争奪、貿易・通貨戦争など国際的な大競争がますます激化している。
 これらの下部構造の変化を背景にして、上部構造(国際関係・国際政治)は「特殊な多極化」がさらに進み、大激変のさなかにある
 戦後の世界経済・政治を長い間支配してきた米国であるが、今や完全に衰退し、国際政治での指導力も失っている。しかし、帝国主義が黙って引き下がることはない。衰退しつつあるとはいえ、現状では最大の帝国主義国であり、その超大国が、トランプ政権のもとで、「米国第一」に転換、他国に犠牲を押し付けて、巻き返そうと必死である。
 米国の戦略的な狙いは、台頭する中国が経済・政治・軍事など各方面で米国を追い越し、覇権を奪うことを阻止することであり、世界の政治支配を取り戻すことである。
 中国は内部に弱さを抱えながら、経済発展を基礎に軍事力でも政治でも力をつけ、米国主導の戦後政治・経済秩序に挑戦している。「一帯一路」構想など国際政治・経済で存在感を強めている。米中関係は、「協調もし、闘争もする」複雑な関係にある。両国は、世界支配、とりわけアジア支配をめぐって経済・軍事・政治・金融・サイバー・文化など広義の意味で全面的な「戦争状況」にある。
 そしてこんにち、米国は朝鮮半島での戦争も辞さない態度で、強力な圧迫・制裁、軍事的威嚇をし、中国に譲歩を迫っている。
 この闘争は世界経済、国際情勢に大きな影響を与える。
 ロシアも力をつけてきている。米独の矛盾も激化している。このように世界は「特殊な多極化」を呈している。
 日米関係は、経済でも外交・安全保障でも、世界経済がまだ「右肩上がり」の高度成長期とは違ってより厳しい局面に入った。トランプ政権からすれば、日本は「骨の髄」まで搾り取り、アジアで米国の権益と政治支配を維持するために利用できる国でしかない。
 戦後の対米従属の日米関係は完全に行き詰まり、新たな選択と転換が求められている。

2、わが国が直面する課題について
 こうした世界の中で、日本が直面する課題はいずれも難問である。
 その第一は、バブル崩壊後、四半世紀にわたる長期のデフレ不況から脱却できず、低成長が続いていることである。
 経済成長率を、日本と他の先進国(G7)の平均とで比較すると、一九九〇年代は日本が〇・三%、G7平均は二・三%、二〇〇〇年以降は日本が〇・二%、G7平均は二・四%である。発展途上国を含むG20と比較すればその差はもっと大きい。このように、他国と比べても著しい低成長が長期にわたって続いている。輸出主導型経済であるために、リーマン・ショックでの成長率の落ち込みは先進国で最大、壊滅的な打撃を受けた。
 戦後、「奇跡的な発展」を遂げ、国内総生産(GDP)世界第二位の国に上り詰めた日本は、こんにち、国際競争力をなくし、造船、鉄鋼、次いで電機産業でも中国、韓国、台湾などに急速に追い上げられた。唯一残った自動車産業もまた、こんにち第四次産業革命、EV化などの大波に直面し、後れを取っている。
 内需の中心でGDPの約六割を占める個人消費の成長率をみると、一九九〇年代は一・九%(G7平均は二・三%)、二〇〇〇年以降は〇・八%(G7平均は一・五%)で、他の先進国と比べても国民の懐具合はよくならず、特に二〇〇〇年代に入ってさらに消費は冷え込んでいる。
 低成長、デフレ不況の最も大きな背景は、労働者の賃金が著しく低いことである。平均年収で見ると、G7先進国、経済協力開発機構(OECD)諸国と比べても日本だけが一九九七年以降減少し続け、他国はほぼ増えている。その一方で、企業の内部留保はこんにち四百兆円に膨れ上がり、日本のGDPに迫るほどである。他国と比べてもより搾取されているので、消費が伸びず、経済は活性化しない。人が生き、結婚、出産、子育て、教育、社会生活をするための生活費、生活するのに必要な賃金に足りていないのである。

 第二に、人口減少、高齢化社会である。潜在成長率が低く、増大する社会保障費問題を抱えていることである。
 人口は二〇〇四年から減少局面に入ったが、生産年齢人口(十五〜六十四歳)は、一九九八年から減少し、二〇一五年までに七%も減少した。他の先進国(G7諸国)は移民人口もあるがカナダ、米国、フランスの順に上昇か横ばいである。日本は出産・子育て、若年層に対する政府支出が低いからである。
 潜在成長率の他の要素、カネは有り余っているが、資本として投入されていない。企業が需要は拡大せず生産拡大につながらないと思っているからである。
 もう一つ、資本と労働を結びつける技能、技術革新なども、これまで高い技術力を誇っていた日本だが、二〇〇〇年に入ってから海外留学する学生数はバブル期と比べ半減し、学術論文数、特許取得数も年々減少し、他の先進国、中国などに抜かれている。それは非正規労働者が増え企業内教育がされていないこと、基礎研究などの科学技術、教育予算が大幅に削られてきたからである。

 第三に、ますます深刻化する政府の財政赤字、政府債務残高の累増である。GDPの倍以上で二四〇%、先進国最悪である(二位は国家債務問題を抱えるイタリアでさえ一三〇%)。
 財政破綻が避けられているのは、日銀が大規模に国債を買い取って、長期金利を抑えているからにすぎない。
 バブル崩壊後の政府の諸施策は、すべて政府から企業への所得移転となった。景気刺激策による借金、税制(富裕所得者の所得税減税、法人税減税、消費税導入、住民税率アップ)、危機のたびの不良債権処理、企業の再生・リストラのための費用補てん、エコポイント、エコカー補助金などでの金融機関、大企業への公的資金投入、一九九〇年代から二〇〇〇年代初頭は金融機関の国債からの利子収入もそうである。政府の借金のツケは社会保障費の削減、増税、公務員人件費削減などで国民に回され、それが国民の可処分所得減少となった。
 そしてこの膨大な国債バブルの状況下で、国債の信用がなくなれば長期金利が上がって立ちゆかなくなる。すでに、各党の財政規律をゆるめる選挙公約が出るや否や、長期国債の金利は上昇した。
 この財政危機を誰の負担で解決するか、これをめぐる争いがすでに始まっている。財政破綻という状況下で、この課題が大きく浮上することは避けられない。

 第四に、戦後の米国支配の下で抑えられ、独自の安定的な資源、エネルギーの確保のための環境がないこと、そしてその価格はドル依存の日本円で、為替に揺さぶられていることがある。

 これらの課題を抱える日本は激動する外部環境に条件づけられている。米国の金融政策「正常化」による世界経済の危機は、「米国第一」を掲げるトランプ政権でますます増幅し、目前にきている。
 大津波が襲ってくる、危機を目前にしているのである。

3、完全に破産した安倍の内外政治
 安倍首相が五年前に政権を受け継いだとき、日本はすでにこうした深刻な経済危機と財政赤字に苦しむ国家であった。台頭する中国に直面し、外交的にも対米「自立」ができず、漂流している国家であった。
 安倍首相が政権発足時に表明したのは経済再生、日米の絆の回復、東日本大震災からの復旧・復興、教育改革というわが国が直面する「四大危機」の解決だった。
 しかし、安倍の五年間の内外政策は完全に失敗し、破綻した。「経済再生」は達成できず、国民経済・国民生活は一段と悪化した。
 アベノミクスがもたらしたのは、以下の通りである。
 多国籍企業・金融独占資本、投資家、資産家たちに膨大な利益をもたらした。
 一方で、消費税増税、社会保障の給付切り下げや負担増大、教育費や医療費の引き上げなど実質的な大衆課税が行われた。これもまたデフレ要因になった。
 労働者はじめ国民諸階層の窮乏化が進み、経営は悪化した。労働者の実質賃金は下がり続けている。農民や、中小商工業者の経営状況は全体として悪化して、離農、転廃業が相次いだ。
 政府累積債務はさらに膨張し、それを可能にした日銀の国債買い取り、総資産の異常な拡大によって国家債務危機は目前に迫っている。「成長なくして財政再建なし」などの欺瞞(ぎまん)ももはや通用しなくなった。
 そして、こんにち、トランプの登場で、環太平洋経済連携協定(TPP)などの成長戦略も総崩れとなり、これまで通りにはやれなくなった。
 また、安倍の安保外交政策は、小泉政権以降の、金融独占・多国籍企業の覇権的利潤追求、強大化する中国へ対処する外交だが、そうした日米同盟強化、日米軍事一体化は、いまや日本外交の選択肢を大きく狭めている。
 安倍はこんにち、朝鮮問題への対応でトランプのお先棒を担いで突出して動き回り、「今は対話の時期ではない」と中国やロシアにも制裁強化を迫っている。そして、制裁を強化することで、朝鮮の「核・ミサイル開発」を断念させ、その脅威から国民を守る、と国民を欺いている。そうしてわが国を核戦争の危機、存亡の崖っぷちに立たせている。それはまた、海外諸国に警戒を呼び起こし、アジアや欧州で孤立する道である。
 安倍政権は、衰退する米国を見て、右派勢力を基盤にし、対ロ外交など欺瞞的な対米自主を装う政治だが、最近のラスベガス事件に象徴的に現れているように、内戦状態になりかねない国内矛盾を背景にして、トランプ政権は歴史を巻き戻そうとしている。国連など米国が利用し支配した戦後の世界秩序はもはや崩壊の危機に瀕(ひん)している。そして、米国の経済・金融、軍事での対日要求と圧力は強まるばかりである。
 対米従属政治はここにきて限界を迎え従来通りにはやれなくなった。
 昨年の参議院選での東北甲信越の乱、東京都議選で示されたように、労働者・国民諸階層はもはや耐え難く、国民の不満と怒りは高まっている。沖縄での反米軍基地闘争は高まっている。
 わが国支配層の中にも矛盾は拡大している。安倍の対中国政策をめぐっても支配層内部に意見の違いが出てきている。すでに馬脚を現し始めたが、小池新党も、わが国の危機、国民の不満の強まり、安倍の内外政治の破産など、こうした流れを見た支配層の一角で仕組まれたものである。
 わが国支配層、金融独占、多国籍企業の政治支配は大きく揺らいでいる。

4、真の争点は何か
 以上から、今回の総選挙の真の争点は、以下の二つである。
 一つの争点は、国民生活の打開である。そのためにアベノミクス下での富の移転、収奪を明らかにし、なかでも財政危機を誰の負担で乗り切るのか、大衆課税を許さないばかりか、この間さんざん儲(もう)けてきた大企業、資産家から、その不当な儲けを取り返す、それだけが根本的解決である、そうした世論をつくることである。
 安倍政権は朝鮮危機を政治利用して、国内政治、アベノミクスの破綻を糊塗(こと)しているが、大多数の国民の生活基盤は急速に悪化し、一方で大企業は膨大な内部留保、一部富裕層も急速に富を増やした。収奪が進んだのである。破綻寸前の財政赤字は、移転した富を取り返すことでしか解決できない。中福祉・中負担などは欺瞞そのものである。
 もう一つは、アジアの平和と日本の自主・独立の外交をどう勝ち取るかで、そのためにまず切迫する朝鮮半島での戦争の危機をつくり出している元凶は米国であり、それに加担、追随している安倍自身であることを明らかにすることである。朝鮮は自衛のための「核・ミサイル開発」をしているにすぎない。与野党とも、朝鮮敵視の大合唱という事態こそ異常である。日本共産党は「国際社会による経済制裁の完全な履行」「対話による平和的解決のイニシアチブを」と米帝国主義と闘わないどころか、トランプが強引にとりつけた国連での制裁決議、その後の独自制裁まで支持している。それでどうやってアジアの平和を守り、国民の生命、財産を守ることができるのか。
 米国こそが平和の敵である。自主・平和外交を貫き、米朝関係を含めて解決すべきである。候補者は勇気がいるだろうが、それこそ真実で、有権者の前で明確に語るべきである。
 先進的労働者の皆さん。世界の危機は深く、わが国支配層が直面している課題は難問ばかりで、選挙の結果がどうあれ、新たな政権の立ち往生は必至である。
 政治反動の強まりに警戒が必要だが、敵が現状にとどまれないことを見抜き、敵の矛盾を突いて広範な戦線を形成することが可能な情勢であることに確信をもとう。
 激動期には、原則的観点と大局観、戦略的観点こそが決定的である。


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