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2016年6月5日号 1面〜2面・社説

参議院選挙に際して訴える

 第二十四回参議院選挙が、六月二十二日公示、七月十日投開票と決まった。
 安倍首相は、「アベノミクスを加速させるか、後戻りさせるかが最大の争点」などと言う。消費税増税の二年半の延期と、主要七カ国首脳会議(伊勢志摩サミット)やオバマ米大統領の広島訪問、補正予算などで国民の批判をかわして勝ち抜こうとしている。
 年内の解散・総選挙も予想されている。
 今回の参議院選挙では、安倍政権下の三年半に進んだ対米従属の内外政治の是非、とりわけアベノミクス下で極度に悪化した国民経済・国民生活をどう打開するのかが争点とならなければならない。
 だが、真の争点は、またしても隠されている。安倍政権が隠し、マスコミがあいまいにしているだけではない。
 どの野党も、安倍政権の内外政策全体に対する政策的対抗軸を打ち出せていない。野党の一致点は「安保法制廃止」と「立憲主義」程度である。それにもかかわらず、とくに共産党は、参議院一人区での「野党共闘」を天まで持ち上げている。
 基本政策の弱さは致命的で、この野党に国民の多くが期待を託すことができるだろうか。それは「野党支持」で奮闘している多くの活動家自身がいちばん感じていることでもあろう。問われているのは、国民の将来であり、国の進路である。「立憲主義」などというあいまいなことでは、どうにもならない。
 わが党は、今回の参議院選挙に対して、独自候補を擁立せず、どの政党も支持しない。だが、個々に、あるいは地方では、以降の闘いの発展に役立つ限りにおいて心ある候補者に可能な支援を行うし、前進を心から願っている。
 わが党は、戦略的観点からの闘いの準備に全力を傾けている。
 参議院選挙の結果にかかわらず、安倍自公政権を取り巻く内外環境はますます厳しい。安倍政権がいちだんと行き詰まり、立ち往生することは必至である。労働者をはじめとする国民諸階層は、従来以上に闘わざるを得ない。保守層や、支配層の一部にさえも転換を望む雰囲気が広がっている。独立・自主の政権を樹立し、対米従属政治を根本的に転換する客観的条件は増している。
 闘いの好機である。先進的労働者は、目前の選挙だけでなく、戦略的闘いに備えなければならない。

世界は歴史的変動期にある
 参議院選挙は、どのような内外環境の下で行われるのか。
 リーマン・ショック以降の危機は、昨年夏に中国経済の変調が顕在化して以降、さらに深刻な局面に入った。こんにち、世界経済に「けん引車」はない。市場争奪は激化の一途で、通貨安競争は強まり、国際協調による対処はますます難しくなっている。
 国際金融資本、多国籍大企業による全世界の人民への搾取・収奪が強まり、内戦、「テロ」、各種の反政府運動、政権交代、難民問題、極右勢力の台頭などが続発している。英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票もある。一部の諸国では、これらの問題への対処抜きに、経済対策さえままならない。
 米大統領選挙におけるトランプ、サンダーズ両候補の躍進も、経済危機と米国の地位低下、国内階級矛盾の反映である。
 米国は衰退し、第二次世界大戦後初めて、購買力平価ベースの国内総生産(GDP)で世界一位でなくなり、中国が取って代わった。まさに世界は歴史的変動期で、資本主義は末期症状を呈し、「戦争を含む乱世」となっている。とくに、アジアは米国の策動でいたるところで対立があおられ、軍事衝突の危険すら高まっている。
 世界の行く末は、米国を頂点とする帝国主義諸国が支配を再編するか、全世界の労働者階級、とくに先進国の労働者が政治的に登場するか、その競い合いにかかっている。
 日本は、資源や市場を世界に決定的に依存し、しかも衰退する米国に経済・政治・軍事のすべてで縛られ、世界経済や国際政治の大波に激しく揺さぶられる。わが国の政党は、こうした国際情勢のすう勢についての確固たる評価と展望なしに、責任ある対処は不可能である。
 だが、野党のほとんどは「世界経済は回復基調」という認識で、安倍政権以上に楽観的である。世界と切り離して国内だけを問題にするのでは、安倍政権と正面から争うことはできない。米国の世界戦略、アジア戦略と闘わずに、自国の運命を切り開くことはできない。

安倍政権の内外政治は行き詰まり
 安倍政権は参議院選挙に際して、勝敗ラインを改選議席数の過半数(六十一議席)とし、自公両党でこれを上回ることで、衆参での多数を維持し、政権を安定させることを狙っている。
 安倍首相は、「デフレからの脱出速度をさらに上げていく」などと言う。だが、世界が危機を深めるなか、アベノミクスは完全に行き詰まり「デフレ脱却」はますますほど遠い。
 三年半のアベノミクスの「三本の矢」、とくに黒田日銀による「量的質的緩和」の下、一握りの多国籍大企業や投資家は空前の利益を得、笑いが止まらない。それでも、大企業は海外で稼ごうと、国内には投資しない。国民経済が活性化するはずもない。
 安倍政権は、ロボットなど一握りの産業だけを優遇し、労働法制改悪やライドシェア、混合診療の拡大などの規制緩和を推し進め、環太平洋経済連携協定(TPP)承認などで「企業が一番活動しやすい国」づくりを本格化させようとしている。
 一方、労働者をはじめとする国民大多数の生活と営業は困窮をきわめている。
 安倍政権が騒いだ「賃上げ」「経済好循環」はデタラメで、大多数の労働者には実質賃下げである。インフレ政策、金融資本・大企業への意識的な「富の移転」が行われたのである。安倍政権が宣伝する「雇用改善」は、女性、高齢者の低賃金の非正規労働者が増えたからにほかならない。
 円安による物価高、消費税増税、社会保障制度の改悪などで、国民の生活苦は限界に達しつつある。米価低迷で農業経営はますます厳しく、TPPで将来展望が見えず、廃業に追い込まれている。地方経済は疲弊の一途である。東日本大震災や熊本地震の復興は遅々とし、被災者は見捨てられている。
 国民大多数はさらに収奪され、貧困化に際限はない。個人消費が低迷し続けるのは当然である。
 財政危機も、いちだんと深刻化した。
 安倍政権は、経済低迷の原因を「世界経済のリスク」に転嫁している。世界のリスクを考慮しない国内政策はあり得ず、この言い逃れは、かれらの政権担当能力のなさを証明するものにほかならない。
 外交・安全保障では、安倍政権は米国のアジア戦略に追随し、中国へのけん制を強め、朝鮮民主主義人民共和国への敵視と包囲を強めている。集団的自衛権の行使容認と安全保障法制、軍備増強と武器輸出の拡大、自衛隊の南西諸島への重点配備、「地球儀俯瞰(ふかん)外交」などの結果、わが国をアジアで孤立させ、中国との偶発的衝突さえ起きかねない事態となっている。参議院選挙の結果次第で、憲法改悪も日程にのぼるだろう。
 沖縄県名護市辺野古への新基地建設に加え、米軍属による女性暴行・殺害・遺棄という蛮行に対して形ばかりの「抗議」に終始している。日米地位協定の改定さえ求めようとしていない。安倍政権は、沖縄県民の基地撤去の意思を踏みにじり、命と暮らしを危険にさらし続けている。
 米国の意を受け、伊勢志摩サミットでも「財政出動」で各国を「説得」しようとしたが失敗、ドイツ・英国との溝は埋まらなかった。それどころか、頼みとする米国との間でも為替問題での矛盾が露呈している。
 低成長・マイナス成長が続き、国力の衰えが顕著なわが国にとって、安倍政権の内外政治は、世界の荒波をささ舟でこぎ渡ろうとするにも等しい亡国の選択である。
 これらの政策の正体を隠し、選挙に勝利するため、安倍政権は数々の欺まん的手口を弄(ろう)している。基地建設をめぐる沖縄県との「和解」、待機児童問題での緊急対策、労働組合が要求してきた「同一労働・同一賃金」を掲げるなどである。消費税増税の再延期も同様である。
 参議院選挙では、安倍政権の内外政治をめぐる全面的な検証が欠かせない。

安倍政権を暴露できず、国民をひき付けられぬ野党
 今回の参議院選挙では、本来、安倍政権に厳しい審判を下さなければならない。
 獲得議席数次第では、「首相の進退」が問われる可能性はある。
 野党は勢い込んでいるようだが、安倍政権の内外政治とその欺まん的手口をほとんど暴露できず、別の選択肢を示せていない。
 野党は、深刻な国民生活の実態から遊離している。国民の貧困化を打開する明確な政策がなければ、「明日の糧」を求める有権者をひき付けられない。
 参議院選挙に大きな影響を与えるのは、三十二の一人区での勝敗である。ほとんどが農業県であるこれらの選挙区で、TPPや地方の衰退への明確な態度を示せない候補が支持を得られるだろうか。
 民進党が典型だが、日米同盟、日米基軸が基本という点で、自民党とほとんど違わない。民進党は集団的自衛権の行使自身には賛成だし、辺野古への新基地建設を「推進」する立場である。TPPや憲法問題も「安倍政権下では反対」という程度である。消費税増税も「時期の問題」にすぎない。
 「野党共闘」とはいっても、候補者の大半はこの「民進党公認」で、無所属候補も、当選すれば大部分が民進党の会派に入る。国政の重要課題で明確な対抗軸を打ち出せるはずもない。四月末の衆議院北海道五区補欠選挙での野党候補の敗北は、こうした野党の弱点を示している。
 有権者の投票行動に影響を与えるメディアも、事実上、安倍政権に握られている。
 率直に指摘すれば、野党が安倍政権を追い詰めることができても「一定程度」にとどまるであろう。安倍政権と闘い、倒すことを願う人びとにとっては認めがたいことは理解できるが、それが現実である。
 だからこそ、中長期の展望を持ち、腹を据えて闘わなければならないのである。

安倍政権は前途多難、倒す条件ある
 安倍政権を取り巻く内外環境は悪化の一途で、政権の前途を大きく制約している。
 消費税増税を延期しても、それだけで経済が上向くわけではない。アベノミクスは、結局は海外の需要次第だが、世界経済の危機はこの前提をますます危うくしている。「円安」は限界で、黒田日銀による追加緩和は、「ドル高」を嫌う米国が容易に許さない。「株高」も限界である。わが国の低成長・マイナス成長が続くことは確実である。
 何より、わが国の財政危機はいちだんと深刻化する。基礎的財政収支(プライマリーバランス)を二〇二〇年度に黒字化するという「財政健全化目標」の達成は不可能で、政府自身もそう見ている。早晩、「財政の信認」が崩壊することは避けがたい。
 中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の進展、TPPへの批判の高まりなど、米国のアジア戦略は思うに任せない。
 衰退を早める米国は、同盟国へのさらなる負担を求めている。その要求は、経済・政治・軍事のすべてにわたるものとなる。わが国は米国のアジア戦略の先兵として利用し尽くされ、アジアでの孤立を深め、戦争の縁に立たされる。
 わが国の進路、日米関係をめぐる矛盾はますます激化する。
 国民大多数が、安倍政権への不満と批判を強めることは避けがたい。沖縄県民の闘いは、ますます強固である。
 安倍政権に対する不満は、保守層や財界の中でさえ広がる。自民党内にさえ、外交政策や医療など「岩盤規制」の緩和、財政危機に対する懸念が強まっている。安倍首相が増税延期を「強行突破」したことは、党内矛盾をさらに激化させている。
 自公両党の間にも、政策や選挙区調整をめぐる「すきま風」が吹いている。下部の公明党員や支持団体の創価学会員にとって、安倍政権を支え続けることへの不満はひとしおであろう。
 安倍政権と闘い、打ち破ろうとする側には有利な情勢である。それだけに、時代のすう勢を踏まえた戦略思想と、原則的な立場が必要なのである。 

独立の闘いで安倍政権を打ち破ろう
 安倍政権を打ち破るには、独立・自主の政権をめざす広範な闘いを巻き起こすことである。
 労働運動が自らの要求を掲げて闘うとともに、農民や商工業自営業者などと連合し、支配層の内部矛盾も利用して、強力な国民運動の中心的組織者として闘えるよう備えなければならない。
 とくに、新基地建設に対して強固な闘いを堅持し、女性殺害事件に際して県民的闘いを強めている、沖縄県民と連帯し、全国で闘いを強化しなければならない。
 労働者が中心となった運動こそが政治を動かすことは、一九六〇年の安保闘争、七〇年前後の沖縄返還闘争、九五年の少女暴行事件を契機とする沖縄県民の闘いなどで証明されている。こうした力強い、国の進路をめぐる行動と結合してこそ、議会内の闘いも効果を発揮しうる。
 労働者階級の政治的前進には、確固とした革命党が不可欠である。労働党に結集し共に闘うことを、心から呼びかける。


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