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2015年8月25日号 2面・社説

安倍首相の戦後70年談話について

 安倍政権は八月十四日、「戦後七十年首相談話」を閣議決定し、発表した。
 談話では「侵略」「植民地支配」「反省とおわび」などの表現が使われはした。米国は「歓迎」し、中国、韓国などのアジア諸国も一定程度評価したように報じられている。
 だが、談話は、侵略戦争と植民地支配の過去をわい曲・隠ぺいし、「謝罪」に終止符を打とうとする反動的狙いが明白である。さらに「積極的平和主義」を打ち出すことで、米国の戦略にわが国を縛り付ける売国的意思を示している。
 支持率急落の中で安倍政権は、談話で国民世論も考慮しながら、米国と財界、さらに中国や韓国の要求に応え、かつ政権の延命を図ろうとした。マスコミの世論調査でも政権支持率は上昇し、策動は功を奏したかのように見える。
 それでも、安倍政権を取り巻く環境は難題だらけである。
 労働者階級は安倍政権の弱さを見抜き、安保法案を廃案に追い込む闘いの先頭に立たなくてはならない。併せて、対米従属政権打倒、独立・自主の政権樹立の戦略的な闘いを準備しなければならない。

侵略否定なく、対米従属の総括なし
 談話では、四月の米国議会での安倍首相演説では言及されなかった「侵略」など「村山談話にあるキーワード」が含まれ、「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」とされた。
 だが、朝鮮半島や中国に対する「侵略」と「植民地支配」に対する反省や謝罪は何ひとつない。談話には、「日本」という主語がなく、いつ、どの国に対するものなのかもなく、「侵略」「植民地支配」は一般的に述べられているだけである。「反省」「おわび」「女性」に関する記述も同様にごまかしである。
 談話は、一九三一年の柳条湖事件(満州事変)以後の「誤り」だけを、きわめて不十分、あいまいに触れるのみである。談話は、朝鮮半島への植民地支配、中国からの権益奪取と侵略など、日本帝国主義の数々の悪行に触れないことで、事実上これらを肯定している。
 対米戦争は、こうしたアジア侵略が必然化させた帝国主義間の争奪戦争であった。談話は「三百万余の同胞の命が失われました」などと客観的に述べるだけだが、原爆投下や沖縄戦なども含め、戦争被害の責任はあげて日米帝国主義にある。
 戦後日本は、侵略と植民地支配の責任を認め、誠実に謝罪し、補償すべきであった。同時に、天皇の戦争責任を追及すべきであった。
 安倍政権はこれらを隠し、「戦争にかかわりのない子や孫、その先の世代に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と、「謝罪外交」に終止符を打つ意向を打ち出した。この謝罪の拒否宣言こそが、最後まで安倍首相が追求したことであろう。安倍政権の考える「戦後レジームからの脱却」の一つである。
 現実には「謝罪外交」などほとんどなかったのだが、これでは「反省」も「おわび」もまったく実質のない「言葉遊び」で、朝鮮半島、中国などアジアの人びとの不信感を増幅させるだけである。
 また、談話には、侵略と植民地支配への総括を不十分にした背景であり、わが国の進路を誤らせ、国民の苦難の根源である、戦後七十年間の対米従属政治に対する総括もない。
 帝国主義間戦争で勝利した米国は日本を単独占領し、天皇制を温存・利用して日本を支配した。冷戦下、日本を「反共の防波堤」として利用するため、岸信介などのA級戦犯らを政権中枢に復帰させた。日本国内で徹底的に追及されるべき戦争責任は解決されずに残された。
 サンフランシスコ講和条約による「独立」後も、沖縄が本土から切り離され、日米安保条約によって全土に米軍基地がおかれるなど、主権は回復されなかった。戦後七十年の日本は、今なお、軍事・政治・経済・社会・文化のすべてにおいて米国の従属下にある。
 歴代政権は対米従属政治を続け、安保闘争など、国の独立をめぐる国民運動を弾圧し続けた。
 対米従属下で過去の清算が行われなかったからこそ、折に触れ、保守政治家の妄言が繰り返されるなどで、アジアの人びとの不信と怒りを買っているのである。

談話に込めた支配層の狙い
 談話には、戦後七十年の「区切り」というだけでなく、わが国支配層の周到な狙いが込められている。
 米国はアジア・リバランス戦略を進め、台頭する中国をけん制するための負担を日本に迫っている。
 わが国支配層、多国籍大企業はこれに追随し、その下で、日本が「アジアの大国」として再び登場することを夢想している。冷戦崩壊後、とくにリーマン・ショック後の世界で国際的競争が激化するなか、これに勝ち抜くための国際的発言力の強化を必要としているからである。
 談話には、「『積極的平和主義』の旗を掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献していく」などと明記された。
 安倍政権は「積極的平和主義」の名の下、対米追随で中国をけん制する「地球儀俯瞰(ふかん)外交」、軍備増強と南西諸島への重点配備、武器輸出三原則の廃止、沖縄県名護市辺野古への新基地建設、そして集団的自衛権の行使容認と安保法案を推し進めている。
 この「旗」を明記したことは、安保法案推進を内外にアピールすることにとどまらず、米国主導の「秩序」を力で守るという宣言であり、わが国を将来的にも米国の世界戦略に縛り付ける売国的なものである。
 だからこそ、米国家安全保障会議(NSC)は「歓迎」し、「国際社会の平和と繁栄に向けた貢献を拡大するとの日本の決意を首相が保証したことも評価する」と述べた。
 また「謝罪を終わらせる」ことは、わが国独占資本の、対米従属でありながらも、長年の願いだった。国際的競争に打ち勝ち、アジア市場で暴利をむさぼるためにも必要としているのである。同時に、国民を動員するための思想攻撃でもある。
 安倍政権はこうした狙いを実現すべく、今年二月に「有識者懇談会」を組織し、マスコミも利用して周到に準備してきた。この審議には、安倍の意向だけでなく世論動向も反映したが、むしろ、過程を通して、支配層内で、談話の「落としどころ」をめぐる一定の意思一致がなされたものと推察できる。
 「四つのキーワード」なるものはその途中で浮上したもので、談話全体を、それが含まれるかどうかに問題をわい小化させて世論を欺く道具として機能した。
 安倍政権は談話を通して、対米従属下での政治軍事大国化を、さらに進めようとしている。これは、内外の批判を招かざるを得ない。

当面の政権浮揚策でもある
 安倍政権は、短期的、当面の政権浮揚策としても、談話を活用する必要性があった。
 集団的自衛権の行使容認に関する安全保障法案に対する反対の世論と運動が広がり、連立相手である公明党の支持層、さらに地方を中心に自民党内にも批判が広がっていた。これを背景に、岩手県知事選挙では与党の予定候補が出馬断念に追い込まれた。安保法案の成立に集中するため、安倍政権は名護市辺野古への新基地建設のための工事を一時中断することに追い込まれ、沖縄県との協議に応じざるを得なくなった。
 与党やわが国財界にも、日中・日韓関係の改善を求める声が高まっていた。五月の二階・自民党総務会長の訪中などは、政府・与党内の「役割分担」というだけでなく、財界の切実な要求を反映してもいた。
 国民の生活と営業はますます悪化し、安倍政権への不満と怒りが増大している。政権支持率はますます下がり、支持・不支持が逆転した。
 さらに、米国は「対中国」での日本と韓国との関係改善を求めていたし、武力衝突に至るような日中間の過度の悪化を望んでいなかった。
 こうして、来年夏の参議院選挙での与党の「苦戦」という観測はもちろん、九月の自民党総裁選挙でさえ「無風」とはいかない観測が浮上していた。安倍首相が願う、憲法改悪と改革のための「長期政権」も、危ういものになりつつあった。
 安倍政権は一定程度「持論」を抑えてでも、内外の困難を打開することに迫られた。「多くの国民と共有できるような談話」などと言うが、実態は、利害関係者が理解し、できればある程度「納得」するものにすることが必要だったのである。

談話に対する内外の反応
 すでに述べたように、安倍談話は日本の侵略と植民地支配を受けた国々、とりわけその人民にとって、とうてい受け入れられないものである。だが、中国や韓国の反応も、おおむね抑制されたものであった。
 中国、韓国とも、とくに中国は経済の急速な落ち込みに直面しており、人民元切り下げなどの対応に追われている。対米関係もあり、日本とは「平和な環境」を求めており、関係悪化は避けたいところであろう。韓国も同様な上、朝鮮民主主義人民共和国との緊張が高まり(背景には何らかの画策がある可能性もある)、米国、日本との同盟を崩すわけにはいかない事情があった。
 安倍政権は、このような中国、韓国の事情をある程度見越していただろうが、助けられたともいえる。
 日本国内の反応はどうか。
 「反省を踏まえつつ、新たな日本の針路を明確に示した」(読売新聞)などと、財界やマスコミは非常に肯定的である。安倍政権の用意周到な準備過程を見れば、こうした反応は当然である。
 「おわび」などを含むこと自身に批判的だった自民党内右派に不満は残っただろう。だが、談話発表後、二階派が先陣を切って安倍首相の三選を支持したように、安倍政権の求心力はいくらか回復し、総裁選は「無投票」の公算が高くなった。
 公明党は、安保法案をめぐる支持者の動揺が続いているとはいえ、政権への居座りを決めている国会議員は胸をなで下ろしているだろう。
 他方、野党は、ほとんどが談話を批判できず、無力さをさらしている。せいぜい、歴史問題の範囲内での「批判」にとどまり、戦後の対米従属政治や「積極的平和主義」の売国性を暴露できず、独立・自主の対抗軸を立てられない。これでは、安倍政権や支配層の狙いを暴露し、正面から闘えるものではない。 


行き詰まった対米従属を打ち破れ
 安倍政権は「一息ついた」かのように見える。だがその前途は依然多難で、困難はむしろ増大している。
 中国の景気後退、米国の利上げ、新興国の通貨不安など、世界のリスクはいちだんと拡大している。諸国は国内階級闘争に規定され、争奪はさらに激化する。アベノミクスが頼みとする世界経済は不透明である。
 米国の衰退は早く、世界的な力関係は大きく変動している。
 時代錯誤の対米従属政治は、わが国をますます亡国の道に引きずり込み、安倍政権の下では、内外の危機は打開できない。黒田日銀による追加金融緩和は非常に困難である。財政危機はいちだんと深刻で、景気対策にも限界がある。
 これらは政治、とくに与党内に反映し、安倍政権を揺さぶる。
 諸困難を抱えながら、安倍政権は当面の安保法案や沖縄問題、対中・対韓外交、「岩盤規制」など成長戦略の実施、さらに参議院選挙を控えている。消費税増税は容易ではないが、踏み切らざるを得ない。
 安倍政権ではわが国の困難は解決できない。支持率の上昇はつかの間のことで、時とともに、政権基盤はいちだんと揺らぐ。
 われわれは、独立・自主の道を提起する。行き詰まった日米関係を打ち破らない限り、日本の生きる道はない。国民経済の再建、アジアの共生への新しい国の進路への大転換を切り開くこと、そのための政権をめざして戦略的に闘うことである。
 労働運動が主導権をとって広範な国民的・民族的な戦線を構築し、安倍政権の対米従属で日本の政治軍事大国化と闘うことである。そのためには、先進的な労働者、労組活動家が革命政党をともに建設することが不可欠である。   


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