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2015年7月25日号 1面〜2面・社説

安保法案を国民運動で廃案に

米戦略への追随、
安倍売国政権を打ち倒そう

 自民党・公明党の与党は七月十六日、衆議院本会議で、集団的自衛権を行使するための安全保障法案を強行可決した。
 わが党は、国民の反対を無視した暴挙を断固糾弾する。全国で、怒りの大衆行動が巻き起こっている。
 安倍首相が法案の口実として掲げる「安全保障環境の変化」なるものは、米国の「アジア・リバランス戦略」への追随にほかならない。それはわが国の進路をますます米国にゆだねて中国をはじめアジア諸国と敵対し、戦争さえ招きかねない亡国の道である。ここを暴露してこそ、さらに広範で強力な国民運動を構築できる。
 国会審議は参議院に移るが、闘いはこれからである。強行採決への怒りで、安倍政権に対する支持率は三〇%台に急落し、不支持率と逆転し、闘いの機運は急速に広がっている。「主戦場」は院外であり、職場・地域・街頭である。
 先進的労働者は、安保法案を廃案に追い込む断固たる闘いと同時に、安倍政権を打ち倒して独立・自主の政権を樹立する、戦略的闘いを準備しなければならない。

強行採決に追い込まれた与党
 自公与党は安保法制を成立させるべく、「国民の理解を得て」と繰り返して「低姿勢」を装い、一方で、維新の党を引き込んで「幅広い合意」を演出しようとした。だが、アベノミクスによる国民生活の悪化に対する不満の急速な高まりを基礎に、憲法学者や旧政府関係者さえも含む「違憲」表明をきっかけとして、安保関連法案反対あるいは不満の国民世論が高まり、潮目が変わった。
 結局、次世代の党は賛成したものの、他の野党の取り込みには失敗、史上最大に延長した会期末までの期限にも縛られ、衆議院での強行採決に追い込まれたのである。
 米国の戦略にいちだんと縛られる安保法案の危険性や「違憲」世論の広がり、さらに国会審議のデタラメぶりに対し、多くの国民が憤激した。国会前をはじめ、全国での大衆行動はさらに広がりを見せており、学者・文化人など幅広い層から声が上がっている。政権支持率もガタ落ちし、「不支持」が上回る事態となった。
 安倍政権打倒の旗を掲げて、さらに追い詰め、安保法案廃案を闘いとろう!

中国「脅威」論で世論操作企む
 いちだんと追い詰められた安倍政権と支配層は、世論操作を強化しようとしている。
 それは、「日本を取りまく安全保障環境の変化」、すなわち従来以上に「中国の脅威」を前面に押し出した、認識面での世論操作である。「違憲」との批判をかわす狙いである。
 安倍政権は衆議院での質疑において、盛んに、米軍支援の事例として「(中東の)ホルムズ海峡での機雷除去」に言及していた。
 だが、「日経新聞」は「急速に台頭する中国軍に対する抑止力について、あえて具体的な言及を避けている」と、政府の態度に注文を付け、「産経新聞」は露骨に「中国は眼前の脅威」などとあおり立てている。
 すなわち、南シナ海などでの中国の「脅威」をあおることで、日米同盟強化とそのための安保法案を正当化しようという魂胆である。
 これまで、政府は国会審議で「中国への対抗」をさほど露骨に押し出さなかった。それは、日中関係を危ぐし、打開を望む広範な国民世論を考慮したからにすぎない。こうした声は、自民党内や財界にも強い。安倍政権の演技する対中国関係の「改善」は、世論対策の欺まんにすぎないことを見抜かなくてはならない。
 だが、安倍政権は、法案成立のためになり振り構っていられないところに追い詰められた。
 変化は、マスコミ報道だけではない。
 二十一日にまとめられた「防衛白書」でも、自民党議員が異例の介入を行った結果、中国を「高圧的な対応」などと批判する文言が盛り込まれた。政府は二十二日、中国による東シナ海でのガス田開発の航空写真を公開、連日、騒いでいる。
 中国の「脅威」を押し出すことで、安保法案の突破を図ろうというのである。

米戦略への追随こそ法案の核心
 安保法案に対して、労働組合などによる「護憲」あるいは「立憲主義」の立場からの反撃は、どの程度、効果があっただろうか。安倍政権、支配層が思想攻撃を強めているこんにち、これだけで闘えるだろうか。「中国の脅威」を掲げた支配層の思想攻撃に正面から反撃し、打ち破ってこそ、国民的闘いを実現できる。
 そのためには、安倍政権が追随している、米国のアジア戦略を暴露しなければならない。
 米国は、一九九五年の「東アジア戦略」以来、中国を米国に対抗する覇権国にさせないため、アジアに十万人規模の米軍を維持しつつ関係を強化する、「関与とけん制」の態度をとってきた。経済や財政などで深い依存関係にある中国を自国中心の「世界秩序」にさらに取り込み、役割と責任を果たさせる狙いもある。
 リーマン・ショック後、米国の衰退が早まり、中国が台頭するなか、経済危機を抜け出し、激化する世界の再分割の争いに勝ち抜くため、政治・経済・軍事の資源をアジアにシフトさせる「アジア・リバランス戦略」を採用した。
 だが、それもままならない。米国はますます策略に頼り、日本など同盟国を中国を対抗させて軍拡競争をあおり、コントロールしようとする「バランス・オブ・パワー戦略」にシフトしている。アジアでの一定の緊張は、米軍需産業が武器を売り込むために必要なことでもある。
 米国の必要性と世界情勢によって、米国はいずれかの側面を強く打ち出し、中国の動向も相まって、複雑な米中関係が形成されてきた。
 「航行の自由」を掲げた南シナ海問題への干渉、環太平洋経済連携協定(TPP)、フィリピンとの新軍事基地協定などが、こうした米国の策略の一環である。米軍の「国家軍事戦略」は、米国を脅かす国家として初めて中国を名指しした。他方、米中は「新しい大国間関係」で合意してもおり、九月には習近平国家主席の訪米も予定されている。
 衰退し、財政的余力も失い、中東やウクライナ問題にも対処を迫られている米国は、日本の負担で、この戦略を実現しようとしている。安倍政権は、アジア・リバランス戦略を「徹頭徹尾支持する」と明言するなど、積極的役割を買って出ている。安保法案は、すでに日米政府間で合意された新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)の具体化であり、「夏まで」の対米公約となっている。
 これは、世界中に権益を有し、グローバル競争に勝ち抜くことを願うわが国多国籍大企業の要求でもある。新興国の興隆を中心に世界秩序の再編期、動乱の世界で、米国に頼る以外になく、そのためにもわが国が米軍を世界中で支える必要があるということであろう。対米従属の下、中国に対抗してアジアで「強い国」として登場したいという反動的な野望も安倍らは隠さないのである。
 この道では、「日本とアジアの平和」「アジアの共存共栄」は実現できない。それどころか、落ち目の米国にこき使われ、あげくに「はしごを外される」ことになる。
 わが国の領土である尖閣諸島問題で、毅然とした態度をとることは当然である。だが、自国の領土・領海は自ら守るのが当然で、米国に依存して、ましてや日中を操り緊張をあおる米戦略に奉仕しては、守れるはずもない。また、米日支配層が盛んに宣伝する南シナ海での「埋め立て」問題は、域内諸国による平和的解決に任せるべきである。域外のわが国があれこれ介入すべきではない。まして、遠く離れた米国が干渉し、対立をあおり、問題を大きくしてわが国がその尻馬に乗るなど愚の骨頂である。
 「国民の命と平和な暮らしを守る」(安倍首相)どころか、米国の戦略とそれに追随する安倍政権の正体を暴露してこそ、労働者と国民大多数の自覚を促し、敵と正面から闘うことができるのである。

国民の生活難、怒りに依拠し闘いを
 安保法案を廃案に追い込み、安倍政権を打ち倒さなければならない。
 そのためには、生活苦にあえぐ国民の安倍政権への怒りや不満と結びつき、「反政府」の広い戦線をつくって闘うことである。
 安倍政権は二〇一二年末、「経済優先」を掲げて登場した。国民の生活と営業は、バブル崩壊後の「ドル安・円高」など対米従属政治の結果としての「失われた二十年」で打撃を受け続け、リーマン・ショックと東日本大震災でさらに追い込まれていた。民主党政権がこれに対応できない下で、安倍・自民党は「アベノミクス」による「デフレ脱却」を掲げた。
 苦しむ国民諸階層が、ここに「一縷(いちる)の望み」を託し、この「期待」が高支持率を支えていた。
 だが、アベノミクスの正体は、国民大多数から一握りの多国籍大企業と投資家への、膨大な富の移転政策である。多国籍大企業や投資家が円安・株高で空前の利益を得、一部富裕層は豊かになっただ。だが、国民大多数には物価高、消費税などの増税、年金保険料の負担増加や給付減、介護保険制度の改悪など社会保障制度の改悪、さらなる雇用の不安定化などが襲いかかり、生活と営業はいちだんと苦しくなっている。
 安倍政権が騒いだ「賃上げ」は、ごく一部の大企業だけで、中小零細企業では賃上げどころではない。労働者の実質賃金は低下し続けており、非正規労働者のほとんどはワーキングプア以下の生活水準を強いられている。労働法制改悪は、労働条件をいちだんと悪化させることになる。農民には米価下落が襲いかかり、TPP締結策動や企業の参入や農協改革で将来に希望が持てない。中小商工業者には、営業難に消費税増税が追い打ちをかけている。企業の海外展開はやまず、農林水産業の衰退で、地方の疲弊はさらに進んだ。
 アベノミクスの「化けの皮」ははがれ、「誰のための政策なのか」が暴露されてきた。安保法案をめぐる政権の態度だけでなく、政権支持率の急落、地方選挙での与党候補の敗北・辛勝の背景、基礎には、国民大多数の生活条件の急速な悪化とそれをもたらした、アベノミクスに対する国民の自覚と怒りの高まりがある。
 勝利の鍵は、この生存条件の悪化、怒りと要求、自覚の高まりに依拠することである。
 安倍政権は、今後もますます前途多難である。世界経済はリスクだらけで、安倍政権には手の打ちようがない問題である。国内課題でも、世界の投資家から要求されている財政再建は、経済成長の甘い見通しに基づいたもので、破綻は不可避である。社会保障制度の改悪をはじめとする歳出削減、消費税率の再引き上げは容易ではないが、踏み切らざるを得ない。政権基盤がいちだんと揺らぐことは必至である。
 安倍政権は、TPP対策で「最低でも一兆円の確保」などと、財政出動で動揺する保守層の上層をひき付ける策動も強めるだろう。国民各層の生活問題での、彼我の攻防に無関心であってはならない。
 広範な戦線を築いて闘えば、安倍政権の策動を打ち破ることは可能である。

独立・自主の政権こそ勝利の保障
 安倍政権と闘うためには、対抗軸、包括的な内外政策と戦線構築が必要である。
 安保法案、さらには財政危機や国民の生活難も、その元凶は、多国籍大企業のための対米従属政治にある。この根本的な転換がなければ、わが国の平和と安全も、国民の生活と営業も守ることはできない。
 日米安保条約を破棄し、独立・自主の政権を樹立しなければならない。米国の中国敵視、アジア・リバランス戦略から離脱し、中国をはじめとするアジア諸国の共生、平和をめざすことである。そのための広範な国民的統一戦線の構築は、喫緊の課題である。沖縄県民の闘いは、わが国の独立・自主をめざす戦線の有力な一翼となり得る。全国で、連帯した闘いを強化しなければならない。
 そのためには、労働運動が果たす役割が決定的である。労働者階級は、自らの経済的要求での闘いを強めるとともに、民族の前途、国の進路の課題でも積極的に闘い、主導権を発揮しなければならない。また、労働者階級は選挙への幻想を捨てるべきである。来年の参院選挙が重要でないとは言わないが、主戦場は、労働者の職場を基礎とした大衆運動である。ここを忘れてはならない。
 そうしてこそ、労働者階級の歴史的役割を果たすことができる。
 階級的革命的労働運動の形成・発展こそ、労働運動が日本の危機を打開する上で貢献できる唯一の道である。組織労働者、連合内外の労働者は、労働運動の再生のために連携し、戦略的闘いを準備しなければならない。


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