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2017年7月15日号 2面・解説

G20/
トランプ米政権がかく乱、孤立

さらに進む漂流と機能不全

  二十カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が六月七日、八日、ドイツのハンブルク行われていた。「米国第一」を掲げたトランプ政権の登場と策動、これに対する諸国の反発を主因として、G20がますます機能不全に陥ったことが露呈した。G20会議と一連の首脳外交を通して、先進国メディアでさえ「一対十九」と書くほどに、米国は孤立を深めた。国際協調のますますの崩壊は、経済的破局の切迫を加速、深刻化させる。安倍政権を取り巻く環境は、悪化の一途である。


 世界資本主義の危機は、成長率のいちだんの低下という形で深まりを見せ、各国内では労働者・人民が不満と抵抗を強めている。これを背景に、英国の欧州連合(EU)離脱、さらに、トランプ米大統領の登場と「米国第一」を掲げた策動など、保護主義的な動きが広がり、諸国間関係は厳しさを増している。ハンブルク・サミットは、こうしたなかで開かれた。
 採択された首脳宣言は、世界経済の現状を「現在の成長予測は期待よりも弱いが、心強い」とし、「包括的な成長」を共通目標とした。
 通商問題では、「保護貿易主義との闘いを続ける」「開かれた市場を維持する」と明記する一方、米国に配慮する形で、「不公正な貿易慣行」に対し「正当的な貿易対抗措置」を取ることを容認した。中国を中心とする鉄鋼の過剰供給問題の解消に向けた対策も明記された。
 地球温暖化対策では、米国による「パリ協定」離脱に「留意する」とする一方、米国以外の各国は「パリ協定は撤回できない」との認識を共有した。
 さらに、各国で高まる、グローバリズムとそれを推進する政治・政党への批判を意識し、「すべての人の利益となり、誰もが機会を追求できるようなグローバリゼーションを推進」との文言も入った。「反テロ」のための金融協調でも合意された。

「反保護主義」明記も…
 なかでも注目されたのは、「保護主義との闘い」を明記できるかどうかであった。この表現は、リーマン・ショック後、G20や主要国(G7)首脳会議などで、繰り返し記されてきた。だが、今年三月にドイツのバーデン・バーデンで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明では明記できなかった。トランプ米政権が抵抗したからである。
 その後、五月にイタリア・タオルミナで開かれたG7サミットでは、「保護主義と闘う」との記述が盛り込まれる一方、「不公正な貿易慣行に断固たる立場を取る」と併記することで、米国との妥協が成立した。
 今回も同様の経過があったが、さらに「貿易対抗措置」に「正当な」と付加された。米国以外の諸国にとっては、世界貿易機関(WTO)などのルールが前提になるものだが、米国などにとっては、独自の勝手な判断で貿易障壁を設けることを正当化する根拠となり得る。
 すでに、米国は「通商拡大法二百三十二条」の適用をちらつかせ、外国製鉄鋼やアルミニウム製品などへの輸入制限を行おうとしている。主な適用対象は、過剰生産が残る中国だが、日本や欧州も対象となり得る。ユンケル欧州連合(EU)委員長は「(米国が関税を引き上げれば)迅速に対応する」と、ウイスキーや酪農品を対象とする対抗策を示唆(しさ)している。米国の策動が「貿易戦争」を本格化させようとしている。

多方面で溝が埋まらず
 議長のメルケル・ドイツ首相は「一致できなかったのは明白で、その違いを取り繕うことはしない」と、諸国間の不一致を隠さなかった。
 通商問題だけではない。
 パリ協定をめぐる議論は欧州が主導し、中国や中東諸国も同調するなか、ここでも米国が孤立した。トランプ大統領は、温暖化問題の討議を抜け出してプーチン・ロシア大統領との会談を行うなど、この話題を無視する態度をとった。
 ドイツを中心とする欧州諸国は、欧州自身の存在感上昇、欧州の自立性を高める方向へのシフトを強めている。中国やロシアはこれを「好機」と見て、欧州への接近を図り、「自由貿易」「環境保護」などの「旗」を掲げる側に回った。
 米ロ関係では、トランプ、プートン両大統領による初の、しかも二時間以上に及ぶ首脳会談で耳目を集めた。シリア内戦への対応やサイバー攻撃問題が議題になったとされるが、トランプ大統領にとっては、国内で苦境に立つ「ロシア疑惑」を払拭するという「国内向け」の狙いからのものであった。
 米中首脳会談は、両国とも慎重な外交に終始した。中国は通商問題などで欧州と協調しつつ、在韓米軍への終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に改めて反対した。一方で、中国は、米国抜きでのパリ協定協定推進を明記することには「排除すべきでない」と反対し、米国に配慮した。「保護主義に反対」とも明言しなかった。米国は、南シナ海問題や「人権」問題を取り上げることはしなかった。
 中国・環球時報は「サミットに先立ち、中国と米国は台湾や南シナ海などを巡る問題で摩擦があった。西側の言論界からは、中米の『蜜月』は終わったとの観測も出ていた。だが習氏とトランプ氏の会談でそうした見方は否定された」と、「成果」を力説している。習近平政権にとっては、秋の共産党大会を向けて「一安心」であろう。
 だが、米中間の懸案はそのまま残っている。台頭する中国へのけん制を強化する、米国の「アジア・リバランス戦略」に変更はない。米中間の矛盾は、中長期的に、激しさを増すだろう。通商問題や台湾への武器売却など、火種はいくらでもある。
 このほか、参加国間で意見が割れそうな欧州の難民問題、中東でのカタール問題は、ほぼ「素通り」された。

米日、朝鮮包囲に失敗
 また、米国、さらに安倍政権が首脳宣言への明記をもくろんだ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に「成功」したとされる朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への制裁強化問題は、首脳宣言に盛り込まれなかった。
 米国は会議中の八日、B1B戦略爆撃機を朝鮮半島上空に派遣し、韓国空軍と共同訓練を強行した。安倍政権も、ICBM発射で「朝鮮問題の優先順位が一気に上がった」(外務省幹部)などと意気込んで会議に臨んだ。だが、見事に「空振り」に終わった。
 中国、ロシアが「米韓合同軍事演習の停止」を求めてけん制しただけではない。文・韓国大統領は「南北対話の再開」という立場を維持した。メルケル首相も「G20は外交政策を論議するより、経済と金融市場などに集中する会議」と述べ、米日とは異なる態度をとった。
 安倍政権は、朝鮮敵視で音頭を取ろうとしただけではない。安倍首相は保護主義に「反対」しつつ、米国に配慮して、「自由で公正なルールの高い水準での順守」を訴えた。直接は、中国のダンピング輸出をけん制する狙いもあったのだろう。世耕経済産業相は、米国に「(不均衡)問題の根は中国で、日本からの実害はないはず」と訴えたという。だが、米国が対日貿易赤字も問題にし、自動車や農産物をやり玉にあげ始めているなか、墓穴を掘る結果となりかねない。
 米国だけでなく、その先兵役を買って出た安倍政権も、全体として孤立したといえる。

米主導の「秩序」崩壊へ
 第二次世界大戦後、圧倒的な経済力と軍事力を持つに至った米国は、国際連合、IMF、世界銀行、G7など、自国主導でさまざまな国際機関、会議を形成することで、世界を支配した。二〇〇八年のリーマン・ショック後、英仏に説得されて開かれるようになったG20でさえ、米国がもっとも大きな存在感を持っていた。だが、トランプ政権はこうした国際機関などに「後ろ足で砂をかけ」、「米国第一」を貫こうとしている。これまでも、合意事項が守られることが少なかったG20は、さらに漂流、機能不全となっている。
 米国による巻き返し策の結果で、弱さのあらわれである。米国の国際的影響力をいちだんと失墜させることで、戦後「秩序」の崩壊を加速させよう。
 米国の衰退と欧州の「自立化」を間近に見て、日本はどうするのか。
 わが国マスコミにさえ、「二〇一九年にG20議長役となる日本は思考停止でいいのか」(日経新聞)との論調が出てきている。一九年にはG20の議長国が決まっているが、安倍首相が政権に居座れる保証もない。時代錯誤の対米従属を脱しない限り、日本に生きる術はない。   (K)


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