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2017年7月5日号 3面・解説

米韓首脳会談

文大統領、対朝鮮などで譲らず

 訪米した韓国の文在寅大統領とトランプ大統領が六月三十日、首脳会談を行い、共同声明を発表した。対朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)外交、在韓米軍への終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備への韓国民の反対なども抱えた、今回の首脳会談は、両国間関係のみならず、隣国日本、アジアの平和の点からも注目された。結果、文政権は一定の自主性を堅持したといえる。


 「米国第一」を掲げた登場したトランプ政権は、朝鮮の「核・ミサイル」を口実に政治的・軍事的圧迫を強化し、東アジア情勢を緊張させている。安倍政権はこれに追随、朝鮮敵視の先兵役を買って出た。こうしたなかで、韓国民は五月、文政権を誕生させた。
 文新政権は、友人の国政干渉と財閥からの贈収賄疑惑にまみれた朴前政権に対する大規模な反政府行動を背景に誕生した。韓国民は、朝鮮との「対話」を主張する文政権を誕生させることで、米日とは異なる道を選択したのである。
 今回の米韓首脳会談は、このような北東アジアの激変下で行われた。
 両政権とも新政権であり、国内向けに「成果」を強調したい点では同じである。トランプ大統領は経済上の成果と「強さ」を演出したかったし、文大統領は朝鮮との「対話」の余地を残したかった。
 発表された共同声明は、「米韓同盟強化」「対朝鮮政策での緊密な連携」「自由・公正貿易拡大」「その他二国間協力の増進」「グローバルパートナーとしての協力」「同盟の未来」の六分野で構成される。韓国大統領府は、これらを「今後五年間に両国が追求していく韓米同盟の発展方向」としている。
 両首脳は、米韓同盟を「多元的、包括的同盟」へと発展させるとし、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を定例化することが決まった。

韓国の姿勢「支持」を明記
 だが、両国間には、食い違いも露呈した。
 注目の対朝鮮外交では、核問題の解決を「最優先順位」とし、朝鮮を非核化対話に誘導するための「最大の圧力」と、「適切な環境下」での「対話」が併記された。対朝鮮政策の全般は、両国の高官級戦略協議体で調整されることも合意された。
 トランプ政権は、会談のわずか四時間前、財務省に中国の丹東銀行に対する制裁措置を発動させた。これは、朝鮮制裁強化策の一環で、同銀行が「朝鮮のアクセスドアの役割を果たしている」と認定したことによる。中国とともに、文政権へのけん制を狙ったものでもある。韓国の保守系紙「朝鮮日報」は、「トランプ大統領が文大統領に対し、朝鮮問題で米国と中国のどちらを選ぶべきかはっきり見せてやろうとするかのような場面を演出した」と書いた。
 文大統領は会談後、南北首脳会談開催への意欲を改めて表明した。来年の平昌冬季五輪での「南北合同チーム」の提案も、維持されている。朝鮮の「核・ミサイルの中断」と引き替えの、米韓合同軍事演習や在韓米軍の戦略兵器の縮小という主張も取り下げていない。
 「朝鮮に対する忍耐は終わった」と居丈高な姿勢を維持したトランプ大統領に対し、韓国は、朝鮮の「核放棄」などを前提としない対話の姿勢を維持したといえる。
 結果、共同声明には、「南北対話の再開に向けた韓国政府の政策の方向性を米国が支持」と明記されることになった。共同声明に沿う限り、米国は、韓国の対話路線を否定できなくなった。米国としては、朝鮮への軍事力行使が当面の選択肢に入らない限り、韓国による「対話」を認めざるを得ないわけだ。
 韓国内で政治問題になっているTHAAD配備については、ともに言及を避けたが、問題が解決したわけではない。文政権による環境影響評価(アセスメント)の再実施決定については、米国は韓国民の反発を恐れ、「正しいことと信じる」(マケイン米上院軍事委員長)と言わざるを得ない状況である。
 トランプ大統領は在韓米軍防衛費分担金の増額にも言及したが、韓国側は、すでに毎年一兆ウォン(約一千億円)を拠出していることや、米国からの武器輸入額が多いことを理由に、応じなかった。


FTAめぐる溝埋まらず
 経済関係では、産業対話、高位級経済協議会、官民合同フォーラムなどを開催するとし、投資促進などで合意された。
 他方、トランプ大統領は米韓FTAの再交渉を公式的に要求した。米韓FTAを「不公正な協定」と決めつけているトランプ政権にとっては既定路線である。
 二〇一二年に発効した米韓FTAは、韓国サービス市場の全面開放、米国製トラックの関税廃止(韓国製自動車の関税廃止は二〇年以降)、さらに投資家対国家訴訟(ISDS)規定など、一握りの財閥を除き、大多数の韓国民・経済にとってきわめて不平等なものである。
 それでもトランプ政権は、「FTAによって米国の貿易赤字が増えた」などと言い、約二百七十億ドル(約三兆一千億円)の対韓貿易赤字(対日赤字の約四割)を減らそうと、自動車や鉄鋼を中心に協定改定を求めているのである。ただし、米国が韓国から輸入する鉄鋼の大部分は「中国産」であり、トランプ政権による韓国への要求は、形を変えた「対中要求」でもある。
 これに対し、文大統領は「非関税障壁」についての「実務的な協議」を約束しつつ、「貿易は常に両国に互恵的でなければいけない」と、韓国にとっては改悪につながりかねない再交渉には応じないとした。
 国民大多数はもとより、韓国財閥の一部からしても当然のことである。

文政権のしたたかな対応
 このように、首脳会談では「同盟関係」が演出されたものの、南北問題を中心とする安全保障、さらに通商問題でも、大きな隔たりが残った。
 韓国の保守勢力は、首脳会談の成功にひとまず安堵(あんど)している。サムスン財閥系の「中央日報」は、「何よりも両国首脳が人間的な絆を深めた」のが「成果」だとしている。一方、会談前日、民主労総など「THAAD韓国配置阻止全国行動」の五千人がソウルの米大使館を包囲するなど、人民の闘いも前進している。
 文大統領の訪米に合わせ、韓国の大手企業五十二社が、今後五年間で計百二十八億ドル(約一兆四千四百億円)の対米投資を表明した。トランプ政権が求める、対米投資の拡大に応えた形だ。文大統領は「トランプ大統領の強力な力を基盤にした外交に全面的に共感する」と持ち上げ、大統領の年内の訪韓も招請した。
 「米国第一」のトランプ大統領は、両国の隔たりはあったとしても、これらにひとまず満足したのだろう。「文大統領との個人的な関係も非常に良い」と発言、同盟関係の「良さ」をアピールしている。
 文政権は選挙で成立した政権である。米韓同盟と在韓米軍、財閥系大企業、保守層が存在しており、議会でも与党「共に民主党」は少数派である。新政権にできることは限られている。それでも、文政権の誕生は、平和と民族統一を願う南北朝鮮人民の一つの勝利であり、以降の前進の拠りどころたり得るものである。
 米韓同盟の先行きは、韓国保守層や右派メディアが願うほど、安定したものではない。
 財界までも動員して「手土産」を渡しつつ、外交や通商問題で自らの意思を維持する点で、文政権の外交はしたたかで、一定の功を奏した。今回の首脳会談は、文政権基盤の安定に有効であったといえよう。

安倍政権と際立つ違い
 これと比べて、わが国安倍政権の対米従属ぶりは、いよいよ際立っている。
 マスコミも同様である。御用紙「産経新聞」は、首脳会談について、文大統領の米韓同盟についての態度を「『親北』イメージをぬぐう方便」と警戒感をあらわにし、米日韓同盟にとって「深刻な状況」と評価している。
 「トランプ後」の世界を見渡せば、「米国離れ」を進めている国は韓国だけではない。ドイツ・メルケル政権は明確にその態度を示しているし、アジアでも、米「アジア・リバランス戦略」の一角であるフィリピン・ドゥテルテ政権などがそうである。
 安倍政権の対米従属外交は、ますます世界で孤立する道であることが明らかになっている。
 対米従属外交を転換しない限り、わが国はアジアでで生きていくことはできない。       (O)


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